ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

長野県松本~レトロとモダンと虫食と

2014-01-01 | つれづれなるままに

皆様、明けましておめでとうございます。

我が家は一足お先にお正月気分を満喫してきました。
今回の旅は、長野県松本市。

松本というところは、昔家族旅行で善光寺とか青木湖に
来たことがあるような気もしますし、冬には何回かスキーに来たことが
あるような気がする、というくらいで、
わたしにとって「かすかな観光の想い出」しかない県なのですが、
今回ご縁があって、松本にある温泉旅館とその系列のレストランを訪ねてまいりました。

土地のおいしい料理と上質な温泉、洗練されたお・も・て・な・しを楽しむ旅。



朝8時に家を出て、お昼前には松本駅に到着。
松本駅の駅舎はすでにこのような超モダンなものになっていました。
というか、前にはどんな駅だったのか全く記憶がありません。



長野県の観光資源というのは「日本アルプス」でもあるんですね。
駅前からタクシーで、お昼ご飯をいただくレストランに移動します。



松本市というのは、いまだにこのような旧家屋がたくさんあります。
地震もなく、戦災にも遭わなかったからでしょうね。

このレストランも、このような商家だったらしき家をそのまま、
ただし水回りなどは超モダンにしてそのまま利用しています。



お店の看板も、いかにも今風。
こういう、「和と最新モダンの融合」みたいなお店が、
今地方都市にも現れているんですね。

地元の農家を通じて手に入れた新鮮な食材を、一流のシェフが料理し、
日本の古い家屋をそのまま利用したインテリアの雰囲気を楽しみながら
お料理を楽しむ。

このレストランも、そういったフュージョンを取り入れた話題のお店です。





唐傘の隣にある振り子の時計は、百年以上経っているとのこと。
百年の間時を刻み続けていた時計。



お昼は和食をいただきました。
わたしが選んだのはそば。
ただ「そば」を頼んだだけなのに、いろいろとお惣菜がついてきます。
天ぷら、刺身、そして・・・・・



こ、この、顔を隠して横たわっているお方は・・・・!

そう、ここは長野県。
日本でも特に昆虫を食する文化のあるお土地柄。
あまり何も考えずに「佃煮だ~」と思って一口。(というか一体)
甘くて歯触りはカリカリ、決して悪いものではありませんでしたが、
こうやって写真に撮ったりしていると、やはりなんといいましょうか、
少し食べるのに勇気がいるような気がしてきてしまいました。

「こういうのって皆好きで食べているのかな」
「好きとか嫌いとかじゃないんじゃない?長野では普通に食卓に乗ってるもので」
「はあ、お正月の昆布の煮しめみたいなもんですかね」
「その心は」
「好きな人なんていないけど、そういうことになっているから食べる」

食卓に乗っていれば食べるかもしれないけど、長野の主婦はわざわざ
イナゴだのザザムシだのの死んだのを買って来て煮付けたりするんだろうか。
もしかしたら、長野県人は総じて虫には耐性があって、台所に何か出て来ても、
他府県の主婦のようにキャーキャー騒いだりパニクったりしないのだろうか。

狭い日本と言えども、こういうときはいろんな文化があるなあと考えてしまいます。



ご飯がすんだ後は、今夜泊まるホテルに移動。
東京の丸の内ホテルと系列なのかと思ったら、全く無関係で、
「お城があるところはどこでも丸ノ内っていうんだよ」
そういえば名古屋にも丸ノ内ってあったような気がするな。



ホテルからの眺め。
町並みの向こうに連なる山々が、ここは盆地であることを改めて感じさせます。

ところで、ここに着いたときから、わたしと息子はわたしの持っているwifiが、
大変つながり難くなったことに閉口していました。
さらに、ホテルの部屋のインターネット回線は有線で、macは使用不可能。
わたしの場合、一日1エントリをアップするという使命があるので、
貯め置いたエントリが一ヶ月分あるとはいえども、こういう時間のあるときに
インターネットが使えないというのは辛い。

「うーん・・・遅い」
「ママ、iPhoneのテザリング申し込まなかったの?」
「しなかった。auの人がいつでも出来るっていうから」

そこでふと「いつでもってことは今できるってこと?」と思い立ち、
ホテルの部屋でパスワードを思い出しながら苦労してテザリング機能を追加申し込み。
あっという間に機能は追加され、試してみると全てのデバイスがするっとつながります。

「やったー早い」
「最初から申し込んでおけば良かったね」

しかし、この後訪れる山間の温泉はwifiどころか電話すら通じない閉ざされた空間であるということを
このとき喜んでいる二人は知る由もなかったのである。
おそるべし長野。

そんなことをしているうちに、夜の食事の予約時間となりました。



本日のディナー会場でございます。

なんだか昼の和食レストランと似ているなと思った方、あなたは鋭い。
このレストラン、昼間の和食レストランの隣にあり、同じお店。
地元の素材(イナゴ含む)を使った伝統的な和食を出し、
この隣では、新進気鋭のフレンチキュイジーヌのシェフが、創作料理の腕を奮うのです。



フレンチキュイジーヌのエントランス。
偽物の電気暖炉などではなく、本物の練炭が燃えています。



なぜか黒板に書かれた謎の文章。



エントランスを抜けると、中庭を敷石を渡りながら歩いていきます。
この蔵は、無形文化財に指定されています。





同じように旧家を使っていますが、この建物は昼間のレストランの、
庭を挟んで向かいに建つ別の家屋です。



ふと上を見上げれば、柱にはこの建築を請け負った大工の棟梁の名前が、
墨痕も鮮やかに黒々と書かれています。

この署名は、上棟式という建物の無事を祈って行われる祭祀で行われるもの。

この梁(うつばり)は、このように改築される前はおそらく天井裏にあり、
従ってこの棟梁のサインも人の目に触れることはなかったに違いありません。
おそらく百年は経過していると思われるこの墨が全く色あせていないのは、
陽の当たらない闇に長らくあったからではないかと思われます。

百年後、日本人の建築に対する意識が変わり、よりによってインテリアとして
自分の名前が人目にに晒されるとは、伊太郎棟梁も夢にも思っていなかったに違いありません。



食事の始まる前に、お店からシャンパンのプレゼントが。
この日はクリスマスの特別ディナーだったのです。
なんと、皇室御用達のシャンパンだそうです。

我が家は示し合わせたようにわたしもTOもお酒が飲めず、
一口でも飲むと、TOは眠くなり、わたしは顔が真っ赤、という下戸夫婦。
フランス人は、ワインも飲まずに料理を食べるということが信じられないらしく、
オーダーのとき「お酒飲めないから水」と言おうものなら
「カエルかよ」
と陰口を叩くらしいのですが、「下戸」というのが蛙の鳴き声と同じというのは
何とよくできた話なのでしょうかげこげこ。



しかし、お店(というかこの会社の一番偉い人)の好意を
「飲めませんからげこ」
と断る勇気を、わたしもTOも、日本人として持ち合わせておりません。
今宵はクリスマス、飲めないなりに飲んだふりをして、
この上等のシャンパンの「ずっと消えない」という泡を目で楽しもうではないか。

因みにわたしはシャンパンの味は大好きで、
このグラスで2センチ水位が減るくらいは飲んでみました。
飲んだってより啜った、という方が正しいですが。

そのおかげで、食事中、ずっと赤い顔をしていました。
おまけに自覚はないままに会話の内容が明らかに酔った人のそれになっていて、
家族に「飲み過ぎ」と注意されてしまいました。



二皿目のプラチナサーモン。
泡は、それそのものがゆずの味で、ドレッシングのようになっています。



フォアグラのポワレ。

付け合わせは大根。
フォアグラというものはそのまま出されると苦手なのですが、
あの独特の「肝臭さ」が、ソースによって絶妙の旨味に昇格していました。



スズキの真空料理。
スズキというのもヘタな料理人にかかると、パサパサしたものになって、
せっかくのディナーが文字通り味気ないものになってしまうのですが、
この、真空パックによって魚身の旨味を閉じ込め、外側をパリッと焼いて、
香ばしさで蓋をするというお料理は絶品でした。 




伊達鴨のロースト。
我が家は全員牛より豚、豚より鶏、鶏より鴨、という順で鴨が好きです。

チキンも地鶏なら身が締まった美味しいものもありますが、それより
脂肪がすくなく、身に旨味がぎゅっと詰まっているからです。

またしても泡が料理を覆っていますが、これもソースの役目。



デザートはフレンチトースト。

この日は地元のミュージシャン(ヴォーカルとギターのデュオ)の楽しいライブが入っていて、
クリスマス気分を満喫しました。



明けて次の日。
ホテルをチェックアウトしたあと、ランチまでの時間、
少し松本の町を歩いてみることにしました。

敷石がきれいに舗装されている、ここは門前町で、
お正月の注連縄を売る店や、土産物屋が立ち並んでいました。



思わず「おお」と見とれてしまったレトロな珈琲店。
時間があれば入ってみたかったです。
まるも、というのは、この家のもとの印から取っている店名のよう。

こういった家屋が普通に観られるので、観光客は町歩きをするだけで
十分な旅行情緒を味わえます。
わたしは昔ここに来たことがあるはずなのですが、こんな家屋に全く記憶がありません。
子供でその風情が理解できなかったせいでしょうか。

この辺りには、外国人観光客の姿が目につきました。
見た目外国人とわからない外国人も結構いると思われます。
古い家屋なのに、英語の看板をあげている宿屋もあり、
外国から来た観光客にはこういう情緒が非常に喜ばれるのでしょう。




このお店は、佃煮屋さん。
長野の主婦は自分で虫類を調理せずとも、このようなお店で
売っているお惣菜を買ってくる人が殆どだと見た。

ここは佃煮の他、やまめやイワナの甘露煮、そしてワインも扱っており、
地ワイン、ボジョレーヌーボーの貼り紙もあります。 

そして気になる「虫系の佃煮」は、

さなぎ
いなご
ざざむし
はちのこ

うーん・・・ざざむしって何かしら。

フランツ・カフカの「変身」で、主人公がある日目覚めたら
変身してしまっていたというあの虫のことかしら。

節子それざざむしちゃう、グレゴール・ザムザや。←自己ツッコミ

ざざむしの正体がわからんので、取りあえずwikiってみました。
ざざむし、という虫はおらず、



カワゲラ



トビゲラ



蛇蜻蛉(ヘビトンボ)

の幼虫のことを、「ザーザーした水にいるから」ということで
ざざむしと総称しているそうです。

「気色の悪いもの見せるな!モノ食べてるのに」

と思われた他府県の皆様、これは「食べ物」ですからね。

まあ、虫は良質のタンパク源で、海無し県の長野人に取っては、
貴重な栄養であったことは重々理解しますが、それにしても
最初に食べることを考えた人はチャレンジャーだよなあ・・・。

「普通に蛇の生裂きを食べてますが何か」

節子それチャレンジャーちゃう。レンジャー隊員や。



と新春早々くだらんシャレと閲覧注意画像が炸裂してしまい、
まことに今後に不安を感じる当ブログでございますが、次参ります。

このざざむし屋の向かいには、薬屋さん。

「いいねいいね~」
「まるで黒井健の『手袋を買ひに』みたい」

代々薬局を営んでいる家らしく、軒には「薬」と書かれています。
この他、写真は撮れませんでしたが、まるで

「イシャはどこだ!」

のつげ義春「ねじ式」に出てきそうな眼の看板の眼科もありました。

そうやって時間を潰し、昨日のレストランと同じ会社がやっている
創作和食のお店に、昼食をとりに参りました。

ここで丼ものを頼んだら、その後仲居さんが来て、

「当店の板長が、もし差し支えなければお任せいただきたいと申しております」

昨夜のワインといい、お昼なのにお任せといい、
それもこれも我が家とここがちょっとしたご縁があることから、
計らって下さっているわけですが、ありがたいことです。
謹んでお受けしたところ、



馬刺しがでてきました。

「なにこれ」(息子)
「馬」
「馬?」
「だからホース」

そこで、博学のわたしが、昔文禄、慶長の役当時、
補給線を絶たれ食料が底をついた加藤清正軍がやむを得ず軍馬を食したのが
馬食の始まりであることを説明してやりました。

ついでに、当時全く反響のなかった渾身の写真馬漫画、
「チッチとサリーの物語」
を読んで下さると嬉しいです。

 

そしておつゆと焼き物。
量も多すぎず、大変結構なお昼ご飯でした。

このあと、このビルの向かいにある丸善の「軍ものコーナー」が、
異常なくらいの充実ぶりだったのでついかぶりつき、
移動の途中だというのに本をしこたま買い込んで、夜の目的地、
山間の温泉に向かいました。



タクシーでわずか20分。
そこにはまたもや「つげ義春」のような世界が?


続く。