知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許請求の範囲の用語の解釈事例ー正常に動作しない範囲を含む記載を実施例に限定解釈した事例

2010-09-14 22:32:21 | 特許法70条
事件番号 平成21(ワ)1986
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(4) 構成要件1-D-1,1-E-1,1-G(奇数番グローバルワードライン)及び構成要件1-D-2,1-E-2,1-G(偶数番グローバルワードライン)について
ア ・・・
 本件発明の特許請求の範囲に記載された「奇数番グローバルワードライン」,「偶数番グローバルワードライン」の各用語は,一般的な技術用語ではなく,その意義は,本件発明の特許請求の範囲の記載から一義的に明らかであるとはいえないから,これらの用語は,本件明細書の記載及び図面を考慮して解釈されなければならない(特許法70条2項)
 そこで,以下,本件明細書の記載及び図面を参酌し,上記各用語の意義について検討することとする。

イ 本件明細書中には,「奇数番グローバルワードライン」,「偶数番グローバルワードライン」のいずれの用語についても,その意義を直接的に定義付ける記載はなく,また,各用語の意義について直接説明する記載もない。

ウ 本件明細書には,本件発明の唯一の実施例として,図3(「本発明の好適な実施の形態による行デコーダ回路を示す回路図」)と共に次の各記載がある。
・・・

エ ・・・
そうすると,上記実施例においては,「偶数番グローバルワードライン」とは,順に並んだローカルワードライン(順にWL0,WL1,WL2,WL3,WL4,WL5,WL6,WL7と番号が付されている。)のうち偶数番が付されたローカルワードライン(WL0,WL2,WL4,WL6)に対応するグローバルワードラインであり,「奇数番グローバルワードライン」とは,上記順に並んだローカルワードラインのうち奇数番が付されたローカルワードライン(WL1,WL3,WL5,WL7)に対応するグローバルワードラインであるということができる。

オ 原告は,本件発明は上記実施例に記載された構成に限定されるものではなく,偶数番グローバルワードライン及び奇数番グローバルワードラインに対応するローカルワードラインの並び順は問わないのであって,本件発明におけるグローバルワードラインの「奇数番」,「偶数番」とは,複数のグローバルワードラインの並び順をいう旨主張する。

 本件発明の特許請求の範囲の記載中には,偶数番グローバルワードラインに対応する複数のローカルワードラインと奇数番グローバルワードラインに対応する複数のローカルワードラインとを交互に配置する旨の文言はなく,また,一般論として,特許発明の技術的範囲は,実施例に記載された構成に必ずしも限定されるものではない。

 しかしながら,原告が主張するようにグローバルワードラインに対応するローカルワードラインの並び順は問わないと解すると,本件発明には,例えば,・・・,メモリ装置として正常に動作しない状態になってしまうことは明らかである。このような場合に生じるカップリングの問題を解決するための具体的な手段は,本件明細書中には一切開示されておらず,その解決手段が自明であると認めるに足りる証拠もない

 原告は,本件発明においてはローカルワードラインがフローティング状態になるという問題は前提にしておらず,段落【0032】のフローティング状態のローカルワードラインに生じるカップリングの問題とその解決についての記載は,請求項12,13の発明に係る記載であり,本件発明の解釈に参酌されるべき記載ではないと主張する。
 しかしながら「奇数番グローバルワードライン」及び「偶数番グローバルワードライン」についての原告の前記解釈を前提とするならば,本件発明にはカップリングの問題があるにもかかわらず,その解決手段を講じないままの正常に動作しない状態のメモリ装置を含むことになってしまうことになる。このような原告の解釈は不合理であるといわざるを得ない。

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