映画好きな友達に「カメレオン」をお誘いしたら、彼女もちょうど観たい映画あるというので、そちらにも便乗させてもらうことにした。その映画とは、阿部寛が主演で、是枝裕和監督の「歩いても歩いても」だった。私の中にある是枝監督の予備知識は、カンヌ映画祭、柳楽優弥しかない。どんな映画を撮る人だろうと思ったら、これがとっても素朴で心に響く作品だった。カメレオンと同じく、果てしなく昭和のにおいがする。タイトルも何気にいしだあゆみさんの「ブルーライトヨコハマ」からとったらしい。小学生のころ、良く歌ったもんだ。♪歩いても~歩いても~小舟のように私は揺れて揺れてあなたの胸のな~か~♪って。時々、母親に「そんなん、歌うの辞めなさい」って言われたっけね。是枝監督も阪本監督と同様、ほぼ同世代だ。なんで、この世代、昭和を懐かしむんだ?ちょっと、不思議な感じがするけど思い起こせば私もあの頃が懐かしい。
年老いた親と主人公のごく日常的な交流の中でそれぞれの人生が浮き彫りになる。お互い相容れていそうで決して交わることがない想い。まさに親を送る年代になった私にはタイムリーだった。きっといなくなってから気づくものってあるんだろうな。人間、そういうもんだよなあって思った。近い将来、確実に私にもこういう時がやってくる。
“黄色いちょうちょって、冬に死ななかったモンシロチョウが春になると黄色くなるんだって” 母親が言った言葉を同じように、子どもたちに語る主人公。何かが伝わっていくってこういうもんなんだろうね。意識しなくても心の奥底に残っていたものが、ぽっと湧き出てくる。
個人的には老夫婦を演じる、樹木希林さんと原田芳雄さんが印象に残った。ハードボイルドな原田さんがこんなおじいちゃん役をやる歳になったのかと妙に感慨深かった。優作さん亡くなった時、号泣してたよね、原田さん。そして、希林さんこそがこの映画の主役だ。白石加代子さんが真の舞台女優なら希林さんは真の映画女優だ。料理にしても、レース編みにしても、どこにでもいそうな年配女性の雰囲気が自然にただよっている。でもそれはとても繊細な演技の積み重ねで奥が深い。たくさんの引出しを持っているからこそあふれ出てくるものなのだ。きれいなだけじゃ、女優にはなれない。その人の人生経験や努力がにじみでてくるからこそ人の胸を打つ。
上映している新宿武蔵野館も映画に見合ってこじんまりとして素朴な映画館だった。でもどの回も満席で、どちらかというと老夫婦世代が多かった。冷房がガンガンに効いていてお年寄りの方たちは大丈夫なのかって心配になったけど、更年期世代の私の方がぶるぶるだった。ひざかけを借りておいてよかったわ~。