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映画「ペチコート作戦」〜オペレーション・アンダーガーメント

2017-12-09 | 映画

 映画「ペチコート作戦」最終回です。

ところで、英語のコメディ映画というのはその面白さがわかりにくい、
とよくいうところですが、今回これを書くためにセリフをチェックして、
改めて翻訳が面白さを阻害しているということを実感しました。

例えば、前回の豚泥棒のシーケンスでの会話には、一見普通の表現なのに、
『ピッグ』という単語を含む言葉が選択されていて、それがシャレになっています。

しかし日本語では全く普通の表現として翻訳されてしまうので、
字幕では面白くもなんともないということになってしまいます。

英語のコメディはそのほとんどが外国人にはその面白さの
4割くらいは理解できていないと思っていた方がいいかもしれません。

1941年12月31日。

セブで新年を迎えることになった潜水艦シータイガーの乗員たち。
ピンクの潜水艦上ではニューイヤーズ・イブのお祝いの宴会が行われています。

「いい肉ですよ。いかがですか艦長」

「いや、ホーンズビーとは一緒にいすぎて情が移ってしまった」

宴席でシャーマン艦長は看護部隊隊長ヘイウッド少佐から

「クランダール中尉があの一件以来艦長のお怒りを買ったとしょげているので、
艦長からせめて宴会に出るように言ってやってほしい」

と相談され、魚雷誤射の件を怒っていないというために部屋にやってきました。

うーん、しょげているという割にはクランダール中尉、
ウッキウキしながら
髪の毛をアイロンでセット中なんですけど?

「艦長・・・色々と失敗してしまってすみません」

「わたしも短気だったよ。謝る」

いや、謝ることはないぞ、艦長。こういう人はまた同じようなことを・・

ほらね。
クランドール中尉が置きっぱにしたヘアアイロンの上に座ってしまい・・。

ちなみに前回書き忘れましたが、潜水艦「ボウフィン」はタンカーを攻撃した魚雷が
陸に打ち上がってしまいバスを「撃沈」してしまったことがあるそうです。

もちろんクランドール中尉のような人が間違えてスイッチをおしたのではありません。

こちら宴会場。
自然発生的に看護師たちにはお相手ができ、いがみ合っていたはずの
トスティンと少佐も
機械の整備の話ですっかり打ち解けています。

そんな中トルピードマンのモーが歌い始めたのは「オウルド・ラング・サイン」。
日本語で言う所の「蛍の光」を全員が神妙な調子で唱和します。

この映画唯一のホロリとくるシーンです。

救命ボートが一隻なくなり、さらにホールデン中尉とデュラン中尉が行方不明、
と聞いていた艦長、二人がボートで(正確にはデュラン中尉が泳いで)
どこかの島から帰ってくるのを目撃します。

二人きりで小さな無人島に行ってイチャイチャ、までは良かったのですが、
デュラン中尉、結婚してくれると思っていたホールデン中尉には
実は婚約者がいると本人の口からはっきり言われて大激怒。

結婚は「ビジネス」なので、貧乏人同士が結婚しても決して幸せにはなれない、
というのがホールデン中尉の持論です。

「君みたいな美人にはもっと金持ちの男が似合う」

「だからずっといい友達でいようよ」

あーでた。友達という名のセ●レに確保しておこうってことね。

その時敵機来襲。
日本軍がついにこの地にも進出してきたのです。
なぜかカウリングを赤く塗った(多分日の丸とマッチングさせてる)
零戦21型がまたしても空襲にやってきました。

このころの零戦は強くてね・・。連合軍に恐れられてたもんですよ。

しかしこの映画、海軍の全面協力で制作されただけあって、
真珠湾攻撃に緑の零戦が出てくるあの大作なんかよりずっとちゃんとしてます。

せっかくのご馳走を甲板に放置したまま潜航準備が始まりました。

ところで向こうの方に駆逐艦らしき姿が3隻も見えるんだけど、
零戦としては潜水艦より向こうを狙うのが定石なんじゃあ・・・。

この撮影はサンディエゴの海軍基地で行われたということですから、
もしかしたら当時現役の軍艦が写り込んだのかもしれません。

いつもギターで辛気臭い歌を歌っている水兵は、命の危険を犯して
ギターを取りに戻りましたが、銃撃にやられてしまいます(ギターを)

その時、なぜか現地のカジノ(つまり物資を調達してきた補給処)の
ディーラーの
家族(身重の女性二人、子供多数、親戚)が乗り込んできます。

例によってホールデン中尉が便宜を計らってもらう代わりに
勝手にオーストラリアに連れて行く約束をしてしまったのでした。

零戦の空襲から逃れるためにシータイガーは潜航。

とにかく、急いで出航したため、宴会の後ペンキを塗り直すこともできず、
シータイガーはピンクのまま太平洋を航行する羽目になってしまいました。

ディーラーが子供にミルクを飲ませるために連れてきたヤギも一緒です。
ちょうどその時、艦内で出産が始まり、めでたく男の子が生まれました。

「おめでとうございます!艦長!」

「・・・・・・・」

おまけにもう一人の身重の女性も陣痛開始。
なんで二人示し合わせたように同時に出産するんだよー(笑)

乗員は全員が父親のように心配して陣痛を見守ります。

さて、海上航行中、シータイガーはラジオ「東京ローズ」を受信しました。

「次のメッセージはセレベス海を航行中のピンク潜水艦に向けて。
みなさん、新年の休暇をとって、降伏なさい。
何のつもりかわからないけど、そのピンクではすぐに見つかるわ。
あなたたち、死にたいの?

それではそんなあなたたちにふさわしい曲を」

そしてエロール・ガーナーの「I'll remember April 」が流れます。

すごいなと思うのは、この曲がリリースされたのは1941年の暮、
つまりまさにこの映画の1942年のお正月にヒットしていたということです。

東京ローズのいう「ふさわしい」というのは、この曲は戦争で
愛しい人を失った者の気持ちを歌っているということにつきましょう。

東京ローズはこうやって日本軍が掴んでいる情報をネタに米兵士に向けて挑発し、
戦意を失わせたり不安にさせたりといった工作を行っていたわけですが、
驚くことに、この逸話も実は本当にあったことでした。

1945年12月10日、シータイガーのモデルになった潜水艦「シーライオン」が
日本軍の爆撃で燃えた時、隣にいた「シードラゴン」SS194も甚大な被害を受け、
自分自身が爆撃を受けただけでなくシーライオンの燃える熱を受けて、
艦体はこげ、黒い塗装は溶けて気泡を生じました。

それでしばらくの間シードラゴンは赤い下塗装のまま任務についていたのですが、
東京ローズの放送でシードラゴンは彼女に

「レッド・パイレーツ・サブマリン」

と嘲られたということがあったそうです。

なお下塗りに赤色が足りないとピンクになってしまうことも可能性としてあるそうです。

東京ローズの放送は米太平洋艦隊にも警戒を与えました。
つまり、「ピンクのサブマリン」は実は日本の潜水艦であり、それを隠すために
東京ローズはあえて放送で挑発してみせたのではないかと考えたのです。

「その手には乗らんぞ。
全艦隊に布告、ピンクだろうと他の色だろうと、
国籍不明の潜水艦は直ちに撃沈すべし!」

そしてついにシータイガーが手ぐすねを引いている米駆逐艦に発見される日が来ました。

「浮上したぞ」「例のピンク潜水艦だ」

「爆雷攻撃用意!「逐次発射!」

ちょ・・・・(笑)

信号を送ろうとして甲板に上がった艦長が見たものは味方駆逐艦の艦砲攻撃でした。

「急速潜行!」

すっかりやる気の駆逐艦、全速前進で今度は爆雷攻撃を・・・。

潜行するシータイガーを爆雷の雨が襲います。

「2番潜望鏡パッキン破損!」

シータイガーを攻撃している駆逐艦は艦番号568「レン」(WREN)
1944年の就役ですから、開戦当時には存在していませんが、
まるでこの船を宣伝するかのように大々的に番号が映されます。

電気系統に海水がかかり、両舷停止してしまったシータイガー。
絶体絶命の危機です。

しかもそんな時に二人目の妊婦が双子を出産し、艦内に赤ん坊の泣き声が響き渡りました。

駆逐艦のソナーはすぐさまそれをキャッチします。

「新型兵器かもしれん」

ってそんなわけあるかーい!

なんとしででも赤ん坊を泣き止ませねば。
というわけでホールデン大尉が両手に赤ちゃんを抱くと、
あら不思議、同時にピタリと泣き止むではありませんか。

これも本物だよね。

ここでシータイガーは備品以外を全て発射管で打ち上げ
潜水艦が沈没したと見せかける作戦に出ました。

「沈没に見せかける罠かもしれん」

その通り。ただしそれをやってるのはあなた方の味方なんですけどね。

「爆雷を続けろ」

容赦ない爆撃に機関室で抱き合って恐怖に耐える二人。

この時役立たずのはずのホールデン中尉にピコーンとアイデアが閃いたのです。

「艦長!我々は送るサインを間違えました」

「看護兵はすぐに部屋に戻って下着(アンダーガーメント)を脱げ」

「ホールデン中尉がすぐに集めに行く」

そして発射。

ぷわわわ〜〜〜んと艶かしいサックスの音色をBGMに、
あんなものやこんなものが海中を漂い・・・

そして浮上。

「引きあげろ!」

「早くこっちによこせ!早く!」

駆逐艦艦長、そんなに焦らなくていいのよ?

林間学校に参加する生徒じゃあるまいし、アメリカ海軍では
下着に名前を書かないといけなかったのか、という疑問はさておき。

クランダール中尉の名前が書かれた下着です。(なぜ階級まで)

そして駆逐艦艦長はそれが同胞の潜水艦から発射されたものであることを
即座に看破したのです。

「Japanese has nothing like this!」(日本の女ならこんなのつけない)

おいいい!艦長!貴様その発言で日本中の女を敵に回したぞ。
というかもうすでに日本人は敵になってましたけどね。

「攻撃中止!」

って命令を出した後もいつまでもしみじみ眺めてんじゃねーよ艦長。

というわけで、駆逐艦に守られてはなばなしく帰還となったシータイガー。

「艦長、夜間に入港すべきでした」

この撮影はサンディエゴで行われました。
彼らは潜水母艦「ブッシュネル」のおそらく本物の乗員だと思われます。

ブッシュネルって、あれよね。「ブッシュネルの亀」の。

ちなみに1941年にはまだ「ブッシュネル」は就役しておらず、
これは映画のミスとされています。

そのときまたしても1番エンジン出火。

そんな思い出を日誌に呼び起こされた艦長、いや海軍少将シャーマン。
感慨深げに日誌を手にし、艦長室を後にします。

そのとき岸壁にシータイガーの最後の艦長がタクシーで到着しました。
美しい妻と二人の黒髪で青い目の男の子も一緒です。

艦番号393の潜水艦は実は当時現役だった「クィーンフィッシュ」です。

阿波丸を沈めたことでも日本人には悪名高い?潜水艦ですが、
1959年の映画製作時
彼女はちょうどサンディエゴにいたことがわかっています。

彼女は実験艦として現役生活を終え、1963年には殊勲潜水艦として
スクラップではなく「ソードフィッシュ」の雷撃で海に沈むという
誇り高き最後を遂げたということです。

そしてシャーマン少将に敬礼をする最後の艦長は・・・・
あら、ホールデン中尉・・・じゃなくて少佐じゃないですか。

あれ以来すっかりやる気になって、潜水艦一筋でここまで来たんですね。
しかも、

「新型原子力潜水艦が1ヶ月後就役する。
名前はこれと同じ『シータイガー』だ。
君を艦長に推薦しておいた」

1959年ごろ竣工された新しい原子力潜水艦というと、実際は
「ジョージ・ワシントン」 SSBN-598ということになります。

あのホールデン中尉が原潜の艦長をするくらい優秀な軍人になったのか・・・(棒)

シャーマン少将は、船から持ち出した艦長日誌をホールデン少佐にわたし、

「君に思い出をあげるよ。
息子さんたちには大きくなって理解できるようになるまで見せないほうがいいが」

シータイガーを降りると、岸壁にはホールデンの家族が待っていました。

なんと、この金髪は・・デュラン中尉じゃないですかー。

「ところでわたしのワイフは?」

ワイフ、やってくるなり公用車に派手に追突。

「やっぱり家内だ」

かつてのドジ看護士クランダール中尉の16年後の姿でした。

彼ら全員の出会いとなったシータイガーが最後の出航を行います。

相変わらずのシャーマン夫人をみて微笑むホールデン。
もし富豪のお嬢様と結婚していたら彼の今日はなかったでしょう。

 しかし最後の最後まで・・岸壁をはなれるや、シータイガーエンジン出火。

「また1番エンジン・・・ついに治らずか」


エンドタイトルにはアドバイザーとして

ルシウス・H・チャッペル少将

の名があります。
チャッペル少将はかつて潜水艦「スカルピン」の艦長として
ネイビークロスを授与された
筋金入りのサブマリナーでした。

この映画の本職も注目する細部のリアリティは、チャッペル少将の助言、
そして海軍の全面協力によるところが大きいでしょう。

 

それからわたし個人の感想を一言だけ言わせていただくと、
戦争を題材にこんなコメディ映画が作れるというのは羨ましい、に尽きます。
日本では未来永劫制作不可能なジャンルだと思いました。


最後に、このタイトル。
正確にはあれ、「オペレーション・ペチコート」じゃないですよね?
まあペチコートも中には含まれていたのかもしれないけど・・。

 

終わり