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長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

志村でも小沢でもなく、左卜全が全てをかっさらっていった ~映画『醜聞(スキャンダル)』~

2023年06月10日 00時42分29秒 | ふつうじゃない映画
映画『醜聞(スキャンダル)』(1950年4月公開 105分 松竹)
 映画『醜聞(スキャンダル)』は、松竹製作・配給の日本映画。モノクロ、スタンダード。
 東宝争議のため東宝での映画製作を断念し、他社で作品を撮っていた黒澤監督の、初の松竹作品である。過剰なジャーナリズムが引き起こす問題を描いた社会派ドラマ。当時、無責任なマスコミの言論の悪質性を不愉快に思っていた黒澤が、電車の雑誌広告のセンセーショナルな見出しをヒントに製作した。第24回キネマ旬報ベスト・テン第6位。

あらすじ
 新進画家の青江一郎は、オートバイを飛ばして伊豆地方の山々を描きに来ていた。そこに人気声楽家の西條美也子が現れ、宿が同じだと分かると、美也子を後ろに乗せて宿へ向かった。青江は美也子の部屋を訪ね談笑していたが、そこを雑誌社「アムール」のカメラマンが隠し撮りし、嘘の熱愛記事を書かれてしまう。雑誌は飛ぶように売れ街頭で大々的に宣伝された。これに憤慨した青江は、アムール社へ乗り込んで編集長の堀を殴り倒し、騒ぎは更に大きくなってしまう。青江はついに雑誌社を告訴することにし、そこへ蛭田と名乗る弁護士が売り込みに来る。翌日、素性を確かめるために蛭田の家を訪ねた青江は、結核で寝たきりの娘の姿に感動し、蛭田に弁護を依頼する。しかし、病気の娘を抱えるも治療費のない蛭田は、10万円の小切手でアムール社の堀に買収されてしまう。

おもなスタッフ
監督 …… 黒澤 明(40歳)
企画 …… 本木 荘二郎(35歳)
脚本 …… 黒澤 明、菊島 隆三(36歳)
音楽 …… 早坂 文雄(35歳)
特撮 …… 川上 景司(38歳)

おもなキャスティング
青江 一郎  …… 三船 敏郎(30歳)
西条 美也子 …… 山口 淑子(30歳)
蛭田 乙吉  …… 志村 喬(45歳)
蛭田 正子  …… 桂木 洋子(20歳)
すみえ    …… 千石 規子(28歳)
編集長・堀  …… 小沢 栄太郎(41歳)
朝井     …… 日守 新一(43歳)
カメラマン  …… 三井 弘次(40歳)
荒井     …… 清水 一郎(50歳)
美也子の母  …… 岡村 文子(51歳)
裁判長    …… 清水 将夫(41歳)
蛭田 やす  …… 北林 谷栄(38歳)
片岡弁護士  …… 青山 杉作(60歳)
木樵の親父A …… 高堂 国典(63歳)
木樵の親父B …… 上田 吉二郎(46歳)
酔っ払いの男 …… 左 卜全(56歳)
青江の友人A …… 殿山 泰司(34歳)
青江の友人B …… 神田 隆(32歳)
青江の友人C …… 千秋 実(33歳)
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黒澤映画のキーパーソン・千秋実、ぬるっと登場!! ~映画『野良犬』~

2023年05月16日 20時32分28秒 | ふつうじゃない映画
映画『野良犬』(1949年10月 122分 新東宝)
 『野良犬(のらいぬ)』は、新東宝・映画芸術協会製作、東宝配給の日本映画である。モノクロ、スタンダード。
 太平洋戦争終戦直後の東京を舞台に、拳銃を盗まれた若い刑事がベテラン刑事と共に犯人を追い求める姿を描いた、黒澤監督初のクライムサスペンス映画である。東宝争議の影響で東宝を離れていた黒澤が他社で撮った作品のひとつである。第23回キネマ旬報ベストテン第3位、昭和24年度第4回芸術祭賞、シナリオ作家協会シナリオ賞受賞。

 日本映画において、ドキュメンタリータッチで描く刑事ものという新しいジャンルを開拓した画期的な作品として、その後の同系作品に影響を与えた。また過去作『醉いどれ天使』(1948年)同様、戦後の街並みや風俗とその中で生きている諸々の登場人物が生き生きと描写されている。当時、黒澤は東宝争議の余波で東宝での映画製作を断念し、師の山本嘉次郎や本木荘二郎らと映画芸術協会に参加して他社で映画を撮っていた。本作は、大映で撮った前作『静かなる決闘』(1949年)に続いて他社で撮った2本目の作品で、映画芸術協会と新東宝の提携により製作した。
 推理小説の愛読者でもあった黒澤は、『メグレ警部』シリーズの作家ジョルジュ=シムノンを意識したサスペンス映画を作ろうと企画し、当時新人の脚本家・菊島隆三を共作に抜擢し、彼を警視庁に通わせて題材を集めさせた。そこで捜査一課の係長から、警官が拳銃を紛失することがあるというエピソードを聞き、それを採用して熱海で脚本を作り上げた。

 撮影のほとんどは、東映東京撮影所内の貸しスタジオの太泉スタジオで行われた。予算が少ない中、警察の鑑識課からどじょう屋、ホテルやヒロインのアパートまで、オープンセットを含めて実に30数杯のセットが造られた。警察の鑑識課のセットは実際に警察署を見学し、引き出しのネームプレート一つに至るまで忠実に再現された。美術助手を務めた村木与四郎によると、どじょう屋のシーンでは生簀に本物のどじょうを入れたが、画面には全く映らなかったと語っている。

 本作は、淡路恵子の映画デビュー作である。淡路は当時、松竹歌劇団の研究生であり、本作に出演した時はまだ16歳だった。並木役の最終候補には淡路ともう一人が残ったが、黒澤が「淡路君の方が意地っ張りで面白そうだ」と決めたという。また、後の黒澤映画の常連俳優である千秋実の黒澤作品初出演作でもある。
 復員服姿の村上刑事が闇市を歩く場面では、助監督の本多猪四郎と撮影助手の山田一夫が2人で上野の本物の闇市で隠し撮りを敢行し、本多は三船敏郎のスタンドインを務め、山田がアイモカメラを箱の包みに入れて撮影した。黒澤は後に「この作品で戦後風俗がよく描けていると言われるが、それは本多に負うところが大きい。」と語り称賛している。
 後楽園球場で刑事2人が拳銃の闇ブローカーを捕まえるシーンでは、実際の巨人対南海の試合映像が使われており、川上哲治・青田昇・千葉茂・武末悉昌ら当時の選手の姿も見られる。

 緊迫したシーンにあえて穏やかで明るい曲を流し、わざと音と映像を調和させない「音と画の対位法」という手法が、本作でも用いられている。例としては、佐藤刑事がホテルで撃たれるシーンで、ラジオからキューバの民族舞曲『ラ・パロマ』が流れ、ラストの村上と遊佐が対決するシーンでは、主婦が弾く穏やかなクーラウのピアノ曲『ソナチネ第1番ハ長調作品20−1』と、最後に子ども達が歌う童謡『ちょうちょう』が流れる。なお、本作では既成曲が多用されており、村上が復員兵に変装し闇市でピストル屋を探すシーンでは『夜来香』、『東京ブギウギ』、『ブンガワンソロ』などの流行歌が使われ、根負けした女スリが情報提供するシーンでは、ヨシフ=イヴァノヴィチの『ドナウ川のさざなみ』がハーモニカで演奏されている。

 序盤タイトルバックの野良犬が喘ぐシーンは、野犬狩りで捕まえた犬を貰い受け、撮影所の周りを走らせた後で撮影したものである。しかし、アメリカの動物愛護協会の婦人から「正常な犬に狂犬病の注射をした」と告発された。供述書を出してこの出来事は幕となったが、黒澤は「戦争に負けた悲哀を感じた。」と語っている。
 村上刑事が銃弾の線条痕を照合するため鑑識を訪れる場面では、鑑識の担当者が別の拳銃を砂箱の中に撃ち込んでいるが、ここでは本物の九四式拳銃が使われた。村上刑事から盗まれて遊佐の手に渡る拳銃がコルト式という設定であるのに対し、本作のポスターやスチールの写真では九四式拳銃が使われている。
 世界三大映画祭における監督賞を制覇したアメリカの映画監督ポール・トーマス=アンダーソンは、本作をお気に入りの一本に挙げており、自作『マグノリア』(1999年)では、本作へのオマージュとして警官が拳銃を紛失するエピソードを描いた。


あらすじ
 ある猛暑の日、村上刑事は射撃訓練からの帰途のバス中で隣に立った女性にコルト式自動拳銃を掏られ、追いかけるが見失ってしまう。拳銃の中には7発の銃弾が残っていたため焦り戸惑う村上は、上司の中島係長の助言によりスリ係の市川刑事に相談し、鑑識手口カードを調べるうちに女スリのお銀に目星を付ける。村上はお銀のもとを訪ねるも彼女はシラを切るばかりだったが、執拗に追い回し、せめてヒントだけでもと懇願を続ける村上に観念したお銀は、場末の盛り場で食い詰めた風体でうろついているとピストル屋が袖を引くというヒントを与える。
 ピストルを探すため復員兵姿で闇市を歩く村上は、ついにピストルの闇取引の現場を突き止め、ピストル屋のヒモの女を確保するが、先に女を捕まえたためピストルを渡しに来た売人の男に逃げられてしまう。そこへ淀橋で銃を使った強盗傷害事件が発生し、銃弾を調べると村上のコルトが使われたと分かった。責任を感じた村上は辞表を提出するが、中島係長はそれを引き裂き「君の不運は君のチャンスだ。」と叱咤激励する。村上は淀橋署のベテラン刑事・佐藤と組んで捜査を行うことになる。

おもなスタッフ
監督   …… 黒澤 明(39歳)
製作   …… 本木 荘二郎(35歳)
脚本   …… 黒澤 明、菊島 隆三(35歳)
撮影   …… 中井 朝一(48歳)
照明   …… 石井 長四郎(31歳)
録音   …… 矢野口 文雄(32歳)
美術   …… 松山 崇(41歳)
音楽   …… 早坂 文雄(35歳)
助監督  …… 本多 猪四郎(38歳)
B班撮影 …… 山田 一夫(30歳)
美術助手 …… 村木 与四郎(25歳)
音響効果 …… 三縄 一郎(31歳)

おもなキャスティング
村上刑事   …… 三船 敏郎(29歳)
佐藤刑事   …… 志村 喬(44歳)
並木 ハルミ …… 淡路 惠子(16歳)
ハルミの母  …… 三好 栄子(55歳)
ピストル屋のヒモ …… 千石 規子(27歳)
市川刑事   …… 河村 黎吉(52歳)
光月の女将  …… 飯田 蝶子(52歳)
桶屋の親父  …… 東野 英治郎(42歳)
阿部捜査主任 …… 永田 靖(42歳)
呑屋の親父  …… 松本 克平(44歳)
特攻隊あがりの復員兵・遊佐 …… 木村 功(26歳)
遊佐の姉   …… 本間 文子(37歳)
スリのお銀  …… 岸 輝子(44歳)
レビュー劇場の演出家 …… 千秋 実(32歳)
レビュー劇場の支配人 …… 伊藤 雄之助(30歳)
ホテル弥生の支配人  …… 菅井 一郎(42歳)
支配人の妻  …… 三條 利喜江(37歳)
中島係長   …… 清水 元(42歳)
水撒きをする巡査 …… 柳谷 寛(37歳)
拳銃の闇ブローカー・本多 …… 山本 礼三郎(47歳)
鑑識課員   …… 伊豆 肇(32歳)
被害者・中村の夫 …… 清水 将夫(41歳)
アパートの管理人 …… 高堂 国典(62歳)
若い警察医  …… 生方 明(32歳)
さくらホテルの支配人 …… 長浜 藤夫(38歳)
老いた町医者 …… 田中 栄三(62歳)
あづまホテルのマダム …… 戸田 春子(41歳)
レビュー劇場の客 …… 堺 左千夫(24歳)
ピアノを弾く主婦 …… 辻 伊万里(28歳)
スリの男   …… 宇野 晃司(25歳)
新聞記者   …… 松尾 文人(33歳)
ナレーション …… 本木 荘二郎(35歳)


≪さぁて、本文はいつになるのやら……気長にお待ちを!!≫
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ヨーロッパなのに気持ち悪い映画、女子校となりて再臨!! ~映画『ベネデッタ』~

2023年03月18日 23時35分13秒 | ふつうじゃない映画
 ヘヘヘ~イ、みなさまどうもこんばんは! そうだいでございまする。今日も一日お疲れさまでした!
 いや~、もう春ですね……世の中は卒業、年度末シーズン真っ盛りということで、いろいろありました2022年度も、いよいよおしまいとなりつつあります。ここまで来て振り返るとあっという間な気がするのですが、今年度もヒーコラヒーコラ言って、なんとかここまでたどり着きました。
 また、これからどうなるかは分かったものではないのですが、現時点の感触としては、散々振り回されてきたコロナウイルス関係もひと段落しそうな機運になってまいりましたね。ほんとに、マスクしなくていいんですか!?っておっかなびっくりな感じではあるのですが、ついにこの時がやって来ましたか……なんの後ろめたさもなく県外やら東京やらに行ける時が!!
 いや、そんなん、私も大のおとななんですから、自分なりにちゃんと感染対策をしているのであればどこに行っても自由だったのではありましょうが、どうやら来たる2023年度は、私が長年あたためていた宿願プランを実行に移す好機がやって来そうです。ちょっと、車で関東までひとり旅としゃれこんでみたいんですよね。
 2015年に実家の山形県に帰ってきて以来、今まで150ヶ所以上の山形県内の温泉施設を巡ってきたのですが、そろそろ県外の温泉の味わいも楽しんでみたいなぁ、と思って。関東も温泉王国ですもんね! 夏あたりに行ってみたいのですが、ともかく体調を万全にして、体力があるうちにトライしてみたいもんだ。久しぶりに会いたいお友達のみなさまもいっぱいいますしね!

 さてさて、そんな感じで新しい季節の空気を感じつつ、今回はいつものように町の映画館に行って観てきた作品の感想をつづりたいとおもいます。いや~、今回もスクリーンで観ることができて良かったぁ!
 昨年末から、個人的に誰から言われることもなく始めた「とにかく毎週1本は映画館に行って映画を観る」という習慣なのですが、恥ずかしながら今までは観る選択肢にすら入っていなかったドキュメンタリー映画や往年の名画のリバイバルも含めまして、毎週毎週ほんとに楽しい体験となっております。ま、安いもんではありませんし、たまにゃハズレもあるにはあるんですが。
 そんで今が3月なので、だいたい15本くらい観てきたことになるのですが、ここにきて、ついに2023年に観た映画の中でも個人ベストになりそうな作品に巡り合えました! いや、まだ3月なんですが、これはけっこう最後まで上位ランキングに生き残りそうな感じがするよ!!


映画『ベネデッタ』(2021年7月公開 132分 フランス)
 『ベネデッタ( Benedetta)』は、ポール=ヴァーホーヴェンが共同脚本・監督したセクシュアル・サスペンス史劇映画。
この映画は、ジュディス=C=ブラウンによる1986年のノンフィクション『ルネサンス修道女物語 聖と性のミクロストリア』(ミネルヴァ書房・刊)に基づく。その制作には、プロデューサーのサイード・ベン=サイード、脚本家のデイヴィッド=バーク、作曲家のアン=ダドリー、編集のヨープ=テル・ブルフ、女優のヴィルジニー=エフィラなど、ヴァーホーヴェンの前作『エル』(2016年)の主要な参加者のほとんどが引き続き関わっている。
 本作は2021年7月に開催されたフランスの第74回カンヌ国際映画祭のパルム・ドールのコンペティション部門で初公開された。当初、本作は2019年5月に開催された第72回カンヌ国際映画祭でプレミア上映される予定だったが、ヴァーホーヴェンの股関節手術にともなう療養のため編集作業が遅れ、さらに新型コロナウイルスのパンデミックにより2020年5月に開催される予定だった第73回カンヌ国際映画祭が中止されたため、公開は延期されていた。

あらすじ
 1599年。イタリア半島中部トスカーナ大公国の地方都市ペシアで、9歳の少女ベネデッタ=カルリーニは、両親の後押しにより修道女になるためにシスター・フェリシタが運営するテアティノ会修道院に入山した。その14年後、宗教劇で聖母マリアの役を演じていたベネデッタは、キリストが呼びかけてくる幻視を体験する。そんなある日、バルトロメアという若い農民の女性が父親の虐待を逃れて修道院に入山する。ベネデッタはバルトロメアの教育係を任されたその夜に、バルトロメアに接吻される。
 その後、ベネデッタはイエスの幻視を繰り返し体験するようになり、深い苦痛を伴う病気に陥る。フェリシタ修道院長はバルトロメアに彼女の世話を任せるが、ある朝、ベネデッタは両手の平と両足の甲に聖痕を刻んだ状態で目を覚ました。修道院はベネデッタの聖痕の真偽を調査するが、フェリシタ修道院長とその娘の修道女クリスティーナは懐疑的だった。しかしベネデッタは突然、額に新たな傷をつけて怒った男性の声で叫びだし、自分を疑う人々を非難する。フェリシタ修道院長とペシアの主席司祭アルフォンソが、ベネデッタの幻視体験の数々をどのように扱うべきかについて論争を繰り広げた結果、ベネデッタはフェリシタに代わって修道院長の地位に就任することとなる。

おもなキャスティング(年齢は映画公開当時のもの)
ベネデッタ=カルリーニ …… ヴィルジニー=エフィラ(44歳)
フェリシータ修道院長  …… シャーロット=ランプリング(75歳)
バルトロメア      …… ダフネ=パタキア(29歳)
ジリオーリ=ヌンシオ教皇大使 …… ランバート=ウィルソン(62歳)
アルフォンソ=チェッキ主席司祭 …… オリヴィエ=ラブルダン(62歳)
修道女クリスティーナ  …… ルイーズ=シュヴィロット(26歳)
修道女ヤコパ      …… ギレーヌ=ロンデス(56歳)

おもなスタッフ(年齢は映画公開当時のもの)
監督・脚本 …… ポール=ヴァーホーヴェン(83歳)
共同脚本  …… デイヴィッド=バーク
原作    …… ジュディス=C=ブラウン『ルネサンス修道女物語 聖と性のミクロストリア』
撮影    …… ジャンヌ=ラポワリー(58歳)
編集    …… ヨープ=テル・ブルフ(48歳)
音楽    …… アン=ダドリー(65歳)


 いや~、これはすごい映画だった。まず、ヴァーホーヴェン監督っていう時点で普通の映画なわけないっていうのは明らかだったのですが、その予想ハードルを意図も軽々と全裸でスッポンポーン☆と跳び越えていくような大傑作でしたね! この「全裸」っていうところが大事! ユニホームを着なきゃいけないとか、審判の判定は絶対とかいう常識を笑顔で無視するような、融通無碍な愛嬌と暴力性に満ちた作品なのです。しょうがないね~コリャ!

 監督された全作品を観ているわけではないのですが、1980年代生まれの私にとりまして、ポール=ヴァーホーヴェンと聞けばなんと言いましても『ロボコップ』(1987年)ですし、『トータル・リコール』(1990年)なのであります。ブラウン管から飛び出る、ハリウッド的未来世界の衝撃的 SFX映像の数々! シュワちゃんの眼球が!! 準備はい~い!?
 当時小学生だった私が観た時、やっぱり先に脳髄にぶっ刺さってくるのは、まだ CGに頼りきりにならなかった末期の特殊効果メイク技術の大盤振る舞いでありまして、何の脈絡もなく工場廃液で溶ける悪人のおじさんだとか、おじさんのお腹に隠れてるちっちゃなおじさんだとか(おじさん多いな! でも、確かにヴァーホーヴェン作品はそんなにかっこよくないおじさんの見本市ですよね)の、TVでふつうに放送される洋画劇場だからと言って、油断は全く許されない唐突なグロテスク表現の数々なのでした。それにひきかえ今の洋画劇場は、ずいぶんとマイルドになったよね~! なんかあったら国産アニメかディズニー傘下のファミリー映画だもんね。たまにはチャールズ=ブロンソンくらい出してみろってんですよ。幼稚園か小学校の時に洋画劇場で観た『ロサンゼルス(Death Wish2)』はこわかった……

 でも、40歳を過ぎた今になって思い起こしてみると、ヴァーホーヴェン監督の作品から私が学んだのは、「傷ついた孤高のヒーローの美しさ」だったような気がします。これを、定番の石ノ森章太郎の世界からでなく、遠くアメリカの、しかもご本人は欧州オランダのご出身というヴァーホーヴェン監督から学んだという事実は大きかったです。ちょっとね、コミカライズ版の『仮面ライダー』も萬画版の『仮面ライダー black』(1987~88年連載)も、今だとその面白さはよくわかるんですが、当時小学生だった身にしてみれば、怖さとか難解さが先に立っちゃってねぇ……『 black』のカマキリ怪人の回はトラウマになりましたねぇ~!! あんなん、よく『サンデー』に掲載してたもんですわ。昭和はやっぱこわい!!
 ともかく、かっちょいいヒーローになりはしたものの、自分が誰なのか、ほぼ全身サイボーグとなっている状態が果たして生きていると言えるのかどうか、そして自分が命を懸けて守るべき「正義」とは何なのかを自問し、悩みながら日々の闘いに身を投じていくマーフィ巡査の姿にはぞっこんになりました。まさに「異形の哀しみ」……これはもう、のちの平成仮面ライダーではついぞ観ることが無くなってしまった、石ノ森イズムの克明な体現ですよね。また、ロボコップのテーマがほんとにかっこいんだ……ヴァーホーヴェン作品ではないけど『ロボコップ2』のテーマもいいですね。アホアホマーン!!

 まま、そんな感じでハリウッドの世界でも特異の輝きを放っていたヴァーホーヴェン監督が、よわい80を超えて中世ヨーロッパの禁断の聖域・修道女教会で実際にあったという「修道院奇跡真贋事件」の映像化に挑む!! この報を聞いて「フハッ!」と鼻息を鳴らして興奮しない男がいるでしょうか、いや、いない!!
 そんな感じで今回の『ベネデッタ』を観る運びとなったわけなのですが、実は、劇場予告編の段階では往年のヴァーホーヴェン作品っぽい過激さがあんまりアピールされていなくて、ひたすらきれいな主演のヴィルジニーさんのかんばせが映されるばかりで、果たしてどんな作品になるもんかが分からなかったんですね。私も不勉強なことに尼さんメインの映画を観るの初めてだし、ヴァーホーヴェン監督もおじいちゃんになったし、意外とおとなしい文芸映画かも、という気もしていたのです。

 ところが……それは全く見当違いな予想でした。あのヴァーホーヴェン監督が無難な歴史ドラマを作るわけがないだろうと! 誰がおじいちゃんだ、ヴァーホーヴェン監督のエターナルな変態性に謝れ若輩者が!!
 もう、映画本編が始まる前から「こりゃとんでもない映画だ」感がものすごかったもんね……何気なく、上映前にコーヒーと一緒にこぢんまりしておしゃれな体裁のパンフレットを買うじゃないですか。で、ぱっとページを開いたら、もう最初に中世ヨーロッパの拷問器具「苦悩の梨」のイラスト付き解説文が目に入ってくるんだぜ!? 瞬時に嫌な気分になってしまいましたよ……これ、映画で使われんの?みたいな。思わずお尻が引き締まる思いです。

 それで、肝心の映画本編を観た感想なのですが、んまぁ~素晴らしい映画でした。ステキに華麗で残酷、汚い、気分が悪い!!
 最近の私の「気分が悪くなる」映画体験としては、どうしてもフィル=ティペット監督の『マッドゴッド』とアリ=アスター監督の『ミッドサマー』が筆頭に上がってくるのですが、言うまでもなく、それをもってこれらの作品を駄作と評する気はさらさらありません。むしろ、気分が悪くなるのも、それだけ私の魂が揺さぶられる劇的体験だったのだということで、観て良かったという気にもなるのです。
 ただ、今回の『ベネデッタ』は、それらの気分が悪くなる映画に匹敵するような過酷極まりない艱難辛苦の数々を主人公ベネデッタやその相棒(棒ないけど)バルトロメアに降りかからせながらも、その地獄めぐりの果てに、なぜかラストシーンで力強く全裸で生き抜く2人の肢体を立たせておしまいとなるのです! ここ! この結末がどうしようもなくヴァーホーヴェン監督っぽくて、その他の気分悪くなる映画にない、謎の感動を呼び覚ましてくれるんだよなぁ!! でも、なんで全裸なんだろう!? ま、いっか!
 なにはなくともカッコいいんですよね! このラストで、遠く望むペシアの町に火の手が上がっているのを見て「行かねば……」とおもむろに歩き出すベネデッタもカッコいいし、それに呆れて「バッキャロー! お前なんかどこへでも勝手に行って死にくされ!!」と罵倒しながらも、目に愛情の光を満々とたたえているバルトロメアの表情も実にいいんです。ここ、ふつうに『ロボコップ』のテーマが流れても全く違和感がないほどにベネデッタがカッコいいんだよ……いや、結局、映画の中で語られるベネデッタの「自称奇跡」の数々はきわめて怪しい詐術の香りが濃厚ですし、ペストの大流行に騒然となる町に徒手空拳の女一人が出向いたとて何ができるというわけでもないのですが、とにもかくにも、他人になんと言われようが自分の中に確固たる確信をもって歩き出す人間の姿に、有無を言わさず感動させられてしまうのです。惚れる……

 この映画を観ていて、ベネデッタが修道院に入り、禁欲的な生活に身を投じながらも突如として現れた野生児バルトロメアの誘惑に揺れ動いていくあたりから、私は「あぁ、これ『薔薇の名前』(1986年 ジャン・ジャック=アノー監督)に似てるなぁ。」と強く感じるようになりました。でも、男ばっかでむさいことこの上なかった『薔薇の名前』の男子校っぷりに比べて、この『ベネデッタ』はまるで正反対の女子校ですよ! ずいぶんと前の記事になってしまいますが、我が『長岡京エイリアン』での『薔薇の名前』(1986年)についての感想のつれづれは、こちらをご覧くださいませ。

 ほんで、中盤までは『薔薇の名前』に比べてきれいな女子がメインだし、校長先生(修道院長)もきれいだから見やすいなぁ~なんて思ってたのですが、ベネデッタが新校長になってまじめな生徒会長ポジションのクリスティーナが「そんなこと認められませんわ!!」と校舎の屋上から飛び降りたあたりから物語が血なまぐさくなってきて、見るからに俗っぽくて汚らしい、『薔薇の名前』でいうベルナール=ギーの立ち位置のヌンシオ教皇大使がしゃしゃり出てきたところから、この映画の暴力性がむき出しになってくるのです。これは……似てるんじゃなくて、完全に『薔薇の名前』を意識しまくりの鏡写しじゃないのか!?

 ところで、この映画で愛憎半ばのくされ縁共同体となるベネデッタとバルトロメアの百合カップルなのですが、パンフレットを読んでびっくりしたのが、主演のヴィルジニーさんが撮影時(2018~19年頃か)にアラフォーだったってことですよね。見た目が若すぎ!! そのお歳で思春期からのベネデッタを自然に演じてるんだもんなぁ。その一方のバルトロメア役のダフネさんも20代半ばだったわけなんですが、ヴィルジニーさんの堂々たる熱演の陰に隠れがちになりながらも、ダフネさんもダフネさんで、トイレのシーンで「よっしゃー出た! 気持ちいい~!!」と絶叫したり、例の苦悩の梨のえじきになった後なのに、わりと元気そうに「てめー痛かったぞコンチクショー!!」とベネデッタに殴りかかったりと、それ相当に女優人生を賭けた凄絶な演技を見せてくれたと思います。眉をひそめてしまうような過酷な体験を重ねているはずなのに、なんか楽観視しちゃう不死身感あるんですよね、このカップル。

 似てる似てるとは言ってますが、映画版の『薔薇の名前』は修道院内で起こる連続殺人事件の犯人を、外部からやって来た名探偵とワトスン役が追いつめる純然たるミステリーで、今作は同じサスペンス味はあっても、ベネデッタという明らかに異常な才能を持つ人間が爆心地となって修道院の常識的(当時)なシステムを内部から崩壊させ、しまいにゃそれを取り巻く町全体さえもぶっ壊してしまうというピカレスクロマンです。なので、たぶん構造からして全く別のジャンルの作品であるはずなのですが、な~んか、私から観ると似通ってる部分が多いと思うんですよね。
 それは、『薔薇の名前』でのワトスン役である青年修道士アドソ(演・クリスチャン=スレーター)の視点から見た世界と、今作でのベネデッタの視点から見た世界の、それぞれの変容っぷりが非常に似ていると思うからなんです。つまりは、自分でひたすら努力して獲得した知識と論理でうず高く構築された精神世界が、よそからアクシデント的に現れた「肉体の衝撃」(『薔薇の名前』の名もない村娘と今作のバルトロメア)によって、いとも簡単にぶっ壊されてしまうという構図のことです。たかがエロ、されどエロ!
 ただし、この村娘とバルトロメアの役割は、それぞれの作品の本筋とは実は関連の薄いお色気エピソード、と言い捨ててしまっても構わないところはあります。ワトスン役が捜査中に事件と無関係な村娘に逆レイプされて DTを捨てようが、頭がおかしくなって役に立たなくならない限りホームズ役にとってはどうでもいいことですし(鬼!!)、今作でベネデッタが異常な言動を取るようになった直接のきっかけは、かなり怪しげな手練れホスト臭をはなつ「神の御子の幻影」のほうなのです。天然かつ下品、まるで赤塚不二夫の世界から抜け出て来たような野生少女バルトロメアとのいちゃいちゃは、ベネデッタの引き起こした歴史的事件の比較してみれば、あくまでも添え物に過ぎません。
 でも、一見小さなマクガフィンに過ぎないようなカップリングが、なぜか「連続殺人事件の犯人は誰か?」や「ベネデッタは本当に奇跡を起こす聖女だったのか?」という、映画の中での最重要懸案を押しのけて、観る人の感動を引き起こし、記憶に色濃く残るのはなぜなのでしょうか。『薔薇の名前』で、一言も言葉を交わさないし、そもそもお互いの名前さえ知らない関係なのに、ラストシーンでの馬上のアドソと道端の村娘との無言の視線の交錯は、確実に観る者が実際に経験した哀しい記憶を呼び覚ますのです。あぁ、私もあの時、ほんのちょっと勇気を出してあの人に声をかけていれば……みたいなよう!

 その証拠として、ヴァーホーヴェン監督がちゃんと、ベネデッタがいざその「神の御子」とことに及ぼうとしても、肝心の彼の股間がツルッツルの「 No Image」になっているというカットを差しはさんでいるのですから徹底したものです。実体験を伴わない世界の、なんと薄っぺらなことか。

 そして、私が今回の『ベネデッタ』を2023年に観た映画ベスト1(2021年の映画なんですが)に推したくなる最大の理由は、その『薔薇の名前』パターンからさらに進化して、ベネデッタがいったん切れたバルトロメアを、「宗教裁判で魔女宣告、火刑!」という絶体絶命な窮地にいながら、その逆境を跳ね返しまくった末におのれの手で取り戻し、その上で「自分がベネデッタであるがゆえに」いとも簡単にぽいっと捨ててひとりで歩きだして終わるという、そのキャラクターの鋼の精神性にあるのです。むちゃむちゃやなキミ!! でも、あっぱれそれでこそベネデッタ。特殊技能のある肉体かとか、行動に論理性があるかとか、善なのか悪なのかとかは本当にどうでもよくて、その生きざまにおいて、ベネデッタは文句なしにスーパーヒーローなのです。ヒロイン、じゃないような気がする。ヒロインはあんな堂々とした歩き方はしない。少なくともアドソよりは漢ですよね。

 今さらながらネタバレになってしまいますが、『薔薇の名前』でも、確かに宗教裁判の判決と公開処刑はくつがえされて修道院は大混乱に陥り、宣告したはずのベルナール=ギーは逆にひどい目に遭ってしまいます。そこが現代の娯楽映画としてスカッとするクライマックスとなるわけなのですが、『ベネデッタ』はその繰り返しになんてとどまりません。そこにペスト大流行の狂騒もプラスし、さらにベネデッタ信者となったペシア市民の「ベネデッタさまを助けんべや!」という暴動的エネルギーを、ベネデッタがこともあろうにかつて敵でもあったフェリシータとタッグを組むことによって意図的に爆発させるという胸アツもいいところな『少年ジャンプ』的展開によって、火刑をまぬがれておまけにヌンシオ以下のローマ教皇お墨付きの裁判使節団を残らず血祭りにあげるという大下克上をやってのけるのでした。いやいや、いくら娯楽映画でも、程度ってものがあるでしょ!? 『 RRR』でもそんなムチャしてませんよ……けどヴァーホーヴェン監督だし、しょうがねっか。
 非道なおかみのお裁きをくつがえす民衆の大蜂起って、やっぱりいいねぇ。誰か、ファミコンで竹槍を持ったベネデッタが一人で疾走して悪代官ヌンシオをやっつける『べねでった』っていうアクション刺突ゲーム、作ってくれないかなぁ。

 私がすっごく好きな日本映画に、岡本喜八監督の『赤毛』(1969年)があるのですが、あのクライマックスで主演の三船敏郎さんや、その母役の乙羽信子さんが演じた市井の人々の怒りのまなざしを彷彿とさせ、その無念が時空を超えたこの作品で晴らされた! そんな思いがしましたね。江戸幕末沢渡宿の恨みを中世イタリアのペシアで晴らす! 国も時間もバラッバラ!! 『ベネデッタ』のほうが昔の事件よ。

 ほんと、この『ベネデッタ』っていう映画は、とにもかくにも中世ヨーロッパの陰惨でじめじめした宗教世界のおどろおどろしさが先に立つ映画なのではありますが、価値観がころっころ変わり、明日世界がどうなるのかもわからない現代令和の御世に生きる私達に大いなる勇気をくれる、実に実にヴァーホーヴェン監督らしい大傑作だと思います。こういったエネルギーを、御年80を過ぎたご老人からいただいてしまうとは……その半分しか生きてない私も、もっと頑張んなきゃなぁ!!
 『シン・仮面ライダー』もけっこうですが、『ベネデッタ』もそれ以上にものすんごいスーパーヒーロー映画ですよ。濫作状態になりっぱなしのアメコミ映画をぼんやり観てる場合じゃないですよ。

 最後に俳優さん方について触れておきたいのですが、何と言っても無視できない存在感を放っているのが、フェリシータ修道院長役のシャーロット=ランプリングさんです。おいくつになってもド硬派な美人。すごいなー、このお方は!!
 こんなにがめつくて俗っぽい小物感満点の修道院長を、なんでまたシャーロットさんが演じてるんだろう?と少し疑問に思いながら見ていたのですが、後半になって俄然重要人物のオーラを帯びてくるようになってきて、しまいにゃ「どきな、そこはあたいの行く場所だよ!」と言わんばかりにベネデッタを差し置いて火中に身を投じていく、その迷いのなさね! 結局、ほんとうの聖女(魔女?)は誰だったのかという部分を象徴的に物語るフェリシータの最期でしたね。

 あと、やっぱり映画は悪役の憎々しさが命というか、ヌンシオ教皇大使を演じたランバート=ウィルソンさんの嫌な感じも最高でしたね! 非常に俗っぽいベネデッタとの監禁部屋での問答も良かったのですが、なんといってもその最期に、瀕死になりながらもニヤリと笑って、「お前はそうやって、いっつも嘘つくのな!」とベネデッタに吐き捨てて逝く皮肉屋っぷりには、ゲスはゲスでもじたばたせずにゲスとして地獄におもむくという高潔なゲス美学を観た思いがしました。う~ん、かっこいい!! エンディングのベネデッタとバルトロメアの別れが映画『シェーン』(1953年)の本歌取りだとしたら、このベネデッタとヌンシオの末期のやり取りは『用心棒』(1961年)の本歌取りですな。ヴァーホーヴェン監督、にくいね!


 『ベネデッタ』、ほんとに大傑作でしたよ! 夏にソフト商品化するらしいから、絶対に買おうっと。
 でも、よそさまのお国の歴史的事件ばっかりおもしろい映画になるのもなんとなくシャクなので、日本でこういうドラマになりそうな事件はないのかな~と思ったのですが、ぱっと思いつくのはやっぱり、明治末期の女性超能力者四天王「長南年恵、御船千鶴子、長尾郁子、高橋貞子」あたりになりますでしょうか。山形県人の私としては是非とも長南さんを推したいところなんですが、さすがに明治政府も近代国家なので公開処刑みたいな画になるクライマックスもないので、まんまドラマ化してもちょっと中世ヨーロッパには勝てそうもないんですよねぇ。バルトロメアさんポジションも福来博士か親戚のおじさんになっちゃいそうだし。その点、やっぱり『リング』はうまい換骨奪胎でしたよね。
 民衆の反乱という意味では、室町時代後期の「百姓の持ちたる国」加賀国一向一揆がダイナミックでいいんですが、こっちもこっちで相手がローマ教皇とか神聖ローマ帝国ほど強くないから、なんだかなーって感じだし。

 『薔薇の名前』のときに言ったかも知んないけど、観たかったなぁ、実相寺昭雄監督の『鉄鼠の檻』! でも、そこに広がるのはタルコフスキー監督もビックリの睡魔召喚し放題地獄だったかも……こわ~!!
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うわさにたがわぬ伝説の一作!! ~映画『未来惑星ザルドス』~

2023年03月05日 14時36分34秒 | ふつうじゃない映画
映画『未来惑星ザルドス』(1974年2月 106分 アメリカ・アイルランド合作)

あらすじ
 2293年の未来。人類は不老不死の特権階級「エターナルズ=永遠人(Eternals)」と、寿命のある「ブルータルズ=獣人(Brutals)」に分かれ、エターナルズは「ボルテックス」という土地に住み、獣人は荒廃した土地でエターナルズのために食料を生産していた。二つの世界は見えないバリアによって隔離され、ザルドス(Zardoz)という名の、獣人達が神と崇める人の頭部を模した空飛ぶ石像のみが往来可能であり、ザルドスは穀物を受け取る代わりにブルータルズの中から選んだ「エクスターミネーターズ=撲滅戦士 (Exterminators) 」という殺し屋集団に武器を渡していた。エクスターミネーターズは、「銃は善なり、ペニスは悪なり」と宣するザルドスの命ずるまま好き放題に同族であるはずのブルータルズを撃ち殺し、その人口を減らしていた。
 あるとき、エクスターミネーターズのリーダー・ゼッドは、貢物の穀物に紛れてザルドスに乗り込み、ボルテックスへ旅立つ。飛行中にゼッドはザルドスを操るエターナルズのアーサー=フレインを撃ち、空中に放り出す。
 ボルテックスに着いたゼッドは、メイというエターナルズの女性に捕獲され、彼女とコンスエラ(Consuella)という女性エターナルズはテレパシーによるゼッドの尋問を行うが、ゼッドは記憶を途中で遮断しており、ボルテックスに来た目的や方法といった肝心な情報は得られなかった。彼女らは観察のためにゼッドを3週間ほど生かしておくことで合意し、ゼッドはエターナルズの男性フレッドに預けられ、肉体労働などの使役を受けることになった。
 フレッドはゼッドに、エターナルズの社会の仕組みを見せる。ボルテックスは「タバナクル(Tabernacle)」という中央コンピューターによって支配され、エターナルズは永遠に若く、争いや生殖もなく、仮に事故などで死んでもすぐに再生される。脳に埋め込まれたチップ「クリスタル」によってテレパシー能力や念力による攻撃能力を持つが、常に思考を監視され、不穏な思考や反逆思考の持ち主には、歳を取らせるという刑罰が与えられるディストピアだった。ボルテックスは当初、科学者の理想郷として建設され人類への貢献が期待されたが、不死不老ゆえの熱意の枯渇によりほとんど成果を出せず、エターナルズは目的を失って無気力状態に陥っている。そんな中でゼッドと接触したエターナルズの中には、ゼッドを不死という名の彼等の牢獄に終焉をもたらす解放者と見なす者が現れるようになった。
 一方メイはゼッドの遺伝子を解析し、ゼッドは普通のブルータルズとは異なり、精神と肉体の能力はエターナルズを凌ぐ可能性があることを見出し、ゼッドの出自と行動にまつわる謎が、次第に明らかになるのであった。


 映画『未来惑星ザルドス(みらいわくせいざるどす Zardoz)』は、アメリカ合衆国・アイルランド合作のSF映画。ブアマン自身による小説版も存在する。製作費157万ドル。
 ジョン=ブアマンは、長年の盟友だったウィリアム=ステアと共に脚本を練り上げ、「未来に突き進む私たちの感情が後退しているという問題を描き出したかった」と語っている。そして、物語の舞台を「現代社会が崩壊した遠い未来」に設定した。
 ブアマンは、「物語を貫く中心的なキャラクターに焦点を当てて作り上げたのです。彼(ゼッド)は不思議にも選ばれ、同時に操られているのです。私は物語をミステリー風味で、手掛かりや謎を解明しながら少しずつ真実が明かされるようにしたかったのです。」と語っており、脚本はオルダス=ハクスリー、ライマン・フランク=ボーム、T・S=エリオット、トールキンの作品やアーサー王物語から影響を受けたという。また、「外的宇宙というよりも内的なものを描いたつもりです。より形而上学的な、優れたSF文学に近いものです。SFというジャンルに悪い印象を与えているのは、ほとんどが宇宙服を着た冒険物語です。」とも語っている。

 ショーン=コネリーの起用についてブアマンは、「彼は007ジェイムズ=ボンド役を降りたばかりで、仕事がなかったんだ。だから私のところに来たんだよ。」と語っている。シャーロット=ランプリングは出演の理由について、「詩的だったからです。脚本には身体を愛し、自然を愛し、そして生まれてきた場所を愛せとはっきりと書いてありました。」と語っている。海岸でエクスターミネーターズに虐殺される獣人たちは、撮影現場周辺にいたジプシーによるエキストラ出演である。また、このシーンでゼッドに最初に殺される獣人はブアマンが演じている。この他、ゼッドがエターナルズから知識を授かるフラッシュバックシーンにはブアマンの3人の娘がカメオ出演しており、当時妻だったクリステル・クルーズ=ブアマンは衣装デザイナーとして参加している。
 製作費は20世紀フォックスが出資し、製作はブアマンが所有するジョン・ブアマン・プロダクションズが手掛けた。主要な撮影は1973年5~8月に行われた。撮影にはスタンリー=キューブリックがテクニカル・アドバイザーとして参加しているが、クレジットはされていない。
 撮影はアイルランド東部のウィックロー県で行われ(ブアマンの自宅から約16km 圏内の場所だった)、ザルドスの石像が飛行するシーンは県内の町ブレイのスタジオの駐車場で撮影され、石像はケーブル操作で動かしていた。撮影中、コネリーはブレイに居住しており、この時に住んでいた邸宅は彼が死去する数か月前に競売に出されている。ブアマンはブレイの景観を気に入っており、『エクスカリバー』(1981年)など複数の作品の撮影を同地で行っている。また、当時はアイルランド共和軍(IRA)の活動が活発だったため銃器の持ち込みができず、ブアマンは撮影地の変更を検討していたが、技術スタッフの一人がIRAメンバーだったことが判明し、彼を通してIRAと交渉した結果、撮影地への銃器の持ち込みが認められたという。ゼッドとコンスエラが老いていくシーンは1日かけて撮影され、ラストシーンで映し出される手形はブアマン自身の手形が使用された。

 ブアマンは使用した楽曲について、イギリスの古楽研究家デイヴィッド=マンロウに作曲を依頼した。物語の舞台は23世紀の未来世界だが、これについてブアマンは、未来的な音楽には旧世界の様々な楽器の音色が含まれていることが相応しいと考えていた。そのため、ブアマンは中世の楽器(鐘や笛など)を使用するようにマンロウに指示している。また、マンロウが作曲した中世楽器の音楽の他にルートヴィヒ=ヴァン=ベートーヴェンの『交響曲第7番 第2楽章』も使用された。

 1974年2月6日からアメリカ合衆国のロサンゼルスとニューヨークで公開されたが、批評家からは酷評された。また、観客からも複雑な世界観は受け入れられず批判の対象となった。スターログは「大半の批評家(そして観客)は、ブアマンのアナロジーや哲学的な主張を理解できなかった。」と批評しており、こうした空気の中で「鑑賞する価値がない映画」と判断され、上映館では空席が目立つようになった。当時の観客の証言によると、「映画を観終わった観客がロビーに戻ってくると、次の上映待ちの人たちに観賞せずに帰るように促していて、その光景が何度も繰り返されていた。」という。チケットの売上も低調で、アメリカ合衆国・カナダの最終的な配給収入は180万ドルに留まっている。
 ブアマン自身は、「非常に耽美で個人的な映画だが、それを実現するためには十分な予算とは言えなかった。」と評価している。

 本作は、時代を経るごとにカルト的人気を集めていることが指摘されている。1992年にロサンゼルス・タイムズに寄稿したジェフ・バルチャーは「熱狂的なSFファンにとって、この映画は知性が人類を圧倒し、人類が不死を実現した時に何が起きるのかを見せてくれるサイケデリック体験だ。」と批評し、ブアマンが自分自身の思い描くヴィジョンの一部を実現した作品と位置付けた。こうした再評価が進む中で、本作は1970年代の映画の中で最も荒々しくて野心的な古典作品と認識されるようになった。


おもなキャスティング
ゼッド   …… ショーン=コネリー(43歳 2020年没)
コンスエラ …… シャーロット=ランプリング(28歳)
メイ    …… セイラ=ケステルマン(30歳)
フレッド  …… ジョン=アルダートン(34歳)
アーサー=フレイン / ザルドス …… ナイオール=バギー(25歳)
囚人ジョージ=サデン …… ボスコ=ホーガン(24歳)
老いた科学者  …… クリストファー=カソン(61歳 1996年没)
タバナクルの声 …… デイヴィッド=デ・キーサー(46歳 2021年没)

おもなスタッフ
監督・脚本・製作 …… ジョン=ブアマン(41歳)
音楽 …… デイヴィッド=マンロウ(31歳 1976年没)
撮影 …… ジェフリー=アンスワース(59歳 1978年没)


≪年度末は忙しい!! 本文マダナノヨ≫
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時をこえる女優・千石規子のものすごさを観よ! ~映画『静かなる決闘』~

2023年02月21日 22時27分00秒 | ふつうじゃない映画
映画『静かなる決闘』(1949年3月13日公開 95分 大映)

 映画『静かなる決闘(しずかなるけっとう)』は、日本映画である。
 原作は菊田一夫の戯曲『堕胎医』で、梅毒に感染した青年医師の苦悩を描いたヒューマンドラマ。東宝争議の影響で東宝を脱退した黒澤が、初めて他社で製作した作品である。第23回キネマ旬報ベスト・テン第8位、第4回毎日映画コンクール男優演技賞(志村喬)を受賞した。
 菊田の戯曲『堕胎医』は、千秋実が主宰する劇団薔薇座によって1947年10月に東京・日劇小劇場で上演されており、演出は千秋の岳父である佐々木孝丸が担当した。黒澤が偶然にその舞台を観劇し感動したことから本作が企画され、これをきっかけに千秋は黒澤映画の常連俳優となる。
 当時、黒澤が所属する東宝は第3次東宝争議(1948年4~10月)によって映画撮影が困難になっていた。黒澤は山本嘉次郎、谷口千吉、本木荘二郎らと「映画芸術協会」を設立して東宝を脱退し、他社での製作を余儀なくされた。その第1作が本作であり、以降『野良犬』『醜聞』『羅生門』『白痴』を他社で制作している。

あらすじ
 太平洋戦争中、野戦病院で軍医として働いていた青年医師の藤崎恭二は、患者の中田進上等兵の手術中に誤って自分の指に怪我をし、中田の梅毒に感染してしまう。復員後、藤崎は父の経営する産婦人科医院で働くことになったが、梅毒の感染を隠し、婚約者の美佐緒と結婚することができずにいる。美佐緒は藤崎が自分に対して距離を置き、いつまでも親しくなれないことに苦悩していた。ある日、藤崎が自分の病気の秘密を父親に告白しているところを、見習い看護師の峰岸るいが立ち聞きする。峰岸は元ダンサーで暗い過去を持ち、藤崎の日頃の誠実な言動に反感を抱いていた。その後も藤崎は己の病と闘いながら、訪れる患者に対しては黙々と治療を続けていく。その一方で秘密を聞いたことで藤崎に対するわだかまりが解けた峰岸は、人間的に少しずつ成長していくのであった。そんな折、藤崎は偶然に元患者の中田と再会し、中田が自分の梅毒を放置したまま結婚し、近々子供が生まれることを知る。

おもなスタッフ(年齢は公開当時のもの)
監督 …… 黒澤 明(39歳)
原作 …… 菊田 一夫(41歳)
脚本 …… 黒澤 明、谷口 千吉(37歳)
音楽 …… 伊福部 昭(34歳)

おもなキャスティング(年齢は公開当時のもの)
藤崎 恭二  …… 三船 敏郎(28歳)
松本 美佐緒 …… 三條 美紀(20歳)
藤崎 孝之輔 …… 志村 喬(44歳)
中田 進   …… 植村 謙二郎(35歳)
野坂巡査   …… 山口 勇(45歳)
峯岸 るい  …… 千石 規子(26歳)
中田 多樹子 …… 中北 千枝子(22歳)
看護婦・今井 …… 町田 博子(24歳)


≪本文まだです。≫
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