知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」する主体(カラオケ法理の主張)についての判断事例

2010-09-12 22:14:58 | 商標法
事件番号 平成21(ワ)33872
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告の行為主体性)について
(1) 原告は,
① 被告が,自ら勧誘した本件各出店者が出店するインターネットショッピングモール(楽天市場)を運営し,被告サイトを通じて,購入者(同希望者を含む。)からの要請に応じて,自らが管理運営するサーバに保管し,内容を点検可能な本件各商品に関する情報を顧客に送信し,表示させる行為,及び本件各商品について顧客から購入の申込みを受け,本件各出店者をして出荷,すなわち譲渡させる行為(・・・。)を行い,利益を上げていること,
② 被告は,出店者が楽天市場に出店し,商品を展示及び販売するに当たり,多くの支援・援助を行い,不適切な商品等についてはコンテンツを削除する権限を有していること,
③ 被告と本件各出店者の相互利用関係等にかんがみると,被告の上記行為ないし関与は,楽天市場における本件各商品の販売のための展示及び販売について,被告が主体となって本件各出店者を介し,あるいは本件各出店者と共同で,少なくとも本件各出店者を幇助して展示行為及び販売行為を行ったものとして,商標法2条3項2号の「譲渡のために展示」又は「譲渡」に該当し,同様に,不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のために展示」又は「譲渡」に該当する旨主張する。
 ・・・

(3) 判断
 ・・・
 前記前提事実によれば,
① 被告が運営する楽天市場においては,出店者が被告サイト上の出店ページに登録した商品について,顧客が被告のシステムを利用して注文(購入の申込み)をし,出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し,出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転していること,
② 被告は,上記売買契約の当事者ではなく,顧客との関係で,上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではないことが認められる。
 これらの事実によれば,被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)については,当該出店ページの出店者が当該商品の「譲渡」の主体であって,被告は,その「主体」に当たるものではないと認めるのが相当である。

 したがって,本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品についても,その販売に係る「譲渡」の主体は,本件各出店者であって,被告は,その主体に当たらないというべきである。

イ (ア) これに対し原告は,楽天市場における本件各商品の販売についての被告の関与によれば,被告が主体となって本件各出店者を介し,あるいは本件各出店者と共同で本件各商品の譲渡を行った旨主張する。

 しかしながら,前記前提事実によれば,・・・,実質的にみても,本件各商品の販売は,本件各出店者が,被告とは別個の独立の主体として行うものであることは明らかであり,本件各商品の販売の過程において,被告が本件各出店者を手足として利用するような支配関係は勿論のこと,これに匹敵するような強度の管理関係が存するものと認めることはできない
また,本件各商品の販売による損益はすべて本件各出店者に帰属するものといえるから,被告の計算において,本件各商品の販売が行われているものと認めることもできない

 さらに,・・・,本件各商品の販売について,被告が本件各出店者とが同等の立場で関与し,利益を上げているものと認めることもできない。もっとも,本件各出店者と被告との間には,被告は,本件各出店者からその売上げに応じたシステム利用料を得ていることから,本件各出店者における売上げが増加すれば,システム利用料等による被告の収入が増加するという関係があるが,このことから直ちに被告が本件各商品の販売の主体として直接的利益を得ているものと評価することはできない

 以上によれば,被告が本件各商品の販売(譲渡)の主体あるいは共同主体の一人であるということはできないというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

開放的ライセンスポリシーを採用し、複数の代替技術が存在しても超過利益はあるとした事例

2010-09-12 21:12:57 | Weblog
事件番号 平成20(ネ)10082
事件名 職務発明対価請求控訴事件
裁判年月日 平成22年08月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

2 独占の利益の有無について
(1) ア 勤務規則等により,職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払いを求めることができると解するのが相当である(最高裁平成15年4月22日第3小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。

 そして,使用者等が,職務発明について特許を受ける権利等を承継しなくとも,当該特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことからすると,同条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の全体をいうのではなく,その全体の額から,通常実施権の実施によって得られる利益の額を控除した残額(本判決も便宜上これを「独占の利益」,「超過利益」などということとする。)と解すべきである。
 また,改正前特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,特許を受ける権利が将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発明の独占的 実施による利益を得た後の時点において,これらの独占的実施による利益をみてその法的独占権に由来する利益の額を認定することも,同条項の文言解釈として当然に想定されているものと解される。

イ 本件では,被控訴人は,少なくとも競業他社の一部に対し,本件各特許の実施を許諾しているものと認められるところ,控訴人は,被控訴人が本件各特許を自ら実施しているとして,それによって得た利益を相当対価算定の根拠として主張している。このような場合,使用者等が,当該特許権を有していることに基づき,実施許諾を受けている者以外の競業他社が実施品を製造,販売等することを禁止することによって得ることができたと認められる収益分をもって,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」というべきである。

ウ 使用者が被用者から譲り受けた特許発明の実施につき,実施許諾を得ていない競業他社に対する禁止権に基づく独占の利益が生じているといえるためには,当該特許権の保有と競業他社の排除との間に因果関係が認められる必要があるところ,その存否については,
① 特許権者が当該特許につき有償実施許諾を求める者には,すべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)を採用しているか,又は特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか,
② 当該特許の実施許諾を得ていない競業他社が一定割合で存在する場合でも,当該競業他社が当該特許発明に代替する技術を使用して同種の製品を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がないか,また,
③ 包括ライセンス契約又は包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が,当該特許発明を実施しているか又はこれを実施せず代替技術を実施しているか,さらに, 
④ 特許権者自身が当該特許発明を実施しているのみならず,同時に又は別の時期に,他の代替技術も実施しているか等
の一切の事情を考慮して判断すべきである。

 ところで,当該特許発明の価値が非常に低く,これを使用する者が全く想定し得ない場合や,代替技術が非常に多数あるため,市場全体からみて当該特許の存在が無視できるような特段の事情がある場合を除き,単に開放的ライセンスポリシーが採られており,当該特許発明と同等の代替技術が存在するというだけでは,程度の差はともかく,依然として当該特許発明を譲り受けた使用者に「超過利益」はあるというべきである。

 また,ある市場において,当該特許発明のほか,代替技術となり得る複数の技術が存在する場合,技術の優劣等の格別の事情が認められなければ,原則として同市場に占める当該特許発明の割合に応じた「超過利益」が認められるというべきである。ちなみに,当該要証事実の性質等によっては,当該特許発明と代替技術との優劣を的確に判断することは,技術内容や市場原理等に対する理解の難しさもあって,困難を極める認定問題であり,安易に立証責任の所在を定めて,悉無律によって決することは,不公正な結果を招来しやすくし,妥当ではない

 なお,企業は,経済的に自己の利益を最大化することを目指して行動するものであって,各企業が,当該特許発明を自社実施するか,一部又は全部を他社に実施許諾するかは,利益最大化のための手段として,最良の選択か否かの問題にすぎない。

 そうであれば,自社実施の場合であっても,それによる利益の一定部分は「超過利益」に該当するものと解すべきである。

<原審>
事件番号 平成19(ワ)10469
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

 以上検討したところによれば,被告は,本件各特許につき,開放的ライセンスポリシーを採用していたこと,本件各発明の代替技術が存在し,両者の間に作用効果等の面で顕著な差異が存在すると認めることができないこと,クロスライセンス契約の相手方が,本件各発明を実施しているとは認められないこと,被告自身も本件各発明の代替技術を実施していたこと等を総合考慮すると,被告の競業他者が本件各発明を実施していないことが本件各特許の禁止権に基づくものであるという因果関係を認めることはできない。