コピー100本

放送学科というのがあるそうです。放送についての教育研究ということで、音響や映像の技術や、CM、マスコミ等々、色々な分野に分かれます。ある先生ですが、授業で「コピー100本」などの課題を学生に出されるそうです。「100本」と簡単に言うけれど、これは半端じゃない数です。先生が言われるには、物事を全方位で見ることのできる力をつけなさいという意味があるのだそうです。100本もコピーを考えようと思うと、ちょっとやそっとでは足りません。アイデアなどこれ以上は出ては来ないというところまで書き尽くすと、ふと素敵なコピーが浮かぶというものです。その段階になると、全ての作為的なものがそぎ落とされ、シンプルなものになると言うのです。このようなクリエイティブな仕事は「たくさん考えているのに、ちっとも考えていない振りをする」ことなんだそうです。

どんな世界であっても、一流の仕事をされる方の言葉は含蓄が深いものがあります。特に「たくさん考えているのに…」のくだりは、どんな分野でも同じかも知れません。あたかも、努力など何もしていないかに見える人も、実は人にはその努力を見せないだけのはずなのです。それを、本当に努力もせずに非凡な才が振るえるかに勘違いをするところから、すべてが出発してしまっているかも知れません。

安藤百福氏は「インスタントラーメン」という、とてつもない文化を提唱した、稀有の企業家です。その発想は、それまでの常識を軽々とひっくり返すものでした。ですが、それ以降（安藤氏の責任では一切ありませんが）、世はインスタントが持てはやされるようになってしまいました。特に教育の世界は「速攻」だの「早分かり」だのと言ったアプローチの仕方が、人気を呼びます。上っ面の要領をこなすことだけが、持てはやされる時代は、やはり浅い気がします。ものごとの根幹をキチンと丁寧に理解することが、ベースでありたいと思っています。


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