欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

朝の湖畔を歩くこと

2006-04-04 | poem
まだ朝が訪れて間もない頃、私たちはいつもこの湖畔の道を歩く。
私たちの一日はいつもここからはじまる。
この一日にすること。この一日が良い一日になるように。
そして、いつも冷静な心が自分とともにいること、などを考える。
晴れの日も、雨の日も。暑い季節も、寒い季節も。
いつも朝のはじまりはこの湖畔の道から。
それは私たちにとって、とても大事な一日の決まり事。
そして、この決まり事から得られる恩恵ははかりしれない。

しあわせの存在

2006-04-04 | story
遠い遠い国のお話です。
ある男がいました。その男はいつもハーモニカを持っていました。
子供の頃から家の片隅にあったハーモニカを手にしてから、彼はいつもそのハーモニカと一緒にいました。
彼はそのハーモニカを吹くとき、いつも心が和むのでした。
疲れたとき、悩んだとき、先のわからない不安のとき、そんな時にはいつもそのハーモニカと会話をするのでした。
ハーモニカが奏でてくれるものは、言葉ではないけれど、その音色は彼の心に響くのでした。
彼とハーモニカは歳を重ねていくごとにかけがえのないものになっていきました。
彼に将来のイメージはありませんでした。彼はなにをしたらいいのか、わからないままに、そのときそのときの仕事をただこなしていました。
ある日のこと、彼が議員会館の前の階段に腰掛けて、なんとなくハーモニカを吹いていると、一人の老人が近づいてきました。
「君のその音楽は誰の作曲だね」
男ははずかしそうに答えました。
「いいえ、これは思った時にこんな気持ちだなぁって、ただ吹いているだけなんです」
「ほう、作曲もしているのかい?」
男は照れくさそうに下をむきます。
「それというのがな」老人は言います。「あんたの音色はなんかワシの心に響くんでな。なんか不思議な音色じゃなぁって思ってな」
男にはその意味がよくわかりませんでした。
「僕は好きな時に好きな音色を奏でているだけなんですよ」
「ほぅ、ではどうかな、これだけいい音色をひけるんだから、いつもここでみんなにその音楽を聞かせてあげたら」
男ははずかしそうに断ろうとしました。
しかし、老人がどうしてもとあきらめないので、老人が一緒にいるときだけ、この場所でハーモニカを吹くことにしました。
それから、何度かその階段で吹いているうちに、一人また一人と聴衆が増えていきました。
やがて、彼のハーモニカの噂は街中に広がり、小さな劇場で演奏会をやってみないかという話までありました。
彼はただハーモニカをそのときそのときに吹いているだけなのに、いつしかなに不自由のない生活を手に入れることができました。
そして、彼の音楽を聞きにきていた一人の女性とも結婚し、二人の子供にも恵まれました。
彼はそのときにも自分がこれからなにをしていこうか答えが出ないままでした。
彼は子供のときから一緒、ただハーモニカとそのときそのときの会話をしているだけだったのです。
そして、月日が流れ、やがて、男も老人になり、ハーモニカを吹くことすらできなくなりました。
そして、ふと彼は思いました。
僕の人生ってものは、いったいなんだったんだろう。でも、とても不思議な人生だった。いつもこのハーモニカが一緒にいたんだ。
彼にとっては、働くことも、世の中の常識も、いろんな出来事も二次的なものだったのです。
ただそのときそのときの気持ちをハーモニカと会話をしていただけなのです。
彼はそのときはじめて気づいたことがありました。
ふだんあまりにも身近すぎて、あたりまえ過ぎて、あらためて思うこともなかったけれど、このハーモニカが僕にとっての幸せの存在だったんだなぁって。
このハーモニカがあったからこそ、自分の人生はこんなに明るい幸せな日々を歩めてきたんだなぁって。
彼はしわだらけの手でハーモニカを大事に持ちました。
そして、あらためてそのハーモニカにキスをしたのです。
それは彼が安らかに眠る三日前のことでした。