欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

雲が覆う真夜中の出来事

2012-02-29 | une nouvelle
屋根から屋根へ飛んでいく人影。街一番の高い建物にのぼって、その人影が見上げたものは・・。
大きく黒い熱気球。ぼうっと静かな音を立てながら街を横切っていくのです。
"トゥドゥファー"
人影の叫びに、大きな熱気球はゆっくりと高度を下げていき、やがて、高い屋根にむけてなにかを落下させたのです。
小さな鞄のようなもの。人影はそれを抱くと、また街のどこかへと消えていったのです。
なにごともなかったかのように熱気球は夜空へとのぼっていきます。

眠れない男の子がその光景を一部始終眺めていました。部屋に一緒に眠る弟にも呼びかけたのですが、弟は深い夢の中。
窓のカーテンを少しあけて、息をひそめのぞき見るようにして。
人影も熱気球も姿を消した夜の街。ですが、その後に曇りの空に不思議な明かりを見たのです。
まるで空に放たれたレーザービームのように。その光がなにかの暗号を示すような動きを見せているのです。
男の子はベッドの弟に駆け寄り、体を揺すって起こします。
眠気まなこな弟に、"これは大変なことが起こっているよ"
夢心地の弟を窓のそばまで連れてきて。"あの明かりは誰かへのメッセージなんだよ"

こっそりとふたりの傍観者がいることを知ってか知らずか光はさらにダイナミックな動きをはじめているのです。
"お兄ちゃん、あの明かりは何を言おうとしているの?"
"僕もわからないよ。でも、なにかが起きていることは確かだ。"
"なにか怖いよ"
弟の肩に手を置いて、男の子は"大丈夫だよ。僕たちとは関わりのないことさ"
さらに光は夜の雲を照らし、不思議な動きをした後に、
"あ、あそこを見てよ"弟が指さした先には・・。

教会の尖塔に近づいていく真っ黒な熱気球。
すると、教会の明かりがついて、多くの人影が教会の屋根にあらわれたのです。
"なにがはじまるの? 僕もう怖いから見てられないよ"
男の子は弟の肩をさらに強く抱いて、
"大丈夫だよ。これは今までにない発見になるかもしれない。だから、見ていようよ"
次の瞬間、熱気球が尖塔に絡みつき、空気が抜けるように建物を覆ったのです。
やがて、火の手があがり・・。

次の日の街の話題はこの建物の火災に・・。
そして、新聞は長く捕まらなかった盗賊団が火事によってほとんどのメンバーを失ったことを伝えていたのです。
男の子は弟にこのことを話し、
"昨日の夜はすごかったね。僕らはそのすべてを見ていたわけだから・・。
でも、僕は見たんだ。あの高い建物から小さな鞄を受け取った人を・・。
その人はいまだ捕まってはいない。だから、用心していよう。あの人が僕らのような目撃者を狙わないように・・。"
弟はおずおずと言います。
"その人のことは知らないよ。見てたのは兄さんだけ。僕には関係ないからね。
なにか狙われるのは兄さんの方さ。あんな夜中に起きている兄さんの罰なんだよ。"

愛する人が待つ港へ

2012-02-28 | une nouvelle
波間にキラキラと月のこぼれたヒカリ。それを裂いていくように大きな難破船がどこかへ舵をとっているのです。
はてしない海のどこかをいつも漂いながらこの船がむかう先は・・。
蒼い海きらめく昼にも、遠い灯台の明かりが見え隠れする夜にも、難破船はとまることなく漂い続けているのです。
ぼろぼろになった船のデッキ。切れたロープ、まわらない滑車。たくさんの貝がついてまるで珊瑚のように・・。
デッキを下りたところには船長らしき人の亡がらが。風化してもまだ威厳を残したままで。
前の机には色あせた航海日誌のようなものが。もう使わなくなったような言葉で書かれているのは・・。

"これが最後のページになるだろうか。
今になってみれば港で別れを告げる人たちにもうすこし手を振っておけば良かったのか。
嵐は激しくなるばかり。若い船員たちは小船を出して近くの島を目指していったが・・。
雲に覆われたその上にある月よ。いつもわたしの夜の話し相手だった月よ。どうかあの者たちを無事に島へ導いてほしい。

わたしの愛する人よ。もう一度君の前でしあわせだったことを言葉にしたかった。
あの頃のふたりの絆を胸に、今も愛していることを伝えたかった。
君と逢えたことが゛わたしの奇跡。そう月にも何度話したことか。
そう、月と同じような大きな安らぎをもっていた人。
今でもこの思いはわたしを支えているから・・"

言葉は途中で途切れ、すべての時間がそこから止まってしまったかのように。
大きな船の中にはたくさんの財宝がかくされているが、いまだそれらを載せたまま、大きな海原を漂い続けているのです。
明るいうちは太陽がなにかを教え、暗くなれば月が潮の流れとともに誘って。
もしかすると、船長の愛する人が待つ港へ。ゆっくりとその船は舵を傾けているのかもしれません。

眠りの国へいざなうおまじない

2012-02-24 | une nouvelle



"坊や、ゆっくり眠りなさい。また明日窓が明るんできたら起こしてあげるから"
ベッドの中の男の子はうなずいて目をつぶります。
"ねぇママ。僕が眠るまでそこにいてくれる?"
"いいわよ。でも、約束よ。明日はおりこうさんに学校へ行ってね"
"ママ、僕はいつもおりこうに学校へ行ってるよ"
ベッドに寄り添うように、母親は男の子の頭をなでます。
"眠りの国に行くまじないの言葉・・、何だったっけ?"
"もう忘れたの? そんなことじゃ眠りの国の人からお誘いがかからなくなるのよ"
"お願い、もう一度だけ教えて"
"光の国と闇の国のあいだ、たゆたう安らぎの国の鍵。それはやさしいやさしいまなざしに似た愛のぬくもり。"
"そうだった。やさしい愛のぬくもり・・"
"ずいぶん短くなったけど、もうすぐお誘いがやってくるわ。さぁ、お話はこれでおしまい。おやすみなさい。"
"ママ、明日また一番に顔をみせてね"
"どうしたの。大丈夫よ坊や。"
"もう坊やはやめてよ。これでもママを守れる男になるつもりなんだから・・。"
母親はにっこり笑って、
"わかったわ。もう言わない。じゃあ眠りの国に行ってもママのことを守ってね。楽しいことばかりに気を向けていたらいなくなっちゃうから。"
"ママ"
男の子は母親を見て、
"眠る前にママを呼び出すおまじないを教えといて。そう長くないやつをね。"

夜、雨降りの港で

2012-02-21 | une nouvelle
♪僕はしがない船乗り見習い。デッキの掃除から厨房のゴミ捨て、船員の娯楽のめんどうまでなんでもこなす船の便利屋。
だけど、僕の愛する人はこの船に乗っていない。誰も知らない異国の港で、淋しさは募り募って・・。

雨の降りしきる外灯の下、ボーダーシャツのやせた男は傘を片手に唄っています。

♪彼女はにぎやかな市場で僕の帰りを待っている。色あざやかな果物や野菜たち。威勢のいいかけ声が響きわたる吹き抜けの市場の奥で。
僕はわずかな賃金をためながら、彼女にあげる美しい石を探している。いまだ見たことのない七色に輝く石を彼女の胸もとに・・。

大きな船が汽笛を何度も鳴らします。それはもうすぐこの港を離れてしまうという合図。

♪ついたかと思うと出てしまうこんな旅で、僕は彼女に見合う美しい石を探している。どこの港でも目をクリクリさせた商人たちが僕の顔をうかがいながら品物を見せてくる。でも、いまだ彼女に見合う石には出会わない。
これからまた船でのいそがしい生活。やる事はいろいろあるけれど、本当の目的は彼女のプレゼントを探すこと。
七色に輝く宝石を。彼女の心のように美しい石を。あのにぎやかな市場で待っているかわいい彼女の胸もとに輝かすために・・。

色あざやかなキャンディー

2012-02-13 | une nouvelle



泣きべそかいてる女の子にグルグルねじったキャンディーをプレゼント。
"お嬢さん、そんなつれない顔は見せちゃいけないよ。だって、君は笑顔の国からやってきたお姫さまだもの。
笑ってナンボの生き方しないとね。"
シルクハットの紳士はそう笑みと言葉を残して去っていきました。街灯のともる雨の中を。
傘をさしたまっ暗がりで見るキャンディーのとても色あざやかなこと。
ねじ曲がったキャンディーのやわらかい色を見ているうちに自分が本当に夢の国の住人になったような気がしていたのです。
そう、これが笑顔をとり戻せた女の子のワンシーン。
紳士のいなくなった夜の街角で、不思議な気分に誘われ、ハッピーを見つけられた女の子の小さな小さな物語です。

恋の季節、眠りをジャマされない人間たちが得をする

2012-02-08 | une nouvelle
リッチな洋館の屋根。そこはこの街の猫たちが集まるたまり場。
とがった月が見守るしたで、今宵も猫たちのおしゃべりが聞こえてくるのです。
"お前のところのご主人は毎晩ベランダから抜け出してどこへ行ってるの?"
"かわいい女の子のところへさ。昨日は庭のバラをつんで塀を越えたところですべて落としちまった。"
"まぬけなところが顔にあらわれてるや"
"だが、ご主人はやるじゃないか。花びらをあつめて、胸のポケット入れていったよ。
ちょっとぬけてるが、それでも女の子をモノしていくところがすごいだろう"
すっとしなやかな動きであらわれた赤い首輪の黒猫が、
"どうして人さまもネコも、オスってのはしつこいんだろうねぇ"
"ほう、これは主役のお出ましだな"
十匹ほどのネコのたまり場の中央にしずしずと黒猫が割って入ってきて、
"みなさん、おひさしぶりね"
"こんなゴロツキの集まりには参加しないんじゃなかったかね?"
"まあね、でも、こんな真夜中にいろんな鳴き声をきかされちゃ、眠れやしないわ。"
"なにかシャクにさわることでも?"
"そんなんじゃないの。ただ眠れないのよ。"
"そんな顔には見えないけどね。"
"あら、気分が顔に出るのは人間だけよ。わたしたちは仮面をつけているようなものよ。
そう、ちょっと聞きたいことがあってね・・。"
"ほら、そいつは顔に出てるぜ。"
そう言う、ノラをきっとにらんで、
"わたし、しつこい詮索は嫌いよ。"
そっぽを向いて歩きはじめようとする黒猫に、
"そうカッカしなさんなって。誰もからかおうとしてるんじゃないだから。
せっかく来たんだろ。で、聞きたいことって何だい?"
黒猫はちょっと動いたが、思いとどまって、
"あの尖塔に住んでいる猫のことを知らない?"
黒猫がまなざしを向けた先。そこは洋館からすこし離れたことろにあるうす汚れた教会の建物。
"あそこに住んでいる猫がどうかしたのか?"
"知らないの?"
"誰か知ってる者はいるか?"
なにも返事がない。
"素敵な夜を過ごしてね。"
黒猫が立ち去ろうとすると、
"あの猫には近寄らない方がいいよ"
黒猫が振り向くと、体の小さな三毛が、
"君もあの歌声をきいたんだね。"
"あなたも聞いたの?"
"夜の教会の鐘が鳴る前に、ジプシーが教わったものを唄っているんだよ。
とても哀愁のある切ない歌を。でも、"
"でも、何なの?"
黒猫は三毛に近づいて、
"あの歌声はジプシーから教わったものだから。
近づいてきた猫をジプシーがとってしまうって話さ。"
"そんなの嘘よ。現にわたしは・・。"
"恋いこがれてどうしようもないって?"
"あなたに聞いてはいないわ。でも、その話はどこから聞いた話?"
"実際に見てしまったんだよ。何匹かの猫がとらえられるのを・・。"
黒猫は悲しい声で、
"そんなことがあるはずはない。そんなこと・・。"
誰もがなにも言わず、ただ月あかりの中で、影だけが屋根の斜面にのびています。
"もう近寄らない方がいいと思うよ。"
下を向いていた黒猫だが、すっと屋根の上までかけあがり、
"お話として聞いておくわ。でも、あの瞳はそんなことをするような目じゃなかった。わたしは信じているの。あの歌声とあの瞳を・・。"
悲しい響きを残して、黒猫は去っていきます。
一同、しんみりした空気の中で、
"恋は生命をもかえりみずか・・。"
"おい、この街からメス猫がいなくなったらどうする?"
片目のつぶれたノラがこう言うのです。
"恋の季節、眠りをジャマされない人間たちだけが得をする、か。"

虹色のパラソルに乗って

2012-02-08 | une nouvelle
うす墨の雲がお空を覆っていても、僕の気持ちはワクワク期待に胸はずませて。
虹色のパラソルを勢いよくひらけば、どこからともなくやってきた熱い風が僕をお空へ誘(いざな)ってくれる。
風に尋ねなくても、行き先はもう決まっていて。
三つ編みが決まらずにぼんやり窓からお空をみあげている、かわいいあの子のお家(うち)まで。

ビルより高いところから、いつも暮らす僕の街を見渡せば。
うれしいことも悲しいこともみんなお日さまが見守ってくれるのがわかる。
雲の切れ間から顔をのぞかせたお日さまに向かって。
"そのあたたかいまなざしはみんなの胸に届いているかな?"

白い渡り鳥がきて僕に説教するんだ。
"そんなに目立っちゃこの長い翼もきれいな色もあったものじゃない。
どこに行くのか知らないが、早く大地に戻っておくれよ。
このお空のステージは俺さまあってのものなんだから。"

虹色の傘はゆらりゆられてあの子の家へと。
僕が名前を呼ぶと、憂うつそうなあの子の顔がはっと明るむ。
"眉をひそめたお姫さま。どうしたらその顔に笑顔が戻ってまいりますか?"
彼女は髪をいじりながら、
"お日さまがわたしをしあわせにしてくれるの。このごわごわした髪もあたたかな光ですっきりよ。"

"じゃあ一緒にうたいましょう。
お日さまは明るいジョークが大好き。シャレのきいたおもしろいうたで雲の向こうのお日さまを呼びましょう。"
彼女とベランダで踊りはじめて。虹色の傘がそのあいだを行ったり来たり。
すると、ひょっこりこちらをうかがうお日さま。
かわいい彼女が僕にむかってウインクしてくれる。

"これで素敵な三つ編みができるのよ。きれいにおめかししてママとお出かけ。
ありがとね、楽しかったわ。街一番の百貨店にショッピング♪ ふふふ、男の子にはちょっとわからない世界ね。"
ほっぺにキスされて、うれしいやらさみしいやら。
傘をたたんで帰る僕のビミョーな姿を、お日さまがいつものにっこり笑顔で見つめてる。
"君にあたたかなまなざしは届いているかな?"

金の鉄琴を奏でてみると

2012-02-06 | une nouvelle
父さんのお店にはいつも不思議な物がいっぱい。
タバコを吸いに外に出た時がチャンスなのだ。
父さんがいつもすわっている、その横の金の鉄琴を持ち出したのは、とある暑い昼さがり。
スキップしながら近くの浜辺へ。長くくねった流木に腰かけ鉄琴についている箸のような二本の棒で音を奏でてみると・・。
とても美しい響き。僕を不思議な世界へといざなってくれる。
ここで待ち合わせのかわいい彼女があらわれたのはそのすぐ後で・・。
わからないながら適当に鉄琴を奏でてみて、思わぬ心地いい音色に彼女も上機嫌。
そんな時、いきなり雲が僕たちの上で輪になって、みたこともない大きな象があらわれたのだ。
"わたしを呼ぶ者はお前たちか?"
僕たちは大きく口をあけたままぽかんとしていて。
彼女がようやく首をふると、
"その神聖な楽器を奏でているのは、となりの坊やだろう?"
思わず僕は二本の棒を手から落としてしまい・・。
"そんなに怖がることはない。ひとつ願いを叶えにきただけなのだから"
僕は彼女の顔を見て、
"なにか頼んでいいよ・・。"
すると、いつもは夢ばかり語っている彼女が、
"わ、わたし、今しあわせよ・・。"
"さぁ、どちらでもいい。願い事を言ってみなさい。"
"ね、わたしはいいから。なにか言ってみてよ・・。"彼女は大きな目をさらにひらいて、僕に丸投げ。
"え、えっと~、"
いろいろ浮かんでいいはずの答えがまったく浮かんでこなくて。なにか言葉にしようとして、
"父さんもいつも仕事の愚痴ばかり。母さんはいそいそかまってくれないし。みんながしあわせになれたらいいのにな・・。"
"ほう、坊や、とても良い心がけだな。だが、この世界は苦しみや悲しみを乗り越えながらみんなしあわせになれるんだよ。
わたしがなにかしなくてもみんなしあわせに向かっているんだ。
そうだ、良いことを教えてあげよう。天からのご褒美をもらえるように今なにができるかをいつも考え動いていくのだよ。
すると毎日の中でいつもご褒美をもらえるようになるからな。
坊やの言うしあわせになれるっていう近道だ。わかったかね、お二人さん。
ふ、彼女がちょっと強そうだけど、いつまでも仲良くな。"
すると、大きな象はお尻をむけて天の方へと消えていった。
波の音しか聞こえなくなった浜辺、しばらくして彼女が一言。
"ねぇ、他にもっと言うことがあったんじゃない!?"

ドラゴンを倒す日

2012-02-06 | une nouvelle


ある強くお日さまの照りつける朝、お城の庭に集まる屈強なおとこたち。
キングは威勢よくこう叫ぶのです。
"皆の者ぉ、あの火山にいるドラゴンを倒す日がやってきたぞ。
日頃からの鍛錬を今日こそ試す時!!"
男たちの野太い雄叫びがあたりに響きます。
"ジャック、用意はいいか。
お前の槍が成果を見せる時がやってきたぞ。"
"王様、どれだけこの日を待ちわびていたことか。この研ぎすまされた槍が竜の血を求めておりますぞ。"
"エースよ、用意がいいか。お前の弓が成果を見せる時がやってきたぞ。"
"王様、ご安心下さい。エースという名に恥じぬ働きぶりをお見せいたします。"
クィーンがキングのそばにやってきて、
"皆様のご無事をお祈り致しております。わたしもお供したいのですが、城に残る者もおります。
わたしたちは責任を持って留守をお守り致します。"
"ううむ、頼もしい言葉。それでこそわが国のクィーンだ"
キングはあたりを見回して、
"やや、ジョーカーの姿が見えぬが・・。"
"王様" ジャックが言います。
"神聖な戦いを前に異なことをおっしゃられる。
ジョーカーは剣を持ったこともなければ、盾もさわらない道化者。
あのような者を戦いに連れて行く意味がわかりかねます・・。"
王様はジャックを見て、大きく首をふり、
"お前はまだわかっていない。あの高くそびえる山へのぼり、見たこともない大きなドラゴンを相手に戦いをいどむのだぞ。
それがどれだけ人の心に影響を与えるものか・・。
だからこそジョーカーのような道化者がいるのだよ。
ユーモアがなにより人の心をやわらかく強くするのだから。"

パーティーがはじまる前

2012-02-05 | une nouvelle
"アンや、これでは夜のパーティーまでにおもてなしの料理ができなくなってしまうわ。
お肉を切る、大きな刃物を納屋からとってきておくれ。"
"おばあちゃん、あの納屋はうす暗くて入りたくないけど、パーティーのためだものね。行ってくるわ。"
アンは家の離れにある、古びた納屋にひとりで入っていきます。
天井から下がった電球は壊れていて、小さな窓から入る光をたよりに、アンは大きな刃物を探します。
やがて、棚の奥に埃をかぶった木箱を見つけて。
アンが喜びの声をあげたのもつかのま、後ろにあやしく忍び寄る影が・・。
"お嬢さん、これから何の料理を作るのかな?"
びっくりして、アンが振り向こうとすると、獣の匂いがします。
"煙突からのおいしい匂いに誘われて、ここまでやってきたら、おいしそうな女の子が背中を見せて立っている。"
オオカミは後ろからアンの耳もとに近づいて、
"なにを取りにきたか知らないが、残念だったね。ここがお嬢さんの棺桶だ。
俺さまがおいしくいただいてあげるから、安心しなよ。"
しかし、身を縮めていたアンが、大きく息をついて、ゆっくりと。
"残念なのはオオカミさんの方よ。わたしを見るより自分の足もとを見てね。"
はっとオオカミが下を向いたのと同時に、アンは後ろの足場を蹴ります。
体勢を崩したオオカミの下に待っていたもの。それは、木こりのおじいさんが使う何本もの大きなのこぎりでした。
しかも、丁寧な仕事をするおじいさんは、いつものこぎりの歯をといで、地面で傷つかぬように、歯を上にむけて並べていたのです。
納屋から戻ったアンは台所で忙しいおばあちゃんに、
"おばあちゃん、今日の料理のお肉は足りてる? 
でも、あんなことを言うオオカミだもの。食べたらみんなのお腹がかわいそうね。"