犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

犀川の河川整備>千年確率?の洪水浸水想定区域図について

2018年08月16日 | 犀川の河川整備
 先日(2018.7.26)、石川県が犀川について100年確率洪水(2日雨量314mm)をはるかに超える、想定し得る最大規模の降雨(2日雨量860mm)を想定した「犀川洪水浸水想定区域図(想定最大規模)」をHP上で公表した。近年、全国各地で相次ぐ豪雨による洪水氾濫を河川管理者が想定外だと弁明することが難しくなり、従来の想定規模を著しく引き上げざるを得なくなったことも背景にあるのだろうか。

 これは、石川県の意図はともかく、石川県の治水の考え方の大転換ということができる。
 これまでは、100年確率洪水を想定した「犀川洪水浸水想定区域図(計画規模)」を公表していた。100年確率洪水に対して、治水ダムと河道で洪水の全量を氾濫させることなく流すことができるので住民の生命と財産を守ることができる、だが、万が一、堤防が破れることがあれば、図に示したような浸水が起きるかも知れないので、これを参考にして避難計画などを示した防災マップを作成して準備をしてくださいというものだった。万が一の場合を示しただけで、このような事態はほとんど考慮する必要はなく、100年確率洪水に対して安全で氾濫はしない、とは記載されてはいないが、この図に対する当方の解釈だった。

 今回、公表された図は、降雨の発生確率を示すことなく、最大規模の降雨を示し、その場合はこのような範囲で浸水しますよと明示した。洪水氾濫に対して、河川管理者である石川県は、住民の生命と財産は守ることができないので、この浸水図を参考にして作成された防災マップに従って避難してください、あるいは浸水の恐れの高い低地に居住するのは止めてください、洪水氾濫の警告というのがこの図に対する当方の解釈である。

 従来、治水は石川県河川課に任せてくれればいい、経験豊富な専門家に任せればいいので、素人が口出ししないでくれという態度だったといえよう。石川県が行ってきたことは、より大きな洪水を防御するために、洪水防御計画の基本となる数値である「基本高水」を上げることだった。基本高水を治水ダムと河道に配分するが、河道の拡張には制約があるので、基本高水を大きくすると、必然的に治水ダムが必要になる。その結果、犀川には3つの治水ダムができた。つまり、治水対策とは、基本高水をより大きく設定し、治水ダムを造ることだった。だが、治水ダムによる治水の限界をやっと理解したようだ。
 ちなみに、西日本豪雨では、多数のダムがパンク(満杯)し、洪水調節機能を失った。パンクするまでは、なにがしか洪水調節の機能は働くが、パンクすれば機能はゼロとなり、ダムに入ってくる水をそのまま、下流へ流すことになる。天然の状態にもどっただけで後のことはダム管理者には何の責任もない。だが、この状況を下流住民の立場でとらえてみると責任がないどころではない。治水ダムがなければ、川の水位が1m、2m、3mと時間の経過とともに上昇し、やがては5mにも達すると仮定すると、ダムがある場合は、川の水位が1mの状態が続き、突然、5mになると想像したらいい。逃げ遅れることになるだろう。現実に、今年7月の西日本豪雨災害で発生した。

 治水ダムは治水の切り札ではない。今頃になって、石川県河川課はやることはやったから、後は知らない、自己責任でやれ、治水対策を放り出したというように見えないこともない。もともと、自然現象を人間が制圧できるわけはなく、(基本高水を大きくすることで根拠づけした)治水ダムに依存しすぎたことが間違いだった。事実上、治水ダムを造ることで治水を解決するということを放棄したということだ。

 想定しうる最大規模の降雨で発生する(河道の洪水防御計画をたてるわけではないので、基本高水ではなく)高水を設定し、これによって氾濫で浸水した区域図を示した。このことで、適度な数のダムを造るために基本高水の大きさに制約があったが、この制約がなくなった。過去のいきさつにとらわれず、大きい想定ができる。辰巳ダムは、確率主義で100年確率という目安で決めたが、今回の設定は、聞くところによると、千年確率規模だそうだ。「想定し得る最大規模の降雨」を科学的根拠にもとづいて決めるのは難しいが、割り切って、一桁上げて確率年を決めたようだ。
公表図によれば、流域平均2日雨量を860mmで、100年確率の2日雨量314mmを求めた確率分布曲線を延長して千年確率で求めたものだろう。

 石川県以外では、滋賀県などで想定内、想定外と区別しないで、すべての降雨に対応する考え方で治水がなされている。流域全体で対応する流域治水と呼ばれるものである。また、総合治水(流すだけでなく、貯めて出る量を制限する)も同様の工夫の一つである。石川県もやっと時代の流れに追いつきつつあるのだろう。辰巳ダムを完成させて、積み残しの治水ダムが無くなったので、身軽になったか。
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