ネイビーブルーに恋をして

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第二種軍装の持つ力

2010-06-25 | 海軍

                
先日、わざわざ着せ替えまでして笹井中尉の二種軍装姿をでっちあげたわけですが、というのも、
各種軍装の中でこれが一番好きなのです。

ガンルームで撮られた菅野大尉の二種姿、というの、見たことありますか?
この菅野大尉、髪をびしっと撫で付け、なかなかの男前ぶりです。
最初は誰だか分らなかったくらい・・・。

神立尚紀氏の「零戦隊長」(光人社)には、主人公の宮野大尉を始めとする写真が
それはもうふんだんに載っているのですが、エリス中尉が喰いついてしまったのは、
大分空での海兵65期の面々が、妙にでれっとしどけなく二種を着たり着なかったりの状態で
写っている一葉の写真。
これだけで小一時間妄想できるくらい好きなんですよ~。
その隣には「きちんと二種を着たバージョン」もありまして、なおのこと・・・。

(この本、読み始めて何日にもなりますが、なかなか進みません。
ほんの一節にひっかかって小一時間妄想、写真と見比べてまた妄想、という調子。
例えば、本文には65期の何人かのハンモックナンバーがちゃんと書いてあるんですが、
これをこの二種姿の写真と見比べてしばし思いにふけっておりました)

さて、その二種軍服です。
土方敏夫大尉の著書には、合い服(上着が白、ズボンは紺)の写真があり、
この制服に変わったとき
「娑婆っ気の多い」予備士官連中は「格好がいいので皆喜んでいた」ということですが、
さらに何日間かの休暇が出たその理由について
「二種軍装を家族に見せろという(上の)計らいだったのかもしれない」と書いています。

ちなみに、土方大尉はこの二種軍装での記念写真を戦友と撮っています。
このとき、戦友の須崎少尉は最初からそのつもりでクリーニングに出していたため、
皺ひとつない軍装姿ですが、「無精者の」土方少尉は、自分で洗濯をしたのでしわくちゃです。
画像は実はそのときの土方大尉の二種軍装姿ですが、
今日はちゃんとエリス中尉ががアイロンをおかけしておきました。


盛夏の上下白、靴まで真っ白のこの二種軍装、今のセンスで見ても非の打ちどころのないくらい
美しく、凛々しく、ネイビーの心意気を感じさせるに十分なものです。

現在の海上自衛隊の制服ですが、第一種礼装の第二種夏服ほとんどデザインに変更無く
この旧軍の二種軍装にそっくりです。
制服として完璧だからでしょうね。
しかし!
無理やり細部を変えようとしてか、ポケットを両胸につけているのはいただけないわ。
だって、肩章のすぐ近くですよ?バランス悪いわよ?

次に変更するときはさりげなく旧軍のデザインに戻して腰の高さに変えちゃってはいかが?


海軍の士官たちは、たとえばラバウルのような酷暑の戦地にもこの軍装を携えていきました。
従軍カメラマン吉田一氏の「サムライ零戦記者」には、海に突っ込んで戦死した台南空の
若いパイロット菊地二飛曹の遺体が基地に帰ってきたとき、
士官室一同が純白の二種軍装に着替えて告別式に向かった、という記述があります。

婚礼衣装や白装束を出すまでもなく、人は白を装うとき、そこに意志の表明や、決死の思いなど、
特別の意味を込めることがあります。
この、白い軍装というものは、人の心に清廉さと大事に臨む決意の確かさ、真実を曲げない海軍魂、
というようなものをネイビーブルーとともに与える力をもっていました。

山本五十六長官は、トラック基地にいたとき、時と場所を問わず、出陣する艦船があればいつでも
この二種軍装で大和の上甲板に立ち、双眼鏡を手に見送ったのだそうです。
皆さんも、山本長官の写真を注意してみれば分かると思いますが、周りの参謀たちが全員
三種軍装(カーキの酷暑地用)を着ている中、唯一人長官は白い二種軍装姿です。

見送られる艦船の船長は、この姿を乗員に見せるため、わざわざ大和に近寄り通り過ぎました。
この山本長官の見送る姿を見て、兵は手に帽子を取って振りながら皆泣き、
国家に捧げた命を惜しまず死を誓うところまでも兵たちの士気は高まった、といいます。

参謀は何度も長官に、みながカーキの第三種軍装や防暑服を着ている中での、目立つ白い軍装は
危険であることを進言したといいます。
「白い服をお一人だけ着ていると、いつ敵機に狙われないとも限りません。
何とかおやめいただきたい」

しかし、山本長官は微笑みを返すだけでそれをやめることはありませんでした。
純白の第二種軍装がが持つ力をよく知っていたのでしょう。

1943年4月18日、ブーゲンビルで戦死したそのときに限って嫌っていた第三種軍装を着ていた、
というのは、長官にとって実に無念なことであったに違いありません。


 参考:日本海軍のこころ 吉田俊雄著 文春文庫
   サムライ零戦記者 吉田一著 光人社NF文庫
   海軍予備学生 零戦空戦記 土方敏夫著 光人社