欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

あの人生のカタチ

2012-10-30 | une nouvelle
"頭で思い描けるしあわせって、なんてちっぽけなものでしょう。
人は身近にあるしあわせに気が行きがちです。
ですが、本当の大きなしあわせはもっと別のところにかくれているのです。
わたしたちが思いもしない場所に笑みをたたえながらひそんでいます。
それを見つけるには子供の頃にはもっていた遊び心をとり戻す必要があるのです。
素直なまなざしで見つめる、計り知れない大きなものがこの世界には広がっていると、幼い頃に抱いていたあの人生のカタチを思い出す必要があります。
素直な心がむかう方へ。
こんな気持ちが大人になるにつれて、思慮分別がついてくるにつれ、難しくなっていることにもう気づいていい頃なのです。"

とある街角の花屋に

2012-10-26 | une nouvelle
ある街角の花屋に白い髭の名物店主がいました。
その花屋はバラしかおいてないのですが、いつもお客でいっぱいなのです。
なぜなら、バラの美しさもさることながら・・。

"いらっしゃい。何色のバラがお好みかな?"
"妻にバラを買ってあげようと思うんだ。"
"では、この黄色いバラはいかがですかな。家の中にさわやかな明るさが広がりますよ。"
"ねぇ、おばあちゃんのお見舞いに・・。"
"それならこのピンクはどうかな? 病室の味気ない空間に恋のような甘い香りが漂いますよ。"
"ぼうや、このおこずかいじゃ小さな花がせいぜいだ。でも、安心しな。
この花びらを集めた小袋を添えてあげよう。水の鉢に巻いてごごらんよ。"

街でも評判の花屋の店主。
ある時、沈み込んだ様子のご婦人がきてこう言うのです。
"わたしはバラが今まで嫌いでした。なぜなら、この花によってしあわせを失ったからです。"
話を聞くと、ご婦人の家は以前バラの広がる大地主。
しかし、事業に失敗し、家族がばらばらに・・。
"ここにきたのはなぜだかわかりません。でも、不思議な甘い香りに誘われたのです。"
店主はいとおしげな笑みをうかべて、
"いろいろな痛みがあるでしょう。でも、この濃いバラの香りがあなたのこれからを彩りゆたかなものにしてくれますよ。"
それでも眉をひそめるご婦人に、
"この黒く濃いバラをお求めになられてはいかがでしょう?
このバラは色こそ華やかさはないけれど、昔宮廷でしかあつかわれなかった高貴な花なのです。
なによりあなたの心が豊かさをとりもどすために一番の良薬となってくれますよ。
花のいでたちに在りし日の自分を思い出せるはずですから。"
"では、それをいただきます。なにかの転機になるように・・。"
"きっと良いはじまりとなりますよ。なぜなら・・。
にこりと店主は丘の方を指さして、
"あのお城の女王様も愛された『魔法を奏でる花』という名のバラですからね。"

その演奏の音色は・・

2012-10-26 | une nouvelle
暗い雲の覆う日曜日。
女の子はぼんやりと橋のたもとまで歩いてきます。
日曜の朝はほとんど人通りもなくて、冷たい風の吹いている、十月も終わりのことです。
かたい石畳を歩いていると、女の子の耳にふいにあたたかな音楽が聞こえてきたのです。
向こうの路地からあらわれたのは、アコーディオン弾きの若者。
長いマフラーを首に巻いた背の高い青年です。
その音色はとても幻想的で今までの気持ちが嘘のように心が明るくなっていったのです。
すれ違う時、女の子は思いきって声をかけます。
"兄さん、とても素敵な演奏ね。"
"ありがとう、お嬢さん。"
若者は人懐っこい笑顔を浮かべて、それでも演奏は続けています。
"この演奏は忘れかけたものを思い出させてくれる曲なんだ。"
しばらく二人は一緒に歩いていって、女の子ははっと気づくのです。
"ふうん、そういうことなのね。"
"そう、君の宝物はまだ心の中から失われていないんだよ。"
"とても不思議なお兄さんね。"
そう言って、街の方へと歩きはじめる女の子。
"ねぇ、君。楽しい一日を・・。"
"お兄さんもね・・。あ、その演奏のお題はきっとこうね。"
振り返った女の子が口にした言葉、
"子供の頃に読んでもらった魔法の国のおはなし、かな"

暗闇にある小さな輝きに

2012-10-22 | une nouvelle



"すがすがしい朝の日ざしがわたしの色だと思っていたけれど、
月あかりの中で過ごしているうちに日ざしはいつしかまぶしすぎるものに・・。
永遠のあこがれと思ってはいるけれど、月のあるの世界で今は夢を描いている。
その夢はちょっと大人な幻想の物語・・。
暗闇の小さな明かりに、心のよりどころといとおしさを感じる今のわたし。"

美しくもはかなげなあの輝きのように

2012-10-17 | une nouvelle
夜の森を走る長い列車。
とがった木々のむこうには切り立つ山々が。
ありえないほどの輝きで森を照らす月、とある夜ふけのこと・・。

誰もいなくなったラウンジの高いイスに腰かけて、車窓にうつる深い森の闇をながめている女性(ひと)。
足を組み長いコートのポケットからとり出したのは置き手紙。
いとおしそうに折り目を指でなでていくのです。

ひっそりとした車内にひらくドアの音。
背の高い車掌があらわれて、
"眠れない夜にお酒が必要ですか?"
彼女は笑みをうかべて首をふります。
"もうすぐ国境を通り過ぎます。まわりの景色も一段と寒々しいものになってきますよ。"
"わたし、北の国には愛着があるの。"
"私はあたたかい国の方が性にあってます。"
"切り立った白い山々、澄んだ空。冷たく輝くようなあの空気が好きなの。"
"火のあたたかみが違いますね。"
"そう、暖炉の明かりも。"
"ご出身なのですか?"
彼女はゆっくり首をふって。
"好きな人のいる場所だから。"

列車は汽笛を響かせ、夜の森を弓なりに。
"朝になれば白銀の国へ到着です。良い旅を・・。"
"ありがとう。あ、そう・・、"
行きかけた車掌を呼び止めて、
"久しぶりに会う人になにを携えていけば、一番うれしいかしら?"
車掌は笑みをつくって、
"何でもいいんですよ。なによりうれしいのはあなたのやさしい笑顔がそばにあることなのですから。
男なんて、けっこう単純なものなのです。"
"そう? 女性だって同じよ。"
"同じ気持ちでも女性の方が複雑で奥深いんですよ。美しくもはかなげなあの月明かりのようにね。"
"ありがとう。なにか気が楽になったわ。"
"では、ごゆっくり。もうお酒のない場所ですけれど・・。"

夜の静けさに素敵な出来事は・・

2012-10-15 | une nouvelle
夜更けの鐘がひっそりと街に時を知らせています。
狭い路地を力なく歩くひとりの女性。
閉まった店々の前を通り過ぎ、外灯のある角を曲がってみると・・。
ほの明かりのオープンカフェがまだあいていたのです。

女性はやさしい明かりの方へと歩いていきます。
カフェの外のイスには若い恋人たちが二組と老人がひとり。
そして、隅にすわったギター弾きの男性。
あいてる席に女性がすわると、ウェイターが出てきて。
"もうすぐ終わりですが、それでもよろしいですか?"
女性はうなずいて、
"なにかあたたかいものをお願い・・。"
"かしこまりました。"

ウェイターが店内に戻っていくと、思い出したかのようにギター弾きが音色を弾きはじめたのです。
演奏はゆっくりとやさしく、夜の静けさにとけこんでいくかのよう。素敵な幻想に誘われるような旋律。
座った席からふと上を見ると、建物のあいだから澄んだ夜空が・・。きらびやかな星々の輝き。
ウェイターが飲み物をもってきて、
"すこし甘いものをお持ちしました。一日の疲れを癒してくれますよ。"
"ありがとう。"
ウエイターが行きかけた時、
"ここはいつも遅くまであいているの?"
ウェイターは首をふり、
"マスターの気分しだいなのです。今日はそんな気分なのでしょう。"
ウェイターの目線の先に、太った店主がカウンターの奥で新聞を読んでいるのです。
"きまぐれなお店なのね。"
"そう思いますよ。"
ウェイターがさがっていき、女性が飲み物を口すると、すうっと体がやわらいでいきます。

しばらくして、演奏がとまり、夜の鐘がふたたびなります。
女性はあいたカップを後に店内へ。
"ありがとう。とても良いひとときを過ごさせてもらったわ。"
"それはなによりです。"
ウェイターはレジスターの前に。
"また寄ります。"
女性は店主の方を向き、
"素敵なお店ですね。"
"ありがとうございます。"
店主は新聞の横から笑顔をみせて、
"きまぐれな店にまたいらして下さい。"
"ええ、もちろん。"
"明日も素敵な一日に・・。"
"どうもありがとう。"
ウェイターが店先まで見送りにきて、
"今夜はひときわ静かな夜ですね。"
"あのギター弾きさんのような素敵な出来事がまたあるといいわね。"
"えぇ、ありますよ。実はあの演奏家は年に一度くるか来ないかの旅人なのです。
だから、こんな巡り合わせはなにか良いはじまりに違いないですからね。"
"そう? 楽しみにしておくわ。"
"えぇ、楽しみこそ人生の甘い果実に他ならないって、マスターがいつも言っていることです。"

強い日ざしのむこう側

2012-10-15 | une nouvelle
強い日ざしをさけるようにプールサイドの影に座っている。
キラキラと輝く、プールの中の光を目でおいながら・・。
傍らにある赤いバラの花びら。ひとつまたひとつと風に揺られて落ちているのにも気づかずに。

やがて、むこうからやってくる男性。
そして、軽いキス。
おだやかな会話の後に男性はまた去っていく。
その後ろ姿は彼女を見ることもなく。彼女の視線はまだブルーの水の中に・・。

"時が解決してくれると思ったけど、それは嘘。
忘れようとつとめればつとめるほど、胸の切なさはつのりはじめる。
夜のひとり寝には慣れたつもりでいたけど、あなたのぬくもりはこの肌がおぼえてる。
あなたのやさしい香り。愛のささやきを。

愛は不思議なもの。愛と思わないうちに胸へ飛び込んできて、鮮烈なものを残していく。
わたしが気づきもしないうちに。
後悔も悲しみも今は感じないけど、なにかがわたしをそこから離さないでいるわ。
新しい旅に出る、そんなわたしの心に。"

オレンジの色を強めていくプールサイド。
それでも彼女は光の戯れをじっと見つめたまま。
待ち人はまだあらわれず・・。
すでに新しい物語がはじまっているのに。
水面の向こう側にある光に今はないなにかをふたたび見つけようとしている。

続くかもしれない、即興の物語

2012-10-14 | une nouvelle
ある夜のこと。
いつもは鳴らない時刻に聖堂の鐘が鳴らされていたのです。
それに気づいたのは、やさしいお姉ちゃんのかたわらで眠る寂しがり屋の女の子。
"ねぇ、お姉ちゃん"
妹が起こそうとしても、姉は寝息をたてたままです。
不安になりながらも、そっとベッドを抜け出し、窓辺に近づいていきました。
厚いカーテンをはぐり、窓のむこうをのぞいてみると・・。

そこには光り輝く星空と見たこともないたさんの色あざやかな傘が街に舞い降りてきていました。
まるで風船のようにふわりふわりと。
女の子が食い入るような目で見つめていると、
五階の高い窓にもかかわらず、傘をさした紳士が窓の向こうにあらわれたのです。
それもとびっきりやさしい表情のおしゃれな紳士が・・・。
驚きよりもうれしさが勝って、思わず女の子は窓をひらいてみました。
"お嬢さん、こんばんは"
"あなたは誰ですか?"
"わたしはあなたの夢の番人です。"


        続くかもしれない・・。

この世にある美しい輝きを見られる人は・・

2012-10-14 | prayer
"とても深い悲しみの中にこそ輝くような強いヒカリは働くのです。
そう、漆黒の夜がピュアな朝の光を呼び込むように・・。
だから、悲しみの中に自らがあることを不幸に思うことはないのです。
なぜなら本当の愛を知る機会を用意して下さった方が確かにいらっしゃるのですから。"

そのような考えにはなかなか行き着くことが難しいものです。
でも、確かに輝く人生の物語には悲しみの要素が欠かせないのもの。
言い方は変わっていますが、暗闇の中にこそ本当の明かりは確かめられるものなのです。
だから、これからも進んでみて下さい。色あせたようにみえる毎日でも。
本当の輝きを見ることが許されるのは、心に強く望むものがある人のみのことなのですから。