国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

中東TODAYの佐々木良昭氏の分析から考えるトルコ情勢の今後

2007年06月14日 | トルコ系民族地域及びモンゴル
トルコ軍、北イラク侵攻の可能性 二重基準で欧米を非難 Sankei WEB  2007年6月14日

トルコ軍による北イラク、クルド地域への侵攻の可能性が高まっている。イラク政府は9日、トルコ側からの砲撃がイラク領内に着弾したことに非難の声明を出した。

 5月31日、イスタンブールで開かれたシンポジウム「安全保障の新次元と国際機構」において、トルコ軍の制服組のトップ、ビュユクアヌト参謀総長は、「同盟国がダブルスタンダード(二重基準)を使ってテロを支援している」と厳しく批判した。名指しこそしなかったものの、米国と欧州連合(EU)諸国が人権を盾にクルド人武装組織、「クルド労働者党」(PKK)を支援してきたことへの強い憤りを示した。PKKの背後には北イラクのクルド人自治政府を率いるバルザニ氏がいる。その背後には米国がいるという趣旨である。

 トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国として、これまで米国と緊密な関係を維持してきた。しかし、トルコ国民の反米感情はかつてないほどに高い。原因は、今年3月以降、PKKがテロを繰り返し、先月末には首都アンカラで初めて死傷者100人を超す自爆テロが発生したことにある。

 バルザニ氏は、対外的には米国と協力してPKKを取り締まると発言してきたが、地元では同じクルド人のPKKと戦うことを否定し、トルコの軍事侵攻に強い警戒感を示している。米国もPKKをテロ組織と認定したものの、バルザニ氏に圧力をかけられない。ダブルスタンダードとは、このことである。

 イラク再建の見通しが立たない中、イラク北部のクルド人地域だけは独立を目指して着々と前進している。独立を達成するまでは域内の利害対立を棚上げにする必要があるので、バルザニ氏はPKKを取り締まろうとしない。米国も唯一再建がうまくいっている北イラクを混乱させたくない。

 イラク側に拠点を持ち、トルコに越境してテロを続けるPKKを掃討するには、彼らの拠点をたたくだけでなくトルコ軍がイラク領内に踏み込んで緩衝地帯をつくる必要がある。国境地帯は、急峻な峰と谷がつらなり、イラク側の平坦(へいたん)な場所まで軍を展開させないと、テロリストの侵入を阻止できないからである。だが、もしそれをすれば、イラクの主権を侵害することになる。

 今のところ、トルコのエルドアン政権は、軍に越境攻撃の指示を出していない。7月の総選挙を前に、国内に1500万以上いるとされるクルド人の反感を買いたくないからである。

 だが、侵攻の指示を出せば、高まるナショナリズムを背景に、トルコ人側からの支持を集めることもできる。与党は錯綜(さくそう)する思惑の中で揺れている。それに対して、軍は、トルコ共和国の絶対不可侵という憲法原則を決然と守る姿勢を崩さない。20世紀初頭、国土を欧州列強に分割される中で、民衆と兵士が手を携えて外国勢力を駆逐し独立を達成した建国の苦難の歴史を忘れていないからである。

 欧米諸国では、軍の警告を文民統制の未成熟として批判する向きが強い。しかし、トルコ軍は自国の安全が脅かされない限り動かない。湾岸戦争やイラク戦争でも、憲法の定めに従い、米国の派兵要請を受け入れなかった。

 トルコ軍がイラク北部に侵攻すれば中東に新たな危機が発生することは確かだ。だが、トルコ軍を批判する前に、誰がここまでトルコを追い詰めたのかを問わなければならない。

 EU諸国は理不尽な要求でトルコの加盟阻止を図り、米国はイラクを制御できないままテロ組織を放置した。テロとの戦いにおいてダブルスタンダードを用いることが中東情勢にとって、どれほど危険か、トルコ軍の危機感は国際社会への警告である。







中東TODAY: No.617 エルドアンの賢明な決断 2007年06月13日 佐々木良昭

トルコのエルドアン首相が、厳しい状況の中で賢明な決断をした。それは、クルド問題に対する対応で、イラク北部クルド地帯への攻撃は行わない、というものだ。

  トルコの国内では、トルコ軍の幹部がエルドアン首相に対し、トルコの民間人や軍人がPKK (クルド労働党)のテロリストによって犠牲になっている、軍はエルドアン首相が命令を下せば、即座にイラク北部に侵攻する、というものだった。つまりトルコ軍はエルドアン首相に対し、決断を下すように迫っていた、ということだ。もちろん、トルコ国民の間では、クルド側のやりたいままにテロ活動を放置していていいのか、という感情論が広がっていた。そうであるだけに、エルドアン首相は弱腰と取られかねない、クルド地区への攻撃をしない、という決断を下すことは、至難の業であったといえよう。

  エルドアン首相は「トルコ国内にいる5,000人のPKKに対する掃討作戦を行う前に、500人のPKKがいるイラクのクルド地域に軍事侵攻することは賢明でない」と現段階ではイラク北部に軍事侵攻をしない理由を説明した。いまの段階で、トルコが軍をイラク北部に侵攻させた場合、クルド地区で活動するトルコ企業が、大きな痛手を受けることになるのは必至だ。世界もトルコ軍による蛮行と非難するであろう。加えて派兵の経費、アメリカ軍ですら苦戦を強いられているイラク側との戦闘を考えると、イラク領内への派兵は得策ではあるまい。先日来日したトルコの大学教授と私の対談内容が、対談した翌日にはトルコの新聞に掲載され、それが何紙にも転載された。

  私の発言の趣旨は、トルコ軍がイラク北部に侵攻することのリスクに加え、アメリカ軍が大統領選挙も近いために、一部削減するだろうが、その穴埋めをトルコに依頼するだろう。アメリカ軍が削減され、イラクの広範にわたる治安権がイラク側に渡れば、イラク軍は治安の維持に苦慮し、クルドとスンニー、シーアとの武力衝突が起ころう。トルコはやがて、イラクとアメリカに依頼されて、軍をイラク領内に派兵することになろうから、それまでは動くべきではない、というものだった。その場合は、現段階でトルコが軍をイラク北部のクルド地域に侵攻させた場合に比べ、飛躍的にトルコ軍の安全は守られようというものだった。つまり、アメリカとイラクの要請によって、トルコ軍がイラク北部に入るまで、トルコの軍部、政府、国民が自重すれば、トルコ軍は絹のじゅうたんの上をパレードできるというものだ。

  エルドアン首相が私とトルコの大学教授との対談後に書かれた記事を、読んだか否かは知らないが、エルドアン首相の決断は、極めて状況を正確に判断した、賢明なものであったことは賞賛に値しよう。




中東TODAY: No.612 トルコの学者との夕食  2007年06月11日  佐々木良昭

トルコのイスタンブールでまた爆弾テロ事件が起こった。以前にも銀行などがテロの対象になり死傷者が出たが、今回は14人の負傷者ですんだようだ。これらのテロはいったい誰が行っているのか、という話をトルコ人とすると幾つもの推測が出てくる。単純にPKK (クルド労働党)によるテロと考える者もいれば、裏に何かがあると考える者もいる。

  裏に何かがあると考える者の意見は、トルコ南東部でPKKがあれだけ自由に活動できているということは、トルコ側のチェック・ポイントを簡単にすり抜けられるということであり、誰かトルコ側の者が手引きをしているからだというのだ。それではPKK がトルコ国内でテロ事件を起こして、誰が得をするのかという話になった。彼曰く、軍関係者の一部ではないかというのだ。それは軍の一部の跳ね返り組がPKKの手引きをし、テロを起こさせることによって、トルコ国内ではクルド撃つべしという考えが広まる。その結果、軍は政府に対し決断を迫り、政府は対応に苦慮することになるというのだ。しかし、と彼は続ける。トルコ軍はイラクの北部で本格的な戦争をやる気はない、彼らはトルコ政府を追い詰め、政局を混乱させることに目的があるのだ。もし本格的な戦争に発展すれば、一番被害を受けるのはトルコ軍だというのだ。

  確かに政府は、イラクへの軍事侵攻に対する可否を出さなければならないということは、非常に苦しい決断をしなければならないということだ。イエスと言わなければ、国民は政府を弱腰だと非難することになり、ノーと言わなければ、軍事侵攻後に国際関係で、トルコ政府は厳しい立場に立たされることになろう。ここは我慢のしどころではないかと言うと、トルコ人の友人は国民の相当数が軍事力の行使を支持していると語った。しかし、どうやら彼との語らいのなかから、トルコ軍が本格的な戦闘を望んでいないことが感じ取られほっとした感じだ。それはイラクにとっても、トルコにとっても、いいことであろう。双方の立場から、限界内の軍事行動が行われるのであれば、決定的な状況は生まれまい。そうあってほしいものだ。





中東TODAY: No.612 トルコの学者との夕食  2007年06月09日  佐々木良昭

トルコの首都アンカラに近いコンヤという町から、大学の教授が訪日したので、私と在京のトルコ人とで歓迎の夕食会を開くことにした。イスラーム教の制約があることから、食事はハラール肉(イスラム教の方式に沿って処理された肉)を使うレストランがいいということで、新宿のボスポラス・ハサンにでかけることにした。ここはボリュームが多く、しかも美味しいのでトルコ人がひきにしている店だ。

  食事を楽しんでいるさなかから、話題はトルコ軍がイラクに本格的に軍事侵攻するのかしないのか、あるいは軍事侵攻したらどのような結果になるのか、といったことが話題となり激論が交わされた。いまの段階では、トルコ軍のイラク領内への侵攻はPKKゲリラの追跡によるものであり、本格的なものではないだろうということで意見が一致した。トルコ軍の参謀長ブユルカヌト将軍が、「政府が指示すれば何時でも侵攻する」と発言したことが伝えられた日であり、そのことを持ち出し「トルコ軍にもまだ決断ができていないのではないか」という意見を仲間の一人が述べた。トルコから来た学者は、民主化と大統領選挙が絡んで、トルコ国内政治が複雑さを増していることを説明した。軍と政府との間で、立場の違いが鮮明になってきていることを説明し、4月のトルコ軍によるクーデターの警告や、今回のトルコ軍のイラク国境への集結は、ある種のクーデターのようなものだと彼が語り、私と意見が一致した。
  彼の発言の中で関心を持ったことの一つは、現政府がイスラーム化を進めることは無いと語り、世俗派といわれる国民が、あたかもエルドアン首相の政党AKPが、明日にでも大統領を選出し、イランのホメイニ体制のような宗教政府になると主張するのは、トルコの内情を知らない外国の関心を引きはするが、全くのでたらめであり、事実とは異なる。このようなことは間違ったトルコのイメージを世界に伝えることになり、トルコの国益にとって大きなマイナスだというものだった。

  それでは誰がそのような間違ったトルコのイメージを世界に伝えることによって利益を得るのか、ということにまで話は及んだが、明確な答えは出てこなかった。あくまでも推測の範囲であり、それについては幾通りもの意見が飛び出したが、どれも決定的なものとはいえなかった。


  トルコ軍の動きについては、参加した全員がイラクに本格的な軍事侵攻をすべきではないというものだった。トルコ軍はイラク国境に集結することにより、イラク側を威圧はしても、武力を使うべきではないことで意見の一致を見た。

  このトルコの学者とは、6月10日にイスラームのジハードとテロに関する講演会で講演をすることになっているが、彼がその講演会の中で、イラク問題に関連した発言をするとすれば、タイミングがいいことから、聴衆の関心を呼ぶものと思われる。彼のストレートな意見が聞かれることを楽しみにしている。




中東TODAY: No.611 トルコ軍はイラクに越境攻撃したのか 2007年06月08日 佐々木良昭



中東TODAY: No.609 トルコ・ここが我慢のしどころ 2007年06月06日 佐々木良昭

 トルコの東部でPKK(クルド労働党)のテロ活動が激化し、トルコ軍が反撃を試み始めている。トルコの軍部は軍をイラク国境に集結して、何時でもイラク領内に軍事侵攻できる状態になっている。軍事侵攻するか否かは、政府の判断に任せるとトルコの軍部は表明している。そうした中で、クルド側から攻撃があり、7人のトルコ兵が死亡するという事態が発生した。トルコ軍内部には徹底的にクルド側に攻撃を加えたい、と思う者が多数いるだろう。イラク側ではマリキー首相が、クルド自治政府に対して支援の意向を伝え、トルコ軍と対峙する姿勢を示している。これは本心というよりも、この機会を利用してクルドを、統一政府の中に引き込みたいということであろう。

  いま何故このような事態に、トルコとPKKとの関係が緊張したのだろうか。そのことの真相はわからないが、想像をたくましくすると、以下のようなことが考えられるのではないか。

  アメリカの大統領選挙を前に、早晩アメリカ政府はアメリカ軍の一部を、イラクから撤退させなければならなくなるだろう。その場合、当然のこととしてイラク国内の治安に不安が生まれよう。しかし、現状では盟友のイギリスでさえ、イラクに増派してくれることなど期待できない。マリキー首相はエジプトに対して、軍の派遣を要請したが、エジプト政府はまともに受け止めようとはしていない。自国内の問題の方が重要だからだ。軍隊を派遣するということは、経済的負担も少なくない。しかも、危険なイラクへの自軍の派遣は、真っ平ごめんというところであろう。アメリカがイランとの間で、イラクの治安をめぐって交渉はするものの、イラン軍をイラク治安のために派遣してほしい、とは全く考えていまい。そんなことをすれば、アメリカにとってイラク戦争は何のためのものであったか、分からなくなってしまうからだ。

  そうなると、アメリカの大統領選挙を前に、軍隊をイラクに派遣してもらえる可能性のある国は、トルコぐらいなものだろう。しかし、トルコもアメリカの要請に応えて、イラクに軍を派遣してくれるほど甘くはないだろう。つまり、アメリカはPKKをそそのかして、トルコ側に対し手を出させ、それに怒ったトルコ軍がイラクに軍事侵攻し、その後、長期間にわたってイラク北部を占領することを、願っているのではないかということだ。

  先にアンカラで起こったテロ事件は、トルコの公式な発表では、PKKによるものだという判断が下されているが、トルコ国内の一部の専門家の間では、トルコ軍の一部によるものではなかったのか、という疑問が浮かんでいる。イスラーム系与党のAKP(開発公正党)が、大統領職までも抑えようとして始まった、トルコ国内の政治的混乱は、あるいはトルコ政府とトルコ軍の対立関係を、ここまでも悪化させているのかもしれない。しかし、もしトルコ軍がイラクに軍事侵攻して、クルド地域を占領し続けるようになった場合、クルド地域はトルコ領になってしまう可能性があることも、まんざら否定できないことだ。それはクルド地域が、オスマン帝国の領土ではなく、オスマン帝国皇帝の個人財産だったからだ。トルコに対し欧米諸国は歴史を遡り、クルド人やアルメニア人の土地の所有権を認めるよう圧力をかけているが、オスマン帝国皇帝の末裔にもクルド地域の土地の所有権があり、そのことも認めるべきだという理屈が成り立つことになろう。トルコはいまクルド側の挑発に対して、出来るだけ冷静さを保つべき時期なのかもしれない。トルコ軍の強大さは抜かない宝刀であるべきなのではないか。

  国際関係はどう転がるかわからない、複雑なゲームのようなものだ。今日の不運は明日の幸運につながり、今日の幸運が明日の不運につながることもありうるのだ。いずれにしろ、トルコ軍のイラク北部国境集結は、近い将来、この地域全体に大きな変化を生み出すであろう。





【私のコメント】
中東TODAYの佐々木良昭氏が最近、緊迫の度合いを深めたトルコ情勢を頻繁に取り上げている。陰謀論を幾つか取り上げていること、トルコにとってのハッピーエンドシナリオを取り上げていることが注目される。ただ、彼は名のある中東専門家であるが故に、トルコでこれから起きようとしているシナリオの真実を全て書き記すことは許されていないだろう。

私は中東専門家どころか、国際情勢に関心を持つ一民間人に過ぎず、何ら特別な情報ソースを持っていない。トルコ語も理解できないし、トルコ訪問は数日間の観光旅行のみである。このような私に中東専門家の発言を取り上げて批評する資格があるのかという御批判は真摯に受けとめたい。しかし、素人であるが故に考えたこと(妄想)をありのままに書き記すことも許容されるのではないかとも考える。東アジア情勢と異なって日本の安全保障に直接関与しないこともあり、自主規制の必要性も低くなるだろう。

以下に佐々木氏の分析を一つ一つ取り上げて批評する。



もしトルコ軍がイラクに軍事侵攻して、クルド地域を占領し続けるようになった場合、クルド地域はトルコ領になってしまう可能性がある。それはクルド地域が、オスマン帝国の領土ではなく、オスマン帝国皇帝の個人財産だったからだ。

かつてクルディスタンがオットマン皇帝の個人資産であったことを理由にトルコが領有権を主張しても国際社会は絶対に受け入れないだろう。佐々木氏の発言は全くの空想論であるが、これはトルコがイラク北部を占領し併合する根拠の乏しさを示していると思われる。



私の発言の趣旨は、米国が軍の一部削減の穴埋めを迫られてトルコに派兵を依頼するまでが自重すれば全てがうまくいくというものだ。

トルコ軍は北イラクのクルド人と激しい対立関係にあり、トルコ軍の北イラクへの派兵はイラクの治安を悪化させる。従って、米国やイラクがトルコの派兵を望むことはあり得ない。派兵があり得るとすれば、サウジアラビアを中心とするスンニ派アラブ諸国と、イランを中心とするシーア派勢力であろう。佐々木氏は専門家とは思えない杜撰なコメントを行っているが、これはトルコ軍が自重しても北イラクのクルド人の独立は阻止できないことを言いたいのではないか。



トルコが明日にでもイランのホメイニ体制のような宗教政府になると主張するのは、全くのでたらめであり、事実とは異なる。このようなことは間違ったトルコのイメージを世界に伝えることは、トルコの国益にとって大きなマイナスだ。 それでは誰がそのような間違ったトルコのイメージを世界に伝えることによって利益を得るのか、ということにまで話は及んだが、明確な答えは出てこなかった。あくまでも推測の範囲であり、それについては幾通りもの意見が飛び出したが、どれも決定的なものとはいえなかった。

・裏に何かがあると考える者の意見は、トルコ南東部でPKKがあれだけ自由に活動できているということは、トルコ側のチェック・ポイントを簡単にすり抜けられるということであり、誰かトルコ側の者が手引きをしているからだというのだ。それではPKKがトルコ国内でテロ事件を起こして、誰が得をするのかという話になった。彼曰く、軍関係者の一部ではないかというのだ。それは軍の一部の跳ね返り組がPKKの手引きをし、テロを起こさせることによって、トルコ国内ではクルド撃つべしという考えが広まる。その結果、軍は政府に対し決断を迫り、政府は対応に苦慮することになるというのだ。しかし、と彼は続ける。トルコ軍はイラクの北部で本格的戦争をやる気はない、彼らの目的はトルコ政府を追い詰め政局を混乱させることだ。


この二つの陰謀論は実に興味深い。
「宗教国家化という間違ったトルコのイメージを世界に伝えることで誰が利益を得るのか」という問いについては、これはEU市民へのメッセージだと思う。つまり、大部分のトルコ人は非世俗的でありEU加盟の資格はないとEU市民に訴えて、将来人口が一億を越える超大国トルコ全体がEUに加盟する可能性をなくす目的だろう。その一方で、イスタンブールやイズミルなどの一部地域に限定して宗教国家化反対のデモ活動が政府によって計画され、ウクライナのオレンジ革命に類似した国内対立が来るべき7月22日のトルコの総選挙前後に演出されるシナリオが出来ているのではないか。

「トルコ側にクルド人のテロの支援者がいるのではないか」という陰謀論に私は同意する。しかし、「トルコはイラクと本格的戦争をやる気はない」という分析には同意しない。私の予想(妄想)は、以前から述べているように、イスタンブールやイズミルに住む西洋的顔貌を持ち世俗的で所得の高いトルコの中核階層をトルコから切り離してEUに加盟させるというものだ。そしてその為に、トルコがクルド人問題で破滅的な戦争に突入しわざと敗北するという戦略が準備されていると予想する。サルコジ仏大統領は「カッパドキア人、アナトリア人は欧州人ではない」と言ったが、「イスタンブール人は欧州人ではない」とは発言していない。
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5 コメント

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サルコジ仏大統領の発言 (Aletheiajp)
2007-06-16 22:10:43
>サルコジ仏大統領は「カッパドキア人、アナトリア人は欧州人ではない」と言ったが、「イスタンブール人は欧州人ではない」とは発言していない。

→この見解に、まったく同意する。
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EU版レコンキスタ(国土回復運動)? (CatSit1)
2007-06-17 15:25:08
イスタンブール奪回(=コンスタンティノポリス回復)ですか。

千年の王城の都の奪回ね。
日本でいえば北九州に京都があって朝鮮に占領されたのを奪回しに行くようなもの。

そう考えるとやたらリアルな話に思えてきた。((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
返信する
CatSit1さんへ (princeofwales1941)
2007-06-17 16:08:06
>日本でいえば北九州に京都があって朝鮮に占領されたのを奪回しに行くようなもの。

時代が遡りすぎるという批判はあるでしょうが、日本で喩えるならば任那再興ではないでしょうか?任那は間違いなく古代日本の一部分でした。

ただ、現実問題としては、大陸に進出するのは巨大な陸軍を必要とするので避けるべきでしょう。
返信する
Constantinoupolis (Aletheiajp)
2007-06-18 00:40:22
 ローマとコンスタンティノポリスは、奈良と京都の関係に相当すると分かりやすいと思われる。

 ローマ:ヨーロッパの政治的基礎を作った街

 コンスタンティノポリス:
  ヨーロッパ人の精神的基盤であるキリスト教を確立された街

※重要なのは、ローマ帝国のキリスト教公認とコンスタンティノポリス遷都は表裏一体の関係にあることである。
返信する
コンスタンティノープル自由国 (Aletheiajp)
2007-06-29 07:23:48

 第一次世界大戦直後、東トラキアは、「コンスタンティノープル自由国」として国際管理になる予定だったようです。

http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/international/unkanri.html#05

 ムスタファ・ケマルがアンカラで決起し、ギリシャ・トルコ戦争が始まります。英国は当然のごとくギリシャを支援しましたが、日本海軍の一部が「ロシア憎さ」でケマルを支援してしまいます。その結果、セーブル条約で欧州に奪還されるはずだったコンスタンティノープルは奪還できず、アルメニアのアララト山獲得はならず、クルドの独立はならず、現在のようなことになってしまいました。

 ギリシャ・トルコ戦争の最中、1921年、日・米・英・仏による4カ国条約が締結され、1902年に必死の外交努力で獲得した日英同盟は破棄され、日本はその後、満州事変→国際連盟脱退→日華事変と国際的孤立を深め、世界中から袋ダダキにされることになります。

 もし、ギリシャ・トルコ戦争において、日英同盟の真義に基づき、ギリシャ軍を応援し、アンカラを占領し、ムスタファ・ケマルを捕縛または殺害し、アンカラ政権に、コンスタンティノープル自由国の承認をさせていたならば、今頃、ハギア・ソフィア大聖堂は光り輝くギリシャ正教の大本山として復活し、ヘイベリ島の神学大学は、バチカンに並ぶキリスト教の学術拠点として復活していたことでしょう。

→「あのとき、日本が馬鹿なことをしなければ・・・」と思っている欧州人は少なくありません。


○第一次世界大戦後のトルコ分割予定図
http://keropero888.hp.infoseek.co.jp/map/istan02.html

○海峡地帯(Zone of Straight)の地図
http://www.hri.org/docs/sevres/map2.html

○コンスタンティノープル自由国の地図
http://keropero888.hp.infoseek.co.jp/map/istan03.html 
コンスタンチノープル自由国の領域は、1453年に滅んだビサンティン帝国の末期のころの領土とほぼ一緒。当時のヨーロッパの戦勝国ではイスラム教徒に奪われたコンスタンチノープルを奪い返したということに沸き立ち、ここをイスラム社会から切り離すことを主眼に置いていたようだ。「自由国」というのは、ダンチヒ自由市と同じで、封建領主(オスマン皇帝)の支配から脱した地域ということで、ダンチヒ同様に国連保護下の独立国が想定されていたようだ。

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※ついでにもう一言。満州国を作ったとき、万映のヒロインの李香蘭(山口淑子)がいました。この「香蘭」はクルーアンの中国語の宛字と同じです。万映がそのことを理解していたか、単なる語呂合わせだったのかは分かりませんが、日本が「キリスト教の敵」、「イスラム教のシンパ」と誤解されたことだけは確かなようです。
 日本ではすぐに「皮膚の色」とか「人種差別」と言いますが、正しくは「宗教差別」です。ギリシャ人、キプロス人などは、どう見ても生粋の白人ではなく、髪の毛はブロンドではなく黒です。皮膚の色もやや黄色人です。 

※オーストリアは第一次世界大戦で大敗し、帝国は崩壊したが、西ローマ帝国の帝冠を頂く国がオスマン・トルコと同盟したのでは、崩壊して当然である。まさに天罰。
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