飛耳長目 「一灯照隅」「行雲流水」「万里一空」「雲外蒼天」

「一隅を照らすもので 私はありたい」
「雲が行くが如く、水が流れる如く」

ただ、マイヨジョーヌのためでなく 4

2024年02月26日 14時18分20秒 | 自転車
僕は写真に撮っておきたかったんだ。
良くなっても病気だった時の事を決して忘れないようにね。
闘わなきゃだめだ。


僕はウルフに自分の感じている事を話した。
彼は「あなたはこのタイプの病気にかかることを、運命付けられていたのだと思いますよ。」といった。
「一つには、きっとあなたがそれを克服することができるから。
 もう一つは、あなたの人間としての可能性は、ただの自転車選手でいるよりはもっと大きいものだからです。」


病気だった時、僕は自分に言い聞かせた。
二度と悪態はつくまい。
二度と酒は飲むまい。
二度と短期は起こすまい。
人から是非とも会いたいと思われるような、素晴らしい人物になろう。
しかし、人生は切れ目なく続いている。
物事は失せる。
そのうちに酒も飲めば、悪態もつくようになる。


どうやって再び、日常生活の世界に戻るのか。
ガン以後、それは僕にとって大きな問題だった。
そして古くからの格言「一日1日を最後の日だと思って過ごしなさい。」
という言葉は、何の役にも立たなかった。
言いたいことはわかるが、実際にはそうは行かない。
もし、「今」しか生きられないのだったら、僕は愛想はいいけど無責任はいつも無精髭を生やしているような、だらしない男になっていただろう。


棄権しようと決めたのは、体調とは何の関係もなかった。
体は元気だった。
ただあそこにいたくなかったのだ。
僕はあんな寒さと苦痛の中を自転車で走ることが、果たして残された人生で自分がしたいことなのかどうか、わからなかった。


登り続けていく間に、僕には自分の人生の全体が見えた。
僕のこれまでの生き様と僕に与えられて賜物、そしてその目的も。
それは単純なことだった。
「僕の人生は長く辛い上り坂を上るためにある」



僕はこの山でも残りの日々を、美しく静かで気高さに満ちた山々に対する、崇敬にも似た感情を抱いて過ごした。
自転車に乗ることは過酷で単調だったが、自転車への純粋な愛を感じ、ついにはブーンは僕にとっての聖地のような気がしてきた。
僕はここに巡礼の旅をしにきたのだ。
僕がまた再び深刻な問題を抱えた時には、ブーンに戻れば答えが見つかるだろう。
僕はここで自転車に乗ることにより、僕に人生を取り戻したのだ。


Saitani
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