1月31日、移動性高気圧に覆われ快晴。
「わぁキレイ、早く滑りたぁ~い」、とカワイイ声。
振り返るとアイドルグループのような少女たち。
一人と眼があうと、ニコっと微笑んで「おはようございまぁ~す」
「おはようございます、早く滑りましょうねッ」
ハンノ木コース沿いにリフトを乗り継いで上がっていくと、ン?、オナカの具合がナンカおかしくなってきた。昨日の朝は熱でもある様な、ボワ~ンとしたダルさだったし、風邪気味なの?ワタクシ。
カフェテリアのトイレにでも寄るか、とも思ったが、栂の森に着く頃には治まった。
7~8人のハクジングループが直ぐ出発。同じ様な別のグループが準備中。山はハクジンだらけだ。
ボーダーが一人やってきて、ボードを抱えてツボ足で歩いて行った。これはニホンジンらしい。
ワタクシもシール貼って出発、9時半。
成城大小屋で一息入れていると、自然園方向から一人登って来た。かなり大きなザックを担いでいる。重そう、シンドそう。
そしてワタクシ、やはりオナカの具合がおかしい。登っている時は気にならないが、休憩したりすると、オナカはグルグル言っている。
天狗原の斜面には二人、そのズッと下に3人程。大勢のハクジンはどこかに消えた。
白樺の大木手前あたりを登っていた時、急に南の方からグォオゥ~、正に地を揺らがすかの様な轟音。ナニコレ?八方尾根あたりで巨大な雪崩?
ジェット戦闘機だった。4機、かなり低い位置を飛んできた。グレイの機体と2枚の尾翼がハッキリ見える。そしてアッと言う間に西方向へ旋回していった。旋回しながら一回転したように見えた。
「どないや、上手いやろ、カッコええやろ」と見せつけているようだった。
確かにカッコええけど、1機で何十、何百と言うニンゲンを、いとも簡単に殺せる武器、それがアイツのポテンシャル。
あぁ恐ろし、ワタクシ、やはりああ言うのキライです。どうせ運転出来へんし。あんなに速く移動する必要もないし。
登りきった所にある白樺の大木の側で、大きなザックを担いだ先行者が休憩していた。
「コンニチワ、イイ天気ですね」
「コ、コンニチワ、それ延びて引っ掛けれる様になるンですか?」、オットリとした喋り方の青年だった。
山スキーは4~5回目との事、むしろ登りが専門らしく、クライミング用のヘルメットとピッケルをザックに付けていた。
靴はフツーのスキーブーツだが、ビンディングはワタクシと同じディアミール。
「イヤ、これ延びるンじゃなくて、ボク、足小さいから後ろの部分が前に来るンで、延びた様に見えるだけや、君のンもこれ、こうやって上げると引っ掛けれるよう」
クライミングサポートをストックの先で上げたり下げたりして、センターレールの末端をそれに置いて、登る斜度に対応することを知らなかった様だ。
「そうか、そうやって使うのかぁ」
と、言う事は「君、この斜面、クライミングサポートなしで登って来たン?ようやるなぁ」
「はぁ、白馬乗鞍、登ろうと思って来たンです、しかし上手く滑れるか心配で、こんなとこ、滑るの初めてでェ」
「その板、センターの巾、ナンボなん?」
「85、6だったかな」
「ンならセミファットやん、ボクのンと同じや、心配せんでも滑れるわ、ほな、お先に」
直ぐ先程の青年もやって来て、板を脱いだが、流れ止めを付けたままなので、板を引きずってウロウロしている。よく見るとストッパーはチャンと付けている。
「君、ストッパー付けてるンなら、そのヒモ、流れ止め、要らんでぇ、大体、ヒモ付きでコケて、板外れると、板がこっちに向かって飛んできてケガするから、フツーはヒモ、付けへんでェ」
「へぇホントですかぁ、でも深雪で板外れると、なくなりませんか?」
「ボク、30年ヒモなしやったけど、なくなったことなかったでぇ、でももしなくなったら、諦めてハラくくって歩いて降りるしかないワ」
「へぇそうですかぁ」
相変わらず、ワタクシのオナカはグルグル言っている。「ほな、お先に」
稜線まではもう少し。テレマーカー3人組が動画撮りながら降りて来た。
先程の青年が追いついて来て、前を行く。「さすが速いねぇ」
しかし、彼は右手へ逸れて行く。イヤ、そっちはテッペンちゃうよぅ。
13時、頂上着。今年も何とか登れました、ふぅぅ~。
しかし、まだ雪は少ない。ハイ松も、夏の登山路を示す鉄の杭も出たままだ。まぁまだ1月ですモンねぇ。
先程の青年も右手を迂回してやって来た。「はぁ~、登れたぁ」
「このままシール付けたまま、もうチョット先まで行った方がエエわ、これだけ松や岩、出とったらソール、キズつくし」
「ハイ」
チョット先でシール外して滑る準備をする。
青年、やって来て、「シール付けたままで滑れませんかねぇ、ターン出来ませんかねぇ」
「さぁ、登り下りの繰り返しの場所でシール付けたまま滑ったコト、あるけど、ターンはムリやろ」
「そうですかァ」、青年もシール外して、そしてそのままスキーを履こうとする。
「き、君、アイゼン外さんと、いくらなんでも」
「あぁそうでした、マヌケですねぇ、ハハハ」
しかし、彼のアイゼンが中々外せない。結局彼はアイゼンの爪を上にして、付けたまま下ると言う。
「それより、うまく滑れるかが心配で」
「確かに、その大きなザック、大変そうやね、雪山で寝れる道具、全部入っとうのン?」
「ハイ、テント、入ってます、ツェルト持ってないンで」
「何とかなるよ、とにかくこの下の斜面降りて、天狗原からもそのままフツーに下ると林道へ出るから、後は林道辿ってゲレンデへ出れる、ダイジョウブや」
付き合ってやりたいが、こっちもハラ具合が悪いのよぅ。さっきからもグルグル鳴っている。
そうしていると、3人組がやって来た。「こんにちわぁ~」
「ほな、お先に」
「あっ、色々アリガトウございました」
周りは風が掘った溝でデコボコ。うまく避けないと、突っ込んだらコケてしまう。そして、コケた。
最初は変な感じのモナカ。その後フツーの深雪になった。
先行者5人のシュプール避けて、北寄りの雪崩の跡ギリギリを滑る。
止まると相変わらずハラがグルグル、とにかく早く下りないと。
まぁ、イザとなったら大キジをうてばイイいのだが、この歳になって雪山でオシリを出したくない。
天狗原の滑りやすそうな斜面を選んで降りて、後はヒタスラ林道を降りて、14時過ぎカフェテリア栂の森のトイレに無事駆けこんだ。ふぅ~。あぁナサケナ。
トイレから出て、ビール1缶呑んで外へ出ると、白馬乗鞍がオモラシ寸前だった還暦ジジィを見ていた。
あのオットリした喋り方の青年は無事降りれたンだろうか。
翌2月1日も快晴。しかし、ゲレンデに出る元気なく、少し寝てから帰る事にした。
いつも寄るお酒屋サン側の橋からは後立山連峰がキレイに見えた。
これだけで大満足、バツグンの景色だった。