蒼ざめた馬の “一人ブラブラ、儚く、はてしなく”

山とスキー、車と旅、そして一人の生活

ヒドいゴーストのブラウン管から始まったアンポハンタ~イ!!!

2015-09-27 18:34:02 | 朽ちゆく草の想い

オヤジは昭和32年、布引谷に木造平屋¥28、400.-の安普請を見つけ、オフクロとワタクシを連れて住みついた。そして暫くしてテレビを買ってきた。

とは言え、重いブラウン管のテレビはどうやって運んだのか。
世継山のゴルフ場開発に伴って、布引谷・市ケ原に車道が通ったが、ゴルフ場は33年に申請され、34年に厚生省が認可したとのことなので、当時車道はまだない。
街の電気屋サンが車で配達できるようになるのは、その数年先。と言うコトは、誰かが担いで運び上げないといけない。
オヤジには標高差約200m、約3kmを担いで上がる体力はなかったはずだ。展望台の下にある女子高まで車で運び、そこから電器屋サンが担いで上がったのか。

いずれにせよ、大変な労力を伴って、やってきたにもかかわらず、テレビは綺麗には映らなかった。

 我が家は、背には世継山が標高差約150mで聳えており、対岸には標高差約100mの無名峰、南側は世継山から派生する尾根で遮られ、謂わば布引谷の底にあって、電波は何度も山腹に反射してから届くので、テレビはゴーストだらけ。

しかし布引谷には娯楽はない。三宮の映画館へ行くには、1時間程歩かないといけない。ゴーストだらけのブラウン管でも見るしかない。

そしてこのテレビは、月光仮面の番組最終回の日、市ケ原でチョットした騒ぎを引き起こした。

と言うのはその日、最終回を見たいと、村の少年たちほぼ全員が我が家に押しかけていたため、普段は河原で遊んでいる少年達がいなくなったと、村のオトナ達は大騒ぎ、藪の中まで大捜索したそうだ。
数日前、見せて欲しいと頼んできたのは同級生のタケシくんだった。当然、ワタクシは快諾。
もう一人の同級生のヨッちゃんと二人で見に来ると思っていたら、タケシくんは自分の兄弟とその仲間も引き連れてやって来た。5歳上で、一度も話したことのない大きな茶店の跡取り息子もいた。

彼らはゴーストだらけの月光仮面を見て、サッサと帰ったので、河原から消えていたのはホンの一時間程度だったと思うが、その後どこかへ、オトナ達が大騒ぎするほどの間、寄り道していたのかも知れない。 

そんな大騒ぎの月光仮面の最終回が、どんなストーリーだったかは全く記憶にない。ただ、ゴーストだらけの白黒画面の、月光仮面の異様に白い衣装だけが、印象に残っている。

そして年が明けると60年安保、 ゴーストだらけの画面には、「アンポハンタイ!!!」と叫ぶ大勢のオトナ達が、毎日のように映し出されていた。
ワタクシは小学2年生、当然「アンポ」には関わりなく、麓の小学校までハイキングコースを歩いて通う毎日。幼稚園から始まった片道約4キロの通学は3年目。
そして家に帰って見るテレビの画面には、「アンポハンタイ!!!」と、一見騒いでいるだけのように見えるオトナ達。
それが国会議事等前に数十万人が集まっての安保反対運動で、その中にいた神戸出身の東大生のミチコさんが亡くなった、と言うコトを知ったのはそれから数年後。この死亡事件には公安警察が絡んでいると言う説もあるらしい。

いずれにせよ、小学2年のワタクシ、何故かそんな騒ぎに嫌悪とかは感じず、アンポには反対するモノだ、それがアタリマエ、と思うようになった。

とは言え、当時の小学生はしばしば少年雑誌に乗っている、戦艦大和や零式艦上戦闘機などの勇ましい記事を心躍らせて読み、アンポのせいで神戸港にやってくる米空母を見に行ったりもした。
飛行甲板の右舷に、ブリッジがニョキっと建っている奇妙な船体は、小学校からの帰り、展望台からもよく目立って見えた。
しかしあれがベトナムまで行って、戦争をしているとは、誰からも教えられず、小学生はただ勇ましくカッコイイと思った。

それから10年経って70年安保、ワタクシは高校3年。
学校では制服廃止、男子生徒の丸刈り廃止、教職員会議の公開などの要求を掲げ全学ストライキ。
ワタクシは、べ平連神戸が発行する週刊アンポ神戸を読み、花時計前の公園の集会にも度々参加していた。

米軍基地によりニホンは守られているので、アンポは賛成、と言う意見。いや戦争になると、基地があるニホンが最初に攻撃されるので、アンポは反対、と言う意見。
ワタクシはただ単純に、在日米軍基地から出撃したアメリカ軍の強大な武力が、ベトナム人を殺戮するからアンポは反対だった。
米軍基地に守られ、平和で豊かで毎日が楽しいニホンの実態とは、ベトナムでの人殺しに加担している、それでいいのか。 

同級生には同じ考えのモノが多かったが、オトナ達の大半は、どっちでもイイと言うか無関心、イヤ、“御上”に逆らうとは何事か、と言うおバカもいた。

ユースホステル協会に関係があり、布引谷・市ケ原に頻繁に現れ、村の電気工事や修理をやっていた男は、「反戦デモは道交法違反やぞ」、と言っていた。
中学生の頃、この男に誘われてユースホステル主催のキャンプに行ったことがあり、よくハイキングにも誘われた。
しかしハイキング以上のコワイことはやらず、高校生のワタクシが住吉谷周辺の谷登りを始めると、滝が連続する西山谷や大月地獄谷は、転落死亡事故もあったから、「高校生は立入禁止やぞ」とも言っていた。
しかし、この男はワタクシに連れられて、いくつかの谷に行った。ユースホステルの関係者へ、大月地獄谷を登ったと、自慢したかったのか。
今思えば、この男のことはあまり詳しくは知らなかった。
電気工事を個人でやっていた様だが、店は構えていなかった。
10歳以上年上だったがチョンガーだった。オフクロは、「結婚せえへんのは、どこかカラダでも悪いの?」と訊いていた。
いずれにせよこの男、そもそも大勢の民衆が集まって、“御上”に逆らうこと自体を忌み嫌っていたのではないか、と思う。
「若いのにエライ保守的、反動的な考えの人やねェ、そんなんやったらもう付き合うのヤメとき」、とオフクロは言った。自然とその男も布引谷・市ケ原に現れなくなった。

結局、安保条約は自動延長されたが、その数年後、アメリカはベトナム戦争に負け、ベトナムから撤退した。ワタクシはひっそりと快哉を叫んだ。

しかしアメリカは、その後も舞台を中東に移し戦争を続け、その都度、在日米軍基地に「思いやり予算」を出すだけではなく、集団的自衛権を行使し、戦争に参加せよと言っている。「ショー ザ フラッグ」 、「ブーツ オン グラウンド」と言うヤツだ。
いつのまにか日米安全保障条約は日米同盟になり、防衛庁は防衛省になり、イージス艦を何隻も持ち、空母に見間違うような護衛艦を数隻持ち、軍事予算は5兆を越え、これは世界で何番目かの軍事力らしい。これをアメリカが使いたいと考えるのはアタリマエ。

そして今回、憲法9条はアメリカからの押し付けなので変えないといけない、という勢力は、アメリカから押し付けられたアンポ法を、強行採決し、この軍事力をアメリカのために使えるようにした。
戦争しないか、するか、要はどちらもアメリカの押し付け、それをこの政権は自衛のため、限定的にとか誤魔化して「する」と選択した。ワタクシはそう言うことだと思う。
財界と言うか、ナントカ重工業とか言う企業集団からの強い要請もあったと思う。

戦前は軍艦、戦闘機を作っていたこれらの重厚長大企業は、戦後は造船で欧米からシェアを奪っていたが、それはニホンの人件費が安かったからで、高度成長で給料が上がると、この競争力は無くなり、より人件費の安い韓国、中国にシェアは奪われていった。
そしてワタクシが舶用関連メーカーに就職して数年後には造船不況。「労働集約型産業は、そうなってもしゃあないでぇ」、と日立造船の設計者から教えられた。

そんなナントカ重工業が、軍需産業として復活を目指すのは当然のことと言える。そのうち飛行機も作れるようになるだろうし、武器もドンドン輸出できるようにもなったそうだし、いずれ死の商人と呼ばれるのだろう。
それでも彼らは、これでフツーのクニになった、と安堵するのか。

フツーにこのクニを守るのなら、個別的自衛権で充分可能、との説がある。アタリマエだ。

しかし同盟国、つまり軍事力世界一のアメリカが攻撃されたら反撃出来る集団的自衛権の行使で、更に抑止力が高まるから安心、そう言うその感覚がワタクシには理解できない。そんな安心は鬱陶しい。

軍事力による抑止力、安全保障がそんなにアリガタイのか、そんなに安心なのか。片方の抑止力が高まると、もう片方も高める。結局は軍拡、それが安心なのか。あぁアホクサ。
しかし、このクニの民の大半は、アンポに関しては相変わらず、どっちでもイイと言うか無関心で、“御上”から抑止力が高まるから、と言われると、それで安堵するのだ、と思う。

いずれらせよ、このアンポ法制と呼ばれる戦争法で、今まで米軍による殺戮に加担していたこのクニは、世界のどこででも直接殺戮出来るようになった。いずれ誤射等による民間人をコロすこともあるハズだ。しかし戦争中の人殺しは咎められない。
敵意と武器を持って、よその国へ行くとはそういうことだと思う。それでもホントに、どっちでもイイのか、無関心でイイのか。

強行採決の後、国会前に集まった学生たちは、一斉に「選挙へ行こう」と、訴え出したそうだが、本来なら昨年、集団的自衛権行使容認を閣議決定した後の参院選前に、それをすべきであったと思う。
しかし、来年の参院選で与野党逆転すれば、アンポ法は執行停止出来るらしい。
今の巨大与党は、50%強の投票率×50%強の得票率、つまり有権者の3割程度が支持しているだけだ。与野党逆転は不可能ではない様な気もする。

取りあえずワタクシは、アンポ法の違憲訴訟に何らかの形で関わってみようと思う。