私の父親

2013年10月02日 | 健康・病気

さだまさしの「かすてぃら 僕と親父の一番長い日」を読んで、
私は、私の親父のことを思った。

私が、父のことを書こうとしたら、小冊子ですむと思う。
「かすてぃら」は小説だから、少しはさだまさしがふくらましては書いていると思うが、
私が一所懸命親父のことを書こうとしても、30ページもあれば収まるだろうな。
私から見た親父は、ただ毎日百姓をやっていたひとというだけですね。
私の家が生産していたのは、米と煙草が主だったと思う。
麦・蕎麦・落花生・サツマイモなどもそれなりに生産していた。
野菜などは家で食べるだけという感じだった。

子ども心に私は、煙草栽培がたいへんだと思っていた。
冬に木の葉を山から持ってきて腐葉土を作り、春先に煙草の苗代を作り種を植え、育った苗を畑に移植する。
夏は、大きく育った煙草の葉を採ってきて、縄の網目に1本づつ刺して乾燥小屋にぶらさげて、
父と母とで交代して、24時間石炭を焚いて煙草を乾燥させた。
秋にはそれを仕分けして、初冬の煙草売りの日にそれを売る。
煙草売りの日に、専売公社のひとが審査して煙草の価格が決まる。
その煙草売りの日が、私の育った集落では年に1度の“ハレ”の日だった。
朝、駅前の「すずきや」と「たなかや」という2つの呉服屋の車が、
その日煙草売りの家に来て町まで乗せていく。
煙草売りが終わると、どの家も呉服屋で洋服などを買った。
これから入る冬を乗り切るために、子どもたちは、ジャンバーや手袋を買ってもらう。
私の思い出としては、あまり上等なものを買ってもらった記憶がない。
私の家は貧しかった。
姉3人は高校に行けなかった。
姉たちは今でも、高校に行きたかったという。

親父は、音楽が好きだった。
集落で「ぎょん」(祇園が訛ったと思う)というお祭りのときに、おみこしが集落の中を巡回する。
そのときに父は、おみこしのあとについて担がれて行く太鼓を叩いていた。
お盆のときはたいへんだ。
親父は、やぐらの上で太鼓を叩いたり、唄をうたってヒーローになった。
唄は「日光和楽踊り」と「八木節」の2曲だけだが、替え唄がたくさんあった。
私の実家は茨城県ですが、栃木県と県境なので栃木や群馬の唄で踊る。
少し種類は違いますが、私の音楽好きなのはこの親父の血を引いているからだと思っている。

父は昭和の初めのころ、浅草でタクシーの運転手をしていたと聞いている。
吉原で赤線の女性をよく乗せていたらしい。
なんでも大きな事故を起こして、田舎に帰ったと聞いている。
このへんのところ、親父に聞いておけばよかったと後悔している。
でも、親父に直接そんなことは聞けなかったですね。

親父はよくおふくろを怒った。
親父は、常日頃おふくろをバカにしていた。
私が中学2年のとき、テレビを観ていたら、囲炉裏にいた親父がおふくろの背中を火箸で叩いた。
兄はお風呂に入っていた。
「父ちゃん、やめろよー。父ちゃん、やめでころよー」私は、叫んだ。
おふくろは逃げ、廊下から雨戸を外し外に飛び出した。
「もう今日は、入れでやんね」
親父は興奮した声でいいながら雨戸を閉めた。
私は、この日の親父が一番厭だった。

息子たちが小学1年生のころ、父と母に所沢に来てもらった。
私は、大宮まで迎えに行き、川越の喜多院や蔵づくりの街を見物して所沢の家に帰った。
そのときの家は、公団住宅のテラスハウスという庭付きの2階建ての“長屋”だった。
翌日、所沢の西武デパートで父に背広を買ってプレゼントした。
貧しい私の家計ですから高いものは買えなかった。
でも、親父は喜んでくれた。
2・3日して茨城に帰った父から手紙が届いた。
背広のズボンの腰回りが大きくて直して欲しいという内容だった。
親父の腰回りの長さの紐が同封されていた。
その大きさにしてくれ、ということだった。
その文章が書いてあったのが、新聞の中にあるチラシ広告の裏だった。
たどたどしいカタカナの文字で書いてあった。
それは私が初めて見た父の書いた文字だった。
(あ…、おれはこのひとの息子なんだ)
と、チラシに書かれたその文字を見て、文章を読んで、私はしみじみ思った。

親父は、そういうひとだったが、ひとに対する気持ちは温かかった。
よく近所のひとが、いろんな相談をしにきた。
誰からも好かれた人間だったと思う。
おふくろに対する気持ちも、大人になった私は理解できた。
おふくろが少し気が利かないひとだったのです。
いや、おふくろもやさしいすばらしい女性です。

父は、平成3年8月18日に82歳で他界した。
親父が危篤になったときに、私はちょうど会社の夏休みに入るときで茨城に行けた。
1週間、兄と交代で病院に泊まり込んで看病した。
親父の下の世話もした。
夏休みが終わり、所沢に帰った日に親父は死んだ。
膵臓癌だった。

コメント (2)
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