知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

請求項の用語の明確性-一般的な意味と技術的な意義

2010-09-05 12:53:20 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10403
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 進歩性に関する判断の誤り(取消事由2)について
 原告は,請求項1における「隙間」という文言は,「物と物との間のすいた所。」(広辞苑第四版)と一義的に明確に理解することができ,これは一見して誤記であるとも認められないから,その解釈に当たって,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌する余地はなく,審決が,進歩性に関する判断の前提として,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,請求項1の「隙間」という文言を「隙間における接合部が,バランスリング又はフィルタ部材の陰となって見えなくなるとともに,洗濯物が挟まれることのない大きさに形成されているもの」と認定したことは誤りであると主張する。

 しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。

 すなわち,確かに,「隙間」ということば自体の一般的な意味は,辞書に記載されているとおり明確であるといえる。しかし,本件発明1を記載した請求項1においては,「フィルタ部材が上下の全長で前記胴部の接合部を内側より覆い,その上下の全長より充分に小さな寸法の隙間を前記バランスリング又は底板との間に余す」として,「隙間」について,フィルタ部材との関係で相対的に大きさを示し,バランスリング,底板及びフィルタ部材との関係で位置を示しているから,本件発明1における「隙間」の技術的意義は,特許請求の範囲の記載のみでは一義的に理解することはできず,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければ,その技術的意義を明確に理解することはできない

 そして,明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,本件発明1の課題・課題の解決手段・作用効果との関係で「隙間」の技術的意義を考慮するならば,「隙間」は,「隙間における接合部が,バランスリング又はフィルタ部材の陰となって見えなくなるとともに,洗濯物が挟まれることのない大きさに形成されているもの」と認められる

 したがって,審決が,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,請求項1の「隙間」という文言を「隙間における接合部が,バランスリング又はフィルタ部材の陰となって見えなくなるとともに,洗濯物が挟まれることのない大きさに形成されているもの」と認定したことに誤りはない。特許請求の範囲の文言が,特許請求の範囲から一義的に明確でないとしても,明細書の発明の詳細な説明を参酌することにより,その技術的意義を明確に理解することができる場合には,第三者に不測の不利益を被らせることはない

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