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経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

和製アメリカン・ヒーローの躍進・・・「TIGRT & BUNNY」が素晴らしすぎる件について

2011-09-03 08:56:00 | アニメ
 




■ 世界に受け入れられた日本アニメ ■

日本のアニメは立派な輸出産業です。

「キャンディー・キャンディー」や「キャプテン翼」などは
世界各国に輸出され、それぞれの国の吹き替えで放送されました。
各国の子供達は、それが日本のアニメだという事を
全く知らずに、作品に熱中しました、

アメリカで最初にヒットした日本のアニメは
「鉄腕アトム」です。
友人のアメリカ人は(50歳)は、
「アストロ・ボーイ」として放送されてたアトムを良く覚えています。
その後は、「UFOロボ・グレンダイザー」が大ヒットしました。

かつては日本製という事はセールスポイントではありあませんでした。
韓国ドラマと同様に、安くて面白いコンテンツを探す
世界のTV局のニーズに、安くて、そこそこのクォリティーの
日本アニメがピッタリと当てはまっただけの事です。

しかし作品の持つ魅力は万国共通のなので、
30%を越える視聴率をフランスでたたき出すなど、
日本のアニメは世界で多くのファンを獲得してゆき、
現在の「ジャパニメーション」ブームの下地を形成しました。

■ 和製アメリカンヒーローの登場{HEROMAN」 ■




boness製作の「HEROMAN」は興味深い作品でした。
アメコミの総本山、マーベルコミックスとタッグを組み、
「Xメン」や「スパイダーマン」の生みの親スタン・リーを原作に迎え
アメリカン・ヒーローアニメを真剣に作りました。

カリフォルニアのカラリとした街並みを丹念に再現し、
魅力溢れるキャラクター達が
ロボットのHEROMANと共に
宇宙からの侵略者と戦います。
対象年齢が低いので、子供でも分かるストーリーと、
あまり深刻にならない展開で、
「大きな子供達」にはそれ程アピールしなかったと思いますが、
私は、アメリカアニメの持つ大らかさと、
日本のアニメの持つ細やかさが融合した良作だと思いました。

ただ、エッジが弱い事が気になりました。
アメコミ・アニメの魅力は何と言ってもエッジとリズムです。
作画も輪郭が強く、肉体描写も思いっきりデフォルメして、
さらに構図もパースを思いっきり強調して、
音楽がストーリーをぐいぐい引っ張ってゆくのがアメリカン・アニメです。

「HEROMAN」はその点、日本的です。
作画は線が細く、ふっくらとしています。
キャラクターも優しさに溢れ、
カリフォルニアの風景の中で、
ちょっとウェットなエピソードが進行します。

マーベルはディズニーに買収されたので、
「HEROMAN」もディニーチャンネルが放送しています。
そこゆえに、妙に優等生的なニオイがします。
素材としては面白い作品に、ブレーキを掛けていたとも言えます。


■ アメリカンヒーローの翻訳 ■

「HEROMAN」を皮切りに、
日本でアメコミヒロインのアニメ化が活発化します。

マーベルは「アイアンマン」と「ウルヴァリン」という
「X-MEN」シリーズ2作をマッドハウスとアニメ化しています。

「アイアンマン」は比較的にアメコミに雰囲気を残していますが、
中途半端にリアルな設定で、アメコミ特有の
ハジケタ感じに乏しく、駄作でした。

「ウルヴァリン」は今度はヤクザ社会を背景とするドラマとする事で
思い切り日本風にシフトしますが、
どうもこちらもリズム感の乏しい作品になっています。

これら「アメリカンヒーローの翻訳」的な作品は
どうもマーケット優先で製作された為、
製作者達の熱意が全く伝わってきません。

アメリカンヒーローを日本に輸出したいマーベル(ディズニー)の思惑と、
和製アメリカンヒーローをアメリカでヒットさせたい日本の製作会社の思惑が、
最も悪い形で結実してしまったと言って良いでしょう。
(関係者の方、ゴメンナサイ)

■ これぞ最良の和製アメコミ「ウィッチブレイド」 ■



では和製アメリカンヒーローがどれもツマラナイかと言えば、
「ウィッチブレイド」の様な大傑作もあります。

「ウィッチブレイド」はアメリカの実写のヒーロー物です。
NY市警の女性巡査部長が超自然武器の適合者となり活躍するこの物語は
アメリカでは人気があり、スピンオフ作品も多い様です。

今は無きGONZOが製作したこのアニメは、
舞台を日本に変え、ウィッチブレイドの適合者となった母が、
次々に襲い来る敵を倒しながら我が子をひたすら守る物語です。

小林靖子の脚本が素晴らしく、
主人公の母娘を取り巻く人々にヒューマンドラマが
実にハートウォーミングです。
それ故に、母娘に降りかかる運命の過酷さに胸が痛みます。

そして、この作品のもう一つの魅力は、敵が丁寧に描かれる事。
自らを生物兵器と化した女性科学者が、母性に目覚めていく様子が
克明に描かれており、
本能的にわが子を守る主人公「まさえ」と、
本能的に湧き上がる母性を、論理的に理解しようとする女性化学者の
全く異なる母性と自己犠牲を両極に据える事で、
物語は確固とした中心軸を獲得して、回り始めます。

「アイアンマン」や「ウルヴァリン」に欠けていた
強い作家性がこの作品には存在します。

小林靖子作品は、ちょっとウェットになり過ぎる傾向があり、
「ブラスレーター」などではをれが悪い方向に作用しています。

小林作品が魅力を発揮するのは
「メガレンジャー」や「仮面ライダー電王」など
ドラマが軽くコミカルな演出がされる場合が多い様です。
根底には非常に重いテーマが流れているので
シリアスな作品は重くなり過ぎる傾向があります。

■ センスだけでいえばピカイチ、「パンティー&ストッキングwithガーターベルト ■



本題に入る前に、もう一作品紹介します。
エヴァンゲリオンを製作したGINAXによるアメリカン・アニメ
「パンティー&ストッキングwithガーターベルト」です。

天使の姉妹「パンテー」と「ストッキング」が、
神父の「ガーターベルト」の指示で悪魔を退治する話ですが、
これが全編ウンコだのゲロだのSEXだの、
もうとんでもないお話のオンパレード。

アメリカンアニメは「シンプソンズ」や「サウスパーク」の様な
ナンセンス・コメディーも得意としていますが、
最近のこれらの作品はシニカルなジョークで温度感は低めです。
どこで笑えば良いのか分からない、ダウンタウンの漫才の様な作品です。

ところが、「パンテー&ストッキング」はとにかく熱い!!
これでもかというくらい、くだらないギャグ満載で、
ヘビーメタルのリズムに乗って疾走します。

この乗りは、「マンガキットボックス」で育った私達には懐かしい。
「チキチキマシーン猛レース」を彷彿とさせる乗りです。

ところが、このろくでも無い「パンkンティー&ストッキング」は、
もう、惚れ惚れするくらいに素晴らしい・・・。

デフォルメされた構図、絵の動かし方・・・
多分アニメを学ばれている方達は、
この作品のレベルの高さにきっと驚愕されているでしょう。

GINAXはほとんど遊びとしか思えないこの作品に、
とても贅沢な製作陣を充てています。

「やりすぎ」という言葉がとても良く似合う
「パンティー&ストッキング」ですが、
アメリカのアニメーター達が、
毎回、イスから転がり落ちそうになりながら
この作品を見ている事を想像すると、
思わずニヤリとしてしまいます。

■ 「TIGER & BUNNY」こそが待ち望んだ和製アメコミ ■



前期アニメの思わぬ収穫は「Tiger&Bunny」でしょう。
この作品の成功は、アニメ業界に少なからぬ衝撃と、
そしてビジネスとしてのアニメの可能性を示唆したものと思われます。

サンライズ製作の「TIGER & BUNNY」は、
「X-MEN]など、アメリカンヒーロの正当の系譜に連なる作品です。

人類にネクストという異能者達が誕生します。
ネクストは風を操ったり、氷や炎を操ったり、
100人力のパワーを持っていたり、
はたまた人の記憶を改変したるする能力を有しています。

大都市、シュテルンビルトではネクストの犯罪が多発します。
そこでネクストの中から選ばれたヒーロー達が
街の平和を守って、日夜大活躍しています。

ネクストの活躍は「ヒーローTV」によって生中継され
ヒーロー達は活躍の度合いによってポイントを稼ぎます。
まるで、F1レースの様に、ヒーロー達はシーズンを過ごし、
ヒーロー達にはスポンサーが付いていて、
彼らはスポンサー企業の社員として日夜正義を守ります。

第一話目は、日常的的な事件を解決する過程で、
あっと言う間に、各ヒーロー達の能力や性格を描き切ってゆきます。
スピード感溢る展開の中で、視聴者は瞬時にキャラクターを把握できます。
これはアメリカン・ヒーローが類型化されていからこそ出来る芸当です。

主人公、「ワイルド・タイガー」こと「鏑木・T・虎徹」は落ち目のヒーローです。
能力はハンドレットパワーと呼ばれる怪力ですが、
能力の発現時間には制限があり、
スーツの力と日頃の鍛錬によて、それを補っています。

一見いい加減な性格で、30才を過ぎた虎徹は、
一方で思いやりに溢れた人柄で、仲間からも好かれています。

ところが、人気低迷のワイルドタイガーは別のスポンサーに売却されます。
永年連れ添った、黒人マネージャーも解雇されてしまいます。

新しいスポンサーは新人の「バーナビー」とコンビを組ませます。
初のコンビ・ヒーローとして人気獲得を狙うのです。
真面目な「バーバビー」と、いい加減なタイガーは最悪のコンビです。

バーナビーには虎徹のする事がすべて気に障ります。
しかし共に生活するうちに、バーナビーは虎徹に信頼を感じ始めます。

そんなバーナビーはあるトラウマを抱えています。
幼い頃、両親を目の前で殺されているのです。
彼の記憶の中にはおぼろげな、犯人の姿が残っています。
彼は親の敵討ちの為に、実名と素顔を曝してたヒーロとなったのです。

そんな彼らの周囲に、犯罪組織「ウロボロス」の影がちらつきます。
バーナビーの両親を殺害したのも「ウロボロス」だとバーナビーは気付きます。

そして、遂に両親殺しの犯人が行動を起こします。
街に爆弾を仕掛け、街全体を人質に取って、
ヒーロー達との対決を要求してきます。

はたして、タイガー達は勝つ事が出来るのか・・・。

・・・スバラシイ設定です。
アメリカン・ヒーローは単純な方が良い。
ストーリーも明確です。

しかし、1話1話で、それぞれのヒーローのエピソードや活躍が
丁寧に紹介されてゆきます。
それも単なるバラバラのエピソードでは無く、
それぞれのヒーローと虎徹との関わりを描きながら、
ヒーローの苦悩や、生い立ちや、性格が浮き彫りになってゆきます。

ここら辺の描き方は日本アニメの真骨頂ですが、
「Tiger & Bunny」の素晴らしさは、
作品に流れる、ドタバタなリズムを崩さずに、
シリアスな内容を描いてしまう事。

監督の「さとうけいいち」は音楽番組の美術担当からの転向という
異色の経歴の持ち主ですが、演出の手腕は確かなものがあります。
アメリカンヒーロ物はリズムが命という事を良く分かっています。

そして全編の脚本を手がける西田 征史が又素晴らしい。
「お笑い芸人」出身という異色の経歴ですが、
ラーメンズの台本を手がけるなど、
短い時間で、何かを表現する能力は群を抜いています。
2分程度の時間があれば、1エピソードで涙を誘ってしまいます。


■ 世紀の発明、スポンサーロゴ付きスーツ ■

ストーリーも演出・脚本もキャラ立ちも申し分無い作品ですが、
もう一つ、革新的な試みにチャレンジしています。

ヒロー達のスーツにはそれぞれのスポンサーのロゴが
F1マシンに張られたデカールの様に張られいるのです。

例えば「ロックバイソン」は「牛角」、
「ブルー・ローズ」は「PEPSI NEX(SUNTRY)」
主人公「ワイルド・タイガー」には「SOFTOBANK」
主人公の相棒「バーナビー・ブルックス」には「BANDAI」が
スポンサーとなっています。

これは世紀の大発明です。
スポンサーはアニメを通して宣伝が出来、
アニメは実在のスポンサーから収入を得ると同時に、
物語にリアリティーをトッピングできます。

そして、パーマネントのヒーローとして成功すれば、
安定した収入がスポンサーから得られるでしょう。
これは、アニメの新しいビジネスモデルです。

韓国ドラマが作品の中で韓国製品をさり気に宣伝する様に、
アニメも宣伝媒体としての新しい世界に踏み出しています。

■ ドラマは2クール目の佳境に突入、ますます目が離せません ■

1クールで終わると思っていた「Tiger & Bunny」ですが、
好評だったのか、2クール目に突入しています。

1クール目で倒した敵は本当の犯人では無く、
犯人は身近なあの人だった・・・・・。

さて、タイガー達はこの強敵に勝てるのでしょうか。
タイガーの家族や、ブルー・ローズの恋心を交えて、
ドラマはいよいよ佳境に突入します。


本日は、「Tiger & Bunny」を紹介しながら、
近年の日本アニメのアメリカ戦略の動向などを紹介しました。

興味を持った方は是非ご覧になって下さい。



<追記>

鍛冶屋さんへのコメントの回答として書いた文章ですが、
アンリン・ヒーローの成立要件をまとめたので
追記します。

■ 様式美としてのアメリカンヒーロー ■

アメコミ・ヒーロー物は一種の様式美みたいなものなので、
歌舞伎や伝統芸能の様に先ず世界観の容認なくしては
楽しめないのではないかと思います。

これは仮面ライダーや戦隊物の特撮も同様ですが、
結局オタクは、悪に結社や変身ヒーローといった世界を
最初から全肯定して、その上で作品の「差異」を楽しみます。

マジンガーZに熱中した子供も、
成長すると腕がロケットで飛ぶ様なロボットの「ウソ」臭さに気付きます。
そして「よりリアルな設定のガンダムの方がスゴイ」という成長を遂げるのでしょう。

しかし永井豪の諸作が子供騙しで詰まらないかと言えば、
「正義の味方の破壊衝動」というテーマは、
結構人間の本質を鋭くえぐるものがあります。
そして、あの時代の東映動画のロボット物の諸作が持っていたものこそ、
アメリカン・ヒーローの魅力そのものでした。」

■ アメリカン・ヒーローの「正義」こそアメリカ人の「正義」 ■

本国のアメリカン・ヒーローも最初は子供騙しの様な
勧善懲悪の話からスタートしますが、
色々な作家が同じ題材を描くうちに、様々な進化を遂げ、
「悩めるヒーロー」というテーマを見つけてゆきます。

バットマンの映画版最新作「ダークナイト」などは、
既に大人ですら見ていて辛くなど程、人間の負の面を炙り出してゆきます。

「Tiger&BUnny」はこの様なアメコミの歴史を正しく理解した上で、
パロディーでは無く、正統アメリカンヒーローの新しい形を提示している点で、
大変注目に値する作品です。

本国のヒーロー物が一種閉塞状態にあるので、
この作品はアメリカのファンの心も確実に捉えているようです。

最後にアメリカン・ヒーロー物に分かり易い「善悪」という世界観は、
アメリカという人造国家故に必要だと私は考えています。
様々な人種の人達が共通して理解出来る世界感は、
かなり単純な物である必要があるのです。

これはアメリカ人の世界観に共通するもので、
個々の人達は多様な見識を持っていますが、
911の様な事件が起きると、世論が一色に塗りつぶされてしまします。

彼らの「正義」は、アメリカ国民の証なので、
子供向けの番組は「正義」は絶対的存在として描かれます。