知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

提出期間経過後に提出された優先権証明書の却下処分

2010-09-20 09:44:43 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)183
事件名 特許庁による手続却下の処分に対する処分取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月09日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

2 原告の主位的主張について
 これに対し,原告は,原告が本件補正書を特許庁長官に提出したのは法43条2項に規定する優先権証明書の提出期間の経過後であるものの,パリ条約上の優先権制度の趣旨に鑑みれば,同項の規定に反したという手続的瑕疵については,特に不都合が発生しない限り広く補正を認め,私有財産たる「優先権の恩恵を受ける権利」を保護するのが相当であり,同項の規定を必要以上に厳格に解して補正を認めず,私有財産を公権力で剥奪するかのような本件処分は,憲法29条1項に違反し違法である旨を主張する。

 しかしながら,パリ条約は,優先権を主張する場合の手続について規定した上で(4条D(1),(3),(4) ),かかる手続がされなかった場合の効果については,優先権の喪失を限度として各同盟国において定めることを認めており,・・・,我が国は,同条約に基づき,法43条4項で,優先権証明書の提出期間を徒過した場合に,優先権の主張の効力を失わせることとする措置を講じたものである。
 パリ条約による優先権は,・・・特別な利益であり,先願主義の例外事由となり,新規性等の判断の基準日を遡らせるなど,その効果が第三者に与える影響は大きいものである。上記のような我が国の制度の下で,提出期間内に優先権証明書を提出しなかったことにより失効した優先権主張の手続を,その後に優先権証明書が提出されたことにより,事後的に有効な手続と取り扱うことを認めた場合,当該優先権による基準時より後の日で,当該出願より前の日までに同一発明の出願を完了した第三者は,優先順位が覆ることになる不利益を被ることになるのであり,明文の規定のないまま,解釈により,いったん失効した優先権主張の手続を復活させる取扱いをすることは,手続の安定を害し,許されないというべきである。

・・・

3 原告の予備的主張について
 原告は,原告が法43条2項に規定された期間内に優先権証明書提出書を提出しなかったのは,錯誤によるものであるから無効であり,錯誤の規定が意図する救済の精神及び優先権制度の精神を加味すれば,本件補正書による優先権証明書提出書の補充は認められるべきであり,本件処分は,実質的に民法95条に違反し,憲法29条で保証された私有財産を実質的に剥奪するものであるから違法であると主張する。

 しかしながら,仮に,原告が法43条2項に規定された期間内に優先権証明書提出書を提出しなかった行為が原告(ないし原告の特許管理人)の何らかの思い違いに基づくものであったとしても,上記行為は,単なる事実行為であって,意思表示と認めることはできないから,同行為について民法95条の適用はない。

 仮に,民法95条の適用があり得るとしても,・・・,上記行為が錯誤に基づくものであったからといって,これにより,同条2項に規定する期間内に原告が優先権証明書を提出したことになるわけではない。

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