A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記381 「who you know? Who knows you?」

2010-04-05 23:00:53 | 書物
タイトル:who you know? Who knows you?
制作・編集:WYK=WKY実行委員会/特定非営利活動法人art & river bank
テキスト:杉田敦
翻訳:秋山友佳/杉本崇/リンダ・デニス/仁科力蔵/野田吉郎/ロバート・リード
撮影:倉茂なつ子/杉本崇/仁科力蔵/原田晋/安井香織
デザイン:北村孝子
発行:WYK=WKY実行委員会
   女子美術大学 大学院GP室
発行日:2010年
内容:
A5判サイズ、32p、日英表記

「他者を呼吸するために」杉田敦(批評家)
Japan to Australia
Australia to Japan
Japan to Portugal
Portugal to Japan
Australia to Portugal
Portugal to Australia

頂いた日:2010年3月7日
頂いた場所:art & river bank
2010年2月27日(土)―3月20日(土)まで東京・多摩川のart & river bankにて開催された<video exchange program : who you know? Who knows you?>の展覧会カタログ。

ギャラリーの方より頂いた1冊。ありがとうございます。
 本来ならば会期中に紹介したかったが、諸事情でご報告が遅れたしまったもの優れて批評的な展覧会である。タイトルからはどんな内容の展示なのか想像がつかないだろうと思われるのでかいつまんで説明をすると、日本、オーストラリア、ポルトガルの3ヶ国の人々を対象に、国別にラウンドテーブル形式でそれぞれの国に対するイメージを討議してもらい、その様をビデオに記録するという企画である。例えば、「Japan to Australia」編では日本人6人がオーストラリアについて討議をするという具合に。
 この展示映像が明らかにするのは、私たちがいかにそれぞれの国について「何も知らないか」ということである。これだけインターネットや交通機関が発達した現代にあって、異国への理解は進んだのだろうか。いや、むしろ「知る」ということでは、なんら変わっていないのではないか。それは、日本人がポルトガルについて語る映像を見れば、ポルトガルについて言葉が表層しか語っていないことがわかるだろう。かように他者理解とは「遠い」はずなのだ。
 しかし、そのような現状を批判ではなく、知らないこと、誤解、勘違いという「理解」を提示することで、他者や異文化への異なる距離感があることを映像は私たちに告げるのである。また、各国の討議の差異も浮かび上がり興味深い。その好例は「Portugal to Japan」編だろう。「風雲たけし城」のテレビ番組をめぐって交わされる会話の豊かさ、気の利いたジョークが会話を実り豊かなものにし、会話の時間をゆっくりと楽しんでいる。人と話をすることをこの国の人たちは本当に楽しんでいるんだなと思う。日本語でこういった会話ができないものだろうか。
 と、ここまで展覧会について書きながら、「アーティスト」名を書いてこなかった。そう、本展には「アーティスト」がいない。強いて言えば、本展の作者は「art & river bank」ということになるだろうが、それとも少し違う。
 展示も秀逸であった。ラウンドテーブル風に並べられたテレビ3台を鑑賞者はコードレスヘッドフォンを着けて鑑賞するのである。各モニター間の移動は、ヘッドフォンを着けたり外したりせずに、それぞれの議論に参加するように見て回れるのである。ラジオのチューニングのように、各モニターの前に来ると音声が変わるのだからユニークだ。作品の形式と意図が一致している鮮やかさにはただただ敬服する。これをどのように形容してよいかわからないが、新感覚の映像コミュニケーションプログラムである。お伺いしたところでは第2弾も予定されているという。続編を楽しみに待ちたい。