知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法29条の「使用」

2010-09-20 12:14:14 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10093等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

3 取消事由1-2(商標法29条についての判断の誤り)について
(1) 原告は,引用商標と原告が取得した著作権とが抵触することを前提として,商標法29条により被告が引用商標に基づき本件商標の無効審判を請求することができない旨を主張する。

(2) しかしながら,商標法29条にいう「使用」は,同法2条3項に列挙されているものに限定されると解されるところ,ここには,無効審判の請求は挙げられていない

 したがって,原告の前記主張は,それ自体失当といわざるを得ない。

登録商標に係る図柄等が第三者の有する著作物に係る支分権の範囲内に含まれる場合

2010-09-20 11:39:46 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10300
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


2 商標法4条1項7号に係る判断の誤りについて
(1) 原告は,本件商標を構成する図柄が,第三者(故H)の有する著作権の範囲に含まれることを理由に,本件商標は,商標法4条1項7号に該当する商標である旨主張する。

 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。

 すなわち,登録商標に係る図柄等について,第三者の有する著作物に係る支分権(複製権,翻案権等)の範囲内に含まれることがあったとしても,商標法及び著作権法の趣旨に照らすならば,そのことのみを理由として当然に当該商標が商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものということはできない
 そうすると,仮に,本件において,原告が主張するとおり,1963年に故Hが引用図形(別紙「商標目録」記載(2)引用図形参照)を著作,創作したものであり,本件商標がその著作権の範囲内に含まれるとしても,そのことのみをもって本件商標が,商標法4条1項7号に該当するとはいえない。

平成21(行ケ)10263 平成22年09月14日 知的財産高等裁判所も同趣旨。

二次的著作物の利用についての著作権法65条3項の類推適用の可否

2010-09-20 11:01:53 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)24208
事件名 出版妨害禁止等請求事件
裁判年月日 平成22年09月10日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳


ウ なお,原告らは,本件脚本(二次的著作物)の利用については,共同著作物に関する著作権法65条3項の規定と同様の規律がされるべきであり,原作者が二次的著作物の利用を拒絶するには「正当な理由」がなければならないなどとも主張する
 同主張は,本件ただし書規定の解釈に関してなされたものであるが,二次的著作物の利用の場合に上記条項が類推適用されるとすれば,二次的著作物である本件脚本の著作者である原告Xは被告に対し同条項に基づき本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて同意を求めることができると解する余地があるので,念のため付言する。

 著作権法は,共同著作物(同法2条1項12号)と二次的著作物(同項11号)とを明確に区別した上,共同著作物については,著作者間に「共同して創作した」という相互に緊密な関係があることに着目し,各共有著作権者の権利行使がいたずらに妨げられることがないようにするという配慮から,同法65条3項のような制約を課したものと解される。これに対し,二次的著作物については,その著作者と原作者との間に上記のような緊密な関係(互いに相補って創作をしたという関係)はなく,原作者に対して同法65条3項のような制約を課すことを正当化する根拠を見いだすことができないから,同項の規定を二次的著作物の原作者に安易に類推適用することは許されないというべきである。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

(2) 争点(3)(不法行為の成否及び原告らの損害額)について
 前記(1)に説示したとおり,被告に原告ら主張の許諾義務があるということはできず,また,本件脚本の利用について共同著作物に関する著作権法65条3項の規定が類推適用されるということもできない。
 そうすると,二次的著作物である本件脚本の利用に関し,原著作物の著作者である被告は本件脚本の著作者である原告Xが有するものと同一の種類の権利を専有し,原告Xの権利と被告の権利とが併存することになるのであるから,原告Xの権利は同原告と被告の合意によらなければ行使することができないと解される(最高裁平成13年10月25日第一小法廷判決・判例時報1767号115頁参照)。したがって,被告は,本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて,原著作物の著作者として諾否の自由を有しているというべきであり,その許諾をしなかったとしても,原著作物の著作者として有する正当な権利の行使にすぎない

二次的著作物の利用についての著作権法65条3項の類推適用の可否

2010-09-20 10:55:34 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)24208
事件名 出版妨害禁止等請求事件
裁判年月日 平成22年09月10日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳


ウ なお,原告らは,本件脚本(二次的著作物)の利用については,共同著作物に関する著作権法65条3項の規定と同様の規律がされるべきであり,原作者が二次的著作物の利用を拒絶するには「正当な理由」がなければならないなどとも主張する
 同主張は,本件ただし書規定の解釈に関してなされたものであるが,二次的著作物の利用の場合に上記条項が類推適用されるとすれば,二次的著作物である本件脚本の著作者である原告Xは被告に対し同条項に基づき本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて同意を求めることができると解する余地があるので,念のため付言する。

 著作権法は,共同著作物(同法2条1項12号)と二次的著作物(同項11号)とを明確に区別した上,共同著作物については,著作者間に「共同して創作した」という相互に緊密な関係があることに着目し,各共有著作権者の権利行使がいたずらに妨げられることがないようにするという配慮から,同法65条3項のような制約を課したものと解される。これに対し,二次的著作物については,その著作者と原作者との間に上記のような緊密な関係(互いに相補って創作をしたという関係)はなく,原作者に対して同法65条3項のような制約を課すことを正当化する根拠を見いだすことができないから,同項の規定を二次的著作物の原作者に安易に類推適用することは許されないというべきである。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

提出期間経過後に提出された優先権証明書の却下処分

2010-09-20 09:44:43 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)183
事件名 特許庁による手続却下の処分に対する処分取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月09日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

2 原告の主位的主張について
 これに対し,原告は,原告が本件補正書を特許庁長官に提出したのは法43条2項に規定する優先権証明書の提出期間の経過後であるものの,パリ条約上の優先権制度の趣旨に鑑みれば,同項の規定に反したという手続的瑕疵については,特に不都合が発生しない限り広く補正を認め,私有財産たる「優先権の恩恵を受ける権利」を保護するのが相当であり,同項の規定を必要以上に厳格に解して補正を認めず,私有財産を公権力で剥奪するかのような本件処分は,憲法29条1項に違反し違法である旨を主張する。

 しかしながら,パリ条約は,優先権を主張する場合の手続について規定した上で(4条D(1),(3),(4) ),かかる手続がされなかった場合の効果については,優先権の喪失を限度として各同盟国において定めることを認めており,・・・,我が国は,同条約に基づき,法43条4項で,優先権証明書の提出期間を徒過した場合に,優先権の主張の効力を失わせることとする措置を講じたものである。
 パリ条約による優先権は,・・・特別な利益であり,先願主義の例外事由となり,新規性等の判断の基準日を遡らせるなど,その効果が第三者に与える影響は大きいものである。上記のような我が国の制度の下で,提出期間内に優先権証明書を提出しなかったことにより失効した優先権主張の手続を,その後に優先権証明書が提出されたことにより,事後的に有効な手続と取り扱うことを認めた場合,当該優先権による基準時より後の日で,当該出願より前の日までに同一発明の出願を完了した第三者は,優先順位が覆ることになる不利益を被ることになるのであり,明文の規定のないまま,解釈により,いったん失効した優先権主張の手続を復活させる取扱いをすることは,手続の安定を害し,許されないというべきである。

・・・

3 原告の予備的主張について
 原告は,原告が法43条2項に規定された期間内に優先権証明書提出書を提出しなかったのは,錯誤によるものであるから無効であり,錯誤の規定が意図する救済の精神及び優先権制度の精神を加味すれば,本件補正書による優先権証明書提出書の補充は認められるべきであり,本件処分は,実質的に民法95条に違反し,憲法29条で保証された私有財産を実質的に剥奪するものであるから違法であると主張する。

 しかしながら,仮に,原告が法43条2項に規定された期間内に優先権証明書提出書を提出しなかった行為が原告(ないし原告の特許管理人)の何らかの思い違いに基づくものであったとしても,上記行為は,単なる事実行為であって,意思表示と認めることはできないから,同行為について民法95条の適用はない。

 仮に,民法95条の適用があり得るとしても,・・・,上記行為が錯誤に基づくものであったからといって,これにより,同条2項に規定する期間内に原告が優先権証明書を提出したことになるわけではない。

外部撮影会社の新聞社に対する二次使用許諾の有無

2010-09-20 08:24:29 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)2813
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年09月09日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

(1) 当事者
 原告P1は,昭和55年ころから,フリーのカメラマンとして活動していたが,昭和60年12月に,撮影した写真やフィルムの管理を行う原告会社を設立した。
 原告P2は,平成5年1月に,カメラマンとして原告会社に入社した。
 被告は新聞社であり,自社カメラマンが所属する写真部を有していたが,自社カメラマンが多忙で人手不足の時など,外部のカメラマンに撮影を依頼することがあった。
 ・・・

イ2次使用許諾
(ア) 再掲載の場合
 前記ア(エ)のとおり,被告新聞は,日刊新聞であって,日々の出来事を報道することを主たる目的としており,同一の写真を,複数回にわたって掲載したり,一定期間継続して掲載することは,通常は予定していない。したがって,被告新聞への掲載にあたっての著作権者の使用許諾も,合理的な期間内における1回的なものと見るべきである。
 これは,再掲載にあたりカメラマンの許諾を得るという,被告写真部における一般的な取扱い(証人P4)とも整合する。
そして,被告が,再掲載にあたり,原告P1らの個別の許諾を得て
いなかったことには争いがないし,著作権の譲渡の間接事実とされた前記アの各事実が,2次使用に係る包括的な許諾を裏付けるものとも認めがたい。
 したがって,本件において2次使用許諾があったとの事実は認められない。

(イ) 別カット写真掲載の場合
 別カット写真の使用は,2次使用とは異なる使用形態であるが,被告は,別カット写真の使用についても,2次使用の場合と同様に,使用許諾の抗弁を主張していると考えられる。
 しかしながら,前記(ア)のような被告新聞の性格や,複数枚の候補写真(フィルム)の中から適切なものが選択されるという掲載の形態からして,被告が受けた使用許諾は,「フィルムに感光された写真を,全て1回ずつ使用することができる」というものではなく,「撮影に係る出来事を記事にする際に,フィルムに感光されたどの写真を使用してもよい」というものと考えられる
 したがって,記事に使用しなかった写真を,後に別の記事に転用することは,許諾の範囲を超えるものといえるのであって,被告の使用許諾の抗弁は認められない