旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

新年の黙示録 其の伍

2009-01-11 10:22:33 | 外交・世界情勢全般
イエメンのサレハ大統領は「野蛮な侵略行為だ」と批判。シリア外務省もイスラエルの行為を「恐ろしい犯罪であり、テロ行為だ」とする声明を出した。レバノンのシニオラ首相も声明を出し、国連主導でイスラエルの攻撃を止めるよう早期の対策を求めた。また、イランのアフマディネジャド大統領はイスラエルの攻撃を「犯罪だ」と断じ、パレスチナ側を支持する意向を表明。同国外務省の報道官も「大虐殺だ。無実の市民への攻撃は許すことはできない」と非難した。一方、イラン赤新月社は、医薬品や食料品をガザ地区に輸送する意向を明らかにした。
12月28日 毎日新聞

■こうしてイランが着々と発言力を高めて行くと、イラクの泥沼から脱しようとしている米国は窮地に追い込まれることになります。何せ「悪の枢軸」ですからなあ。今回の軍事侵攻が長引けば、それだけイランの活動が目立って行くのは確実で、レバノンのヒズボラを介してハマスにも援助をしているという説が流れているくらいですから、イラク南部を通ってエジプトに接する地点までシーア派イランの影響力が広がるのは、多くの中東諸国にとっても米国にとっても受け入れられない事でありましょう。


国連安全保障理事会は28日未明、パレスチナ自治区ガザに対するイスラエル軍の大規模空爆をめぐり、全当事者に対し即時の軍事行為停止を求める報道機関向け声明を発表した。……「事態の悪化に深刻な懸念」を表明。イスラエル-ガザ間の境界線の封鎖を解除し、治療を含めた人道支援活動や経済活動が通常通り行われるよう要請した。協議は安保理で唯一のアラブ国家であるリビアの要請で、27日夜に緊急召集された。

■アフリカの暴れん坊だったカダフィ大佐のリビアが、国連安保理で「人道活動」の要請をするのですから、本当に時代は変わりましたなあ。対米関係を急速に改善した勢いで、中東問題の中核となることの多いエジプトの肩越しに国際協議の桧舞台に躍り出るかも?


ロシアはイスラエルに軍事作戦の停止を、イスラム原理主義組織ハマスにロケット弾攻撃停止をそれぞれ呼びかける声明案を提示したが、発表された声明は名指しを避け、「全当事者」という表現にとどめた。……潘基文・国連事務総長は27日、すべての暴力を直ちに停止するよう求める声明を発表し、イスラエルによる「過度の武力行使」とハマスのロケット弾攻撃をそれぞれ非難した。
12月28日 産経新聞

■勝敗を語らず、善悪の判断はせず、双方「痛み分け」にして犠牲者が出るのを早急に防ぐ、それが外交の常道というものでしょう。しかし、侵攻前の状態に戻るだけならハマスの勝利という話になりますから、イスラエルはそうした流れにならない段階まで攻撃の手を緩めそうにありませんなあ。
 

ライス国務長官は27日、暴力のエスカレートに「深い懸念」を示しつつも、停戦合意に違反してイスラエルへのロケット弾攻撃を続けたハマスに「暴力の再燃を招いた責任がある」として、ハマスを一方的に強く非難する声明を出した。ブッシュ政権はテロ組織と位置づけるハマスとの対話を拒否し、ヨルダン川西岸を支配するパレスチナ自治政府のアッバス議長とイスラエル側との対話を促進してきた。昨年11月にはワシントン近郊のアナポリスで、中東和平国際会議を開催し、2008年末までの和平協定締結を目指し、7年半ぶりの交渉再開で合意した。

■米国が唯一の交渉相手にしているアッバス議長に最も厳しく反抗しているのがハマスですから、米国としてはハマスの味方にはなれません。米国の発言力がどこまで失墜しているのか?イスラエルもハマスも値踏みをしているところなのでしょう。本来は「和平協定」の締結に向けてイスラエルに対しても相応の譲歩を求めて建設的な話し合いが始まっていなければならない時期なのに、ハマスによるガザ地区の実質的分離という状態は残念なことであります。


ライス長官はシャトル外交を展開し、ブッシュ大統領も1月にイスラエル、パレスチナを訪問したものの、交渉は進展しなかった。今回のイスラエルの大規模空爆で、和平実現はさらに遠のくこととなった。……オバマ氏は7月、停戦合意後も連日、ガザ地区側から発射されたロケット弾が着弾していたイスラエルの町スデロトを訪れた。オバマ氏は「自分の2人の娘が夜寝ているところに、ロケットを発射されたら、やめさせるためにできることはすべてやるだろう。イスラエルも同様のことをすると思う」と述べ、イスラエル寄りの立場を明確にした。……今後、報復合戦が続けば、アラブ社会を中心に米国に対して、イスラエルに圧力をかけるよう求める声が増すことも予想される。オバマ氏にとっては就任早々から外交手腕が試されることになりそうだ。
12月29日 産経新聞

■「悪の枢軸」だの「十字軍」だの、ブッシュ大統領は余りにも分かり易い表現を使い過ぎたようです。すでに名前を聞かなくなって久しい「ネオコン」と称されるグループが描いた新しい世界の構図は、あまりにも単純で独りよがりの論理で固められていたばかりに、米国は軍事費を増大させて財政赤字を膨らませてしまいました。軍産複合体の陰謀だ!と揶揄されても仕方がありません。イラクでの失敗は中東和平のロードマップにまで悪影響を及ぼしてしまいましたなあ。

■オバマ新大統領が就任しても、公約にしている「対話」それ自体を嫌っているハマスを取り込むのは容易なことではありません。もう一つの公約だったイラクからの撤収には、アフガニスタン主戦場論という代替政策が有るように、「対話」が不可能と判定した時のオバマ政権が何をするのか、それはまったく分からないというのが無気味ですなあ。