江戸期の4大用水の一つに数えられる「辰巳用水」は、築造から約400年の時を経て生き続けており、兼六園の曲水など営々と後世のわれわれに豊かさをもたらす、典型的な土木遺産である。
当初の辰巳ダム計画は、辰巳用水東岩取入口を取り除いてダム堤体を築造するものだった。江戸初期に開削されたのは、少し下流の地点であったが、その後、取入口が2度、延伸され、最後の東岩取入口は江戸末期の安政元年(1855年)に築造された。前々年にはペリーやプチャーチンが来航して政情騒然となり、加えて自然災害が頻発し、前年には安政南海巨大地震があった。外様最大規模の加賀藩は外敵に備えるために、軍備を強化し、藩内各地に砲台を築いた。武器、弾薬、食料などの備えの他に、水源(辰巳用水東岩取入口)と貯水池(兼六園霞が池の拡張)の確保したのだろう。加賀藩の特定機密に相当するもので記録は残っていないが(^_^;)。
当初の計画はこの取入口を破壊するという無謀なものであったが、昭和55年頃から金沢大学の先生らが問題提起をしたために、さすがに石川県も躊躇したようで、結局は、ダム堤体を上流に移動する形で東岩取入口が保全されることになった。これだけは、活動の成果である。治水ダムそのものの意味もないということについては行政裁量の壁もあって突破できていないが。
当方も、昭和55年頃から辰巳用水にかかわる勉強会に参加させてもらっていたので、関わり合いができて、もう35年になる。思えば遠くに来たもんだ~~。
多くの方に協力いただいて、最後に司法審査にまで挑戦できたのだから、当方の気持ちに悔いはないが、最後に一言、言いたい。
「辰巳用水は、後世へ豊かさを贈り続ける最大土木遺産だが、辰巳ダムは後世の子孫が未来永劫背負い込んだ負の土木遺産である。」
(意見陳述本文)
【スライド42】得られる利益は→(省略)
「辰巳ダム建設の目的は、治水、利水ですが、治水は経済合理性がなく、マイナスであり、利水はソフト対策で実現できるものであり、費用をかける必要はなく、結局は、得られる利益はマイナスとなります。」
【スライド43】失われる利益は→(省略)
「一方、自然環境、文化遺産、地すべり、実験台の穴あきダムのいずれも失われる利益です。
これらに関して、一審判決では、『合理的に認められる地すべりの危険性については対策工が完了しており、また、本件事業による自然環境又は文化的価値に対する影響は重大なものではなく、しかもこれらの影響に配慮した一定の措置が講じられていることが認められる。そうすると、処分行政庁が本件事業によって得られる利益が失われる利益を優越する』(p.185)と判示しています。
それぞれが失われる利益であることが争うところのないものです。自然環境の破壊、文化遺産の毀損は保全策を実行してもそれが破壊の影響を軽減するだけで破壊することに違いないものであり、失われる利益はゼロにできないものです。
地すべりについても、ダムで川の流れをせき止めることになるので、ダム湖の湛水でダム湖に面する斜面の土砂崩壊の危険度が高まります。不安定になる度合いが5%以内で地すべり発生の恐れはないと判断されても現状よりも不安定になるのですから、失われる利益となります。
さらに、穴あきダムという新技術を採用することになりましたが、技術というのは、使ってみて改良されていくのであり、辰巳ダムが実験台にされているのであり、明らかにマイナスがあり、失われる利益です。」
【スライド44】辰巳ダムの公益性も緊急性もない→(省略)
「得られる利益が失われる利益よりも大きい場合は、結果がプラスとなり、公益性があることになります。
ところが、得られる利益自体がマイナスでは、結果はより大きいマイナスとなり、公益性がないということになります。辰巳ダムはこのケースです。
一般的に、巨大公共土木事業は、自然環境破壊、文化遺産の毀損など、失われる利益が問題になりますが、辰巳ダムは、ダム建設の目的である治水、利水などの得られる利益そのものがマイナスであり、合理性も公益性もありません。
辰巳ダムは、公益性がなく、法20条3号の要件を満たさず、緊急性がなく、法20条4号の要件も満たしません。」
【スライド45】辰巳ダムは負の土木遺産→(省略)
「辰巳用水は、後世へ豊かさを贈り続ける最大土木遺産ですが、辰巳ダムは後世の子孫が未来永劫背負い込んだ負の土木遺産です。」
(おわり)
当初の辰巳ダム計画は、辰巳用水東岩取入口を取り除いてダム堤体を築造するものだった。江戸初期に開削されたのは、少し下流の地点であったが、その後、取入口が2度、延伸され、最後の東岩取入口は江戸末期の安政元年(1855年)に築造された。前々年にはペリーやプチャーチンが来航して政情騒然となり、加えて自然災害が頻発し、前年には安政南海巨大地震があった。外様最大規模の加賀藩は外敵に備えるために、軍備を強化し、藩内各地に砲台を築いた。武器、弾薬、食料などの備えの他に、水源(辰巳用水東岩取入口)と貯水池(兼六園霞が池の拡張)の確保したのだろう。加賀藩の特定機密に相当するもので記録は残っていないが(^_^;)。
当初の計画はこの取入口を破壊するという無謀なものであったが、昭和55年頃から金沢大学の先生らが問題提起をしたために、さすがに石川県も躊躇したようで、結局は、ダム堤体を上流に移動する形で東岩取入口が保全されることになった。これだけは、活動の成果である。治水ダムそのものの意味もないということについては行政裁量の壁もあって突破できていないが。
当方も、昭和55年頃から辰巳用水にかかわる勉強会に参加させてもらっていたので、関わり合いができて、もう35年になる。思えば遠くに来たもんだ~~。
多くの方に協力いただいて、最後に司法審査にまで挑戦できたのだから、当方の気持ちに悔いはないが、最後に一言、言いたい。
「辰巳用水は、後世へ豊かさを贈り続ける最大土木遺産だが、辰巳ダムは後世の子孫が未来永劫背負い込んだ負の土木遺産である。」
(意見陳述本文)
【スライド42】得られる利益は→(省略)
「辰巳ダム建設の目的は、治水、利水ですが、治水は経済合理性がなく、マイナスであり、利水はソフト対策で実現できるものであり、費用をかける必要はなく、結局は、得られる利益はマイナスとなります。」
【スライド43】失われる利益は→(省略)
「一方、自然環境、文化遺産、地すべり、実験台の穴あきダムのいずれも失われる利益です。
これらに関して、一審判決では、『合理的に認められる地すべりの危険性については対策工が完了しており、また、本件事業による自然環境又は文化的価値に対する影響は重大なものではなく、しかもこれらの影響に配慮した一定の措置が講じられていることが認められる。そうすると、処分行政庁が本件事業によって得られる利益が失われる利益を優越する』(p.185)と判示しています。
それぞれが失われる利益であることが争うところのないものです。自然環境の破壊、文化遺産の毀損は保全策を実行してもそれが破壊の影響を軽減するだけで破壊することに違いないものであり、失われる利益はゼロにできないものです。
地すべりについても、ダムで川の流れをせき止めることになるので、ダム湖の湛水でダム湖に面する斜面の土砂崩壊の危険度が高まります。不安定になる度合いが5%以内で地すべり発生の恐れはないと判断されても現状よりも不安定になるのですから、失われる利益となります。
さらに、穴あきダムという新技術を採用することになりましたが、技術というのは、使ってみて改良されていくのであり、辰巳ダムが実験台にされているのであり、明らかにマイナスがあり、失われる利益です。」
【スライド44】辰巳ダムの公益性も緊急性もない→(省略)
「得られる利益が失われる利益よりも大きい場合は、結果がプラスとなり、公益性があることになります。
ところが、得られる利益自体がマイナスでは、結果はより大きいマイナスとなり、公益性がないということになります。辰巳ダムはこのケースです。
一般的に、巨大公共土木事業は、自然環境破壊、文化遺産の毀損など、失われる利益が問題になりますが、辰巳ダムは、ダム建設の目的である治水、利水などの得られる利益そのものがマイナスであり、合理性も公益性もありません。
辰巳ダムは、公益性がなく、法20条3号の要件を満たさず、緊急性がなく、法20条4号の要件も満たしません。」
【スライド45】辰巳ダムは負の土木遺産→(省略)
「辰巳用水は、後世へ豊かさを贈り続ける最大土木遺産ですが、辰巳ダムは後世の子孫が未来永劫背負い込んだ負の土木遺産です。」
(おわり)