作:井上ひさし
演出:蜷川幸雄
出演:安部寛、栗山千明、北村有起哉、横山めぐみ他
シアターコクーン
映画に引き続いて、なんか阿部ちゃんづいてる。メンズノンノのモデルだった阿部ちゃんも今や立派な俳優さん、TV、映画にとどまらず、こうやって舞台でも活躍だ。「天保12年のシェイクスピア」以来、勢力的にタッグを組んでいる、蜷川氏と井上氏だが、何か、意気投合しちゃったのみたいだ。井上さんとやるときは蜷川さん、楽しそうだもの。この作品も3時間を超える上演時間にかかわらず、10分に一度は笑えて、退屈しない。もちろん、寝る心配もなく、肩もこらない。
曹洞宗開祖、道元の半世紀が、夢の中で現代とリンクしながら劇中劇として語られる。いのうえ氏の言葉遊びは芸術的で、笑わせながらも時に核心を突く。あ~じゃないこ~じゃないという禅問答だってものは考えようだって思えてくる。その証拠に現代における道元は婦女暴行、座り込み団の団長としてつかまり、精神鑑定を受けているのだ。
お互いどちらが本当の夢なのか、ほっぺたのつねりあいで決着をつけているところに鉄格子が降りてくるラストシーンに意表を突かれる。背景のTV画面からは、あふれ出る情報。でもいったい何が真実なのかわからない。鉄格子を隔てた客席と舞台もどちらが塀の中なのやら…。強烈な風刺を感じたよ。だからこそ、心眼を持って世の中を、そして自身を見よと。でもさ情報に流されやすい今の世の中、自分を見失いがちだよね。
「身毒丸~復活~」のとき、蜷川さんが、かつてのこの演出がはたして今の自分に出来るだろうかと悩んでホテルにこもったというエピソードがあった。闘い続ける巨匠、息をもつかせぬテンポがいい展開が爽快だった。襖に歌いながら文字を書いたり、はたまたスローモーションの卓球があったり、大海原に星が輝いたり、中世日本と宋の国をまたにかけたスケールの大きさもあったし、照明も出色だった。
この作品、「ロマンス」と同様、役者がひとり何役もこなしているところも見どころ。阿部ちゃんも声色をかえたり、囚人になったりと健闘していた。半世紀の劇中劇場面ではほとんど、舞台そでにすわっているだけなんだけど、画体がデカイからとっても存在感があるんだよね。途中、お茶目な場面も万歳で、ナイスキャスティングだった。 でも、群を抜いてすごいのはやっぱり木場隊長ですよ。白石加代子さん、蹉川哲朗さん、平幹二郎さんに匹敵するね。声もいいし動きも軽快。木場さんの前では若手がかすんでしまうほど。いのうえ作品にはかかせない役者さんだ。
さて、来年の「ムサシ」も井上作品でそれも新作だ。藤原、小栗、鈴木と今をときめく若手をどう使って何を描くのか、日々、緻密に綿密に考えていそうだ。朝日新聞夕刊に早々と記事が出ている。
井上先生、話題性に負けずに使いこなして下さいよ、このメンツ。記事の中で、竜也くんは「最近、演技に確信が持てずに悩んでいる」とトレープレフさながらの発言をしている。一方、「竜也と心中する覚悟」の小栗君は竜也くんを「面倒くさいほど考え込む」と言っている。これなかなか意味深だ。やっぱり竜也くんはこだわり人間なんだ。どうでもいいようなこともさらっと流せない。だから、回りの人間は、時についていけなかったりひいたりするのかもしれないね。天才肌に見えて、案外、職人気質なところもありそうだ。でも、こだわりを持ち続けることってとっても大事だよね。それだけ物事が深くなる。これが藤原竜也の真骨頂って気がする。小栗くん、杏ちゃんと共に、お互い良い刺激を受け合ってこの舞台を成功させてほしいね。