旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

北京五輪の内と外 その壱拾九

2008-03-16 21:15:31 | チベットもの
■力づくの威嚇と監視・密告システムをフル稼働させながらの情報統制で「沈静化」に持って行きたい北京政府の思惑通りになるか?取り敢えずは「戒厳令」を出さずに踏ん張ったチベット自治区政府の公安部は頑張ったと評価されるでしょう。万が一、「戒厳令の夜」が訪れると本番の北京五輪開催まで、一体、いつ解除するのか?という大問題が起こりますからなあ。きっと、昨日15日に日中友好の学生セレモニーに足を運んだ胡錦濤国家主席は、絶対に「戒厳令」は出させないぞ!と腹を括っていたのでしょう。

■実際に市民や旅行者の行動を規制して缶詰にしているのですから、戒厳令が出されているのと何も違いはないわけですが……。まあ、政治は名目と形式が肝要ですから、生臭い武力行使はしていないぞ!の一言が大事です。残念ながら、今の日本国総理大臣が「何も言わず、何もしない」などという、サントリーのCMみたいなトボケタお仕事をしているのですから、何とかしろ!などと贅沢な事は言えません。自民党の中にも野党第一党の民主党の中にも、北京だチャイナだと聞いたら、米国以上に過剰反応する「遊撃隊」も健在なようですから、道路特定財源不正流用だの、年金ボロボロ食い潰し問題だの、そんな事は全部丸々棚上げして、イチコロ餃子問題=食糧自給率問題、北京五輪開催=平和の祭典そんなの関係ぇネエ!問題で、文字通りの国民の選択を問うたらどうでしょう?

■たとえ、和歌山県のパンダ一家が多少痩せたり、ヘンテコリンな飛び石・高級高速道路が狐と狸の糞と足跡でボロボロになろうと、或いは海外農業技術援助協力の美辞麗句が、最終的に日本列島の食糧事情にどんな影響を及ぼすのか?等々、みっちり考えた「解散総選挙」を試みたらどうでしょう?


……ラサの旅行社女性職員は15日午前、毎日新聞の電話取材に「街にほとんど人がいない」と語った。中国当局は戒厳令を敷いていないとしているが、市内要所に治安部隊が展開しており、ラサは事実上の戒厳令状態……。「少し前から暴動のうわさが流れていた。14日午後は学校や病院が何カ所も放火されたが、短時間で消火された。当局の対応は速く、夜にはテレビやラジオで鎮圧のニュースが流れた」と話した。一方で、暴動はラサ郊外にも拡大している模様で、外国人旅行者の受け入れは停止されている。

■ラサ市内には多少?荒っぽい方法で「鎮圧」しなければならない悪い奴が存在していたということです。出家の袈裟姿だろうと、安い皮ジャン姿であろうと、すべては結果オーライの強権発動の「鎮圧」です。これまで冤罪を謝罪して補償した事など一度も無いという絶対に間違わない政府と司法のアマルガム体制が続いていますからなあ。変な密告と不思議な証拠品が出て来ると、あれよあれよと言う間に即決裁判で重い刑罰が科されるという非常に効率的な国でもあります。

■今のロシアを支配しているプーチンさんも、東ドイツ勤務時代にはせっせと作っていたに違いない個人監視記録ファイルは社会主義国家には不可欠なアイテムですから、うっかりすると軽い嫌疑で引っ張られたはずが、目を疑う冤罪が羅列されている凄まじい「証拠」を突きつけられて凶悪犯に仕立て上げられてしまった、というハナシが有ります。「中国の特色ある」沈静化を実践すると、逮捕したダライ・ラマ一派の雁首を並べて市中引き回しの上で見せしめ裁判が挙行されるはずなのですが……。そんな事をしたら沈静化どころの話ではなくなって、極めて近い将来にもっと大きな騒動が起こる種をまくのと同じことになりますから、何処の誰とも発表せずに「首謀者は逮捕した!」と発表して五輪大会まで誤魔化し続ける一手しかありますまいなあ。


……ラサ中心部では14日午後1時10分ごろ、僧侶ら抗議活動の参加者と地元警察の衝突が激化した。午後2時ごろから、僧侶が主要道路の2路線に面した商店に放火。寺院周辺の少なくとも5カ所で火災が発生し、多くの商店や銀行、ホテルが焼け落ちた。火災で停電や通信が遮断された。

■別に「火災」で通信が途絶したわけでもないでしょうに!そもそも、誰が火を付けて歩いたのやら……。サフラン色の袈裟を着ているからと言って、全部が全部お坊さんだというわけでもないので、映像報道!と放出された時には用心しなければなりませんぞ!皆様のNHKが最も熱心にチャイナ発の映像情報を放送しているのも、ちょっと気になりますが……。

北京五輪の内と外 その壱拾八

2008-03-16 12:34:00 | チベットもの
……インドからの報道によると、北部ダラムサラを拠点にするチベット亡命政府は15日、中国当局による中国チベット自治区ラサの暴動鎮圧について「著しい人権侵害があった」として国連に調査を要求したと発表した。声明では、平和的な抗議活動を行っていたチベット人が無差別に攻撃、拘束された事態に「深い懸念を抱く」として、暗に武力鎮圧を批判した。さらに「今回の抗議行動は中国の抑圧から自由になりたいチベット人の願望の表れ」として、あらためて亡命政府の関与を否定した。

■1959年のチベット動乱の「記念日」が3月10日。今年はその49週年で北京五輪の開催の年。ダライ・ラマ法王は帰郷できない身で御高齢。こうした条件が揃えば、亡命政府が骨を折って同時多発抗議行動を企画などしなくても、以心伝心で連鎖的に抗議行動があちこちで起こるのは不思議ではありません。「地上の楽園」とまで自称するほど恥知らずではないらしい北京政府ですが、かつての清朝が影響力を持った広大な版図を継承して建国された歴史に対する一切の疑義や不満は認めません。そんな事をしたら共産党政府の支配地は長江の南の極小さな地域しか残らないことになるでしょうなあ。


……ダラムサラでは15日、亡命チベット人が同自治区を目指す「帰郷デモ」を再び始めた。国内での亡命チベット人の政治活動を禁止し、対中関係改善を重視するインド政府は、既にデモ参加者百人らを逮捕している。だが、中国の武力鎮圧に対する国際社会の批判が強まれば、対応に苦慮する可能性がある。
2008年3月16日 東京新聞

■通常?の国境問題とカシュミール問題が残っているインドと北京政府との間は表の経済交流とは別に軍事的な対立関係が有りますから、最後の最後まで北京政府を庇って応援し続けるとも思えません。多様な意見が許される世界最大の民主国家のインドが、どんな動きをするのか注視しましょう。それにしても欧州の報道機関はスゴイなあ、と思います。次も英国が入手した情報です。


英誌エコノミストは、14日に中国チベット自治区ラサで起きた騒乱の様子を目撃した同誌記者の記事をインターネットサイトに掲載した。海外メディアとして唯一、許可を得て現場入りしていたという。……チベットの市民は、漢民族が営む多数の小さな商店にコンクリートの塊を投げつけていた。通りでは自転車に乗った少年やタクシー、バスも狙われ、彼らはすぐにこの一角から逃げ出した。チベットの伝統的な刀剣を持った若者のグループや、女性や子供を含む数十人規模の群衆が商店のシャッターを壊して店内に乱入、肉や衣類などを持ち出して通りに積み上げ、火を放った。わずか2、3時間のうちに街のあちこちから火の手が上がった。「チベット万歳」「ダライラマ万歳」。デモ参加者の一部がこうしたスローガンを叫ぶ。ある集団は目抜き通りの真ん中で中国の国旗を踏みつけた。

■報道された映像には、五星紅旗を燃やす市民の姿も有るようです。これから北京五輪でたくさん掲揚しようと思っている国旗を燃やされては面子が無くなります。それでもその様子を公開したのは、毎度お馴染みの「一部の反抗分子」にすべての責任を押し付けて、他の「圧倒的多数」を取り込んで何事も無かったことにする心算なのでしょうなあ。

■記事の中に出て来る「伝統的な刀剣」は、民族文化の美術品として所持が認められているそうですが、草原で暮らす牧民にとっては自衛用の実用品でもあるとか……。でも、公開された映像に写っている刀は旧国民党軍が愛用していた牛刀型のナタに似た武器に似ているように見えたのは気のせいか?


……ラサの経済の主力は観光業で、この数年はブームになっていた。観光客は主に漢民族で、中国の他の地域から移住した人々も旅行業などを営んでいる。騒乱を歓迎する人々がいる半面、標的になるのを恐れる人もいた。寺院で1人の僧侶と(記者が)話していたとき、少年が飛び込んできてかくまってくれるよう頼み、僧侶は手助けした。治安部隊に、僧侶が殺されたり拘束されたりした-といううわさが、暴動を激化させた。騒乱の間、盾にヘルメット姿の治安警察官数人がラサ中心部のジョカン寺(大昭寺)の前をパトロールするなどしていたが、事態を静観していた。夕刻、消防車が通りに出て消火作業を行った。しかし、車両の上に自動小銃を据え付けた警察車両は街中に展開されなかった。ときどき爆発音を耳にしたが、発射音か何かが爆発した音かは判断できなかった。……
2008年3月15日 産経ニュース

■本当に現場からの情報は生々しい!放火や破壊が起こっている場所は相当に限定的に起こっているのが分かりますし、互いの見込み違いで事態がエスカレートして行った様子も想像できます。ネット上に公開されている映像には禁断のチベット国旗がたくさん写っているのは衝撃的で、治安警察の初動が遅れて過剰反応に至ったことも考えられます。


中国チベット自治区への空の玄関口である成都の空港には15日、区都ラサの暴動から空路逃れてきた外国人らがあふれ、暴動の生々しい様子を証言した。「きのう(14日)ホテルにいた時、すごく大きな音を聞いた。現場は見ていないが、自動小銃の音だったと思う。催涙弾も撃たれたようで、外にいた人が苦しそうな顔をしていた」。ラサから仲間と成都に逃れた米国ボランティア団体の女性……大規模暴動が起きた14日、街中に数十台の装甲車が繰り出し、治安部隊がいたるところに配置……乗用車が焼かれ、商店では略奪や焼き打ち……主要道路のいたる場所で燃え続ける乗用車から黒煙が上がり、戦場のような風景だったという。……ラサ中心部にある寺院などは閉鎖され、市民らは外出を禁止……。15日午前の様子については「前日とは一転して街中は静かだった。あらゆる道路に治安部隊が配置され、厳重に警戒していた」と証言。……
3月15日 毎日新聞

■自動小銃を何処に向けて発射したのかは分かりませんが、人数は不明でも犠牲者が出ているのは確かなようですから、すべての銃弾が空に向けた威嚇射撃だけではなかった可能性が大きいでしょうなあ。
-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

山と溪谷社

このアイテムの詳細を見る

------------------------------------------

北京五輪の内と外 その壱拾七

2008-03-16 11:57:35 | チベットもの
■まだまだ、ラサ暴動の真相は明らかにはならないようですが、北京政府はそれを狙って情報を完全にコントロールして「鎮静化」のシナリオを強引に進める心算のようです。

中国チベット自治区での騒乱の全体像が把握されない中、同自治区から青海省を挟んだ東方に位置する甘粛省でも15日、チベット仏教の僧侶によるデモが発生したもようだ。AFP通信が人権団体の情報として伝えた。……デモは主に同省夏河県のチベット寺院ラプラン寺やその周辺で発生。治安当局は催涙ガスを使いデモ行進を追い払ったという。一方、北京で開会中の全国人民代表大会(全人代=国会)に出席している青海省の代表で、チベット族の諾爾徳氏は同日、記者団に対し、同省でも同様の騒ぎが発生したことを明かした。
3月15日 時事通信

■青海省の名刹タール寺も完全に包囲されて厳重な監視体制下に置かれているようですが、甘粛省のラブラン寺もチベット仏教の歴史には欠かせない重要な学問寺です。北京市内やその北の承徳市にもチベット僧院は存在しますが、実質的な宗教施設として活動している寺院としては、ラブラン寺が最も東に位置していることになります。ゲルク派の宗祖ツォンカパ大師の高弟ジャムヤン・シェーペー・ドルジェという学僧が開祖で、文化大革命の時までは膨大な版木を貯蔵した情報センターだった名刹です。今はその大経蔵は影も形もありません。貴重な版木は山と積まれて焼却され、膨大な炭は道路を舗装するアスファルトの材料になったのだとか……。

■ラサからは大変な距離があるのですが、学問修行に関しては強い結び付きを維持していますから、ラサで同学の僧侶が弾圧されたら他人事ではなくなってしうのでしょう。


死傷者が出て最悪の事態に発展したチベット自治区ラサの抗議行動をめぐり、中国当局は「一部の組織暴力」と印象づける情報戦略を続けている。八月の北京五輪を控え、国内の動揺と海外の批判を抑える狙いだが、抗議行動はラサ以外でも広がり、情勢が沈静化するかは不透明だ。国営中国中央テレビは15日午前8時の定時ニュースで、デモ参加者が14日午後、商店を破壊、略奪し、路上で火を放つ映像を生々しく伝えた。国内の暴動シーンを放映するのは極めて異例だが、僧侶たちのデモ行進や、治安部隊が鎮圧する場面は流さなかった。

■チベット人は野蛮で凶暴で恐ろしい民族、という不思議な情報が広く行き渡っているので、こういう編集をした映像は非常に効果的でしょうなあ。まあ、もっと恐ろしいのはウイグル族なのだそうですが……。


国営新華社通信は暴動が発生して以降、英文で速報を流し続けた。国際社会から「情報隠し」との批判をかわす狙いだが、「罪もない市民が暴徒のため焼死」「ダライ・ラマ14世の集団が策動した」など、鎮圧行為を正当化する内容を繰り返している。

■間の悪いことに、こうした情報操作はイチコロ餃子の責任回避とぴたりと重なってしまいます。自分達は絶対に正しいのだから、問題が起こったら自分達以外の誰かが悪事を働いているのです。つまり、自分達の言う通りに物事が動いていれば、この世界は万事うまく行くという理屈です。


民衆に軍を投入し死傷者を出したことで、「平和の祭典である五輪を開催する資格はない」との批判が海外から起こるのは必至。中国当局は、民衆の自発的な抗議行動でなく「組織的な謀略」と位置付けることで、反発をかわそうとしている。ラサの民宿関係者によると、暴動で襲われた車両は外地ナンバーが多く、漢民族の商店が集中して焼き打ちされた。ラサで暮らす漢民族はチベット民族より生活水準が高く、日ごろからの不満が噴出した側面もある。

■社会主義を看板に掲げている国で、資本家による悪辣な収奪と労働力でしかないプロレタリアートとの深刻な対立が存在しているというのは実に奇怪な話なのですが、そこに民族対立が絡まりますから、チベット問題は複雑です。ウイグルも同様の問題が起こっているのですが、そこには地下資源の収奪というさらに大きな問題も絡みます。チベットを大観光地にしよう!という国家プロジェクトが推し進められている裏側で、総額では地域経済の収入が急上昇しているのに土着の住民は経済格差に苦しめられるインフレが起こっているのですから、北京五輪とラサ観光をリンクさせて一儲けを考えている人達とそんな皮算用に反対する人達が存在するわけです。


……人口の8割をチベット民族が占める中国西部の甘粛省夏河県でも14、15の両日に「自由」「民主」などのスローガンを掲げた数千人規模のデモが発生。警察車両は周囲から監視し、大きな衝突は起きていないという。四川省、青海省のチベット民族が多く住む地域でも抗議行動が起きている。

■拙著『チベット語になった坊っちゃん』の前書きに、「チベットには三つの海がある」という駄文を入れましたが、その海の一つが泡立っているようです。チャイナの地理が苦手な方は、中華人民共和国の地図全体を思い浮かべて、東西に二分してから北西部の新疆ウイグル自治区を切り離した残り全体が抗議行動で揺れていると想像してみればよいでしょう。全人代が開催されている北京市内にも割りとたくさんのチベット人が暮らしているのですが、民主化運動の象徴的な意味を持つ天安門広場では何も起こってはいないようです。まあ、手段を選ばず全人代が開催されている議場の目前で「不祥事」など起こさせない!万全の態勢が取られているのでしょう。
-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

山と溪谷社

このアイテムの詳細を見る

------------------------------------------
チベット語にな

北京五輪の内と外 その壱拾六

2008-03-16 10:37:08 | チベットもの
■チベットで発生した暴動は、ラサ市内の小さな範囲に限定してうやむやに処理できるようなものではない事が徐々に分かって来たようです。世界各地でも機を一にして同時多発的に抗議運動が起こり、あちこちから北京五輪大会の開催に疑問や反対の意見が出て来る騒ぎになっております。心配されていた事態ではありましたが、五輪大会向けの施設が完成間近になっている時期に起こるとは、予想よりも遅かったような、否、早かったような気もします。

■お祝い気分を盛り上げるためには、一定の人数が集まってセレモニーを行わなければなりません。しかし、不用意に多くの人数を集めると想定外の騒動が起こる危険が高まります。そうなれば遠巻きに厳しい監視体制を布き、内部にスパイを放って情報収拾に努めねばならなくなりますから、セレモニーは妙に緊張して白けたものになってしまいます。昨年の末に福田ホイホイ首相が訪中した答礼として予定されていた胡錦濤国家主席の来日が、イチコロ餃子の揉み消し工作で躓き、続いて因縁のチベット自治区で人権弾圧問題が火を噴いたのですから、外交日程を事務的に粛々と消化するだけの来日などしたら、福田ホイホイ内閣の支持率と抱き合い心中を強いられるかも知れませんなあ。


「日中青少年友好交流年」の中国側開幕式が15日午後、北京市内の中国人民大学で開かれた。日中両国の学生や各界代表者2008人が参加。胡錦濤国家主席は「代々にわたる友好発展は、両国国民に懸かっており、青少年交流から始めなければいけない」と意義を強調し、日中友好に取り組む姿勢をアピールした。胡主席は冒頭、「こんにちは」と日本語で話すと、約3分間あいさつ。「両国の青少年が学び合うことは、日中関係の未来に重要な意義を持っている。交流活動の成功を心から祈っている」と青少年交流への期待を表明した。


■両国代表とも、刻々と入るラサ暴動の情報を秘かに共有しながらの「開幕式」だったのでしょうなあ。チャイナで何が起こっても「静観」すると分かっている日本政府が相手ですから、不測の事態は絶対に起こらないと思われていたのでしょう。日本語まで使って「青少年」に期待を懸ける短いスピーチには、痛々しささえも感じます。五輪大会が開催される年の数に合わせた参加者の人数を揃える演出も、北京五輪の開催よりも大きな事件が歴史に刻まれる年号になるかも知れないのですから、五輪大会に勢いを付ける目的で計画されたセレモニーは色褪せてしまったでしょう。

……訪中団の小林陽太郎最高顧問もあいさつし「福田康夫首相も思いは一緒だ」と応じた。胡主席はこの後、参加者に手を振りながら退場した。開幕式には温家宝首相もメッセージを寄せたほか、訪中団総団長の宇野治外務政務官が「違いを尊重し、共に学び合っていく人を日中双方が育てることが大切だ」などとした福田首相のメッセージを代読した。

■本来なら何の意味も持たない外交辞令の「違いを尊重し」などという一言が、妙に深刻な響きを持つことになりましたなあ。「共に学び合う」よりも、共にイチコロ餃子の犯人を「捜査」した方が良いと思いますなあ。こんな白けたセレモニーを予定通りに開催しなければならない日本には、見識も矜持も品格も無いのだと世界中に宣伝してしまったことにならないでしょうか?これではチベット問題を無視して日中友好を両国の若者に押し付けよう!という意味しかないでしょう。チャイナ側で出席した学生諸君は選び抜かれたエリートでしょうから絶対服従が徹底されているのは当然ですが、日本側から出席していた学生諸君は何を考えて舞台に立っていたのでしょう?後々、人生最大の汚点として苦い記憶にならなければ良いのですが……。1人もセレモニーを欠席しようとは思わなかったのか?


全国人民代表大会開催中に国家主席が対外行事に出席するのは異例で、前日の14日に日本側に伝えられた。中国製ギョーザによる中毒事件が両国関係に暗い影を落とす中、胡主席の5月の訪日を控え、日中関係重視の姿勢を印象付ける狙いがあったとみられる。胡主席はあいさつに先立ち、宇野氏らと会談した。 
3月15日 時事通信

■「5月」と言えば、北京五輪の聖火がチョモランマに登る予定になっています。インドを見下ろす世界最高峰を征服し、東の日本を押さえ込んで北京五輪を成功させようと目論んでいるのでしょうが、そこにはきっと「2箇月も過ぎれば日本は餃子事件を忘れる」との計算もあるのでしょうなあ。


インドのPTI通信によれば、同国警察は15日、中国チベット自治区ラサの騒乱での中国当局の対応に抗議するため、ニューデリーの中国大使館に突入を試みたチベット人約50人の身柄を拘束した。前日夜にも約50人が拘束されている。
3月15日 時事通信

■そのインドでは中国大使館が標的にされていますが、日本では何も起こっていないと思ったら大間違い。どこのマスコミも報道しなかったようですが、3月8日に「チベット・ピースマーチ2008」という歴史的な活動が日本の首都東京で行われたのです。渋谷区の中国大使館前で抗議メッセージを初めて読み上げるという大ニュースも有ったのですが、日本のマスコミは完全に無視?勿論、新宿区の目抜き通りで行われた2キロの抗議デモ行進も、渋谷区の大使館前での抗議文読み上げも、警視庁の許可を得てのもので混乱もなく無事に終了した由。因みに同じ団体が長野県で聖火リレーの通過に抗議する活動も準備中とか……。

■東京での活動では逮捕者は出なかったようですが、日中関係を考える時に以下のニュースはいろいろ考えさせてくれます。


ネパール軍関係者は15日、中国治安当局者が親チベット派による抗議活動を監視するため、ネパール入りしたことを明らかにした。中国チベット自治区との国境付近では私服の治安当局者の姿が見られ、AFPの特派員とカメラマンはネパール国土内での取材を当局者に妨害された。匿名を条件に取材に応じたネパール軍高官は、「インドでは、亡命チベット人がチベットを目指すデモ行進を始めている。中国は同様の事態がここでも起きることを警戒しているのだろう」と語った。

■何だか英国ロンドンで奇怪な暗殺事件を起こしたロシアみたいな話ですが、ネパールはこうした露骨なチャイナの動きに何も言えない!のだそうです。


AFPのカメラマンは、国境からネパール側に200メートル入った地点にいたにもかかわらず、私服と制服の治安当局者10人に囲まれ、撮影した写真の消去を迫られた。ネパールの国境検問所職員は、「ネパールは小国だ。中国の言うことには逆らえない」と述べたが、中国治安当局がネパール領内で人を拘束する権限があるかどうかについては明らかにしなかった。
3月16日 AFP

■「ネパールは小国だ」という国境検問所職員の一言がグサリと来ますなあ。日本は大国なのか小国なのか?まさか「中国」ではないでしょう?

-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

山と溪谷社

このアイテムの詳細を見る

------------------------------------------