佐渡金山の宗太夫坑へと到る道路の途中の左手にこの近代産業遺跡がある。この辺は間ノ山(あいのやま)地区と言うらしい。搗鉱場とは、低品位の鉱石を粉砕し、水銀によって金を回収する施設で、明治期に建てられた。現存する物は、大正時代に建てられた建造物の基礎部分である。明治18年に初代鉱山局長として赴任した大島高任によりこの地区の開発が始まり、高任選鉱場、搗鉱場などが建設された。選鉱場と搗鉱場を結ぶ石積アーチ橋は、この地区唯一の明治期の構造物だ。佐渡金山の近代遺跡群には、明治8年に開削された西洋式の大立堅抗、昭和13年に建設された北沢浮遊選鉱場、昭和15年に建設された鉱脈の濃縮機「シックナー」などがある。いずれもヨーロッパのコロシアムや神殿のような外観で、江戸時代の手掘りの頃に比べたら格段の違いだが、そこには哀愁哀歌がない。無機質で、冷たい機械群が並んでいるだけで、栄耀栄華を極めた相川金山のつわものどもの夢の跡と言うよりも、近代化された鉱山施設の歴史を物語る遺産群である。だが、これらの近代遺産群は世界遺産に登録申請するだけあって、よく保存されている。この地区では大規模な開発が行われなかったために運良く保存されたのだそうだ。一つ一つを丁寧に見ていくと、金山歴史の移り変わりがよく分かる。一攫千金を夢見て相川に群がった山師達や遊郭の遊女達が繰り広げた歴史絵巻、そして国策によって建設された種種の鉱山関係施設、それらが複雑に絡み合いながら、相川の街は栄枯盛衰を繰り返してきたのである。
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