思い出の釣り・これからの釣り

欧州の釣り、竹竿、その他、その時々の徒然の思いを綴るつもりです

LRHロッドの精華

2018-11-25 11:57:29 | Hardy Palakona

Laurence Robert Hardy(LRH)はHardy Brothers創業者William Hardyの長男。創業兄弟WilliamとJohn James (JJ)が経営から退いた後、戦前から戦後にかけ1925年に竹のマシーンカットを開始する等、Hardy製品を更に革新すると共に、竹竿の歴史に名を残すLRHの名前を冠した新製品を特に戦後投入し、グラスロッドが全盛となる直前の竹竿の最後の輝きに大きく寄与した経営者、アングラーです。
多分戦前から構想されていたと思われますが、戦後1948年に英国で、1947年には輸出用として投入されたLRHの自信作がLRH Dry 8'9''、LRH Wet 9'3''、LRH Dry Wet 9'3''のシリーズです。
この''LRH Palakona rods''と銘打たれた三本は、LRHの長年の辛抱強いテスト、様々なプロトタイプ間の比較、調整の結果完成したもので、「LRHは彼がそれまで扱ったドライフライ用、ウエットフライ用の多くの竿の中で最高のものであると、断言している」と、当時のAngler's Guideは高らかに宣言しております。
今、チュニスの拙宅にはその三本が奇しくも揃っております。今年はその中のLRH Wetを中心に釣りをし、最後はLRH Dry Wetも投入しました。今回はそれらの竿についてちょっと述べさせて頂きたいと思います。

まず、LRH Dry 8'9''です。
この竿は公式には1948年から1971年まで製造販売された竿でLRHシリーズの中では一番のロングセラー。竿尻にはリバーシブルスピアーが仕込まれております。ラッピングは緑に赤の縁取り。

リングはフルオープンブリッジ。アメリカ式、或いはHardyのライトウェイトロッドに見られるスネークリングでは有りません。

銘は1950年代のチマチマしたインスクリプション。

竿尻にはH8462と1956年に製造された事が判ります。竿の重さは8'9''の重さに対し、5オンス2ドラム。1オンスは約28.3グラム。ドラムは1/16オンス。ですので、約145グラム。竿は太いトップを持ち、私の感覚では短く非常に強い竿。Angler's Guideは''Inclined stiff for dry fly. An all-round rod''とそのアクションを評しております。

次はLRH Wet。
この竿は公式には1948年から1950年の3年間のみ製造販売された極めて珍しい竿。ラッピングは赤に緑の縁取り。これは以前紹介のLoch Levenと同じ色の組み合わせで、ウェットフライ竿を表していると思われます。竿尻にはボタンもスピアーも無く、軽量化を主眼にした竿である事が見て取れます。

リングはスネーク。これも軽量化を狙って設計された事を物語ります。

銘は1950年代のチマチマとは少々異なっております。

それもその筈。製造番号はE51613と、第二次世界大戦が欧州で開始された1939年の製造となっております。公式には1948年からの製造販売ですが、1947年の輸出専用カタログにすでに記載されている等、どうも戦前には出来上がっていたものが、戦争勃発により本格製造販売が先延ばしにされたのかも知れません。
この竿は9'3''の長竿でありながら、重さは4オンス10ドラムと約131グラム。LRH Dryよりも6インチ長いのに14グラム軽量化されております。その秘密は、LRHシリーズが竹と松材のダブルビルドである事。バットとミドルセクションをダブルビルドで製造し軽量化に成功しております。
アクションは持つ手に軽く、トップはペナペナ。ドライフライを投げる時は、ペナペナのトップが力を入れると大きくお辞儀する事を念頭に竿を振る必要があります。Angler's Guideはそのアクションを''Easy, for wet fly, either to gut or hair''とし、繊細な先糸を使ったウェットフライの釣りに適していると評します。

最後はLRH Dry Wet。
この竿は公式には1948年から1957年の10年間製造販売されたもの。竿尻はボタンもスピアーも無く、LRH Wet同様軽量化を設計思想に置いた竿。ラッピングは緑に赤の縁取り。これはLRH Dryと同様です。

リングはスネーク。アメリカ竿と同様に軽量化を念頭にした設計。

この竿はDry Wetと言う様に、ドライフライにもウェットフライにも適した汎用竿とされておりますが、トップにはWetとDryと其々書かれたものが用意されており、ウェットフライの釣りにはこのトップを使う様に指定されている様子。

これはDryと記載されており、ドライフライ釣りの際はこのトップを使うのがよろしい様です。

銘は余りチマチマしていませんが、1960年代の踊る様な大振りのインスクリプションとも違います。

製造番号はE90785。1953年製となります。9'3''の長さで重さは5オンス。約142グラム。LRH Wetと同じ長さながら、11グラム程重いこの竿は振ってみるとLRH Wetよりも遥かに張りのあるアクション。LRH Dryよりは柔らかい竿ですが、強風の英仏海峡付近のチョークストリームでなければ、開けた大河でドライフライを振るにも適した万能竿と言えるでしょう。Angler's Guideによるアクション表示は''Medium for dry or wet. All-round''と万能なミディアムアクションとしております。

シルクラインの場合はAFTMシステムの様な厳密な重さはありませんが、LRH DryとLRH Dry Wetには35ヤードのNo.3 Corona Double Taper Line、LRH WetにはNo.2のCorona Lineが適しているとしています。ざっくり言って、LRH DryとLRH Dry WetにはAFTM6、LRH WetにはAFTM4が適切なラインと言うところでしょうか。上の写真のトップから見て取れると思いますが、真ん中のLRH Wetのトップが一番細く、一番下のLRH Dryのトップは太く、8'9''と一番短いにも関わらず重さも一番有り、英仏海峡の強風をものともしない強竿である事が判ります。一番上のLRH Dry Wetのトップの内、下がWet、上がDryですが、その違いは微妙なもので私には殆ど感じられないものであります。
LRHがリールはLRH Light Weightを使うべしと、バランスも吟味に吟味を重ねたこの自信作ですが、長く生き残ったのはLRH Dryのみ。プラスチックラインにも対応しようと思うと長い軽量竿では、嵩張るプラスチックラインを投げるための追加の強さが足りなかったためでしょうか?1957年にLRHはHardyの取締役会から離れますが、LRH Dry Wetはその年を最後にカタログから消える事になりました。
コメント (10)
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ドライフライのハックルの真実(イミテーション論)

2018-11-10 13:42:42 | ハックル/Hackles

(オールドイングリッシュゲームコック:OEGのハックル各種)
21世紀に入ってからのドライフライのハックルを席巻するジェネティックハックル。その雄のWhitingとその傘下のハックル・ブランド。私も多少持っておりますが、どうしてもジェネティックハックルに対する違和感が抜けません。
ハックルのバーブ(ファイバー)の短さとハックルの異常な長さ。果たしてこの長さは必要なのか?
そもそもドライフライは魚が興味を持ち捕食している何を表現していているのだろうかという点に戻り考察したいと思います。

セッジ(カディス)、テレストリアルもドライフライでの表現対象ですが、まず伝統的に言えば、ドライフライの表現する対象はカゲロウ(エフェメラとその類似)。毛針釣り師はそれを更にダン(亜成虫)とスピナー(成虫)に分け、水中から泳ぎ上がるニンフから羽化するダンの釣りを主にクイルウィングを付けたドライフライで表現してきました。スピナーについては産卵を終え死んで水面に横たわるメスを魚が狙うイヴニングライズを主に釣るためのスペントウィングを付け水面に低く張り付く毛針で主に表現しております。

さて、ダンですが、その水面に浮かぶ姿は、「浮かぶ」という表現は適切でないもの。つまり、ダンはミズスマシの様に6本、或いは彼らが一番前の足を伸ばした場合は4本の足で水面を割る事なく水面に乗った形で流れ下っております。決してボディが水に付いたり、テイルが水に付いたりしている訳ではありません。
それを水中の魚の視線でみると、最初魚が認識するのは上流の水面に現れるダンの足が作る水面の凹みが作り出す光の乱れる点。カゲロウが流れ下ると魚の視野に最初に入るのがダンのウィング、そしてダンの全体の姿。
静かな流れに於いては、魚がカゲロウのダンとして認識するのは、ダンの足が作る4〜6個の「光の乱れを作る点」、フィッシュウィンドウに入る「ウィング」、そして最後にダンの全体像という事になります。

それを念頭に置いて、ハックルを見て見ましょう。

ハックルに関するほぼ唯一の専門書、Frank Elder氏の「The Book of the Hackle」は、16番のドライフライに使うハックルの長さは大体4.5cm。そこから根元の使えない部分を除くと、3.6cm、更に先端の使えない部分が0.6cmあり、毛針からバーブが実際に伸びるのはハックルの3cm部分だけと解説します。
そして、ハックル1cmにあるバーブの数は片側20本、つまり、3cmのハックルの片側60本づつが実際毛針に使われるとします。

(OEGのRusty Dunのハックル。透明感に溢れる)

(全長は7cm長ですが、根元の使えない部分を取り除くと5cm超)

(根元の不要部分)

(実測ではOEGハックル1cm当たりのバーブ数は20本でした)

(Whitingのハックルでは、1cm当たり22本)

ハックルを毛針に巻けば当然倒れてしまうものがあり、片側60本は大丈夫でも反対側はその半数が巻き込まれてしまい毛針から飛びだずバーブの数は全部で90本と続け、更にバーブの長さの違い、また、巻いたハックルの間をスレッドがアイに向かって巻かれる際に倒れるバーブもある事から、90本のバーブは更に少なくなり、最終的に毛針から出るバーブの数は65本を超える事はまず無いとします(Elder氏は英国式のハックルの巻き方、つまり、ハックルをアイからテイルに向かい巻き、ハックルを巻きとめた後スレッドはアイに向けて巻き止めたハックルの間を補強しながら通って行くという前提に立っている事に留意)。
毛針が水に接触するのはハックル全周360度の内、大体30度の範囲。従い、水面に接触するバーブの数は30/360=X/65、X=5.4本。つまり、あれだけあるハックルのバーブの内、実際水に接触し毛針を浮かばせているのはたった5本程度のバーブしかないという驚きの結論を述べます。
ところが、その5本程度のバーブは偶然にも本物のダンの足の本数とほぼ同じ。つまり魚から見ればハックルの3cm部分のバーブを使ったドライフライはリアルなイミテーションになるのでした。

そこで、ジェネティックハックルに戻りますが、一体全体あの長さは必要あるのかという質問への回答は「不要」。もちろん一枚のハックルで沢山の毛針が巻けるという利点はありますが、わざわざあの異常な長さを作り出す必要は、ドライフライのイミテーション論の観点より言えば、「無い」という結論になります。

英国で「ヨコハマ」と言われる日本原産の尾長鶏の血統が入っているのではと勝手に推測するジェネティックハックルですが、長さを出すために毛針に非常に重要なハックルの透明感、ブラックが無いなど、ハックルの色の点が犠牲にされている様に思えてなりません。

(表面だけを見れば、左のOEGも右のWhitingも良さそうですが、Whitingの裏は白で、透明感を大きく毀損しております)

1990年代初めまでは米国産のハックルでも良いものが多かったのですが、Whitingがハックル生産を席巻した現在、米国産のハックルをカゲロウを模したドライフライのハックルに使う気持ちには正直なところなれないのが残念です。インド、中国産のハックルを探す方が安くて良いものが手に入り易いかも知れません。
コメント (7)
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