Laurence Robert Hardy (1884~1958)はLRH Light Weightリールに今も名を残すハーディーの2代目経営者。1925年に竹の切削機を導入する等ハーディーの生産技術の向上、新製品の開発を先代以上に押し進めた方の様です。
そのLRHが第二次大戦後、竿、リール、ラインの全てのバランスを考慮し自信を持って発表したのがLRHシリーズのパラコナ竿。LRH Dry Fly、LRH Dry Wet、LRH Wetの3種が投入されました。LRH Dry Flyは戦前に発表された9'4''、リングは全てメノウという豪華版が軽量化された8'9''、LRH Dry WetとLRH Wetは9'3''。LRHシリーズのこの3本は、軽量化のために松材とのダブルビルト製法が取り入れられた画期的な製品であります。
今回はその中のLRH Wet 9'3''のお話です。
James Leighton Hardy氏の本、"The House the Hardy Brothers built"によれば、LRH Wetが製造されたのは1948年〜1950年の僅か3年間。LRH Dry Flyが1948年〜1971年の間製造されたのに比し極めて短命で終わったとあります。尚、LRH Dry Wetも1948年〜1957年の短命で終わったとあり、極めて珍しい竿になります。
このシリーズは軽量化がテーマ。従い、戦前の段巻き、スピア、フルオープンブリッジリング、といった重量を増す仕様は排除され、リングはスネーク。まるでアメリカンな感じの竿です。
以前、Loch Levenの投稿で述べましたが、ラッピングは緑の縁取りをした赤。どうもこれはウェットフライ用のラッピングではないかと思います。
名前の通り、LRH Wetはウェットフライ用に設計された竿。その調子は、Anglers' Guide上では、Easy, for wet flyとあり、胴から曲がる調子。強いて上げるなら、MarvelやPezon et MichelのSawyer Nymph竿の様な感じでしょうか。
また、9'3''の竿なのに、重さは4oz 10drm (131g)と驚異の軽さです。これは、LRH Dry Wetが5oz、8'9''と短いにも拘らず、LRH Dry Flyが5oz 2drmとより重いのに比べればその差が目立ちます。
手に取ってみれば、全体に細身で軽く、ライン重量で言えば、2番のシルクライン(AFTM 4〜5番程度)が丁度良いかという感じ。リングはスネークです。
トップはメノウリング。シルクラインの使用が大前提の仕様です。
製造番号はE51613、1939年製となります。これは、JLH氏の本の1948年〜1950年の間に製造という記述に合っておりませんが、どうも、第二次大戦前後の部分はJLH氏の本の記述に合わない竿の例が他にもあり、多分LRH Wetは1939年には製造が開始されていたものの、戦争のため、マーケティング等に問題が発生したのではないかと推測します。
グリップは私の手で全く遊びがありません。これは、以前紹介のLRH Dry Wetと同様に、最適バランスを実現するためのもの。
細身で長い竿なので、調子は胴調子。ミドルセクションのみならず、バットも曲がります。
竿のティップ部分のみを曲げる事も簡単です。これは、MarvelやSawyer Nymphと同じ感じです。
LRH WetとLRH Dry Flyの全景を比較してみます。
LRH WetとLRH Dry Flyのグリップ回り。LRH Dry Flyのリングはフルオープンブリッジです。
LRH Wetの竿先がLRH Dry Flyのものに比べ相当細い事が見て取れると思います。
この竿で強風の中ドライフライを使うのは無理だと思いますが、オーストリアのMur川のグレイリング相手の小振りなドライフライの釣りや、Etrachseeでのウェットフライの釣り等では大物の魚でなくとも楽しめそうな感じです。チュニジアに来てから、Marvelの胴調子の釣りにハマってしまったので、より長くて使い易いこの竿は重宝しそうで今シーズンが楽しみです。