欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

消えかけた愛の輝き

2012-05-30 | une nouvelle


都会のもの音に疲れ果て、冷たい心を抱いたまま途方にくれる者たちよ。
この花の赤みが心にしみて、やさしい英気をあたえてくれる。
愛を理屈に添わせて、純粋さも人の中の泥にまぜあわせて。
悲しい瞳ははるか高いグレーの建物のむこうに。
渇いた口びるがカタチづくるのは、かつて声にしていた愛のコトバ。

一輪の美しさに心がうるおいはじめて。
忘れ去った過去の言葉たちがいつしかよみがえり。
失ったものを数える方が今ははやいけれど、それでも心は愛を奏でようとはじめている。
"いとしい君よ、君は遠くに去ってしまったけれど、愛はまだ心で輝きを失わず。
君を想う瞳はやさしさににじんで、口からもれる言葉は君を満たそうとするものばかり。"

ちいさな愛のささやき。
都会のもの音に気持ちはしぼんでしまったけれど。
花の赤みが愛する人へのむくもりを心に灯してくれて。
心がつむぎ出しはじめたのは、君へのあたたかなコトバ、愛する人への輝き。

音に込める愛情

2012-05-25 | une nouvelle
夕日がさしこむ鐘のある街。その路地裏で、
古いイスに腰かけコントラバスを奏でるひとりの老人。
毎日夕方なると、同じ場所にコントラバスを持っていき曲を奏でているのです。
だれも通らないようなひっそりとした路地裏で。

あるとき、野菜の配達人が演奏を耳にし二輪車を止めます。
演奏を聞き終わって、ブラボーと拍手。
すばらしい演奏だ。しかし、こんな人知れずの場所ではもったいない。
老人はメガネをはずしながら、
いいんだよ。昔のなじみに聞かせているだけだから。
野菜の配達人はその意味がよくわからないながらも、
なんか不思議な曲だね。どことなくぬくもりを感じるよ。やっぱりこんな場所じゃもったいないシロモノだ。

老人は毎日この場所で曲を奏でているのです。
雨の日も、屋根のひさしの下で。海が荒れる嵐の日も、短い曲を奏でて・・。
たまに道行く人が立ち止まり、演奏を聞いていきます。
こんなに切ない曲もあるものだ。心に刻まれるような大きな出来事を経験した人にしか演奏できまい。
老人は弦をはじくのを止め、ひとり言のように、
自分はここで弾くのが毎日の日課さ。昔ここを去って行った人へのせめてもの贈り物なんだよ。

国境の近い駅にて

2012-05-23 | une nouvelle
褐色の大地が広がる国境近くの駅。
強い日ざしをさけるように、人々が構内で思い思いの時を過ごしてる。
冷たいジンジャーエールを飲み干して、ホームのベンチに腰かけていると。
追いかけっこさながらに三人の子供たちがベンチのまわりに。
笑顔の三人はわたしに興味があるらしく、
こんにちは。お兄ちゃん、どこから来たの?
ふたりの男の子ともうひとり女の子。
彼女のまだあどけない口もとからこぼれる言葉。
ずっと西の方から。これから国境を渡っていくんだよ。
お兄ちゃん、むこうに行ってなにかするの?
人に会いに行くんだよ。
ふうん。
女の子はこちらをまじまじと見つめて、
それってコイビト?
そうだね。彼女に会いにいくんだよ。君たちはどこから?
僕たちはここに住んでるんだよ。あの建物のむこうに。
駅のむこうに乱雑に並ぶ屋根の群れ。
女の子はそんなことよりも。
ねぇ、どんなカノジョに会いにいくの?
そうだね。夢を叶えに行った彼女を追いかけていくんだよ。
一緒に行かなかったの?
そうなんだ。いろいろ理由があってね・・。
ふたりの男の子はまた追いかけっこしながらむこうに走っていき、残ったのは女の子ひとり。
カノジョのこと、好きなの?
そうだね。
一緒にいると、うれしい?
一緒にいるととても楽しいよ。
ふうん。
女の子は口に指をもっていってなにか考えてる風で。
君は好きな人がいないの?
う~ん。いないかなぁ。
またふたりの男の子が走って戻ってきて、女の子に、
あっちに大きな犬をつれた人がいるよ。見に行ってみよう。
女の子はまだここに残っていたそうに。
お兄ちゃんの行くところは、ここから近く?
ううん。もっと東の方さ。とても大きな街。
おおい、いくぞぅ。
ふたりの男の子に声をかけられて、
お兄ちゃん、さようなら。
うん、さようなら。またね。
女の子はふたりの男の子のもとへ走っていきそうになりながら立ち止まって。
会った時、なにか言うの?
ううん、そうだね・・。でも、会いたかったって伝えるかな。
ふ~ん。好きって言うの?
そう、だね。
女の子は男の子たちを追いかけて、ホームのむこうへ走っていき。
その向こうを眺めると、地平線に這うように大きな雲がながれていて。
汽笛が遠くから響いてきて。
ホームに人がぼちぼち集まりはじめ、そのなかに若い恋人たちがなにか楽しそうに話している。
会ったら好きって言う、か。
ふと彼女の笑顔が思い浮かんできて。
彼女にもあんな女の子のような時期があったんだろうなぁってなんだか微笑ましく。
女の人は幼いころから愛に敏感なんだなと、しみじみ。

白い窓のあいたヘアサロン

2012-05-22 | une nouvelle
長い髪を切るのは勇気のいることです。
白いシャツの美容師は鏡越しに女性を見つめて、
きっと明るい未来がその軽くなった表情にあらわれてきますよ。
ありがとう。そう言っていただけると、なんだかうれしい。
美容師は丁寧に髪をといていきながら、
昔はですね、愛する人の手紙に自分の髪をふくませたとか。
髪にはいろんな思いがこもっていますからね。喜びも悲しみもいろんなものを含んで・・。
女性は軽くなった頭をふってみて、
なんだか爽快な気分。
とてもいい笑顔ですよ。
開いた窓から入ってくる五月の風。車のクラクションの音。
お待ちの方は?
あら、もうそんな時間?
女性は鏡の上の時計を見て、
今日の時間の流れは早いわ。
お待ちの方も、きっと今の雰囲気を気に入っていただけますよ。
だといいけど・・。
ラジオから流れてくる軽快な音楽。女性は目をほそめて、
今までが重ったのよね。
まわりに散らばった髪を眺めて、
濃い髪。でも、今はこれでよかった気がする。
季節の変わり目がやってきたんですよ。あざやかな木の緑のように、その表情にも明るさがやってくる季節が・・。
そうかしら?
さわやかな風が肩のあたりをなでて素敵な出来事を運んできますよ。あの待ち遠しいクラクションの音のようにね。

色あせた兵隊の人形

2012-05-20 | une nouvelle
玄関を出るとき、靴箱の影に見えていた兵隊の人形。
色あせた人形を手にとると、かくれていた思い出が鮮明に伝わってきて。
しあわせだった家族の肖像が。あの頃のさわやかな日ざしが。
恋をしていたあの頃の胸のうちが、まるで昨日のことのように・・。
ポケットに人形を入れて、車を走らせる朝。
いつもの並木道がタイムスリップしたかのように、あの頃の情景が・・。
スピードをゆるめ、眺める先は以前よく通っていた彼女の家。
人形をふたりで持って吹き替えの会話を楽しんだ。
あの時の物置小屋はもうなくなっていて・・。
道のはずれに車をとめて、上をむき目をつぶると。
あの頃の愛しい人が声をかけてくる。

"兵隊さん、兵隊さん。わたしをお嫁さんにして下さいな。
その帽子がとってもかわいいから。
好きになるのに理由なんていらないわ。
まんまるの帽子にわたしは恋をしたのよ。"

やさしい悪魔の使い

2012-05-20 | une nouvelle
月のヒカリに照らされたお城。
ビロードのカーテンのそばで動いている物影。
あなたは誰です?
悪魔の使いです。
カーテンのむこうからあらわれたのは、背の高い紳士の影。
わたしに何の用です?
ひとつご忠告をしに、うかがいました。
悪魔がわたしに何の用ですか?
わたしは悪魔の使いですが、星の動きによって世のすべての邪悪な働きに関わっているわけではないのです。
王女はベッドから起き上がり、不審な目で紳士を見つめます。
ご忠告ですか。あなたがわたしに何を?
その頭のふさぎを、やわらげるためにです。
悪魔の使いが? そうおっしゃりながら、実はわたしの心を混乱させに来たのでは?
紳士は膝まずいて、
どうぞ、お聞き下さいませ。わたしはけっしてそのようなことで訪れたわけはないのです。
王女はじっと見つめながら、
どういうことかわかりかねますが、ご忠告とは何です?
あなた様の心についてです。その頭にもたげているものを解き放ちに・・。
どういうことです?
紳士はやさしく語りはじめます。

太陽のヒカリは清くて美しい。すべてが整然としていて汚れがありません。
しかし、人の心とは太陽のようでありたいとは願っていても、その質を異にするものなのです。
もちろん美しさや正しさはあってしかるべきですが、迷いや憂い、悲しみも含まれての、心なのです。
悪魔の使い。わたしたちのイメージである、邪悪なもの、嫉妬、恨み。これらも心の色として当然あるものです。
心はすべての色を含んで深いヒカリをなしているのですから、正と悪。明と暗。というふうに対極をなすものではありません。
ですから、すべてを含んで作用することこそ健全な心。心の本来の働きなのです。
巧みなズルさを行っても、それが悪い作用をおよぼすとは限らない。
鋭い嫉妬をおぼえようとも、それが悪に手を染めるきっかけにはならないのです。
心とはそういうもの。ですから、心の闇に嫌悪をむけることはないのです。
聖の部分にのみ好意をむけることもありません。
すべて含んで自分の心となしているもの。光であっても闇であっても愛すべき自分の一部であることを、知っていただきたいのです。
それからは、意思が決めること。行動こそがこの世での大切な選択となるのですから。

あなたは誰からの使者です?
あなた様を思う、名もない使者です。もちろん悪魔の使いです。影の世界に生きる者ですが、あなた様の苦しみはこうして解かれることを、お知らせしたかったまでです。
王女はじっと考えている風でしたが、やがて、口もとに笑みを含ませて、
深みのある心ですか。そんな自分を愛するように、言われるのですね。
心とはそういうものです。
なにか気持ちが楽になったような気がします。また、いずれ訪れてくれることはありますか?
わたしは悪魔の使いです。闇がいつかあなたを惑わすかもしれません。遠くから見守っているのが一番の愛であるかと・・。
悪魔の使者はやさしいのですね。
その言葉を胸に、闇へ消えていきます。どうか、心の深みを知り、自分を慈しんでいただけるように・・。
突然、窓から強い風が入ってきて、カーテンが揺れると、人影はなくなり。あとに残るのは静寂と月あかりのみ・・。

愛を射抜く誓い

2012-05-19 | une nouvelle
ねぇ、一緒に踊りませんこと?
そう言ってわたしの手をとりホールの中央へ誘った。
細い指先に感じる情熱の潤い。
仮面の奥の目がわたしを射るように見つめ、やがて、口もとのほほ笑みにわたしは・・。
踊りが上手なのは意外ね。坊やのような瞳、そのむこうにあるのは冷たい欲望かしら?
そう言いながら手を離し、人の中へ消えていった女性。

バルコニーで夜空を見上げる、うれいに満ちた横顔。
夜は嫌いなの。三日月や星がなにか話しかけてくるから。
そして、すっと体を寄せてきて。
人肌に触れられる夜は別だけど、あとは冷たい月あかりがわたしの友達かしらね。
肩に頭をのせてきて。
だれかがわたしを自由にして下さる、そう思って待っているのよ。
囚われた心を奪うような勇気。その人はどこにいるのかなって・・。

庭園に広がる花々。噴水のしぶきがあがる場所で立ち止まり。
昼下がりがわたしの一番の安らぎ。こうして太陽の下で建物をみているとすべてがとまって見えるから。
風が吹いて長いつばの帽子がゆれて。
あなたの心にある美しい輝きはいつ見せていただけるの?
強い日ざしにもゆるがない、その瞳の奥にある誓いを。
笑いながら、歩きはじめて。
約束を急いだりしないわ。でも、女にはわかるのよ。
男の中にある鋭い誓いがこの胸を射抜いてくれる日が近いことをね。

すこしレースをはずれたところに

2012-05-18 | essay


人はどうしてもがんばり過ぎてしまうのです。
体調を崩し、それでも病院や薬のお世話になって、また社会のレースに戻っていく。
どこに自分のしあわせがあるのか、自分が今なにをしているのか、はっきりとわかることなく・・。

駆け抜けることがしあわせへの第一ではないということをみんな知っているのです。
心が願うこと。わだかまりを解消すること。笑顔でいること。
知識としてはみんな理解しているのです。
それでもいつのまにかペースを崩して、気がついたら走り続けているのです。苦痛に顔をゆがめながら・・。

"自分はポンコツ車。それでもまわりの人は良いと言ってくれるの。
そんなわたしになってから、したいことはひとつひとつ見えてきたし、毎日をゆっくりと送っているけど、今はとてもしあわせよ。"
ジャズを奏でる彼女は言います。

人は意識をむける場所を見間違えているのでしょうか。
流れの速い世間のペースからはずれながらも、彼女は少しずつしあわせを享受しようとしています。
今の生き方というのは、そんなものなのかもしれないですね。
すこしレースをはずれたところに、輝くなにかを発見できるのかもしれない。
レースからはずれてしまうのが一番の恐怖なのに・・。
もちろん、走っている自分が充実しているなら、それは別の話なのですがね。

イベリスの花飾り

2012-05-14 | une nouvelle
深い森の中、大きな木の根のまわりで人が集まり、楽しい唄をうたっています。
みんな輪になっては、真ん中に何人かが出てきて、祝福の舞を踊りはじめるのです。
拍手の後、木のむこうからあらわれたのは美しく着飾った新郎新婦。
イベリスの花飾りを首からさげたふたりが、みんなの前を通り、花びらのシャワーを受けるのです。
新婦はうっとりと笑みをうかべて新郎を見つめます。
新郎もウインクしてまわりに祝福を返して。
ふたりはゆっくりと司祭の前へ。そして、愛の誓いを・・。
あなたはこの女性を生涯の伴侶と認めますか?
はい。
あなたはの男性を生涯の伴侶と認めますか?
彼女がはいと言おうとした時、突然響いてきたもの。
それは、昨夜見た不思議な夢と同じでした。
霧の中、さまよう森で出会った自分よりも大きな黒豹。
その鋭い瞳が彼女にささやくのです。
お前の姿は美しい。だが、なにか大事なことを忘れてはいないか。
それを果たすまで、お前の愛は遠い彼方の檻に封印されたままなのだから。
あなたはこの男性を生涯の伴侶と認めますか?
はいと言おうとしても、彼女の口は閉ざされたまま。
やがて、司祭の顔が黒い豹と重なっていき、
どうした? まさか忘れたわけではないだろう。
いにしえの愛の誓い。お前の過去が呼んでいる・・。
彼女が口ごもったままでいるので、新郎もまわりの者もざわめきはじめます。
やがて、彼女は、
どうか、お許し下さい。けっして悪気はなかったのです。
約束を忘れたわけではないの・・。でも、この人と出会い、もう一度愛を確かめてみたかった・・。
そう言って、首からさげた花飾りをはらりととりさって、彼女は大きな木のむこうへ。
追いかけていった新郎をかすめるように飛び立ったのは・・。
美しい一羽のカラス。黒い翼をはためかせ、木々の緑を裂いて空へ飛び去っていったのです。


失意の新郎のもとへ旅人が寄り添い、肩に手をかけて、
黒い翼をもった者の宿命をあなたもご存知でしょう。
永遠の愛を誓えなかった者に課せられる代償・・。
あの鳥は約束を破ったままふたたび愛を手に入れようとしたのです。
償うべきものをまだ償っていないのに・・。
今はつらいだろうが、やがて、安堵が心を包んでくれる。
もう魅惑の森へ夜足を運ぶのはよした方がいい。
あそこで得たものは、一見華やかな匂いがするが、すぐに腐臭がただよう。
よこしまな気持ちの夢はいずれ心を傷つける悪夢で終わるのだからね。

深い霧が街を包みこみ

2012-05-13 | essay


目の前にあるのはとてもdryな世界。
生きていくための賃金を、確実な未来を、危ない出来事からの安全を・・。
そんな世界に生きているから、心も自然と疲れたものに渇いたものに・・。
そんな毎日を送っていると、心はしだいに色あせはじめ、やがて、この世界すら嫌いなものに映ってきます。
けっしてdryなだけの世界ではないのに・・。多くの人々が思い描いている義務のような生き方だけではないのに・・。

dryに見える世界にゆっくりと霧が包んでいき、白い世界の中で人々が見たものは。
うさぎの行進であったり、大道芸人の踊りであったり、不思議な花の首飾りであったり。
白い木のベンチに腰かけていると、むこうから白馬がやってきて、どこかへ誘ってくれるような目をしている。
そこからの世界が確かにあることを。
dryに思われるこんな毎日だからこそ、深い霧の世界をとり戻す必要があるということを、わたしは語っていきたいのです。
多くの創作家(Creator)たちが同じように希望をもって作り続けています。
わたしもおよばずながらその一員として、素敵な物語を創っていきたいのです。

ちょっと飛躍がすぎるかもしれませんが。
そういう思いに最近はとてもかられているのです。