長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

ノーラン番長 VS 猫娘!! 闘いの末に立つ者は  映画『ダークナイト ライジング』

2012年08月12日 16時56分09秒 | ふつうじゃない映画
 うぅわおわお~!! どうもこんにちは、そうだいでございます。いやぁ、今日も関東は暑いですねぇ。

 夏まっさかり! 私の近所でも盆踊り、やってましたねぇ~。私も花火大会に行きたいもんなんですが、今年はなんだかんだ言って行かないまんま秋かな~。次の夏は遊ぶ余裕もできたらいいんですけどね~。今年はとにかく忙しいんでい!っと。

 あの~、月をまたいで「明智小五郎特集」をやってるうちに、いろいろありました!! 試験があったり、その結果に一喜一憂したり、そのあと親しい人と語り合ってストレスをぼかーんと発散したりしてねぇ。

 いろいろあったんですけれども! 今回はササッと本題に入ってしまいたいと思います。映画を観たってお話。
 なんてったって、観た映画が映画なんでねェ~。言いたいことがいぃ~っぱいあるんでい!

 まずは、基本的なスタッフ&キャスティング情報をのっけてみましょう。


映画『ダークナイト ライジング』(2012年7月公開 165分)
監督 …… クリストファー=ノーラン(42歳)
原案 …… デヴィッド=S=ゴイヤー(46歳 『バットマン ビギンズ』の脚本、『ダークナイト』の原案も担当)
脚本 …… クリストファー&ジョナサン=ノーラン兄弟(ジョナサンは『ダークナイト』から参加)

いつもの面々
ブルース=ウェイン    …… クリスチャン=ベール(38歳)
執事アルフレッド     …… マイケル=ケイン(79歳)
ゴードン市警本部長    …… ゲイリー=オールドマン(54歳)
ルシアス=フォックス社長 …… モーガン=フリーマン(75歳)

楽しいゲスト陣
巨漢ベイン      …… トム=ハーディ(34歳)
セリーナ=カイル   …… アン=ハサウェイ(29歳)
ミランダ=テイト   …… マリオン=コティヤール(36歳)
ジョン=ブレイク巡査 …… ジョゼフ=ゴードンレヴィット(31歳)

わたしく的に気になったボイズンガール
謎の会社員フィリップ     …… バーン=ゴーマン(37歳)
セリーナのくされ縁親友ジェン …… ジュノー=テンプル(23歳)
やっぱりいるよこの人!!   …… キリアン=マーフィ(36歳)


 いや~……ついに公開されてしまいました。私そうだいが勝手に「硬派で女っ気のかけらもないイギリス番長」と名づけている俊英ノーラン監督の送る、『バットマン ビギンズ』(2005年)『ダークナイト』(2008年)に続く「ノーラン・バットマン3部作」の最終作であります!

 このシリーズの前の、ティム=バートン監督の『バットマン』から始まる「旧4部作」(1989~97年)はぜんぶ映像ソフトでしか観ていない私なのですが、ノーラン3部作はいちおうバットマン好きになってから始まったシリーズでもありましたので、今回で3つとも映画館で観たことになりますね。

 特に前作の『ダークナイト』は! 3回観ました、映画館で。
 別に観た回数が多いから「人生最高の映画」だというわけでもないんですけど、3回観て3回ともおもしろかったですねぇ、『ダークナイト』は。まず、同じシーンでも、必ずどこかに「前に観たときに見落としていた要素」があるということが多かったんです。
 個人的に大好きなキャラクターの「ジョーカー」が登場するということで初回からけっこう気合いを入れて観たつもりだったんですが、それでも1回だけでは取り落としてしまう「おいしいポイント」がいっぱいあったんですね。まぁそれは映像ソフトがリリースされたあとでたっぷり見返せばいいかもしれない話なんですけど、やっぱり大きなスクリーンで観たほうがいいわけですよ! 序盤の銀行強盗、中盤の護送車カーアクション、そして全編にわたるバットマン、ゴッサム市警、ジョーカー組の三つ巴のだましあいは本当に密度が濃くてよかったですねぇ。

 さて、そんな『ダークナイト』をへての、『ダークナイト ライジング』であります。

 最初にちょっと、本題とは関係のない話題から。
 あの~、なんで原題どおりの『ダークナイト ライゼズ』じゃないんでしょうか? 『ライジング』? なにゆえ現在進行形?
 本編を最後までご覧いただいた方なら納得いただけると思うんですが、この映画のタイトルはどうしても『ライゼズ』じゃないといけないんじゃないかと思うんです。『ライジング』だとなんつうか、作中で語られる「バットマンの復活」が予定調和な前提になっちゃうような気がするんだよなぁ。いや、復活してもらわなきゃ困るからそれは確かに用意されているシナリオなんですけども!
 『ライジング』だと、もうバットマンがライズしちゃってんじゃん! 違うんだなぁ、バットマンが落ちきった奈落の底から復活する、その前の段階の「失墜」も含めての「ライゼズ」なんですから。「ライゼズ」の中には、復活できるかどうかもわからずに、それでもその可能性に命を賭けて天を見あげるバットマンの姿も込められているんですよ。そこらへんのカッコ悪さが、「ライジング」には決定的に欠けているんじゃなかろうかと! このニュアンス、わかりますかね?

 ということで、我が『長岡京エイリアン』では、これ以降はタイトルを『ダークナイト ライゼズ』にもどして話を進めていきたいと思います。『ライジング』にしちゃうのって、やっぱり「ライゼズ」だとわかりにくいからっていう日本人の英語力をかんがみた判断なんですかね……どっちもどっちじゃない? だったら最初の『バットマン ビギンズ』も『バットマン ビギニング』にしろって話ですよ! ほ~ら、とたんにB級臭がただよってきちゃった。

 さて、さっそく話の中身に入っていきたいのですが、まずはこの『ダークナイト ライゼズ』、なにはなくともおもしろかったです!!

 とにかく、映画館に行ってチケット代を払って観て、エンドロールが終わって、「いや~、楽しかったなぁ!」と興奮しながら家路につくことはできたわけです。

 ところが!! そこまでなんだなぁ……

 いや、いいんです! ふつうの映画だったら、そこまで保証されてたらもういいの。充分におもしろかったわけなんですから。
 でもさぁ、いかんせん『ダークナイト』の次の作品にして、3部作の最終作だったわけですから、ね……私の「期待値」が勝手に上がってしまっていたことが一番いけないんでしょうけど!

 かいつまんで話しますとこの『ダークナイト ライゼズ』は、もちろん要所要所の重要シーンをちゃんとおもしろく見せてくれる「娯楽作品」であるわけなんですが、そこにいくまでの滑走路となる「それほど力を入れてないシーン」がたまらなく凡庸なんです。

 これはあくまでも私の感じた主観なんですが、『ダークナイト ライゼズ』は、確かに3部作のラストを飾るにふさわしい興奮は味わえた! 味わえたのは確かなんですが、それは全体のうち、序盤の飛行機のスペクタクルと終盤の「バットマンの復活」以降のアクション、そして大いなる「はじまり」の可能性を秘めたラストシーン、これらトータル3~40分ほどの部分だけのことだったんです。それに対して、映画全体のボリュームは「165分」! 3時間ちかくですってよ奥さん! 廃棄率どんだけ~!? ウニかお前は。

 でも、ここは作り手側にも言い分はあると思うんです。
 まず、このお話は『ダークナイト』の「8年後」のゴッサム市が舞台となっていて、前作であのジョーカーが巻き起こした「恐怖のズンドコ節」もすでに過去のものとなっており、ゴッサム市警の努力により街も平和を謳歌し、我らがバットマンも「諸事情により」8年間の沈黙を続けていたのでありました。こういうタルみきった状況の中で、「ゴッサム市を滅ぼし、絶望の中でバットマンを殺す!」という決意を胸に秘めた最強の敵ベインがやってくるというのが、だいたいのストーリーラインです。

 つまり、『ダークナイト』のラストの「決断」により、変身することの動力源のようなものを失ってしまったバットマンつまりブルース=ウェインが闘いに引っぱりだされ、「意志のある力を持った」敵に1度コテンパンにぶちのめされ、そのあとで再び「バットマンになる理由」を見いだして復活するという物語であるわけなのですから、前半の「ダルンダルン感」というか、「バットマンの負けフラグ」のようなものからくるつまらなさは、作り手側による確信犯的犯行になるわけです。

 でもさぁ、それが観ている側にもわかることなのだとしても! 序盤アクションのあと~前半~中盤~終盤のちょっと手前はホンットにつらいんですよ! ありゃりゃ、ほとんど全部じゃないの。

 つまらない原因は、まずはなんといっても「画面の密度の低さ」にあります。
 つまり、画面の中心にいる人がやっている行動しか伝える情報がないんですね。それなのに、その行動自体もそんなにおもしろいわけじゃないの。たとえば『ダークナイト』は登場人物のセリフ以外にも、そのしぐさや雰囲気、周囲の状況や小道具、メカに見どころがたくさんありました。ちょっと古い話をするのならば、ティム=バートン監督の初期2部作、特に『バットマン リターンズ』のほうは、登場キャラクターにあわせた「持ち物やインテリアデザイン」に、ついつい目がいってしまうおもしろさが盛り込まれていたわけなのです。

 そこらへんの「余裕」というか「サービス精神」が、『ライゼズ』には欠乏しているような気がしてなりません。

 もうひとつ。『ダークナイト』がおもしろかったのは、中心キャラで作品の地震源になっていたジョーカーの「凶悪な飽きっぽさ」というか、「次から次へと悪事を思いつき即決行していくベンチャー魂」があったからなんです。これは要するに、ひとつひとつの悪事は脈絡がなくて小規模でも、それをやっているジョーカーがいるという緊迫感があったから、観客はついつい目を離すことができずに152分という長丁場をつきあわされることになってたんじゃないかと思うんですね。

 確かに、『ライゼズ』でベインがたくらんだ悪事の具体的内容は、ジョーカーの規模をはるかに超えたものとなっていました。その意味ではベインの方が数倍、悪人としての格が上なはずなんです。
 それなのに! ベインは最初っからその「超巨大な悪事」1つをやるために全身全霊をそそいでしまったあまり、「映画の悪役」としての魅力作りが哀しいくらいにヘタな「いいひと。」になっちゃったんだなぁ!

 例を挙げれば、『ライゼズ』は「序盤のはったり犯行~中盤のほどほど犯行~クライマックスのドカドカ犯行」という文法においては、『ダークナイト』を完全に踏襲したものとなっています。そこに「バットマンの失墜……かぁらぁの~!復活」という大テーマがトッピングされているわけです。
 だが、しかし……ベインの「中盤のほどほど犯行」は見る影もなくつまんない! つまんないのは当然で、それは目的が「ウェイン財団の破産」だからなんです。しけてやがるなぁ!! いくら画面に緊迫感があっても、ショボいものはショボい。

 こういうところからもきてるんですけど、『ライゼズ』観た人ならわかりますよね? ベインって、今回もかわいそうなキャラでしたねぇ~! 『バットマン&ロビン』のときの「筋肉バカ扱い」もヒドかったけど、ほぼメイン敵になった今回でも、これはこれでヒドすぎる!! 不器用な男の悲哀よ……

 話は変わりますが、この『ダークナイト ライゼズ』は、前2作の中でも、「ラーズ・アル・グール」という敵キャラとバットマンとの関係がクローズアップされるという点で、第1作『バットマン ビギンズ』に非常にリンクした部分の多い作品になっています。
 ラーズ・アル・グールというのは『ビギンズ』のラスボスだった敵キャラ(故人)なんですが、そこから見て「愛弟子どうし」の関係となるバットマンとベインの因縁の対決、という要素もあるわけなんですね。

 も~男っぽいですねぇ!! 「一番弟子 VS 破門された危険な弟子」ですって! ノーラン監督、あんたはやっぱり硬派番長だわ。

 さてみなさん、ここに「人に言えない過去を消去するために悪事を続けている女怪盗」っていう新要素が入り込んできたら、いったいどんなことになっちゃうと思います?

 はい、そうですね。「女怪盗のほうが一瞬でジュジュジュワ~と蒸発しちゃう」。それが正解です!

 そうなんです、私がいちばん言いたい『ダークナイト ライゼズ』の残念なところはここ!
 「不器用なベインに代わる中盤の引っぱり要素として機能するはずだったキャットウーマン(セリーナ=カイル)が、キャラクターとしてまったく立ち上がってこなかった。」
 これなんだなぁ~。まぁ、なんてったって番長の映画なんだから、予想はついたけど……

 ここは低評価してはいけないところなんですが、今回の新生キャットウーマンを演じておられたアン=ハサウェイさんは、非常に良かったです。1960年代の TVシリーズの頃を実にうまくリファインしたコスチュームデザインもとってもスマートで魅力的でしたね。
 完全に「頭のいかれた愉快犯」になっちゃってた『バットマン リターンズ』のミシェル=ファイファー版も当然いいわけなんですが、原典にたち返って「自由気ままに犯行を重ねる義賊怪盗キャットウーマン」をスクリーンに復活させることとなったアンさんの身のこなしと意志のあるまなざしは非常にカッコ良かったです。

 ただ、出た作品が悪かったっちゅうかなんちゅうか……『ライゼズ』のキャットウーマンって、完全に「ベインかバットマンのどっちかにいいように利用されるアシスタントの女の子」になってませんでした!?
 これは哀しいですね……なにが哀しいって、キャットさん本人は自由にやってるつもりなのに気づかないうちにいいなりになっちゃってるんですからね。そういう意味でも今回の姐さんは、見てくれこそカッコ良くはなったものの、実情は「飼い猫」同然だったということで。残念!!

 結論から言ってしまえば、案の定、今回の『ダークナイト ライゼズ』でも、ノーラン監督は女性を「生きているキャラクター」として描きだすことはできませんでした。ど~してこうも窮屈な生き方をしたお姉さんしか出てこないんでしょうか……なにせ、正真正銘の「自由人」であるはずのキャットウーマンだってこのていたらくなんですから、もはやこれは治療不可能ですな。

 いえいえ、別に私そうだいは小栗旬さんや石田純一さんのようなプレイボーイではありませんし、ましてや「本当の女性がちゃんと描けている、いない」なんてことを大口たたいて批評できる資格のある人間ではさらさらございません。
 ございませんが、もしそれが虚構なのだとしても、男どものくだらない思惑を超越した理屈にもとづいてふ~わ、ふ~わと気ままに生きている女性を観るのがとっても好きなんですね! まぁそらぁ、身近にそんなネコ科レディが何人もいらっしゃったら困るわけなんですが、だからこそ、そういったカッコイイ女性が爽快に跳びまわりはねまわる「あで姿」をフィクションの世界に求めたくなるんですよ。

 それがどうだい、今回もまた……
 キャットさんは今言ったとおりだし、もうひとりのヒロインであるミランダさんも……まぁ、はっきりとは言えないいろいろがあるわけですが、結局は「他人の遺志」のあやつり人形の人生でしかなかったわけです。
 あとは『ライゼズ』、どんな女性が出てました? いつもろれつがまわってないフラフラしたジェンっていう小娘と、ベインの暴力を恐れるあまりに、フォーリー副本部長に警察官としての職務を放棄させていっしょに自宅に引きこもる「弱い市民の代表」みたいなフォーリーの嫁。あとはブルース=ウェインの死んだ恋人・レイチェルの「遺影」くらいじゃないっすか! この、女っ気のなさ……もう、気持ちいいくらいに番長は一貫してますな。

 私は、『バットマン リターンズ』のキャットウーマンが「女性の本質をあらわしてる!」みたいな大バカタリンコなことは言いません。言いませんが、あの完成されていない人格を持ったキャラクターがクライマックス手前で、「自分でも自分がわからない……」と、泣き笑いの表情でブルースに対して告白したシーンはまさしく、正解が出ていなくとも「自分の意思で考え、悩んでいる1人の女性」を活き活きと描写せしめていたと感じています。
 それはもう、そういう演技をミシェルさんから引き出したティム=バートンの才能ですよね。そういう手腕を、今回のキャットウーマン復活でノーラン監督にも見いだせたら素敵だな、と思っていたのですが……ムリでしたねぇ~! 確かにアンさんのキャットウーマンも涙するシーンはあるにはあったのですが、非常にありきたりな「映画のヒロインとしての定型」の涙だったような気がする。それじゃいかんわぁ。

 あら、字数もかさんできちゃった!? じゃあ、そろそろ要点の整理に入りましょうか。

 今回の『ダークナイト ライゼズ』は、ファンにとってはたまらないプレゼントとなる、壮大な「新章」の始まりを予感させるラストなど、「バットマン好きにとっては合格点以上」の出来となっていました。とにかく、おもしろかったことは事実なんです。
 だが、しかし。今までバットマンのことを知らなかった、予備知識のまったくない方がこの映画を観たときに、同じような感動を味わうことができるかというと、はなはだ心もとないです。はっきり言っちゃうと、私は特別にファンじゃない人にはこの作品は勧めません。とにかくなげぇんだもん!!

 私はよく、前作の『ダークナイト』がきっかけでバットマン・サーガ全体のファンになり始めた、という意見を目にしたり耳にします。そしてそれは至極当然のことだとも思います。
 でも、純粋に『ライゼズ』の内容だけからバットマンに興味を持ち始める人って、果たしているんだろうか……もちろんゼロじゃないでしょうけど、私の中でのここらへんの不安感は、これまた「ビミョ~」と評価されることの多い第1作『バットマン ビギンズ』のそれをはるかにしのぐレベルになっています。なんだかんだいっても、『ビギンズ』は「バットマン誕生秘話」という、旧4部作では語られることの少なかった大きなテーマがあったし、スケアクロウ役のキリアン=マーフィもおもしろかったし。

 ピンときていただけるかどうかわからないのですが、クリストファー=ノーランという映画監督は「頑固一徹なラーメン屋のおやじ」なんじゃないでしょうか。

 とにかく自分のやり方に確固たる哲学を持っていて、あんまりその時々の客側のニーズというものには耳を傾けない人なんだと思います。
 んで、基本的には自分の好きな味しか出さないので常連客も限定されるわけなんですが、たま~に食材に新鮮なものが入って「激うま!」な日があると。『ダークナイト』のジョーカーとか、『インセプション』の発想アイデアとかがそうですよね。
 でも、やっぱり根っこは「作ったものがおもしろいものかどうかにはそれほどこだわらない」人なんですね、たぶん。どちらかというと、自分の構築したい作品世界をどのくらい精巧に映像化するか、それだけにこだわっている職人なんじゃなかろうかと。

 そして、今回の『ライゼズ』の場合はもろもろが「うまく転がらなかった」。ただそれだけのことなんですね。おそらく、ノーラン監督自身にそれほどの失敗作を作っちゃった感触はないと思うし、撮影中に修正したいと感じることもなかったんじゃないでしょうか。すべては監督の頭の中で完成していたわけですから。

 なので、私は当然、「ノーラン・バットマン3部作」という素晴らしい贈り物をくれた監督には感謝の言葉もないわけなのですが、だからといって、今後のノーラン監督の新作にむやみやたらと期待することはやめておきたいと思うんですね。『ダークナイト』とか『インセプション』といったあたりは、まず「まぐれ」の域の産物だと考えたほうがいいと。

 だってさぁ……映像作家としてはすごいかもしれないけど、私が今回の『ライゼズ』を観て感じた不満ポイントって、ぜ~んぶノーラン監督の「役者やキャラクターのあつかい」が原因なんだもの!! はっきり言っちゃうと、監督は本当に役者さんに演技指導をしたり脚本にダメ出しをしているのかどうか疑わしくてしょうがないとこばっかなの。
 もうだいぶ長くなってしまったので、各ポイントは箇条書きにしちゃうんですけど、ざっと思いつくだけでもこれだけ問題はあるんですよ。


『ダークナイト ライゼズ』の大部分のつまらなさの原因

1、とにかく「165分」! なのに中身がうっすいうっすい

2、長いくせに、中盤の「ベインの地下帝国」と「キャットウーマンの暗躍」と「ウェイン財団の内紛」の関係描写がセリフだけで説明されるので、話が急だし緊迫感がないしでぜんぜんピンとこない

3、「8年間活動しなかったバットマン」という時の流れを表現するには、主演のクリスチャン=ベールの復帰がスムースすぎ&外見が若々しすぎて説得力がない(その点、ゲイリー=オールドマンの老けかたは流石なものがあるのだが……ちょっと今回のゲイリーはかっこ悪い)

4、顔をあわせれば主人のブルースに説教する執事アルフレッドのセリフが、今回はホントに長ったらしくてうざったい(『ダークナイト』のころの「うまいことを言おう」という意志すら感じられない、ただの老人のグチになっている)

5、「ウェイン財団の乗っ取りをはかる重役ダゲット」「バットマンを悪人だと勘違いしているゴッサム市警のフォーリー副本部長」「自分では何もしていないのにゴッサム市政をのうのうと続けているガルシア市長」という、3人の重要なアホキャラを演じている役者の魅力がゼロなので、この3人が顔を出すシーンがのきなみつまんない(これは役者さんの問題じゃなくて、どこからどう見ても脚本と演出の責任だと思います!)

6、『ダークナイト』同様に残酷・暴力描写の規制が厳しいのだが、今回はベインが人を殺すたんびにカメラがベインの手元からはずれたり不自然な遠景ショットに切り換わったりする処理のオンパレードで、途中からすっかり飽きてベインの凶悪性がまったく身に迫ってこない(『ダークナイト』でのジョーカーの「鉛筆マジック」みたいなアイデアなんてゼロよ!? 客をなめてんのかって話よ!!)

7、『ダークナイト』の終盤では、「無名のゴッサム市民の勇気ある決断にジョーカーが敗れる」というシーンがあったのだが、今回の『ライゼズ』では、無名の市民は完全にベインの圧政に屈している。勇気を出したのはバットマンとゴッサム市警という構図になっているため、クライマックスのゴッサム市の解放について、前作ほどの爽快感がない


 ざっとこんなもんなんですけどね。
 とにかく、全ての問題はノーラン監督の手腕次第でどうにでもなることだったんじゃないでしょうか?
 もちろん、世界的にヒットする映画を作り続けているお人を相手に「映画監督の才、なし!」と叫ぶつもりは毛頭ないんですけれども、少なくとも、こういったポイントにこだわる人ではないんだ、ということはしっかり認識しておくべきだと思います。けっこう大事なことだと思うんだけどなぁ……

 まぁ、とにかくいろいろと言ってしまいましたが、こういったつれづれを差し引いても、あのラストシーンを用意してくれた『ダークナイト ライゼズ』には感謝したいですねぇ。「あぁ、やっぱりこの人はアレだったんだ!」という事実が発覚し、また新たな伝説が始まろうとする、その確かな鼓動を響かせながら終わるノーラン3部作……すばらしい。
 少なくとも、バットマンの大いなる復活と、アン=ハサウェイがぴっちりキャットスーツでバットポッドにまたがるその勇姿、そしてなんと言っても強い意志をともなった正義を貫き通す警官役のジョゼフ=ゴードンレヴィットの名演はとってもよかったです。
 それなのに、「興味があったら、ぜひ……」という腰の引けまくった文句しか言えない自分が情けないわ! くく、悔しい~。


 最後にひとつだけ。

 バットマンのクライマックスでのあの「勇気ある行動」って、およそ40年前に、ある「日本の超有名な仮面ヒーロー」がすでにやってたこととまんま同じでしたよね。

 やっぱり「正義の味方」っていうのは、つきつめれば世界共通なのよねぇ……

 でも、こんなブログをやってるわたくしですから、そういった勇気と同じくらいに、身体に核爆弾を内蔵してヒーローに特攻するカメバズーカの決死の姿にも想いをはせちゃうという、このゆがみ具合ね。


 ひとまずはノーラン監督、お疲れさまでした。本当にありがとう!

 そして、見知らぬどなたかによる新たなる「バットマン・サーガ」、今から楽しみにしておりますよ~。
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