ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

アメリカ人と泳ぐ犬

2011-09-01 | アメリカ

アメリカに住むのなら、犬を飼うのはさぞ楽しいことだろうなあ、とずっと思っていました。
広い家は原則土足ですから(日本人でなくても土足厳禁の家は多いですが)犬も当然室内飼い。
大型車に乗せて10分も走れば大抵の都市には海岸や公園、池があって
散歩する場所に事欠きません。
ドッグランなどとわざわざ行かなくても愛犬を解き放って思う存分遊ばせられるのです。

 

サンフランシスコではゴールデンゲートブリッジのクリッシーフィールドでウォーキングしましたが、
ここでは犬の品評会のようにいろんな犬と飼い主の散歩風景が鑑賞できました。
二匹飼って彼らが転がりまくってじゃれるのを見て楽しむ人も多いようです。
かと思えば、余世を一緒に過ごしている、と言った感のある落ち着いたペアも。

 

右写真はミッション・ドロレスの一角にある公園。
日本でも見られる「犬ともだちの集会」。
全く一緒の光景ですね。
飼い主同士で「ジョンのお父さん」「プーチのママ」とは呼び合うことはないとは思われますが。

「アメリカの犬は幸せかもしれない」と以前書いたことがあります。
家も広く、遊び場には事欠かないアメリカの犬は、確かにマンションの一室で買われていたり
ろくに自然もないような所で繋がれっ放しの日本の犬よりは恵まれているように思っていました。


 

何と言ってもこうですから。
水辺に行って犬を泳がせる。
ボールを投げたら喜んで犬は飛び込み、一生懸命泳いで取りに行く。
犬好きにはたまらない「遊び」に違いありません。

犬を飼ってこういうことをしてみたい、という人は実に多いものらしく、サンフランシスコの夏でも誰も足さえつけようとしない冷たい海であろうが、緑色で底がどうなっているのか分からないような池であろうが、こうやって「犬を泳がせるアメリカ人」がどこの水辺にもいます。
 

このなんだかひょうきんな感じの犬の飼い主の持っているオレンジのものは「ボール投げ器」。
散歩に来る人がよく持っていて、これで時には海の中にボールを放り、犬に取りに行かせます。
若い活発な犬なら喜んで冷たい海に飛び込むのです。

  
この白い犬と鍛えた筋肉のおねえさんのペアは、この夏、ボストンでウォーキングしていた
ホプキントン・ステートパークで毎日見かけました。
土手の上からおねえさん、走りながら湖面にボールを投げ、何度も何度も取りに行かすのですが、

UTェTU 「ハアハアまだやるんすか」
(ノ・_・)・・・━━━━━━━○

UTェTU 「ああっそれをされると身体が勝手に・・・・!」どぼーん
 


厳しい飼い主のため、この犬、毎日毎日異様なくらい泳がされていました。

でも、上の写真を見てわかると思いますが、トレーニング?の後はこうやって声をかけ、
「よくやったわジョン!」
などと労をねぎらう愛情あふれる飼い主さんです。
それに、この湖は水深があり、底がどうなっているのかちょっと怖いくらいなのですが、
まだしも水はそんなに汚くありません。

アメリカ人がこうも犬を泳がせたがるのは、シーズーを飼っていた友人のダイアンが言うように
「犬の匂いが我慢できないの!だから毎日洗うのよ」という理由、つまり
犬を遊ばせてついでに洗濯もしてしまうという意図あってのことなのかと思っていたのですが、

少なくともこの湖(サンフランシスコのマーセド湖)を泳いできれいになるとも思えない・・・。
その疑問はロスアンジェルス在住の友人と今回その話をしたときに氷解しました。
彼女いわく
「浜辺を犬と散歩して犬のためにボールを投げてやる。
そういうことをしている自分が好きなのよ結局



つまり、このような美しい映像を自分でイメージして、それを実現しているオレ、に酔うために
犬を飼うんでしょうか。
余裕のある暮らし、それを楽しむ生活、そういうライフスタイルを実践する自分。
そういったものをわかりやすく形作るために、彼らは犬を飼い、車で水辺に出かけ、
ボールを投げて犬に拾わせるのでしょうか。

いつか犬が老いてボールを取りに行くどころか、寝たきりの要介護犬になっても
同じように家族の一員として愛し続けることは、
そういうイメージだけで犬を手に入れるような人には荷が重いのではないかしら。

まさにそれに気づくと同時に、どこの犬の散歩場所にも業者の車が止まっているのに気付きました。


そう、日本でもあるようですが、犬を散歩させる業者です。
忙しくて散歩させられない、という人はこんなにもいるのか、と驚くほどです。
飼い主はリードをつけないことが多いですが(場所にもよります。街の一角のスクエアと言われる公園はリードを義務付けられているところもありますが、やっぱりみんなリード無しでフリスビーなど投げている)業者は必ずこうやって何匹かはつないだまま散歩させているのですぐにわかります。

水辺を犬とする散歩も、毎日のこととなると単なる日常。
お金を出して散歩させてやろうという人に飼われている犬はまだ幸せで、
飽きられて放置されている犬もおり、そういう動物をパトロールで見つけて飼い主に勧告したり、
あるいは助け出してシェルターに保護する専門の係もいるそうです。
そういう「アニマル・ポリス」がTV番組にもなっているのです。

クリスマスプレゼントに子供に犬を買ってやり、すぐに面倒をみるのにも飽きてしまったとか、
水辺で犬を泳がせることにも飽きて、つまり「個人の事情」で犬を飼えなくなった。

そう言う人が「不要犬」を持ちこむのがこのシェルターです。
この団体はテレビの宣伝によって寄付を大々的に募り、経営を成り立たせています。
ですから日本のように数週間で殺処分、などという非情なシステムにはなっていないと信じているのですが、
実際はどうなのでしょうか。

その一つ、PETAの大きな看板。
イメージガールの女優さんを大きな羽の天使に扮させ、小さな犬を抱かせています。

「動物たちの天使になりなさい」
(ペットは)アダプトしましょう 決して買わないで


アダプトとは養子を貰う時に使う言葉。
つまり、シェルターから貰って下さい、と訴えているのです。


TOが杉本彩さんのペット虐待を訴える講演が某クラブであったのを聞いてきたことがあります。
彼女の話によるとペット業者の動物の扱いは実に酷いもので、売れ残った動物を生ごみ
(ゴミ回収車の中で完全に圧死する)として出してしまうことすらあるのだそうです。
業者から買わないとなると、買われなかった犬や猫はこのように処分されてしまうのですから、
そうならないように業者の犬猫を買ってあげるという考えも成り立ちますが、
それより飽きたり飼えなくなって飼い主の都合で捨てられる動物の数はそれを大いに上回るのだそうです。
アメリカでもこれは社会問題となっており、せめてそういう施設から貰って下さい、
とこの看板は訴えているわけです。

 

勿論、いなくなった犬をこうやって必死に探す飼い主もいるわけで、
このように本当の家族として愛してくれる飼い主に恵まれた犬は幸せなのですが、
「犬を泳がせる」イメージのために犬を買う多くのアメリカ人は、いまやあのような
巨大な看板で訴えなくてはいけないほどのたくさんの「不要犬」を世の中に生んでしまっているのです。
 


深く考えずに私が持っていた「アメリカの犬は幸せだ」などという単純な考えはまさにこの
「泳ぐ犬」のイメージに憧れる単純さに通じているように思います。
狭いマンションの一室に寝起きして、水辺どころか近所の道を歩くだけの散歩をしている日本の犬でも、
自分を愛してくれて一生を伴にし最後を看取ってくれる飼い主に恵まれるのなら、
たとえ飼い主の投げたボールを追う心躍る日々をいっとき過ごしても、その後飽きられて
シェルターに持ちこまれるアメリカの犬よりはるかに幸せだからです。




おまけ*シールズの軍用犬。
これから高高度からのスカイダイビングするところです。

泳ぐどころか飛んでるし。