欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

星を伴う荷馬車に乗って

2012-01-31 | une nouvelle
それはある夜のこと。
わたしは夢を見たのです。そう、とてもすてきな夢を・・。

天窓から月あかりの入るベッドにわたしは横になっていたのです。
一番星が窓の向こうできらめいていました。すると、こちらをのぞきこむ紳士の姿が・・。
"お嬢さん、おむかえに参りましたよ。"
その言葉に、わたしの体は羽よりも軽くなり。天窓から出てみると、そこには銀色に輝く荷馬車が・・。
二頭いる白馬のそばにいくつもの星が輝いていたのです。
紳士は身軽に荷馬車へとかけあがり、手綱を握って、
"今宵は最高の旅をお約束いたしましょう。どうぞお乗りになって。ふんわりとしたクッションが心も体もリラックスさせてくれるはずです。"
わたしはちょっと気兼ねして、
"どうしてこのような旅に出られるのでしょうか?"
すると、紳士はにっこりと笑って、
"あなたが毎夜望んでたことじゃないですか?
ひたむきな願いが夜空の星々を動かせたということですよ。そして、このわたしが使わされたというわけです。"
"なにもお返しするものがありませんけれど・・。"
"さぁ、そんなことはどうでもいいのです。
あなたの心と同じように、美しい宝物をもっている人にこの馬車は使わされるのですから。
星々の世界へご案内いたしましょう。
素敵な日々の幕開けに。この旅は目覚めても引き継がれていくのです。
自らの中にある宝物に手をかけ開いた、あなたの大切な記念日なのですから。"

日だまりのような愛の歌

2012-01-31 | une nouvelle



ピアノの前にすわり、鍵盤もさわらずに男はなにかを口ずさんでいます。
時折指でリズムを刻みながら・・。
誰もいない部屋。すこしして、男はしずかに話しはじめます。

"世界にはいろいろな考えがあふれている。だが、自分に合うものは結局なにひとつなかった。
今のわたしになにが必要なのか、それがわかるまでどれだけの時間を費やしたことだろう。
自分に語りかけていくことだけが唯一の方法だと、今は言える。
孤独というほどひとりで生きてきたわけじゃないし、だが、たえずまわりの人はいても、自分の置かれた境遇は自分で解決していくしかない。
いつも心から呼びかけられてきたことは、ただただ真摯に生き、愛とともにあることを知りなさいという言葉。
支えはいつも胸にあり、この先の道さえ整えてくれるのだからと。
美しい花の道を歩む時もあれば、イバラの覆う暗がりを行く時もある。
大切なのは、自分の中にある愛に気づいているかということ。
大いなる失望は自分を愛せなくなった時に起こるもの。愛を尊ぶことができなくなった時に、つらさや冷たさはやってくる。
たとえすべてを失ったとしても、いまだこの胸の中に愛があることに気づいているなら、この先足をくじかれることはない。
そして、頭上に日は明るんでくれる。
「ありがとう」とただただ魔法の言葉をつぶやいて、自分の心に帰っていけば、かならず見つかるはず。
今自分が見失っているなにかを・・。"

男は静かに鍵盤に指をおき、音色を奏ではじめます。
シンプルな旋律、愛の曲を。
とてもあたたかみに満ちた、どこかで聞いたことがあるような日だまりの歌。自らの中に宿る愛の歌を。

魔法のワイン

2012-01-30 | une nouvelle
食事を終え、口をぬぐう女性。ワインをつぎたそうとするソムリエに、
"今夜のワイン、おいしかったわ。
ただ、わたし気分が乗らないの。このままでは眠れないわ。
どんな重い気分でも吹き飛ばしてくれる魔法のワインはない?"
ワインの口を白い布で拭きとりながら、
"ワインはその時その時の詩(うた)でございます。
どのようなものが相応しいか、お探ししてきましょう。"
女性は指で静止して、
"ありきたりなものなら、けっこうです。わたしの気分に合わないと、悲しくなるから・・。"
ソムリエは奥に引き下がり、すこししてまた戻ってきます。
"このワインはどうでしょう?"
女性はすこし笑みを浮かべて、
"喜ばせてくれるのはありがたいけれど、気休めは遠慮しときます。"
"これは気休めではございませんよ。正真正銘の魔法のワイン。"
"どういうことです?"
"このラベルの産地は本来ブドウの採れない場所なのです。それがワインの産地にまでなったのは、この町の人たちの願いが奇跡を呼んだのです。
あるワイン好きな男がやってきて、この男とともにはじめた情熱が、やがて、現実に魔法を起こしたのですよ。"
"すこしいただいてみるわ"
グラスに揺れる赤いワイン。そっと口にして、
"とても不思議な味。でも、悪くないわ。"
"気分が重い時もあります。ただ、この男のように情熱が世界を変えていくこともあるのです。
魔法は自らの中にしまわれているようですよ。"

氷の星の王女 (1)

2012-01-29 | une nouvelle
氷の星。どんなものも凍らせてしまうこの星に何千年も閉じ込められている王女さまがいます。
今も洞窟の入口のようなところから、じっと夜空を見上げているのです。
夜空のむこうには三つの星が輝いています。
三角に広がるその美しい星を王女さまはいつも見上げているのです。

やがて、王女さまの足もとに一匹のねずみがやってきました。
ちょろちょろと岩をのぼり、王女さまの顔が見えるところまでやってきて、
"おひさしぶりでございます。ようやくここへ帰り着くことができました。"
"お帰りなさい、長い旅路はさぞ厳しいものでしたでしょう。"
"何度もカチコチのねずみになりかけました。それでもなんとか生き延びて・・。"
"お仕事は終えることができましたの?"
"それはきちんと。"
王女さまは笑みをこぼしながら、
"あなたとお話できなかったのは淋しいかぎりでしたわ"
"ありがたいことです。ですが、楽観もできません。この星はさらに冷たくなっているようです。このままでは、わたしの身体も・・"
"やはりそうですか・・。"
王女さまは悲しいまなざしを空へむけて、
"最近、かんじることがあります。
あの三つの星がわたしになにかを語りかけているように感じるのです。
それがなにかはわかりません。しかし、この冷たさに関係したなにかを伝えてきているように、わたしには思われてならないのです。"
"むかしはここも緑の多い住みやすい星だったようです。それがなぜいつからこんな冷たさになってしまったのか・・。"
"そのことについて、わたしへのメッセージがあるのだと思うのです。うまく感じられるといいのですが・・。"
"旅の途中でこんなことを聞いたのです。"

三日月のかかる夜

2012-01-27 | une nouvelle




三日月のかかる夜。
お城の最上階のバルコニーに出て、伯爵はグラスを傾けているのです。
切れ長の目を時折眼下の街並にむけながら。
赤い液体を口に含んで、急にバルコニーのむこうへ吐き出します。
伯爵は舌うちをしながら、
"最近の人間はどうしたというのだ。
まるでにごった埃臭い味ばかりじゃないか・・。
昔のようにピュアな血は残っていないのか。
生粋の人の血はもうおとぎ話の中だけなのか・・。"
眉をひそめ、伯爵は頭上で明るむオレンジ色の月を見上げて、
"お前も人間と同じく薄汚れてしまうのか・・。
嘘や虚しさ、つまらない欲にかられて、本来あるものまで見失ってしまった人間と同じように・・。"

つぶらな瞳のクマはいつも見てる

2012-01-27 | une nouvelle
おじいちゃんはクマのぬいぐるみを持つと、にっこりほほ笑んで、
このクマはおまえの夢をすべて叶えてくれるよ。
女の子はうれしそうにぬいぐるみを受けとって、
でも、おじいちゃん。このクマさんはなにも言わないし、目も動かないよ。
おじいちゃんは目をほそめて、
ほう、これはおかしいね。昨日の晩はこのクマさんといろいろ話したものだけれど・・。
今はおねむの時間なのかもしれないね。
女の子はクマを大事そうにだっこしなおして、
このクマさんとどこか遠い国に行きたいな。
それはいいアイデアだ。よかったらおじいちゃんも連れて行っておくれよ。
クマさんにお願いしとくね。
おじいちゃんは思い出したように、
そうだ、これだけは言っておくよ。
このクマはいい子にしている人にだけ願いを叶えてくれるからね。
さぁ、なにか忘れてないかな? さっきママに頼まれたことを・・。
女の子はすこし舌を出して、
おじいちゃん、見てたのね。
そんなことをしている子に、このクマさんは心をひらかないはずだよ。
おじいちゃんは女の子の頬に手をあてて、
このクマさんはお前のことをいつも見てるからね。さぁママのところへ行っておいで。
大事な用事をきちんとすませて、そのかわいい笑顔をクマさんに見せてあげておくれ。

愛を抱いて生きる人

2012-01-27 | une nouvelle


街はずれにあるこじんまりとした居酒屋。
店の窓ガラスはくもって、熱気は最高潮に達しようとしています。
ステージでは細く美しい女の人が哀愁に満ちた声で人々にやさしく歌い聞かせています。
悲しい気持ちを胸に秘めた人の中にも、すこしずつ笑顔とリズムが戻っていき・・。
やがて、バラードが歌われはじめると、誰もが食事の手を止め、話をとめて、その歌声に耳を傾けるのです。

"胸の中にある純粋なヒカリは日常のささいな出来事によって傷ついたり、くもったり。
そんな時は目に映るものが味気なく悲しく見えてしまい、愛なんて、あたたかみなんてまるでなくなってしまったかのように・・。
ただ、それでも愛はけっしてなくってしまったという訳じゃなくて、日ざしをかくす雲のように、あなたのもとからすこし離れているだけ・・。
これも暗い気持ちを味合わせたいという神様のつらい仕打ちじゃなくて、暗がりの中でふたたび愛のあたたかみを見いだせるようにと・・。
愛をふたたび感じられるようになるのは、これもまたふとした日常のなかに・・。
見上げた屋根のむこうに、街の雑踏の中に、ささいな人とのやりとりに、ふたたび愛を見いだしていけるのです。
愛を見つけた、その喜びはなにものにも代え難いもので、心はよりいっそう愛を見つめ、いつくしんでいくようになるのです。
人としての大切なものをふたたび感じられるようになるのです。"

やさしい歌声は店の中にいる誰もの心にしみ込んでいき・・。
やがて、ピュアな感動が胸の底からわきあがってくるのです。
これは今までにない躍動の種に・・。
愛を抱いて生きている人の宿命(さだめ)を、その歌声は誰の心の中にもやさしく響かせていくのです。

しあわせの口笛

2012-01-21 | une nouvelle



口びるをとがらせて、空に向けてささやきかけるように口笛を吹いてみましょう。
不思議な魔法の言葉を音色に変えて・・。
すると、次からの瞬間あたたかな思いが胸に宿り、不思議な明るい出来事がやってくるでしょう。
これは昔から伝わる不思議な恩恵です。

確かに言えることは、目に見えるもの、耳に聞こえるもの。現実として確かなものだけではなくて、この世界にはまだいろいろと不思議なものも存在するということです。
魔法のようなまことしやかなものも・・。
たとえ、あなたが八方ふさがりな状況でも、自分としてしっかり立っていられる理由。
今からでもできることです。口笛を吹きはじめ、毎日に彩りをそえていきましょう。
その気持ちは空気を伝って広がっていきます。
あなたの日々は不思議な口笛の響きによって、たくさんの彩りがそえられていくでしょう。

あの時見上げた美しい雲

2012-01-11 | une nouvelle


"いつも春の風が吹いてくると、心躍り出したものです。
街中に色あざやかな花が飾られて、人々もこれからある祭りに会話がいきがちに。
中央通りにはにわか作りの長い花壇ができて、祭りの直前まで美しい花の中で人々は憩うのです。
祭りの日にはきれいに着飾った女性たちが列をなしてそこを歩いていきます。
ギターやアコーディオン、横笛など、誰もが踊り出したくなるような花の祭りが一週間も続くのです。

最終日にはこの一年に結婚した花嫁たちがきれいに着飾って花婿に抱き上げられるのです。
そして、花びらの口移し。
その後にキスをする者。お互い恥ずかしげにうつむく者。
観衆の拍手に包まれながら愛をささやきあうのです。
昔はわたしもそこでキスをしたものです。
晴れ渡った春の雲を見上げて、明るい日ざしのなかで、彼女の頬に口づけしたものです。
今もその喜びはこの胸に大切にしまってあります。

あの花のカーニバルが今年も開催されようとしています。
暗い出来事の多いこの街の明るい側面。
街中に美しい花々がこれから飾られていくのです。
今年も若い人たちの愛が街の通りで咲き乱れることでしょう。それを見ている者たちの中にももしかすると忘れかけていた愛の輝きがよみがえってくるかもしれません。
そう、このわたしの中にも・・。
あの時見上げた春の雲を、愛の喜びを、今年もまた新たな気持ちで味わうことができるのかもしれません。"

夜の鐘が鳴り響く街

2012-01-04 | une nouvelle


夜、ひっそりとした空気をつんざく鐘の音。
街の中心にある大聖堂の鐘が深夜の刻を知らせています。
ずっと止まったままだった大時計の針。それを動かすように働きかけたのはほかの誰でもない街の人たちでした。
信仰という枠にはまらない愛情。
そこはあのお姫様が十二時の鐘を聞いた有名な聖堂なのです。

ひっそりと眠りにつく街に響きわたる鐘。
眠れない人々にも子守唄のように聞こえ、もちろん街の人たちの良き夢の誘い手になっているのです。

大聖堂のそばを通りかかるひとりの老人。
酔った足どりで建物に寄りかかり、鐘を見上げるのです。
そして、髭のあたりをさわりながら、
"今夜の眠りをこの鐘の音がいざなっている。
安らかなる時を街の人々に知らしめながら・・。
また明日、日が昇るまでの夢の刻。この夜をこの街の誰もが愛とともに過ごせるようにと・・。"
右に左によろけながらも、何度も鐘のある頭上を見上げるのです。


夜は安らぎとともに過ぎていきます。
空の星々が見守る中で・・。
また明日、新たな世界が幕をあける、希望の朝がやってくるまで。