旅限無(りょげむ)

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開票後は台風 其の壱拾

2009-09-03 21:58:18 | 政治
民主党が新政権に向けて動き始めた31日は、国の各省庁が、来年度予算の「概算要求」を財務省に提出する締め切りと重なった。予算の大幅な組み替えを主張する同党が衆院選で大勝したという現実を前に、官僚たちの間には「新しい大臣は、どんな指示を出すのか」と動揺が広がっている。「これまでは大臣から何か言われても、自民党の族議員の先生が守ってくれた。でも、もはや通用しない」

■政・財・官の鋼鉄のトライアングルを節目節目で組み立てていたのが族議員で、官僚の思惑と財界の注文を聞いて回り、政府を動かして見せれば票とカネが転がり込む仕組みに多くの国民は嫌気がさしています。その嫌悪感と不信感の矛先は厚労省を筆頭に各省に向かってはいますが、官僚中の官僚と自他共に認める旧大蔵省(現財務省)にも、バブル時代からの長い長い恨みが全国から吹き寄せているはずです。財政再建の看板に隠れて税金の無駄遣いを続けて来たからこそ800兆円の大借金と呆れるほど長い不況とデフレが続いているのでありましょうからなあ。


2兆9480億円の概算要求を提出した農林水産省。あるキャリア官僚は「マスコミが民主党の圧勝を予測していたので、選挙結果にはそれほど驚かなかった」と冷静を装いながらも、「どのような影響が出るのか、わからない部分がある」と不安を口にした。例年なら、概算要求の提出前に、自民党農水族に説明して「お墨付き」をもらうのが慣例だったという同省。それが今年は議員が皆、衆院選準備で地元に帰ってしまい、事前の根回し抜きの予算要求になった。ある幹部は「これから自民党に説明していいのかどうかもわからない」と困り果てた表情。

■その農水族の大物が揃って落選しているようですから、説明しようにも相手を探すのが大変なはずです。農林水産業に従事している人達が今回ばかりは自民党を見限って民主党に投票したと伝えられていますから、国民の怒りは族議員を落選させることで議員を楯に使って農政の失敗を認めない役所に向かっているのでしょう。でも、民主党の所得補償制度には強い毒性が認められていますから、新たなバラマキ農政でますます日本の農業が衰退してしまうのが心配です。


概算要求を巡っては、民主党の圧勝が決まった直後のテレビ番組で、同党の菅直人代表代行が31日の要求の提出に触れ、「(各省庁が)『今さら変えるのには時間が足りません』と言ってくるのは目に見えている」と話した。財務省は当初、31日午前には、写真撮影のため報道機関に概算要求の様子を公開する予定だったが、この菅代行の発言を受けて急きょ中止に。例年、予算査定作業がスタートする31日に開いている主計官会議も取りやめになった。

■弱い者には横柄に、強い者には卑屈に接する役人根性が素直に出ているようです。「時間が足り」なくなったのは、麻生コロコロ首相が解散時期を先延ばしし続けたからで、嗅覚が鋭い官僚群は先を読んで人事も予算も滑り込みセーフを狙ったのでしたが……。


国土交通省も6兆9506億円もの概算要求資料の端々に配慮をにじませた。その一つが、国の公共事業費の一部を地方自治体が負担する「直轄事業負担金」。同党はマニフェストで廃止を訴えているが、同省は要求に「直轄事業等に関する検討」という項目を盛り込み、「今後、必要な検討を行い、適切に対応していくこととする」との一文を加えた。しかしダムなどの公共事業については従来通り要求しており、ある幹部は「今のままじゃいけないが、政権が決まらないと、どう変えられるかわからないので」と玉虫色の表現を解説した。
8月31日 読売新聞

■「必要な検討」「適切に対応」などという役人の作文を、これまでに何回、首相の所信表明演説や各大臣の国会答弁で聞かされたことでしょう?政策も原稿も役所に丸投げして政府の統治力を衰えさせてしまったことが自民党が犯した最大の罪ということになりそうです。

開票後は台風 其の九

2009-09-03 16:02:21 | 政治
■これから国民の視線は二大政党などという絵空事ではなく、「民主党VS官僚群」の戦いに集まります。もしもゾンビ議員が「元族議員」として官僚側に立って民主党政権を攻撃でもしようものなら、来年夏の参議院選挙で現有の82議席を大きく減らすことになるでしょうなあ。

■これからの一番の見物は民主党が官僚機構に巣食う深い闇の底に、何処まで光を差し込めるのか?また逆に、党内に紛れ込んでいるスットコドッコイが官僚群に取り込まれてポカを仕出かすか?相手はいざとなったら国民を困らせるくらいは平気で下手をしたら国を滅ぼしても省益だけは死守するくらいの覚悟を固めている集団ですから、友愛精神など一切通じないと考えねばなりますまいなあ。鳩山代表は、悪いのは官僚ではなくて「官僚依存」なのだと選挙直前に言い直していましたが、確かに志の高い役人も皆無というわけでもないでしょう。しかし、組織の階梯を上に登るほど志が怪しくなって行く構造になっていますから、上を黙らせて下を奮起させる妙案を考えねばなりますまい。


文部科学省のある官僚は「新しい学習指導要領が始まったばかりだから、現場が混乱しなければいいが」と不安をもらす。民主党がマニフェストで掲げる教員免許更新制の見直しなどについて「どこまで抜本的な改革を考えているのか分からないが、特に小中学校、高校の担当部局は影響が大きい」と話した。

■本当は天下り団体を最も多く養っているのが文科省だと言われていますから、教員免許更新などよりも「天下り禁止」の方がよほど怖いはずです。日教組の票で当選回数を積み増して来た誰かさんは、不適格な教員を排除する制度に反対せざるを得ないのでしょうが、真正面からマスコミの批判に晒された事がない万年野党ボケが新政権の致命傷にならねば幸いであります。もしも、免許更新制度を見直すから、天下り団体には手を触れないで欲しいと懇願されたらどうするのでしょう?


「年金問題などの厚労行政が自公政権への批判につながったことは間違いない」と、厚生労働省のある官僚は口が重い。「今回の結果は国民の厚生労働省への批判の声でもある。真摯(しんし)に受け止めたい」とした上で「政権が変わればいっそうの節約や効率化は求められるだろう。ただ、国民の生活を守るという基本は変わらない」と話した。

■「国民の生活を守」っていないから国民が怒っているのです!これまでの愚策・失政を棚に上げて自分達の罪と責任をうやむやにして生き残ろうと画策すれば、今度は野党となった自民党が恨みを込めて鋭く追求して来ることでしょう。今回の惨敗で「厚労省に騙された!」と昼寝から目覚めたようなことを言っている議員もいるようですから、これからが楽しみです。


内閣官房の官僚は総論として、「(霞が関改革の象徴となっている)事務次官会議の廃止というが、会議の前に与党と十分に話し合いをしている。会議廃止の意味をもう少し説明してもらわないと」と疑問を呈する。さらに、「決めたことを押しつけるのでなく、役人の説明をよく聞いた上で大きな方針を示すようにしてほしい」と注文を付けた。
2009年8月31日 産経ニュース

■役人の「ご説明」は詐欺師の口車と同じで、うっかり耳を傾けると自分が騙されていることに気が付かないうちにころりと騙されて取り込まれ、気が付いたら「族議員」の仲間入り……。「会議廃止の意味」は多くの国民は理解しているのですから、お役員に「説明」する必要はないでしょう。官僚群にとって大事なのは人事と予算ですから、これを身内で決めて固めて政治家には指一本触らせないための仕組みが事務次官会議だったと言われていますから、これから人事制度と予算編成の方法をがらりと変えるとクラッシャー小沢が断言しているのですから、民主党の政治が成功しているか失敗したのかを評価するのは非常に簡単です。

開票後は台風 其の八

2009-09-03 15:05:29 | 政治
■自民党の甘利明行革担当相、林幹雄国家公安委員長、佐藤勉総務相などもゾンビ議員となって選挙後の閣議に出席しておりましたが、自民党惨敗と大量のゾンビ議員の出現に関して、何から何まで麻生コロコロ首相一人の責任だと言うのはちょっと可哀想で、小泉・安倍・福田と自派閥から歴代総理大臣を輩出し、いっぱしのキングメーカー気取りだった森元首相にもう一度ご登場願います。

■「漫画みたいな選挙だ!」と激怒した石川2区の森元総理大臣ですが、いかにも漫画を馬鹿にした言い方になってしまうのはアニメ好きの麻生総理に対する不満の表われなのかも知れませんが、御本人は総理在任中から4コマ漫画の恰好のネタにされていたのをお忘れか?それに御本人は共著ながら絵本を出しているはずですから、漫画文化を絵本より下に見ている発言のようにも受け取れましたが、前回選挙で「ヒメのトラ退治」が評判になったからとて民主党候補の田中美絵子さんのキャッチフレーズは「森の伐採」で、元総理でキングメーカーの自負があるならば無視しておれば良いのに、森さんもムキになって「森の伐採は自然破壊だ!」などと言わずもがなの事を口走るから、本当に出来の悪いギャグ漫画のような選挙になってしまいましたなあ。

■森の伐採は決して自然破壊ではなく、間伐されずに見捨てられてしまった多くの人工林は大急ぎで伐採しなければなりません。自然災害の防止と治山治水のためでもありますが、スギ花粉による花粉症対策のためにもアホ農水省が大号令を掛けて植えさせた杉の後始末も、長きに亘った自民党政治の後始末の一部でもあります。

■御自身の舌禍をマスコミのせいにして八つ当たりするのも森元首相の悪い癖で、落選の可能性が高い!と書き立てられていたことで選挙期間中はずっとマスコミと大喧嘩をしていたそうであります。それも漫画の一コマみたいなもので、開票後の取材をめぐって小松市内の選挙事務所で起こった騒動がクライマックスとなったそうです。落選の弁を面白おかしく取り上げられるのを極度に恐れた森元首相は事務所を完全に閉鎖して支援者以外は誰も入れない!と頑張ったようで、在任期間中もマスコミの取り上げ方が気に食わないとて子供みたいに脹(ふく)れて「何も言わない」と臍を曲げていたのを思い出します。まかり間違って72歳でゾンビ議員になっていたら、マスコミ相手に何と言うつもりだったのでしょうなあ?

■4000票ほどの差でしたが選挙区トップ当選を果たした森元首相が当選確実の一報を聞いたのは、事務所の外で取材を求める報道陣とスタッフが険悪な口論をしている時だったそうで、支持者は歓声を上げ、スタッフは報道陣を排除しようと激しくもみ合っている混乱の中、森さん御本人はスタッフにガードされて事務所内に搬入?されたそうです。これまた漫画みたいな場面になってしまいました。結局、事務所の窓とドアにはカーテンが引かれてマスコミは中で何が語られたかを知ることが出来なかったそうですが、それほど重大な事が話されたとは思えません。支持者への挨拶が終わって少しは落ち着いたらしい森氏さんは事務所の外で取材に応じ、「これが本当の政権交代なのか。社民党も民主党の人員削減案に猛反対するなど、二大政党の形ができるのか問題だ」と負け犬の遠吠えとしか思えないコメントを出したそうですが、森さんは何か勘違いをしているようですぞ。

■「二大政党」になるかどうかは、これから自民党が分裂・融解・雨散霧消などの消滅過程に進まないで、衆議院の119議席を次の選挙まで保持し得るかどうかに懸かっているのでありますぞ。民主党が参議院対策で社民党に気を使わねばならいないのは来年の夏までのこと、クラッシャー小沢が悪い癖を出さず自重していられれば、大船から飛び出す馬鹿者はいないでしょう。でも、野党となった上に船が3分の1になった方では事情が異なりましょうなあ。先の分裂騒動の時に自民党を飛び出し、新党やら新新党を作ったり壊したりして自民党に舞い戻った議員もおりますし、党内野党を自認している議員もいるようですから、旧森派(現町村派)の50人を結束させるのも大変なのではないでしょうか?自民党がどんどん壊れて行けば二大政党は幻で終わります。今回の選挙で生まれたのは二大政党ではなくて衆議院に限って言うと民主単独(独裁)体制であります。

開票後は台風 其の七

2009-09-03 12:53:11 | 政治
■自民党に大量発生したゾンビ議員の話が続きます。

■町村信孝前官房長官は15万余票を集めての落選でした。同じ選挙区で当選した民主党候補の小林千代美さんは18万余票だったので、惜敗率は82.7%。これが効いて名簿順位も2位だった町村さんはゾンビとなったのでした。いつも薄ら笑いを浮かべているような表情の町村さんですから、あまり危機感を持たずに飄々と選挙活動をしているようにも見えましたが、蓋を開けてみたら大変なことになっていたのでした。森派の跡目相続で中川秀直自民党元幹事長と陰湿で熾烈な闘争をしていたのは有名な話で、そもそも自派閥から送り出した小泉プレスリー首相の改革に関して、派閥内の意見が一致していなかったことが結果的に自民党の歴史的退廃への流れを作ったのではないでしょうか?

■キングメーカーを気取っていた森元首相自身が小泉改革に対して全面的に賛成していたかどうかも怪しいもので、選挙活動の終盤では「小泉改革が生み出した格差」に言及していたようですから、結局は根回しと気遣いだけの人だったのでしょう。政界内だけの貸し借り関係を調整しては政局を泳ぎ渡って14回も選挙に当選した。ただそれだけの人だったのかも知れませんなあ。それでも地元の有権者は123,490票という妙に覚えやすい支持を与えて「森の伐採」候補の民主党・田中美絵子候補に僅差で勝たせてくれました。首相経験者の森さんも、下から4番目という少しは遠慮した位置ながらも比例名簿に載っておりました。

■いつ結党したのかは存知ませんが、「オホーツク武部党」の旗を掲げて戦ったのは武部勤元幹事長でした。勝手に新党を作ってしまった割には、自民党の比例名簿順位が第一位というのも武部さんらしい所かも知れません。選挙になるとホリエモン君の兄と父に同時になってしまえる人ですが、地元の有権者は112,690票を与えてくれました。惜敗率は町村さんより上の88.6%でしたから、日本一広い選挙区を走り回った甲斐はあったようです。一度も足を踏み入れたことがない島に小泉さんと一緒に行ったことが大ニュースになったのが印象的でした。

■誰が言ったか知らないが、きっと本人しか言っていない「風車のおユリ」の異名を作って冷房を入れるとエンコ?してしまう電気自動車に乗り込み蒸し風呂状態で頑張ったのが小池元防衛相。逆風をまともに喰らいながら「やっぱり小沢一郎にくっ付いていれば良かったなあ」と思ったかどうかは定かではありませんが、東京10区の有権者から96,739票を得て落選。東京5区にお国替えしていた佐藤ゆかりさんより僅かに惜敗率が良かったことで比例当選してゾンビ議員の仲間入りです。プライドの高い風車のおユリさんは、民主党の若い女性候補に敗れたことに相当のショックを受けていたようでありますから、うまい言い訳を考えてクラッシャー小沢と撚りを戻すような悪あがきはしないと思われます。応援に小泉プレスリー元首相も麻生コロコロ首相も乗り込んで来ての落選ですから、次に擦り寄る相手は慎重な上にも慎重に選ぶことでしょう。

■「天命を感じる。与えられた議席で全力を尽くしたい」とのコメントを発表したのは広島4区でゾンビ議員になった中川秀直自民党元幹事長です。報道によりますと31日午前0時には落選と分かり、紺色のスーツ姿で「表現しようのない逆風だった」と語って支持者に深々と頭を下げ事務所を出て行ったそうで、復活当選が決まった時には事務所では歓声を上げて万歳をしていたそうですが、ご本人は事務所に戻ることはなく秘書を通じてコメントを発表したそうです。解散間際に麻生首相の辞任を意味する「人心一新」を言い立て、いよいよ選挙となったら握手を交わす田舎芝居を演じた張本人ですから、自民党全体の惨敗にも大きな責任がありましょう。惜敗率94.9%で復活当選したとて、大喜びしている姿が全国に放送でもされたら、どれほど恨みを買うかを御本人はよく知っていたのでしょうなあ。一時は「離党して新党結成か?!」とマスコミが書き立てていた中川さんでしたが、同士だの手下だのより自分の身の置き所が無くなってしまうかも?

■小泉劇場に掻き回されて酷い目に遭った岐阜1区では、元銀行マンで小沢一郎政治塾出身の民主党新人・柴橋正直氏(30)が、自民党の野田聖子消費者相(48)を抑えて初当選。自民党を出たり戻ったりの野田さんは、女性初の総理大臣候補だったのに得票は99,500票。何だか定価10万円の家電製品を田舎の電気屋さんで買ったような数字ですが、それでも惜敗率88.8%の8並びでゾンビ議員として首がつながったのでした。刺客を放った小泉プレスリー元首相も次男に議席を世襲させて楽隠居の身ですし、党内の老人連中は意気消沈して中堅議員の頭を押さえつける元気も大義名分も無くなっているのですから、次期総裁候補として景気よく手を挙げて自民党の世代交代を世間に知らしめたら如何でしょう?

■思えば前回の選挙では郵政民営化に反対したばかりに自民党の公認を得られず、「刺客」佐藤ゆかりタンと女の戦いの見世物にされたのでしたが、佐藤さんが掻き集めて見せた8万1000票の置き土産がどこに流れるかが注目されていたそうです。小泉劇場に乗って佐藤さんを応援した党県議と支部役員の中には「前回はごめんなさいね」と言いたくないと意地を張って民主党候補の応援に回った人達もいたとか……。本当に小泉プレスリー元首相は自民党をぶっ潰して行ったのですなあ。