シルクラインは、釣りの後すっかり乾燥させなければならない、釣りの最中でも時々ミュシリンを塗らなければならない、場合により余り強くひっぱり過ぎると切れてしまう、と現代のPVCラインと比べ手間暇がかかりかつ繊細に扱わなければならないと、面倒な存在です。では、何故そんな全時代的なものをわざわざ使うのか?わざとハンディキャップを与えて釣りをより難しくするため?と世間一般では思われるかも知れません。
シルクラインはPVCラインに比べ、所謂「メモリー」が付かないので口径の小さなリールに巻いても問題なくスムーズに釣りが出来るという利点もあることはありますが、PVCラインとの最大の違いはその太さ。
元々、PVCラインは体積の大きな軽いラインが水を押しのけ、その分だけ浮力を得るというアルキメデスの原理で浮くのに対し、シルクラインはそもそも水より重く通常なら沈むラインに撥水性の油を塗り、表面張力で浮いているのが違いです。
従い、PVCラインのフローティングラインはある程度の太さを求められるのに対し、シルクラインは純粋にシルク糸の重さが適切なものになる太さだけをラインの太さに出来ます。
上は、昔、SAがバンブーラインと称して売っていたPVCラインのDT5F。下は、KaizerのNo.2のDT(#5/6)。両方とも一番太い部分を比較しておりますが、ざっくり目分量で言うと、シルクラインの太さを1とすると、PVCラインは1.5以上の太さはあります。
そうしたラインの違いが実際の竹竿にどのような影響を与えているのか、リング(ガイド)を比べることで検分します。
上から1935年製De Luxe 8'、1971年製Continental Special 7'7''1/2、一番下は1995年製Hardyに注文したCC de France 8'。
End Ring(Top Guide)ですが、右から1935年製、1971年製、1995年製と並べて見ると現代に近くにつれ径が大きくなっていることがお分かりになると思います。1935年生のものは瑪瑙が入っていて、シルクラインの編み目でザラつくことを防ぐ意図が設計に込められていることが見て取れます。
End Ringの一つ下のリングですが、1935年生のものは明らかに径が小さく、1971年製、1995年製のものは同じような大きさに見えます。
End Ringから数えて7番目のリングですが、左から1935年製、1971年製、一番右が1995年製と並べて見ると、年代が下るにつれ、径が大きくなっているのがよく分かります。
Butt Ring (Butt Guide)も同様に、左から1935年製、1971年製、1995年製と並べると現代に近く程径が大きくなっております。また、1995年製のものは、瑪瑙ではなくセラミック製となっております。
このように、リールラインがシルクからPVCにその材質を変え、ラインの浮き方が表面張力からアルキメデスの原理による浮力に変わり、空気抵抗の大きなラインを竹竿で前後に振りながら飛ばさなくてはならなくなったことで、竹竿のデザインも変化せざるを得なくなります。
戦前のHardy、或いは、他メーカーの竹竿はより細く繊細で、戦後になると同じモデル名でも太く強くなる、Hardyになると、1960年代以降はモッタリした調子になると言われる理由は、対中禁輸などの影響による竹材の品質変化も多少はあるのでしょうが、圧倒的にラインの変化に竹竿のデザインを適応させていったことにあるものと思っております。
冒頭で挙げた、何故シルクラインを使うのか?の答えですが、シルクラインを前提に作られた竿にはシルクラインを合わせるのがベストだから、というのが私がシルクラインを使う理由。逆に1995年製の竹竿にはPVCラインしか使いません。1950年代までの竹竿にはシルク。Hardyならば、製造番号がHナンバーまでの竿(1965年製まで)にはシルク、それ以降はPVCでも良いかと思います。