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長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

わかるのに4年かかりました ~小説『ゴジラ シンギュラポイント』いまさら感想~

2025年07月12日 23時03分43秒 | 特撮あたり
 え~、どもどもこんばんは、そうだいでございます。毎日毎日、あっちぃっすね……
 もういい加減、私の住む東北地方南部も梅雨明けしていいでしょっつうか、もう明けてんじゃなかろうかという疑惑も濃厚なのですが、夏が始まったとしか思えない猛暑がすでに始まっております。日差しが実にキツイ!

 「夏」と言えば、辻村深月先生原作の映画『この夏の星を見る』(監督・山元環)が今月の4日からついに公開……されてるはずなのですが、なんと私の住む山形県では公開予定日が1ヶ月後の8月16日からということになっとりまして……もう夏も後半じゃねぇかァ!
 しかも、私の経験では県庁所在地の山形市(映画館は3館)で公開されてなくても、お隣の天童市のイオンシネマではやってるというフォローがあったのですが、今回は私の家から100km くらい遠くにある鶴岡市の映画館でしかやる予定がないというていたらく。なんじゃ、このひどい扱いは!? ダメだずねぇ~!
 まぁ、しょうがないので来月のお盆明けに1泊で温泉かどっかに泊まりつつ映画を観るというステキな旅行の口実にさせていただきました。やったぜ~。今年のお盆はあんまり休めなさそうな気配がしてるんで、ちょうどよかったっすよ。鶴岡市の「まちなかキネマ」っていう映画館も、いつか行きたいと思ってたんで好都合!
 映画そのものを観るのはしばらくお預けなのですが、楽しみにしつつ7月を乗り切っていこうと思うとります。ま、暑い暑い言ってるうちにあっという間に8月も過ぎるでしょ。


 そんでもって今回は、そういった2025年のつれづれとはまっっっったく関係のない『ゴジラ シンギュラポイント』の小説版を最近やっと読み終わったよ、という話のまとめでございます。予想通り、前回は設定資料とおまけを並べるだけで終わっちゃったし……ちゃっちゃといこう!

 2021年の春から夏にかけて TVアニメシリーズとして放送されていた『ゴジラ シンギュラポイント』でしたが、「シリーズ構成・円城塔」という大看板にたがわず、その内容はなんとあの、「昭和ゴジラシリーズ最大の鬼子」ともいえる「正義の巨大ロボット・ジェットジャガー」を科学的に説明のつく存在に仕立て上げて、さらにはゴジラによる世界崩壊を止める最期の希望にするという、とんでもないチャレンジに挑む大野心作だったのです!
 いや~、これには放送当時の私も、毎週毎週固唾をのんで見守っておりました。まさか、よりによってゴジラシリーズの中でも最も触れ方の難しい「禁忌きっず」ジェットジャガーを真正面からフィーチャーするとは……その心意気や、最高なり!

 リアルタイムで視聴していた頃は、正直言ってお話について行くのが精いっぱいで、紅塵とかオーソゴナル・ダイアゴナライザーとか謎のインド民謡『 ALAPU UPALA』とかの聞きなれない要素に翻弄されまくりだったのですが、実はそういったディープな SF&ミステリー的な流れとバランスを取るかのように、往年のゴジラシリーズのスター怪獣のゲスト出演も散りばめられていて、少なくとも定石ハズしばっかりで終わってしまった感のあるアニメ映画版『ゴジラ』3部作とは比較にならない満足度がありました。さすがに、私が最も愛する三つ首のあのお方までは出られませんでしたが(小説版では……?)、メカゴジラを出すようで全く出さなかったアニゴジへの当てつけのように、最終話の最後の最後で起動メンテ中のロボゴジラを見せたサービス精神は素晴らしかったと思います。エンディングアニメもお遊び感いっぱいでしたよね!

 正直申しまして、このシンギュラポイント版のゴジラのデザインは非常に個性の際立ったもので、私も今もって「好き」とは言えないクチなのですが、それはもうムッキムキの外国人力士にしか見えないアニゴジ版やハリウッド版のゴジラも同じことなので(異様に小顔なマイゴジも好きじゃないです)、そこはもう何も申しますまい。それ以外の幼体ゴジラたちとかアンギラスとかのリデザインは素晴らしかったですよね。ムビモンのソフビ、ゴジラ・ウルティマとサルンガ以外は全部買いましたよ~。マンダはちょっと深海魚っぽくなって気持ち悪かったけど。ラドンはなんか平成以降のギャオスみたいなポジションになってましたね……数はいいから、強いのを1頭ドンっと出してほしかった! ちっちゃいのがひと山いくらっていう出演の仕方って、やらされたラドンさんやギャオスさんはどんな気分なんですかね……ラドンさんなんて、来年で芸歴70年なんだぜ。

 とにもかくにも、本作は物語の芯の部分を、あの日本を代表する前衛 SF小説家の円城塔さんが手がけているということで、ちょっとするとインターネット上の AIが意志を持ち始める過程や、日本の房総半島と東京を舞台にした怪獣災害と、そこから遥か遠く離れたインドの地下秘密基地での動向が同時進行で語られる多角的視点、そして何よりも主人公のメイとユンの2人が全く直接には出逢わずにネット上で連絡を取りながら各自で解決策を模索していくという徹底したリモート展開がかなり複雑に交錯しているので、放送しているエピソードを1回でも、いや、1分でも見逃すとついていけなくなる可能性のある、TVシリーズとしては非常にハードルの高いクオリティの作品、それこそが、この『ゴジラ シンギュラポイント』だったのです。今振り返っても、よく最終回までやりきって完結させたな、というギリギリな構成だったと思います。
 これはやっぱり、一見かなり面食らいがちな円城塔先生の世界観を、ゴジラをはじめとした非常に認知度の高い東宝怪獣たちのリニューアル復活や、加藤和恵さんと石野聡さんによるかなり見やすいポップなキャラクターデザインで、用意周到に何重にもくるんで娯楽作品に仕上げたという作戦が成功したのではないでしょうか。まさにこの作品は、円城塔ワールドの骨格と東宝ゴジラシリーズの血肉、そのどちらが欠けても面白くならない理想的なコラボレーションだったのです。なんと言っても、まず骨組みに円城塔を招聘するというギャンブラーな姿勢が最高ですよね! 安易なお祭り作品にはしないぞという。

 作品の内容について考えてみますと、本作は、物語のパターンでいえば典型的な「歴代怪獣総登場もの」と言えると思います。

 1954年の初代『ゴジラ』いらい70年以上続いているゴジラシリーズ、というか日本の特撮作品の歴史なのですが、非常にざっくりと内容で分類しますと、以下の5種類に分けることができるのではないでしょうか。もちろん、2つ以上の分類がミックスされている作品もいっぱいあるので、人によっては違う解釈になる作品もあるのでしょうが、わかりやすい作品を例に挙げますと、


A、単体怪獣の災害もの …… 『ゴジラ』(1954年)、『ゴジラ』(1984年)、『シン・ゴジラ』(2016年)、『ゴジラ -1.0』(2023年)など

B、2大怪獣の対決もの …… 『ゴジラの逆襲』(1955年)、『キングコング対ゴジラ』(1962年)、『ゴジラ VS キングギドラ』(1991年)、『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年)など

C、地球怪獣 VS 侵略者もの …… 『怪獣大戦争』(1965年)、『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(1972年)、『大怪獣総攻撃』(2001年)、『キング・オブ・モンスターズ』(2019年)など

D、歴代怪獣総登場もの …… 『怪獣総進撃』(1968年)、『ゴジラ ファイナルウォーズ』(2004年)、小説『ゴジラ 怪獣黙示録』(2017年)、『ゴジラ シンギュラポイント』(2021年)など

E、主人公の成長ファンタジーもの …… 『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967年)、『オール怪獣大進撃』(1969年)、『小さき勇者たち ガメラ』(2006年)など


 どうですか? これに沿って好きな特撮作品を考えてみると面白いですよね? 意外と数種類のハイブリッドになってる作品がほとんどですが。

 今回の『シンギュラポイント』も、私は Dタイプだと言いましたが、よくよく考えてみると主人公チームおよびジェットジャガーの成長物語ということでE ともとれるし、他の怪獣たちに比べて明らかにゴジラだけが別格に恐ろしい脅威になっているので、ゴジラ一強という意味ではA ともいえるわけなんですよね。最終話でのゴジラ VS ジェットジャガーの決戦の構図はB の醍醐味だし……結局ほぼ全部じゃねぇかァ!!

 まぁまぁ、かくのごとく、この『ゴジラ シンギュラポイント』という作品は、おなじみの東宝スター怪獣たちが新たなスタイルでアップデートされるお祭りタイトルでありながらも、様々な面で前代未聞な挑戦をしている、ものすごい野心作なのでございます。まずジェットジャガーをゴジラの相手にしているという時点でとんでもないことですし! これ、言うまでもなく『フェス・ゴジラ4 オペレーション・ジェットジャガー』(2023年)の前の作品ですからね。

 本作が、ただの歴代怪獣総登場ものの更新にとどまらないことは、作中で明に暗に示されたさまざまな設定を見てもあきらかなのですが、パッと思い出せるものを挙げるだけでも、

1、出現する怪獣たちに明らかなフェイズと棲み分けが存在する。
2、ゴジラが成長に合わせて形態変化する。
3、怪獣たちが常識外なスピードで巨大化する理屈が「紅塵」で説明される(そしてジェットジャガーも!)。
4、怪獣たちの出現で世界の秩序が崩壊する過程が克明に描かれている。
5、「1954年に回収された巨大生物の骨」という謎が通底している。

 というおもしろ要素があるのです。お話が特撮でもあり SFでもあり、ミステリーでもあるんですよね。
 これらの一つ一つを見てみると、全てが過去のゴジラシリーズ作品へのオマージュだったり、あまり詳細に触れられなかったモヤっとした部分にあえてスポットライトを当てるような、過去に残された宿題への回答だったりしていることがよくわかります。単に円城塔先生がゴジラシリーズという食材の調理に挑みましたという話じゃなくて、先生、そうとう前から食材がどの土地でどう生まれ、どう育ち実ったのかを綿密に調べ上げた上でキッチンに立ってるなという気迫がひしひしと伝わってくる陣容になっているんですね。ただ仕事を受けたから、自分のやりたいようにやってるんじゃねぇんだぞと!

 上のポイントの2、は明らかに『シン・ゴジラ』でのゴジラの「蒲田くん」や「品川くん」形態を意識した設定であると思われるのですが、それだけに留まらず、「水生(魚類)」→「半陸生(両生類)」→「陸生(爬虫類)」→「完全ゴジラ」というふうに、地球上の生物の進化過程を超高速で追ったものになっているのが興味深いですね。鳥類はラドン、節足動物はクモンガに任せてんのかな……本来は陸海空オールオッケーな究極怪獣だったはずのバラダギ様が、なんかカエルみたいなぺたぺた四足歩行をしていたのはおいたわしくもありましたが、まぁこういう作品にゲスト出演できただけでも儲けものでしたよね。本来は護国聖獣にもなるはずだったのに……

 ポイントの4、に関しては、これはもう「そこを映画でやれや」という全特撮ファンからの総ツッコミを受けていた、アニゴジの前日譚的小説『怪獣黙示録』(2017年)をあらためてちゃんと映像化したという、ファンの留飲を大いに下げる粋なはからいだったと思います。当然ながら、『怪獣黙示録』のほうは「人類がゴジラによって地球から追い出される」という最悪の結果を招いてしまったわけなのですが、メイやユン、そしてジェットジャガーの大活躍によって、そこまでいかずにおよそ2ヶ月間ほどの世界的大混乱で済んだのは、非常に幸運だったと思います。ほんと、本作のゴジラ・ウルティマもほっといたらアニゴジのゴジラ・アースみたいになってたんでしょうね……そういえば、本作の最終話でサプライズ出演していたロボゴジラも、その昭和メカゴジラを彷彿とさせる正統派的なデザインからして、アニゴジが不必要に生んでしまったメカゴジラファンの方々の怨念に配慮したサービスだったのではないでしょうか。メカゴジラを怪獣型でなくするという発想自体はぶっ飛んでて好きなんですけど、ね……

 ポイント1、もけっこう面白い設定なんですよね。これは、『怪獣総進撃』やハリウッド版ゴジラのモンスター・ヴァースの世界観を大いに意識したアイデアなのではないでしょうか。
 ここは小説版でかなり明確に強調されている部分なのですが、本作に出現する怪獣たちは、全てがゆるやかな「連携」をとって地球に進出しているという特徴があります。要するに、それまでの過去の同じ分類の諸作は、たまたま同じ時期に全く性質も出現した理由も違う怪獣が世界各地に並び立って(中には X星人のような侵略者の意志で動いているものも混じっていますが)、会ったらなんとなく縄張り争い的なノリで闘うといった設定どまりにしていたように見えていました。ところがこの『シンギュラポイント』に登場する怪獣たちは、まるで全員が「紅塵」という全く新たなエネルギー体の先兵もしくは触手であるかのように、地球の陸海空にそれまであった古いエネルギー(生き物)を破壊するという同じ目的で動いているように見えるのです。そして、そこを小説版はさらに明確にし、「怪獣たちが会話しないまでも、意志のレベルで通じ合いながら各自で成長・活動している」とみられる描写も明らかにしているのでした。これは要するに、あの怪獣たちが『エヴァンゲリオン』シリーズ(旧もシンも)における使徒のような関係にある、ということなのではないでしょうか。新しいですね!

 とは言いましても、作中でもマンダとゴジラ・アクアティリス、ラドンとゴジラ・ウルティマあたりが闘っている描写もあったにはあったのですが、これはどっちかというと「喰うものと喰われるもの」の関係がはっきりした、肉食動物と草食動物のからみのような絶対的な論理(ゴジラが勝つに決まってる)の上で行われている日常の風景のようなもので、『キング・オブ・モンスターズ』のラドンのように「あわよくばオレが怪獣王に!」などという面白すぎる個性があるものでないことは明白でしょう。
 つまり、そういった小競り合いはあったとしても、怪獣たちが構成する「新たなる生態系」自体が一つの脅威となって旧世界を侵略しているという状況に変わりはないわけで、「勝った方が我々の敵です」じゃなくて、「闘っている場そのもの」が地球の敵なのです。よそでやっとくれ!!

 そして3、と5、のポイントに関してなのですが、東宝特撮映画の世界ではもはや問答無用の常識となっている「身長50m 以上の巨大生物がいきなり海の中や地面の下から出現して暴れ回る」という現象が、この地球上という条件下でどこまで「科学的に」説明できるのか。ここをリアルに追求するために必要だったのが「紅塵」という SF要素であり、その一方で、「開発者もそんな機能を搭載した覚えがないのに身長1.8m から50m に瞬時に巨大化して怪獣たちと闘う正義のロボット」という、理屈もへったくれもない渾沌ロボット・ジェットジャガーの「科学的説明」に真正面から挑戦したのが、自律型 AI「ペロ2」と「ユング」が合体することによって現出した究極の特異点「シンギュラポイント」だったわけなのです。
 とにかく、ポイント3、で強く伝わってくるのは、円城塔先生の「なんとなく、でかい怪獣が出てきて暴れる」という特撮界の理屈にならない「聖域」の存在を頑として許さない執念であると思います。シロナガスクジラよりも巨大な生物が、何の進化体系も経ていないのに、その巨体を陸上の重力にも耐えうるようにするための大量のエサの担保も得ていないのに、いきなりぬっと出てきて歩き回る……それも、形状も生態も全然ちがうやつらが何頭も、ほぼ同時に!

 こんなこと、科学的にあり得るはずがない……だったら、どうしたら科学的に説明できるか、考えてみよう!!

 ここよ! この、否定を否定で終わらせずに、どうやったら肯定できるのかを追究するという心意気ね! この漢気に惚れた!! この思考実験は、まさしく円城塔先生のような天才のみに許される「神のたはむれ」ですよね。

 比較するのも円城塔先生に対して失礼なのですが、これはいわゆる「昭和特撮ドラマのヘンなところ」をくさし、嗤ってバカにしていた『スーパージョッキー』くらいに端を発する平成の時代よりも、それこそ13フェイズくらい上の高みに飛翔した領域だと思います。予算の都合とか脚本制作の納期とか、そりゃもういろんなキッツい制約の中で、昭和の先人たちは綺羅星の如き珠玉の作品群を毎日毎週毎年のように汗水たらして創造してくれていたわけなんですよ。
 それをなんですか、「ゴジラはそんな体重じゃ絶対歩けない」とか、「ゼットンが火球を吐いたら地球どころか宇宙が崩壊する」とか、「ウルトラマンが空を飛んだら一瞬で身体がバラバラになる」とか、たかだか20世紀末程度の科学知識を持ちだしてダメだししまくりやがって……いや、私だって子どもの頃に柳田理科雄先生の本、めっちゃ夢中になって読んでましたけどね。

 まぁともかく、円城塔先生の『ゴジラ シンギュラポイント』の世界は、今まで「よくわかんないけど、あって当たり前のもの」というボンヤリした焦点の当て方にとどまり続けていた「怪獣」の存在を思いッきり白日の下に引きずり出してリアルなものにしてみる、という試みの場であったわけなのです。この知的冒険のたのしさよ!
 本作では、現実には存在しない未知の物質「紅塵」を用いてもろもろの怪獣問題を説明していたわけなのですが、地球の中で生まれたこの物質を中心にすえて物語を進めていた以上、そんな円城塔先生が、もしも地球の理屈を超越した「宇宙怪獣」を描くとしたら、どうなるのか!? そんな期待感もわいてきちゃいますよね。ヘンな形の魚どまりじゃなくて、先生が本意気で暴れ回らせるおギドラさまも、是非っとも読んでみたいナ~!!

 さてさて、そんな感じで物語の「はじまり」の原動力として円城塔先生がもちいたポイント3、だったわけなのですが、その一方で広がりに広がったこの世界観を回収し終結させる「おわり」の力こそが、残るポイント5、であったわけなのです。

 これはもう、詳しくはアニメ版と小説版を楽しんで、その「謎の骨」の正体を知っていただくに如くはないわけなのですが、ここで考えなければいけない問題こそが、本作『ゴジラ シンギュラポイント』が、「ゴジラと核兵器」の関係を全く描いていない珍しい作品である、ということなのです。

 そうなんです、本作では、ゴジラがあの身長50m 以上という巨体を保ち、口からとてつもない破壊力の光線を吐く理屈に関して、「核や放射能の影響で、古代生物の体質が大きく変異してそうなった」という説明が一切なされていないのです。ただし、本作の世界観で核に関する描写が全く無いのかというとそうでもなく、最初に出現した怪獣ラドンの体内に放射性物質が残留していたり、世界的な怪獣出現現象に混乱した大国が、核兵器で怪獣を駆除しようと画策したりと(結局未遂に終わる)いう言及もあるにはあるのですが、ともかく本作においてゴジラがゴジラであることに、核や放射能はまるで関係が無いのです。
 ゴジラと核の関係に関しては、1940年代以降の「現代科学の暴走による核兵器の開発競争の影響で生まれた怪獣ゴジラ」という構図は、実はすでにハリウッドのモンスター・ヴァース版(2014年~)のゴジラや、日本のアニゴジ三部作(2017~18年)のゴジラの時点で取り払われているのですが、それでもそれ以外の理由でゴジラが体内に大量の放射能を保有しているという性質は残されていました。人類の科学とは関係のない大自然の摂理で「地球由来」の放射能を身にまとっている、といった背景ですね。

 放射能と関係のないゴジラ。ちょっと、1954年の映画第1作の内容を思い出すだに、その発想はさすがにないんじゃないかと苦言を呈したくなる『シンギュラポイント』版のゴジラであるわけなのですが、これには円城塔先生らしい、ちゃんとした理由があるのではないかと思うのです。

 それは、1954年版『ゴジラ』が濃厚に語る「被害者ゴジラの物語」と、『シンギュラポイント』が表裏一体の存在であるために、それ以外の第2作以降で何度も使用され常態化していた「怪獣が強く巨大である理由としての核」を徹底的に排除する姿勢のあらわれだったのではないでしょうか。

 1980年代生まれの私なんかは、それこそ『VS ゴジラ』シリーズを産湯にして育ったような世代なので特に強く感じるのですが、1954年の『ゴジラ』以外の特撮作品の世界における核や放射能というものは、それが本当にシャレにならない悲劇性を秘めたものであるがゆえに、その恐怖を直接描くことはせずに、「なんだかわかんないけど怪獣を強大化させる理由の説明」で使われることが多かったのではないでしょうか。特に『ゴジラ VS キングギドラ』(1991年)におけるゴジラの「身長100m 化」の経緯などでの核の扱いなどはその最たるもので、1954年版『ゴジラ』の直接的な続編を標榜していた『ゴジラ VS デストロイア』(1995年)でさえ、ラストのあの有名な「オチ」では、放射能が非常にご都合主義的に物語を一件落着(?)させるための道具としてしか扱われていなかったではないですか。ま、あれはあれでフィクションなのですからいいのですが……

 核や放射能が怪獣を強化させるという理屈は、ゴジラシリーズだけでなく、特撮作品で反核を強く訴える代表例と言えばこれ、とすぐにその名が挙がる、『ウルトラセブン』第26話『超兵器 R1号』(1968年3月放送)でも、人類の科学力では殺すことのできない不死の怪獣「ギエロン星獣」が誕生するために利用されていました。有名なダン隊員のセリフ「血を吐きながら続ける、悲しいマラソン」に象徴されるように反核・反軍拡のメッセージ性の強烈なこのエピソードでさえ、「怪獣を思いきり強くするパワー源」と曲解できなくもない道具として核兵器が扱われていたのです。

 こういった、エンタテインメント作品である以上仕方がないとはいえ、そこらへんの「核と放射能」に関する特撮業界のなぁなぁ解釈がなかば伝統化していた状況もまた、円城塔先生は決して許せなかったのではないでしょうか。その結果として、怪獣、特にゴジラに核の匂いをまとわせないという決断に出たのでしょう。怪獣を巨大化、出現させる理由に核や放射能は一切使わないと。

 つまり、『シンギュラポイント』における核や放射能の意図的な「無視」は、特撮作品の伝統が生まれるべくもなかった1954年の特異点『ゴジラ』で描かれていた、左手もまともに動かせず両目の焦点も合わず、全身ケロイドだらけで尻尾を無様に引きずりながら上陸してきた初代ゴジラの「核実験の被害者」としての姿を真に尊重するがゆえに、そこに全く手を付けないという判断をとった姿勢のあらわれだったと思うのです。
 そして、尊重するがゆえに、その1954年版『ゴジラ』の物語を、『シンギュラポイント』完結のカギに結びつけたと。具体的にどう結びつけたのかは、是非ともアニメか小説をどうぞっつうことで! やっぱり、芹沢大助博士はすげぇんだなぁ!!


 まま、こんな感じで『ゴジラ シンギュラポイント』のものすごさを、今さらながら円城塔先生の小説版を読んで再認識した次第なのでございました。いやぁ、さすがは先生。
 これだけ精密な作品であるだけに、おそらく最終話でにおわされた「続編」が制作される可能性は限りなく低いような気もするのですが……円城塔先生が描く「2頭目のゴジラ」とロボゴジラの対決、観てみたいよねぇ~!! 正直、『ゴジラ -1.0』の続編よりも観てみたい。
 ただ、本作でここまでたくさんの要素を盛り込んじゃった以上、続きをやるとしたらどうしたって「宇宙怪獣」という魔境に手を出さざるを得なくなるだろうし。どうなっちゃうんでしょうかねぇ!? ここらへんのキングギドラ、ガイガンまわりの新解釈って、もうアニゴジの世界でやっちゃってるからなぁ。ハードルが高くなってるぞ~。

 円城塔ワールドの次なる特撮世界、気と首をなが~く3本にして、待ってま~す☆ ぴろぴろぴろ~。
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