知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許権に基づく差止請求と国内管轄に関する民訴法5条との関係

2010-09-30 21:42:52 | Weblog
事件番号 平成22(ネ)10001
事件名 特許侵害予防等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年09月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2) ところで,日本国裁判所たる当裁判所が審理判断するに当たり,本件のような渉外的要素を含む事件に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかどうかは,これに関する我が国の成文の法律や国際的慣習法が認められない現時点(口頭弁論終結時たる平成22年7月7日)においては,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により,条理に従って決定するのが相当と解される(・・・)。
 そして,上記条理の内容としては,我が国の民訴法の規定する国内裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきものと解される(最高裁昭和56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁,同平成9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁等参照)。

(3) 一方,本件訴えは,前記のとおり,①特許権に基づく差止請求及び②不法行為に基づく損害賠償請求であり,これらは特許権又は金銭債権という財産権上の訴えであるが,これらについて,国内管轄に関する民訴法5条(財産権上の訴え等についての管轄)との関係を検討すると,次のとおりである。

 すなわち,上記②の不法行為に基づく損害賠償請求は,その文言解釈として民訴法5条9号にいう「不法行為に関する訴え」に該当することは明らかであり,また,①の特許権に基づく差止請求は,被控訴人(一審被告)の違法な侵害行為により控訴人(一審原告)の特許権という権利利益が侵害され又はそのおそれがあることを理由とするものであって,その紛争の実態は不法行為に基づく損害賠償請求の場合と実質的に異なるものではないことから,裁判管轄という観点からみると,民訴法5条9号にいう「不法行為に関する訴え」に含まれるものと解される(最高裁平成16年4月8日第一小法廷決定・民集58巻4号825頁参照)。

 そして,本件訴えの国際裁判管轄の有無に関して斟酌される民訴法5条9号の適用において,不法行為に関する訴えについて管轄する地は「不法行為があった地」とされているが,この「不法行為があった地」とは,加害行為が行われた地(「加害行為地」)と結果が発生した地(「結果発生地」)の双方が含まれると解されるところ,本件訴えにおいて控訴人(一審原告)が侵害されたと主張する権利は日本特許第3688015号であるから,不法行為に該当するとして控訴人が主張する,被控訴人(一審被告)による「譲渡の申出行為」について,申出の発信行為又はその受領という結果の発生が客観的事実関係として日本国内においてなされたか否かにより,日本の国際裁判管轄の有無が決せられることになると解するのが相当である。

平成22年09月15日 平成22(ネ)10002平成22(ネ)10003も同趣旨。

最新の画像もっと見る