昨年3月、ワタクシは、栂の森のテッペンで、急に立っていられなくなって、スロープに出るコースの法面にヘコタレてしまった。スロープ上部で集まっている人達は、「あの人、ダイジョウブかぁ」と、ザワザワし出し、一人の若者が「パトロール呼びますかぁ?」と声を掛けてくれたが、「いやダイジョウブ、アリガト」と、ザワザワしているグループの横をフツーに滑り降りた。
その後はゴンドラに乗って、麓まで降りたが、状態は益々ひどくなり、ホームからもフツーに歩けず、階段は、左手で持った板を杖にして、右手で手すりを掴み、正にステップを一歩ずつ下り、何とかコロゲ落ちずに地上に着いた。後は定宿まで500m程を残すのみ。
そしてラッキーにも、松川村のSさんと遭遇し、車に乗せて頂き定宿に到着。Sさんにはフツーに手を振ったが、宿の引き戸が開けられない。ナンセ、手足が思うように動かない、力が入らない。結局、玄関先で倒れ込んでしまった。
何しろカラダが動かないので、誰かに見つけられるまで「寝たきり」の状態。これは始めて味わう不思議な感覚であり、しかし、3月初めとは言え、風はなく、陽にポカポカ照らされ、この「寝たきり」は心地よかった。
その後、外出から帰って来たバイト君に見つけられ、直ぐに救急車が呼ばれ、大町(?)でドクターヘリに乗せ換えられた。行先は信大病院とか。
ドクターヘリに乗り込んで来た救急隊員は、3人、リーダーは女医。ショートカットの、美人アスリートの様だった。
冬山ウェアの「寝たきり」のワタクシは、信州へは単身移住なので、付き添いはいない、と彼女に説明した。
すると彼女は、「これからはもう、寝たきり、ですよ」、と言った。
ワタクシは先程の定宿玄関先での「寝たきり」が心地よかったので、まぁ「寝たきり」でもエエかぁ、この美人アスリートの「宣告」をボンヤリ聞いていた。
病院へ着いた時点のワタクシの血圧は、200以上だったそうで、降圧剤等の数種類の点滴が繋がれ、結局、翌朝には手足は動く様になっていた。「寝たきり」は一晩で終わった。
フツーに動けることも確認した後、横になっていると、この女医がヒヨコっと現れた。
彼女からは、「お元気になられてヨカッタですねぇ」とかの挨拶はなく、ただ会釈をしただけで、「前日あの状態になる前に、アタマを打たなかったか」とだけ訊いて来た。
ワタクシはフツーに「イヤ、なかった」と応えると、彼女は前日の自分の「寝たきり」誤診に対する会話等はなく、そそくさと帰って行った。
一体、この美人アスリートの様な女医は、何をしに来たんだろう。「これからは寝たきり」と、自分が診断した患者(?)が、翌朝はピンピンしている状況を知って、自分の眼で確認しに来たのか。
「去年、寝たきりになりかけましてねぇ」、先日、知人にこの一連の騒ぎを話したら、「まぁ何もなくて、ヨカッタじゃなかったですか、それにしても、そのオンナのセンセ、スゴイですねぇ」。
知人が言ったスゴイとは、医師として凄い腕を持っている、という意味ではなく、凄くヒドイことを言う医師だ、という意味だった。
「だってフツー、医者が寝たきり状態の患者に、これからは寝たきり、なんていわないでしょ、ホントにその人、医者でしたぁ?」、確かに彼女が医者だと確認はしていない。ホントはタダの救急隊員だったかも知れない。
しかし医者でなくても、倒れている相手に「寝たきりです」とは「アンタはもう終わり」と言っているようなもので、とてもヒドイ、残酷な一言だと思う。
しかもあの時、他に会話はなく、彼女はワザワザ「これからは寝たきり」とだけ言い加えたのだ。ワタクシが「今後どうなりますか」と訊いたわけではないのに。
ホントに余計な一言を口にするニンゲンだった、と思う。
まぁ世間には、余計な一言を言い散らして、ヒンシュクを買いあさっているおバカも多い。
この女医(?)も、そんなおバカの一人だったのだろう。そして関わった人達、全てに嫌われ、呆れられているはずだ。
定宿のオオオカミはワタクシの「寝たきり」状態を見て、「寝たきり」にはならない、と確信したそうだ。
ワタクシは救急車が来るまで、フツーに話をしていた。
脳卒中になると、アワアワ言っているだけで、まともに喋れなくなるそうで、オオオカミのオヤジさんがそうだったらしい。
ワタクシの病名は「頸髄硬膜外血腫」、アタマの血管が切れたのではなく、切れたのは頸の血管。切れた原因は高血圧。
今は降圧剤を毎日服用し、血圧を測り、フツーに寝起きしている。