一斗缶の金属の蓋を、フン!と押して開け、石油ポンプを差し込みショコショコしてタンクに入れるが、石油缶は台所の外の、オヤジが増設したブリキ壁の小屋にあり、冬はムッチャ、メッチャ寒かった。毎回手に石油が付き、都度洗い落さないといけないが、湯沸かし器などはなく、近くの谷から引かれて来た冷たい水では、石鹸の泡が立たず、ワタクシはいつも石油臭かった。28歳まで、石油のニオイは、冬の寒さ、冷たさと共にあった。 所帯を持ち、都市ガスの街に住み始めると、石油とは縁が切れ、あの石油臭い日々とも縁が切れた。お湯もツマミを廻すと直ぐに出るし、排せつ物もコックを押すと流れ去る。これがアタリマエの文化的な暮らし、しかしそれは、そんなに嬉しいことでもなかったが。 それから35年程経って、安曇野住民となり、また石油との生活が始まった。 安曇野の暖房は薪ストーブ!、という“オッシャレ~”なテがあるそうだが、それは中々メンテも大変とかで、薪代もそこそこ高コつくらしく、何と言っても、朝、薪の火を消して山スキーに出かけ、夕方帰って来てまた薪に火を点ける、という使い方は出来ない(?)とか。
薪ストーブはとにかく、チョロチョロ燃やし続ける、というモノらしい。
またエアコン暖房は、ガスより省エネで快適なことも判っているが、夏はつい冷房に使ってしまいそうで、なんで信州でエアコンやねン、というフザケた拘りが捨てきれず、結局安曇野の暖房は石油にした。
“オッシャレ~”と言う意味では、石油ストーブだって、イギリスブランドの人気製品があるし、点けた時と消した時の、あの石油臭さが35年経ってナニか懐かしく、これは冬のゼイタクな雰囲気ではないか、とも思った。 昨年2月、ここでの寝泊まりが始まることになり、まず最初にポリタンクと石油とポンプをゲットし、35年振りに石油ストーブに点火。
石油ポンプの形状は昔と変わらなかったが、ショコショコしていた部分には電池が入り、先端の電動ポンプで石油を吸出し、ストーブのタンクが満たされると、センサーで自動停止されるようになっていた。
樹脂パイプの材質なども進化したのか、キレも良くなり、タレた石油で手を汚すことも無くなった。
神戸・布引谷の時代から35年経ち、“石油生活”は快適になった。 12/17、そのポンプがおかしくなった。給油していて、吐出側ホースの付け根辺りから漏れている。
最初、目の錯覚かと思ったが、ポリタンクのトレーの底に漏れた石油が溜まっていた。
そして単三2本が入っているケースがパチッと嵌っていなかった。
しかしモーターはフツーに動くし、センサーでチャンと停まる。
ストーブのタンクを満たした後、ポンプを明るい屋外に持ち出し観察。しかしホースの付け根部には緩みは無し、カシメられている、というか緩まない。
次に電池のケース、確かに1か所外れている。その辺りをフンッと指で押してみるが、嵌らない。何かがズレて収まらないのか。ケースを開けて見ると、基板と電池と接触するバネ板がバラバラに出て来た。これをうまく収めれば、パチッと嵌るハズ。しかしそれが収まらない。何度かやっていてフト気が付くと、基板に半田付けされているリード線を切ってしまっていた。
要は、おかしくなったポンプを直そうとして、逆に壊してしまった訳だ。
モーターで動いてセンサーで停まるわけだから、一応電化製品(?)。しかし価格は千円程、という事は消費財(?)。「直してぇ~」と購入元に持って行っても、まず相手にされない。廃棄し、買い替え、それしかない。 12/19、今度は電気ケトルが使えなくなった。セットしてスイッチを入れてもパイロットランプが点かず、湯も沸かない。
このケトルは8年前壊れて、基板配線不良(と言うか、配線設計の不備?)で無償交換されたもの。今度はなんの不備なのか。
いずれにせよ、今回は有償修理しかないハズ。メーカーのサイトを見ると、品番も変わっている。そもそも修理できるのか。
メーカーに問い合わせると、修理は可能、費用は最大8千円程、納期は3週間との事。
ところがその後、炊飯器を使おうとしたら、それもランプが点かない。炊飯器とケトルは同じ延長コードに繋がっていて、辿って行くとプラグがコンセントから外れかけていた。
何というマヌケな顛末。壊れたと信じ込んで騒いだモウロクオヤジが安曇野にいる、ホント恥ずかしい。 12/20、色々買い出し後、国道を走っていて、タヌキを轢きかけた。
横断しようとする歩行者を見つけたら一旦停止、これを行うドライバーがダントツに多いのが長野県とか。
確かにワタクシも、先を譲られたことが何度もあり、信州人はエエ人ばかり。「オンドレ、なにしとンじゃ」、口汚く罵り、歩行者の前を暴走する関西人とは大違い。
信州人となり、自分もそうあるべく、人にも車にも、とにかく先を譲ることにしている。まぁ教習所で最初に教えられる、アタリマエの事だけど。
とは言え、安曇野では歩行者は少なく、前後に車も少なく、しかも道は真っ直ぐ。
当然の如く、このモウロクオヤジはイリーガルな速度まで加速してしまう。これは、20万キロ以上走った、水平対向6気筒のAWDが、まだ健全であることを確認する意味もある。
その日も信号が青になり、周りに他の車がいないことを確認し猛加速、イリーガルな速度になった時、民家の陰からトコトコと出てくる小犬あり、チワワ?ポメラニアン?、イヤ、タヌキ!、刹那パニックブレーキ、ABSがガガガッと働き、タヌキは車の陰に消えた。幸い衝撃はなく、再度タヌキは姿を現し、寄る辺なさげに、向いの民家の庭へ歩いて行った。ヤツは驚きもせず、慌てもせず、トコトコと現れ、トコトコと去って行った。
ヨカッタぁ。この長野で、タヌキであっても、横断しようとする者を轢くわけにはいかない。ホッとした。
しかしあのタヌキ、毛並み汚く、左後ろ足の付け根辺りが筋状に赤く、最初は赤いリボンでも付けてられているのか、と思ったほど。明らかにケガをしてヨボヨボ。死にかけている、と言えばヤツに失礼か、しかし壊れかけていたのは確か。 とは言え、ヤツは野生動物、壊れかけていてもニンゲンが治すわけにはいかない。というか、自然と治る。「野生動物は強いずら」、杣人・Mさんはいつもそう言っている。