新潟交通バスの宿根木線の最終バス停のある集落で、沢崎鼻灯台の近くにあるのがこの沢崎集落だ。戸数30軒ほどの小さな集落で、深浦同様、入り江と山に挟まれたわずかなスペースに軒を接するようにして各家々が建ち並んでいる。集落の東側の道に入ると間もなく一見すると民家と見まごうほどの庵のような外観の小さな可愛いお寺が見えてくる。これが有名な沢崎の薬師寺である。本堂の右手に僧形に似た石像がある。これは佐渡郡役所の水産技手であった児玉祐蔵の像である。児玉はダイナマイトで岩礁を爆破しそれをならして平坦にし、岩海苔の養殖場を造成した。これにより、沢崎集落の岩海苔の生産量と品質は飛躍的に向上したという。その功績を称えた村人達が碑を建立したところ、建碑の話を伝え聞いた遺族が金井町児玉家にあった祐蔵の像をここに移した。薬師寺は集落の谷の東側の山を背にして建っている。山門などはないし庫裏もない。この寺には昭和初期に一時期夫婦者の堂守りが住んでいたが、以後は村人が交代でこのお寺を管理しているそうだ。
真夏の暑い日に訪れたが、路地裏に佇むと海からの潮風が心地よく吹きぬけ、一時暑さを忘れさせてくれた。路傍でこの潮風を受けながら座り込む老婆に「今日も暑いのお~」と声をかけられた。のんびりゆったりとした時間が流れていく沢崎の集落だった。
参考文献:山本修巳著、佐渡古寺巡礼