心と神経の哲学/あるいは/脳と精神の哲学

心の哲学と美学、その他なんでもあり

哲学A1文章講義(第9回)

2020-05-26 00:08:03 | 哲学

テキストの第4章は時間と空間を論じている。

哲学入門書の中で初心者を顧慮して書かれたものなので、難解な哲学的時空論も少しは分かりやすいと思う。

 

時間と空間は古くから哲学の根本問題であり、それは世界と自己の存在の両方に張り渡された問題系である。

また、人間の意識や身体性や生命とも関係している。

さらに、何といっても人間存在、さらには「存在」そのものの意味にも関わってくる重要な現象である。

 

時間と空間はまた古くから物理学の根本問題でもあるが、西洋の物理学の起源は古代ギリシアの自然哲学にあるので、結局この根本問題を介して哲学と物理学は結びつくのである。

時間と空間はまた心理学や生物学や社会学や文学においても取り扱われる。

なぜなら、それは世界の根本構成と自己の意識と経験の根本構成に関わる万物の根本枠組みだからである。

以上のことを顧慮して、第4章を読んでほしい。

 

まず「はじめに」を熟読しよう。

ここで問題の所在と根幹が理解できる。

本ないし章を読むときは、序や前書きに書いてあることをしっかりと押さえておくことが肝要である。

 

次に第1節「「存在と時間」と「失われた時を求めて」」に読み進もう。

ここでは哲学者ハイデガーの『存在と時間』と小説家プルーストの『失われた時を求めて』が取り上げられているが、それの概略を解説するのが主旨ではない。

この二つのタイトルに示唆されている哲学的根本問題意識に注意を促し、各自がそれを考える基盤を与えようとしているのだ。

「存在と時間」・・・・我々の有限な人生と宇宙ないし大自然の悠久の時間の流れの対比の中で現れる自己存在の意味への着眼。

「失われた時を求めて」・・・・自己の存在の根拠へ遡ること。魂の郷愁。失われた過去の回顧と後悔、ならびにそれの未来に向けての取り戻し。

こうしたことを繊細な精神をもって読解することがこの節を理解するための鍵となる。

 

第3節は時間から転じて空間の問題を扱っている。

ここでは空間の量的性質ではなく、その質的性格が着目され、空間の深い「意味」が浮き彫りにされる。

その際、我々各自が自ら生き抜いている身体の性格、つまり「身体性」ないし「生きられる身体」というものに注意が促される。

こうした概念はあまり考え事がないと思うが、この機会によく考えてほしい。

身体と空間の関係は生態学(エコロジー)にも関わり、重要である。

 

第4節はいくぶん文学的に、情緒に訴えるような形で「四季の変化・循環と空間の質」について述べている。

四季の循環、めぐる季節の中で君たちは何を思うだろうか。

それぞれの時節で、どのような空間意識、あるいは時間意識をもつだろうか。

それを感じ取ってほしい。

また、この節では三島由紀夫の世界に誇る名作・遺著『豊饒の海』が取り上げられている。

第一巻「春の雪」に始まる、この四部作は四季の循環を象徴し、それを三島は仏教の唯識思想で統一している。

しかし、その結末は輪廻転生を完全否定するものであり、末筆の日付はあの自決の日の朝となっている。

 

私の見るところ日本最高の哲学者は西田幾多郎でも廣松渉でもなく三島由紀夫である。

まぁ、世界レベルでみるとたいたことないが、ニーチェには並ぶか、若干勝っていると思う。

どちらも文人哲学者であり、三島自身ニーチェを好んでいたし。

 

             面白そうだにゃ

 

 

 

 


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