欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

大きなオルゴールを弾くおじいさん

2013-01-30 | une nouvelle
お前さん、街を歩いていてひとりを感じたりしないかい?
さみしさとは仲良しのつもりでいたのにね。
見るものすべてが無機質な物に思えて、なにかを欲しているのに、なにが欲しいのかわからない。
そうしていつもの堂々巡りを続けていてさ。

でもね、お前さん。そんな時こそ魔法の言葉で心の明かりを灯す時さ。
さぁ、口づさんでみなよ。いつもの合い言葉を。
するとね・・。

信じるってことが肝要だよ。
味気なかった街の景色が急に愛しい輝きにあふれてきて、ほら、なにやら聴こえてこないかい?
鉄琴の高い音が。
むこうからやってくるのは大きなオルゴールをひいたわたしの姿。
白い髭の奥にいつも笑みをたたえてる。
心の灯が小さくなった時はいつでも呼んでおくれよ。
これはただのオルゴールじゃない魔法の劇場さ。

さぁ、幕開けだ。
おしゃれな街のなかに、ピエロや楽器弾き、馬車の紳士たちが入れ替わり立ち代わりなにかをささやいているよ。
幻想に満ちたお話を。鉄琴のあたたかな音楽のって楽しく愉快に日常を繰り広げてる。
最後はお城のバルコニーからきれいなお姫さまが出てきて、空にむかって手をさしのべるのさ。
そしたらあたり一面星々のように輝いて、劇場のみんなが歓喜にわくのさ。
隅にいる猫やネズミまで、楽しい音楽に乗って気分も明るく踊るのさ。

お前さんよ、人は心の明るみを灯し続け生きていくんだよ。
それは愛に育まれているんだ。
どんな強い風が吹いても、雨が激しくなっても、その灯はけっして消えることはないんだよ。
でもね、自分を大切にしないと灯はたやすく弱くなる。
青い芽を育てるように、気持ちを大切にしなきゃいけないんだよ。
だれもが劇場の大親分さ。
光り輝く人生にするか、納屋におしこめられた古い物のように埃をかぶったままでいるか、それはお前さん次第なんだよ。

お前さんよ、心が明かりを欲しくなったらいつでも呼んでおくれ。
わたしはいつでもこのオルゴールを持って街へ繰り出してくるから。
みんなの持っている不思議な劇場をね。
わたしもそうだったからさ。
人には夢が必要なんだよ。しあわせが心には大切なのさ。
こうしてオルゴールの作り物にして思い出してもらっているのも、以前はわたしもそれで苦しくなっていたからなんだよ。

くるくる虹色キャンディ

2013-01-29 | une nouvelle
五月の日ざしがおりる昼下がり、出店に並べられたカラフルなキャンディーたち。
店主は一風変わっていて、太った丸メガネの親父さん。
にっこりと道行く人にこんなことを言っていくんだよ。
カラフルポップな虹色キャンディはいかが~。どんな夢だってこのキャンディならかなえられちゃうよ~。
店の前を通る女の子。その色にひかれてキャンディはおいくら?と聞いてきた。
すると、親父さん。
君の心はまっさらきれいだ。はい。ただであげちゃう。
これからも心を大切にするんだよ。
くるくる虹色キャンディを笑顔で渡してくれたんだ。
お嬢さんよ、値段なんてあってないようなものだ。お金は右から左に、北から南に風向きしだいだからなぁ。

難しい顔をして、うつむいて歩く青年に店主は言うんだ。
君きみ、心のまわりに暗がりがわだかまっているな。その分じぁ日頃いいこともそっぽ向いちゃってるな。
さぁ、このキャンディをなめて、きれいすっきりいい気分を取り戻しなさい。
青年はじろりとキャンディを見て、
どうせ甘いだけならビターチョコの方がお口に合います。
おやおや。やれやれ。
店主はポケットから金色の花柄ライターをとり出して、青年の前でつけてみるんだ。
すると、その灯の中に青年の楽しい思い出がいっぱいよみがえってきたんだよ。
これは驚いたなぁ。不思議な妖術使いだぁ。

結局、青年はキャンディを買うはめに。
しかもポケットのお金全部と交換。
でも、店主は自信顔でこう言うんだよ。
こういうことでもないと、しあわせは見つかりっこないよ。頭で考えてばかりいたら狭い迷路を行ったり来たりさ。
たまには枠をはみだして、大きなしあわせ探さないとな。
お前さん、しっかり見つけるんだよ。このキャンディの甘みとなにかがありそうな予感だけがヒントだ、大きな宝のありかのな。

夜の旅はたのし~い

2013-01-29 | une nouvelle



ある国の王女がね、毎日退屈をしていて、ある夜、空に向かって願いを話してみたんだよ。
するとね、何日かした後に夢を見たんだ。
大きなペガサスがバルコニーへやってきて、こう言うんだよ。
"お姫様。あなたの願いはたしかに届けられましたよ。
さぁ、わたしの背中に乗ってこの世界の不思議を見つけに行きましょう。"ってね。

こうも言うんだ。
"あなたの知らない素敵なことがこの世界にはまだたくさん散りばめられているんですよ。"って。
王女はその夜、不思議を見つける旅に出かけたのさ。
遠い見知らぬ南国でね、屈強な戦士がとなえる不思議な妖術をかいま見た。
念じると起こる不思議な黒い魔法をね。
その魔法がとても衝撃的だったんだ。
王女が朝目覚めても、その出来事は生々しく頭に残ってたんだよ。

王女はもう一度お願いしたんだ。
どうかもっとたくさんの不思議をこの目で見てみたいとね。
寝る前に手を重ねて、どうかペガサスまたやってきて、不思議を見つける旅に出たいって。
すると、またペガサスがバルコニーにやってきた。
次の夜もまたその次の夜も。
王女はこの世界の不思議なものを見ているうちに、ある小さな疑問が浮かんだんだ。
こんなに複雑ですばらしい世界。だけど、その素敵さを知ってる人はとても少ない・・。

ある夜、ペガサスに乗って旅してた時、身近にいる月に問いかけてみたんだ。
みんな、こんな不思議な出来事をどうして知る事ができないのでしょう?
すると、月がゆっくりと首をまわしてね。こう答えてくれたんだよ。
"王女さま、なんでもそのまま与えられればいいってものじゃないんだよ。あるかないかのところにあるヒカリだからこそ、この世界は素敵で実におもしろいんじゃないか。"ってね。

頭のいいカラスの魔法

2013-01-27 | une nouvelle
とある港町。場末のバーでギターを弾いて小銭をかせいでる流しの男がいたんだ。
くたびれた黒いスーツで、もらいものの煙草をふかしてた。
そんな男の演奏は、これが力の抜けたいいメロディーを奏でるもんだから、客にも愛されていたんだよ。
ある夜更けこと。ほろ酔いでバーを出てきた流しの男が、港のそばのちいさな樽にすわって時間をつぶしていたんだ。
決まった家がない流しの男は、知り合いのカフェが開くまで行くところがなかったんだよ。
時間つぶしにギターを弾いてると、コツコツと音が聞こえるんだ。
見ると、となりの樽に大きなカラスがとまっていたんだ。
男は我関せずで弾き続けていた。すると、
たいした腕前だな、お前さん。
カラスの言葉に、ギターの手が思わずとまったんだ。
酔った流しの男は笑いながら、
やれやれ、オレは悪い夢を見てるんだな。
カラスは首を傾けながら、
まぁ、そんなところかもしれないな。だが、九官鳥だって言葉はしゃべるんだぜ。
流しの男はそのまま気にせず、ギターを弾き続けていた。
お前さんの曲はいいね。憂いがあるのに、じつに気楽だ。
どうだい、お金持ちになって、大きな劇場でその音色を奏でてみては?
やれやれ、カラスの悪いお誘いか・・。
まぁ、お誘いはうれしいけれど、オレは自由に弾きたいだけなのさ。
ふん。じつにもったいない。お前さんは知らないかもしれないが、カラスには不思議な力があるんだぜ。人が言う魔法というたぐいのやつをね。
カラスは残念そうに、
お前さんを有名するのなんてたやすいことなのに・・。
弾く手を止めずに男は、
いい物を食べて、いい服をきて、人様の気をひいて・・。オレには肩苦しくてしょうがないや。
まったく欲のないやつだな。切なさをふくんだお前さんの音色はまわりの空気すら変えられる力をもっているのにな・・。
なぁ、お前さんの一番のしあわせって何だね?
男はうつらうつらした表情で、
そうさなぁ。このギターを弾く気兼ねない場所があればとりあえずそれで良しさ。あとは・・。
それっきり話さず、でも、ギターは弾いて、
お前さん、もうすぐ夜が明けるぜ。ぼちぼち寒くなる時期だ。ちょっと休む場所が欲しいんじゃないのかい?
う~ん、そうさなぁ。
お前さんの願いをかなえようじゃないか。ただ、これからも外でたまにギターを弾くんだぜ。オレの楽しみがなくなっちまうからな。店じゃ聞きづらいんだよ。
わかったな。また聞きにくるぜ、お前さん。
そう言って、樽から飛び立ったカラスは明るくなる町の方へ消えていった。
不思議なこともあるもんだな。
黒がうすれる海を眺めながら流しの男はつぶやいたのさ。

そして、だれかにたたき起こされ、男はギターを持たされて。
まったく。こんなところでのたれ死ぬ気なのかい? この人ばかりは・・。
うつらうつらぼんやりしている男に体をかしながら、
またわたしのところでゆっくり休むといいよ。以前のようにね。
膝のぬける男を甲斐甲斐しく支えながら、若い女は、
あんたにはやっぱりわたしがいるんだよ。そうだろう? わたしもそうなんだって気づかされたんだよ。
港を歩いていく二人。
ねぇ、聞いてよ。不思議なこともあるもんだよ。カラスが話にやってきてね。夜更けに窓ガラスをたたくんだよ。
あんたのことをとてもかってるカラスがいるんだねぇ。客はつかなくてもカラスはつくんだねぇ。
ふふふ、ねぇあんた、人の話聞いてるの?

黒猫が話すには

2013-01-24 | une nouvelle
ある夜、街の階段の隅で泣いている男の子がいたんだ。
親の大事なお皿を割って、しかられて出てきたんだって。
男の子はとても反省していたし、もう家でボールを投げるのはやめようと思っていたんだ。
でも、お父さんの大事なお皿は戻ってこない。
代々おじいちゃんから引き継いだ家宝のようなお皿だったんだって。

涙がぽろぽろ流れて、ちょっと落ち着いてきた頃、男の子に話しかけてくる声があったんだ。
どうしてそんなに泣いているの?
男の子は最初相手にしなかったんだよ。
なにか悲しいことがあったのかい?
その声があんまりしつこいんで、男の子は言ったんだ。
誰だか知らないけど、ほっといてくれよ!
そうしてまたうつむいていたんだ。
するとね、ある声が言うんだよ。
この世には不思議なことがあるんだよ。だから、なにが悲しいのか言ってごらんよ。
男の子はその時なにかしらないけど、気持ちに明るさがさしこんだんだ。
そしてさ、
僕が悪いんだけどさ、お父さんの大事なお皿はもう戻ってこないんだ。
お父さんの残念そうな顔、僕はもうどうすることもできなくって家を出てきちゃったんだよ。
ある声は、
それは残念な出来事だったね。でも、不思議な出来事はどこにでも起こるんだよ。だから、悲しまないでもいいかもしれない。
うつむいていた男の子が顔を上げてみると、そこには赤い首輪の黒猫が一匹いたんだ。
君が僕に?
黒猫は目をくりくりさせて、男の子を見上げながら、
生きていればこんなこともあるんだよ。
驚いている男の子に黒猫は、
君は知らないかもしれないけど、今夜はお星様のヒカリがとても降りてくる夜なんだ。
だから、お星様にお願いしてみなよ。もしかすると、お皿がなおるかもしれないよ。
男の子は空を見上げると、とってもきれいな星々がこちらを見ているようだった。
お星様、お星様・・・。
神さまにお願いするように男の子は願い事を話しましたんだよ。
そして、どれだけお父さんがそのお皿を大事にしていたかということも。
願いを話すうちに、男の子の気持ちはたんだん明るくなっていったんだ。
不思議な気持ちだけど、なんだかうきうきした気持ちになるんだ。
黒猫は目をくりくりさせて、
それは良かったね。お星様が願いを聞いてくれたんだよ。
そうかなぁ・・。
黒猫と一緒にしばく星を見上げていた男の子もようやく気持ちに整理がついて家に帰ることにしたんだ。
重い足どりで扉をあけると・・。
あぁ~よかった。どこに行ったのかと思ったわ。
母親が出てきて男の子を抱きしめます。
それがね、不思議なことが起こったのよ。
男の子が話を聞くと、お父さんが残念がって沈んでいるところへ電話がかかってきて、あなたのところに泥棒が入って、泥棒がお皿を偽物にすりかえていったんですって。そして、わたしの指輪などもなくなっていたんだけど、ほら、わたしは普段からそんな身につける方じゃないから、気づかないでいたのよ。
でも、そう言われれば、なんだか家が片付いたような気がしていたのよ。
泥棒が入っていたなんて思ってもみなかったわ。パパはね、今警察に行ってるんだけど、泥棒が入ったのに喜んでいるのよ。鼻歌なんか唄ったりしてね。警察の人もびっくりするんじゃない。でも、よかったわね。あのお皿は泥棒がすり替えてくれていたのよ。
なんだかへんてこな話だけど、良い一日になったわ。
男の子はうれしい気持ちながら、でも、反省はしていました。
だってこれはお星様がしてくださったことだから。

でも、寝る前になんで黒猫が話ができたのか、それが後からとても不思議に思ったんだよ。
まるでいつも黒猫をお話するように星を見ながらいろいろ話したんだから。
男の子にとって猫は大事なお友達。そんな気持ちが呼んだ良い出来事だったのかもしれないね。

神様のアジなやり方

2013-01-13 | une nouvelle
"らりほ~らりほ~って唄うのさ。
人生は楽しいことばかり、じゃないけれど、たまに楽しいこともないと心がしぼんでしまうよ。
だから、悲しい時は神さまにお願いするのさ。
どうか、こんな僕にも愛を分けて下さいってね。
すると、なんらかの答えが、いつもやさしい愛が返ってくるのさ。
不思議なことだけど、ほんとうのお話さ。"
アコーディオンを奏でる青年が橋のたもとに腰かけて、コミカルな音楽を演奏しながらそう言ってた。
道ゆく人もそんな言葉、耳にはしていても本当のことだとは思っていない。

だけどね、ある傷ついた少女がそんな青年の言葉を聞いて、らりほ~らりほ~って口ずさんでみたのさ。
すると不思議なことに、道を聞いてきた紳士がたまたま少女の遠い親戚で、家族の行方を知っているというんだよ。
すぐに家族に会うことはできなかったけれど、その紳士が家族のように振る舞ってくれたんだとさ。
お前はひとりじゃないんだよっていつも励ましてくれるって。
あとになって、そんな出来事がとても偶然に思えなくって、少女は神様にお礼を言ったんだ。
するとまたまた不思議なことに、少女のもとへ手紙が届いたんだよ。
今は遠いところにいて会うことはできないけれど、会える日がかならずくるからいい子にしてなさいって。
お互いがんばって生きていればかならず人生は明るくなっていくからねって。
親が夢を見るらしいんだよ。少女の生活がとてもわかるような夢をね。

少女はあのアコーディオン弾きの青年にもう一度会いたいと思っていたんだ。
でも、橋のところにいないし、街のどこを探しても、あの演奏を聞くことはもうなかったんだよ。
旅に出たのかもしれないねって。親戚の人はそう言うんだ。
でも、少女にはうすうすわかっていたんだよ。
人生って考えるほど捨てたものじゃないよって、神様がアジなやり方で教えてくれているのをね。


ある女の子の心の中には

2013-01-06 | une nouvelle



ある女の子がお姉ちゃんの誕生日になにかしてあげたいと考えていたんだよ。
毎晩、ベッドの中でお姉ちゃんの喜ぶ姿を思い浮かべていたんだ。
するとある夜、夢にあらわれたおじさんが女の子に聞くんだよ。
お前はとても良い子だ。おじさんがしあわせの手伝いをしてあげようって。
そして、ふたりで夜の街を歩いたんだ。お姉ちゃんのプレゼントを探しに。
きれいな街のショーウインド。歩いているうちに、とてもかわいいクマのぬいぐるみを見つけたんだ。
このクマさんならお姉ちゃんもきっと大喜びのはず。
すると、おじさんが笑顔で指をパチリとはじいて、
いいかい、これは君と僕との内緒の話だ。だれにも言ってはいけないよ。
そう言うと、おじさんはなにやら不思議な言葉を口ずさみはじめた。
そこで夢から覚めて、大きな声出して喜ぶお姉ちゃんにびっくりしたんだ。
こんなクマさんが欲しかったんだぁ。だれがプレゼントしてくれたのかしら?
知らないフリして近づいてみると、おじさんとふたりで見たクマさんそのもの。
だれだか知らないけど、わたしうれしいわぁ。
喜ぶお姉ちゃんの顔を見て、女の子も笑顔に。
カーテンのあいた窓からはおしゃれな塔が見えていて、朝であるのに流れ星が横切っていった。
女の子はとっさにおじさんのことを思い出して。
おねえちゃん、空からきたお星さんがくれたのかも・・って。女の子は言ってみたんだ。
すると、お姉ちゃんも窓のむこうを見ながら、
お星さ~ん、ありがとうって言ったんだ。
不思議な出来事だけれど、女の子の普段の一日。
こんなこともあるんだねって、お姉ちゃんの言葉に、よかったねって女の子。
その笑顔はいつも通りの明るい顔。
なぜなら女の子は魔法を信じていたからさ。自分にしあわせを持ってきてくれる人がかならずあらわれるって信じて疑わなかったからなのさ。


素敵な馬車にゆられて

2013-01-05 | une nouvelle
人は悲しみの中でも明るさを求めていくことができるのです。
そう、どんな暗闇も太陽の日ざしがさしこんで、そこからなにかが生まれるように・・。

雪深い街を歩くひとりの女性。コートの襟をたてて、足もとに目をおとしたまま。
やがて、長い夜がやってきて、街灯の明かりが彼女を照らすのです。
すっかり人どおりもなくなった路地で。
雪の降らない星空の夜。ひたむきに歩く彼女に近づいていくのは、空からやってきた不思議な旅人でした。
"世の中の出来事はすべて絵空事。
こうして僕らの旅が続くのもそれを知らせていくためのものさ。"
白馬の馬車がゆっくりと路地に止まり、彼女の前にあらわれたのは、不思議ないでたちの紳士。
シルクハットを丁寧におろし、礼をすると紳士は、
"あなたのような気持ちを持ってこの世に生きていくのは並大抵のことではありますまい。
あ失礼、挨拶が遅れましたな。
わたしはあやしい者ではありません。こうして馬車に乗って世界中を旅している者です。
そして、"
かたくなな瞳で彼女は紳士を見ています。
"では、これをお見せしましょう。"
そう言って、胸のポケットから取り出したのは一枚の白いハンカチ。
それを彼女の前ではらりと振ると、たくさんのバラの花束がでてきたのです。
"マジシャンではありませんが、どうぞお受け取り下さいな。"
すこし表情のゆるんだ彼女に紳士は、
"ご自宅に帰る途中でしょう。どうかこの馬車に乗ってつかのまの空の旅をいたしましょう。"
"でも、わたしは・・。"
"あなたをむかえに今夜はここにきたのです。あなたのような心の人に明るみを知らせるために・・。"
そして、紳士は彼女の手をとり、馬車に乗せて、
"これからの旅は楽しいこと請け合いです。
きっと、世界の見方が変わりますよ。"
あたたかい灯がともる馬車の中はとても居心地がよく、彼女の体からしだいに力が抜けていきます。
"これを引く馬はちょっと不思議な馬でしてね。ほら、窓からの景色をご覧下さいな。"
窓のむこうには住み慣れた街のあかりが星々のように広がっていて、まるで飛行機の中にいるようで。
"これからはどこへ向かおうと言うのです。"
"わたしの住むお城です。今夜は舞踏会が開かれているので・・。"
"舞踏会?"
"そうです。あなたのための舞踏会。たくさんの来賓が来られていますよ。"
不思議なことで目をくりくりさせている女性。
"わたしは、そんな舞踏会なの出たことがありませんし、誰か人間違いなのでは・・?"
"そうですか・・。"
紳士は残念そうな顔つきでしたが、次の瞬間指をパチリとならして、
"そんなことはないのですよ。ほら、その胸の美しい輝きをご覧なさい。"
女性が自分の胸の辺りを見ると、ちょど心臓のあたりにひときわ輝く白い光があったのです。
"それは、あなたの持っているなによりも大切な輝きです。
世界でもっとも貴重で美しい輝き。わたしがそれを間違えることはないのです。"
彼女はお城につまでたくさんのことを話しました。これまでの思い出や悲しいこと。今の生活のことなど。
すると、紳士は聞いた後にかならず心あたたまる言葉を返してくれるのです。
そして、
"日々の中で失ってはならないものがいくつかあります。
その中でももっとも大切なものは明日への希望です。"
"それでも心折れることはあります。"
"ですが、あなたはもう知っているじゃありませんか。このような馬車が世界に存在することを・・。
それで十分なのでは・・。"
彼女は窓のむこうに目をやりながら、
"そうですねぇ。何だか今までとは違った感じがありますわ。"
"そう言っていただいてわたしも来た甲斐があったというものです。"
"これからのお城や舞踏会。なんだか楽しい想像が膨らみますわ。"
紳士も笑みを浮かべて、
"その笑顔があなたには一番お似合いですよ。
そう、美しいお城にきらびやかな催し。きっと心に残る思い出のひとつとなるでしょう。
ですが、忘れてはいけませんよ。このような出会いや出来事が日常の中にもかくれていることを。
そして、そんな素敵な出来事を繰り返していくうちにしあわせはあなたの胸にやってくるのです。
そう、それを知らせに今夜のわたしがあると言っても過言ではありません。"
"今夜はわたしにとって特別な夜になるのですね。"
"そうです。世界の違う一面をはっきり知った夜。
人生の大切な一夜が今夜なのかもしれませんね。"
笑顔で、うきうきした彼女の心はまるで少女の頃の気持ちがよみがえったかのよう。
"ほら、もうすぐわたしのお城です。
素敵な夜を楽しみましょう。はやく帰ることはないのですよ。"
紳士はウインクしながら、
"これはかぼちゃの馬車ではないのですからね。"

世界にひとつだけのしあわせ

2013-01-03 | une nouvelle
しあわせを奏でるメリーゴーランドがあるという。
みんなが足をむける街中にできた素敵なメリーゴーランド。
どこかのお金持ちが寄贈したんだとさ。
すこしでも笑顔があふれるようにって、アジな考えの人がね。
入口の切符切りは白いおヒゲのおじいさん。
"いらっしゃい~。みんなが忘れかけたしあわせがここにあるよ~。"
乗る人誰にでも笑顔で話しかけてくれるんだ。
"だれもが笑顔になって素敵な気分をとり戻せる場所さ。
悲しいことがあっても白馬に乗ったらすっかりチャラになる。
すばらしい音楽が教えてくれるのさ。ほら、しあわせはここにあるんだよって。
楽しいひとときの幕開けだ。今日は特別安くしとくから。"
"ねぇ、わたしも乗せて下さらない?"
あらわれたのは街一番のご令嬢さん。
"これはこれは、夢の国へようこそ。
たっぷり楽しんでいって下さいまし。"
"ひとつ聞きたいことがあるのよ。"
"何でございましょう?"
"しあわせしあわせって実は何かしら?"
おじいさんは令嬢の方をむいて、にこりと笑い、
"お嬢さま、とてもすばらしいものでございますよ。だれもがあこがれ求めるもの。
どんな宝石よりも大切で美しく素敵なものです。
それぞれしあわせのカタチは違いますが・・、
どうかこのメリーゴーランドに乗って探してみて下さいな。
世界にひとつしかない自分だけのしあわせをね。"