事件番号 平成21(行ケ)10434
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
(2) 法36条6項2号の趣旨について
法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。
そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。
上記のとおり,法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関して,「特許を受けようとする発明が明確であること。」を要件としているが,同号の趣旨は,それに尽きるのであって,その他,発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけではない。
この点,発明の詳細な説明の記載については,法36条4項において,「経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と規定されていたものであり,同4項の趣旨を受けて定められた経済産業省令(平成14年8月1日経済産業省令第94号による改正前の特許法施行規則24条の2)においては,「特許法第三十六条第四項の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されていたことに照らせば,発明の解決課題やその解決手段,その他当業者において発明の技術上の意義を理解するために必要な事項は,法36条4項への適合性判断において考慮されるものとするのが特許法の趣旨であるものと解される。
また,発明の作用効果についても,発明の詳細な説明の記載要件に係る特許法36条4項について,平成6年法律第116号による改正により,発明の詳細な説明の記載の自由度を担保し,国際的調和を図る観点から,「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」とのみ定められ,発明の作用効果の記載が必ずしも必要な記載とはされなくなったが,同改正前の特許法36条4項においては,「発明の目的,構成及び効果」を記載することが必要とされていた。
このような特許法の趣旨等を総合すると,法36条6項2号を解釈するに当たって,特許請求の範囲の記載に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係での技術的意味が示されていることを求めることは許されないというべきである。
仮に,法36条6項2号を解釈するに当たり,特許請求の範囲の記載に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係で技術的意味が示されていることを要件とするように解釈するとするならば,法36条4項への適合性の要件を法36条6項2号への適合性の要件として,重複的に要求することになり,同一の事項が複数の特許要件の不適合理由とされることになり,公平を欠いた不当な結果を招来することになる。
上記観点から,本願各補正発明の法36条6項2号適合性について検討する。
(3) 本願各補正発明の明確性について
ア 本願補正明細書(甲2)の記載
・・・
イ 本願補正明細書記載の意義
・・・
ウ 判断
そうすると,「伸張時短縮物品長Ls」又は「収縮時短縮物品長Lc」と関連させつつ,吸収性物品の弾性特性を「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」により特定する本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,当業者において,本願補正明細書(図面を含む。)を参照して理解することにより,その技術的範囲は明確であり,第三者に対して不測の不利益を及ぼすほどに不明確な内容は含んでいない。
・・・
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
(2) 法36条6項2号の趣旨について
法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。
そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。
上記のとおり,法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関して,「特許を受けようとする発明が明確であること。」を要件としているが,同号の趣旨は,それに尽きるのであって,その他,発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけではない。
この点,発明の詳細な説明の記載については,法36条4項において,「経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と規定されていたものであり,同4項の趣旨を受けて定められた経済産業省令(平成14年8月1日経済産業省令第94号による改正前の特許法施行規則24条の2)においては,「特許法第三十六条第四項の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されていたことに照らせば,発明の解決課題やその解決手段,その他当業者において発明の技術上の意義を理解するために必要な事項は,法36条4項への適合性判断において考慮されるものとするのが特許法の趣旨であるものと解される。
また,発明の作用効果についても,発明の詳細な説明の記載要件に係る特許法36条4項について,平成6年法律第116号による改正により,発明の詳細な説明の記載の自由度を担保し,国際的調和を図る観点から,「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」とのみ定められ,発明の作用効果の記載が必ずしも必要な記載とはされなくなったが,同改正前の特許法36条4項においては,「発明の目的,構成及び効果」を記載することが必要とされていた。
このような特許法の趣旨等を総合すると,法36条6項2号を解釈するに当たって,特許請求の範囲の記載に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係での技術的意味が示されていることを求めることは許されないというべきである。
仮に,法36条6項2号を解釈するに当たり,特許請求の範囲の記載に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係で技術的意味が示されていることを要件とするように解釈するとするならば,法36条4項への適合性の要件を法36条6項2号への適合性の要件として,重複的に要求することになり,同一の事項が複数の特許要件の不適合理由とされることになり,公平を欠いた不当な結果を招来することになる。
上記観点から,本願各補正発明の法36条6項2号適合性について検討する。
(3) 本願各補正発明の明確性について
ア 本願補正明細書(甲2)の記載
・・・
イ 本願補正明細書記載の意義
・・・
ウ 判断
そうすると,「伸張時短縮物品長Ls」又は「収縮時短縮物品長Lc」と関連させつつ,吸収性物品の弾性特性を「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」により特定する本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,当業者において,本願補正明細書(図面を含む。)を参照して理解することにより,その技術的範囲は明確であり,第三者に対して不測の不利益を及ぼすほどに不明確な内容は含んでいない。
・・・