以前も軽量化に重きを置く米国竿と耐久性と趣味性に重きを置く英国竿の違いや、戦前のDe Luxeを始めとしたパラコナ竿に対する米国竿の影響(飾り巻き等)について述べさせてもらっておりますが、米国竿の影響を受けたパラコナ竿が手元にあることに気付きましたので以下徒然までに。
北アフリカの西端、モロッコはカサブランカの寓居にある竿の中から米国竿とパラコナ竿を並べてみます。下からPayneの206L 9'、次はLeonardのTournament Rod No.51 9'、その上はF.E. ThomasのSpecial Rod 8'、一番上にあるのがHardy Palakona Marvel 7'6''(1938年製)
ここで米国竿の特徴と言っているのは、竿尻のキャップに刻印された六角形の枠に刻み込まれたメーカー名やモデル名のこと。Hardyの場合はGold Medal、Perfection等の英国の釣り場を念頭に置いた通常モデルでは竿尻にゴム製のボタンやスピアがつけられているのでこの六角形の刻印を持つモデルはありませんが、軽量モデルとして開発された戦前のモデルにはこの六角形の刻印を持つものがあります。
上はPayneの刻印。「E.F.PAYNE ROD E.F.PAYNE ROD CO. MAKERS」とあり、これはジム・ペインとフランク・オラムの双頭体制がスタートした1925年から法人化されシンプルに「PAYNE」という刻印に移行した1930年までの間に使われた刻印。
次はLeonard Tournament Rodの竿尻の刻印。「THE LEONARD ROD HL. LEONARD ROD CO. MAKERS」とあり、その下に「REG. U.S. PAT. OFF.」との刻印も入ります。REG...の刻印が入り始めたのが1927年、この竿はフェルールにもREG...の刻印が入りますが、フェルールの刻印は1930年頃に廃止されたとされますので1920年台の終わり頃の製造とみられます。上のPayneとほぼ同じ頃に製造された様です。
続くのはF.E.ThomasのSpecial Rod 8'の刻印。「F.E.THOMAS SPECIAL BANGOR MAINE」とあり、1938年のフレッド・トーマスの死後どこかの時点で社名がThomas Rod Co.に変更されたことからそれ以前のものかと思われます。
最後に、冒頭の写真と同様にHardy Marvelの刻印。「MADE BY HARDY BROS. LTD. ALNWICK ENGLAND」と刻印されており上述の米国竿の特徴をそのまま使っております。
横から見た姿。
一方、上は1953年製のHardy Marvelの竿尻のキャップにある刻印。米国竿の様なフレームの中に記載を刻印するスタイルでは既にありません。
横から見た姿。リングには製造番号E87715が刻印されております。尚、1938年製のMarvelと1953年製のMarvelのリングは同じ様な太さのものが使われております。
最後は1967年製のMarvel。刻印は1953年製のものと同様です。
横から見た姿。1967年製のものはリングがかなり幅狭のものになっており重量軽減を図ったのかどうなのかデザインの変化が1953年以降有ったことを示しております。
戦後になると、軽量クラスのHardy Palakonaで竿尻にシンプルなキャップ等を採用するものにおいて、米国メーカーの様な刻印を採用したものがあるとは寡聞にして存じません。米国流の刻印が認められるものは戦前のものに限られているのではないかというのが現時点の私の推測です。
1910年代から始まったHardyの米国市場進出のための軽量モデルの開発・投入、米国竿の意匠の取り込み、といった活動も第二次世界大戦と共に一旦終了し、Hardy Palakonaは1950年代のプラスチック製フライラインの登場によるデザインの変更も行いつつ、伝統的な英国竿の世界へ戻っていったのでしょうか。
尚、米国各メーカーの情報は錦織氏著の「The History of Bamboo Fly Rods」に準拠致しました。