犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

辰巳ダム裁判>これだけは言っておきたい(25、結論)

2015年08月08日 | 辰巳ダム裁判
 江戸期の4大用水の一つに数えられる「辰巳用水」は、築造から約400年の時を経て生き続けており、兼六園の曲水など営々と後世のわれわれに豊かさをもたらす、典型的な土木遺産である。

 当初の辰巳ダム計画は、辰巳用水東岩取入口を取り除いてダム堤体を築造するものだった。江戸初期に開削されたのは、少し下流の地点であったが、その後、取入口が2度、延伸され、最後の東岩取入口は江戸末期の安政元年(1855年)に築造された。前々年にはペリーやプチャーチンが来航して政情騒然となり、加えて自然災害が頻発し、前年には安政南海巨大地震があった。外様最大規模の加賀藩は外敵に備えるために、軍備を強化し、藩内各地に砲台を築いた。武器、弾薬、食料などの備えの他に、水源(辰巳用水東岩取入口)と貯水池(兼六園霞が池の拡張)の確保したのだろう。加賀藩の特定機密に相当するもので記録は残っていないが(^_^;)。
 
 当初の計画はこの取入口を破壊するという無謀なものであったが、昭和55年頃から金沢大学の先生らが問題提起をしたために、さすがに石川県も躊躇したようで、結局は、ダム堤体を上流に移動する形で東岩取入口が保全されることになった。これだけは、活動の成果である。治水ダムそのものの意味もないということについては行政裁量の壁もあって突破できていないが。

 当方も、昭和55年頃から辰巳用水にかかわる勉強会に参加させてもらっていたので、関わり合いができて、もう35年になる。思えば遠くに来たもんだ~~。
 多くの方に協力いただいて、最後に司法審査にまで挑戦できたのだから、当方の気持ちに悔いはないが、最後に一言、言いたい。
 
「辰巳用水は、後世へ豊かさを贈り続ける最大土木遺産だが、辰巳ダムは後世の子孫が未来永劫背負い込んだ負の土木遺産である。」


(意見陳述本文)
【スライド42】得られる利益は→(省略)
「辰巳ダム建設の目的は、治水、利水ですが、治水は経済合理性がなく、マイナスであり、利水はソフト対策で実現できるものであり、費用をかける必要はなく、結局は、得られる利益はマイナスとなります。」

【スライド43】失われる利益は→(省略)
「一方、自然環境、文化遺産、地すべり、実験台の穴あきダムのいずれも失われる利益です。
これらに関して、一審判決では、『合理的に認められる地すべりの危険性については対策工が完了しており、また、本件事業による自然環境又は文化的価値に対する影響は重大なものではなく、しかもこれらの影響に配慮した一定の措置が講じられていることが認められる。そうすると、処分行政庁が本件事業によって得られる利益が失われる利益を優越する』(p.185)と判示しています。
それぞれが失われる利益であることが争うところのないものです。自然環境の破壊、文化遺産の毀損は保全策を実行してもそれが破壊の影響を軽減するだけで破壊することに違いないものであり、失われる利益はゼロにできないものです。
地すべりについても、ダムで川の流れをせき止めることになるので、ダム湖の湛水でダム湖に面する斜面の土砂崩壊の危険度が高まります。不安定になる度合いが5%以内で地すべり発生の恐れはないと判断されても現状よりも不安定になるのですから、失われる利益となります。
さらに、穴あきダムという新技術を採用することになりましたが、技術というのは、使ってみて改良されていくのであり、辰巳ダムが実験台にされているのであり、明らかにマイナスがあり、失われる利益です。」

【スライド44】辰巳ダムの公益性も緊急性もない→(省略)
「得られる利益が失われる利益よりも大きい場合は、結果がプラスとなり、公益性があることになります。
ところが、得られる利益自体がマイナスでは、結果はより大きいマイナスとなり、公益性がないということになります。辰巳ダムはこのケースです。
一般的に、巨大公共土木事業は、自然環境破壊、文化遺産の毀損など、失われる利益が問題になりますが、辰巳ダムは、ダム建設の目的である治水、利水などの得られる利益そのものがマイナスであり、合理性も公益性もありません。
 辰巳ダムは、公益性がなく、法20条3号の要件を満たさず、緊急性がなく、法20条4号の要件も満たしません。」

【スライド45】辰巳ダムは負の土木遺産→(省略)
「辰巳用水は、後世へ豊かさを贈り続ける最大土木遺産ですが、辰巳ダムは後世の子孫が未来永劫背負い込んだ負の土木遺産です。」
(おわり)
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辰巳ダム裁判>これだけは言っておきたい(24)

2015年08月07日 | 辰巳ダム裁判
 全国的にもそうであるが、金沢でも上水需要の予測がおおくるいで水あまりである。計画の予測と現実の実態に乖離があって、その乖離も倍近いが、行政は最後まで抵抗して水あまりを認めない。少しもゆずらない。少しでもゆずるとそれまでの主張の根拠がすべて突き崩されると考えるらしい。そのために、その差を埋めるための強引に改定した計画がその都度、差し替えられている、無駄な作業に見えて行政の落ち度をカバーして計画を引き継ぐに迷惑がかからないようにしっかり役に立っている。逆に言えば、日本の行政が信頼されているところでもあるのか。さらにしっかりしていただくために(-_-;)、指摘しておかねばならない。

【スライド41】(利水)水はソフト対策で確保できた →(省略)
(意見陳述本文)
「辰巳ダムの目的は治水の他に利水です。
辰巳ダムで105万トンの利水ダム容量が増加することになっていますが、既存の上水道ダム容量の一部を活用すれば、ダムを造るまでもないものです。『金沢市の有する水利権』によるものであるから石川県は関与できない主旨の判示をしていますが、工業用水についても同様に『金沢市の有する水利権』であったにもかかわらず、返上されていますので、理由にならないものです。金沢市における上水道の需要は供給量の半分程度であり、しかも減少傾向にあり、明らかに供給過剰の状態です。これも住民の受益と負担を考慮すれば、ダム建設しなければならない理由はありません。住民サイドに立った、取りうる現実的な対応であり、『原告の主張に理由がない』と判示しているのは誤りです。」
(つづく)
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辰巳ダム裁判>これだけは言っておきたい(23)

2015年08月06日 | 辰巳ダム裁判
 金沢市を流れる2流(犀川、浅野川)の中心市街地区間では、堤防に高さ1m程度のコンクリート壁(パラペット)が設置されている。土堤防の天端一杯まで洪水位が上昇しても河道の余裕高を確保することができる。治水ダムで水位を無理に下げなくてもいいということになる。

【スライド40】現状のパラペットを利用する(代替案)は現実的な対応である →(省略)
(意見陳述本文)
「原告はダム案に代わる代替案を提案しています。
100年確率値が石川県の主張する1750立方メートル毎秒が妥当であるとして、辰巳ダムなしの河道への配分は、1460ないしは1540立方メートル毎秒となります。河道断面を現状のままと仮定すると、洪水水位は上昇しますが、パラペットで余裕高を確保できることを原告は説明しています。

 河川の中に構造物を新設するのであれば、法律や規則、基準に準じて造らざるを得ませんが、既設の構造物を利用する現状維持は、一つの現実的な対策案です。

 裁判所は、『計画水位の上昇により、ダメージポテンシャルが大きくなる』、辰巳ダムなしであると30センチ程度の水位が上昇して橋ゲタ下面と水位との間隔が構造令で決められている1メートルを確保できなくなるために『下菊橋の架け替え工事が必要となる』などの被告の主張を支持していますが、仮に石川県の主張が全面的に正しいとしても、100年間に1時間半ほどの間、洪水位が現在の計画高水位よりも高くなったとしても堤防から溢れずに流せるのであり、ダメージポテンシャルが大きくなるといっても実害はないのであり、橋桁下面と水位との間隔が1メートル確保できないとしても水は流れるのであります。わずかな時間、ダメージポテンシャルを小さくするために必ず、ダム建設しなければならないとする理由はありません。

 現状のパラペットをそのまま利用することで費用がかからないのですから、現実的な対応であり、住民の受益と負担を勘案すれば、採用可能であり、判示いわく『行政庁の判断が不合理であるとは認められない』と必ずしもなりません。手続上、取りうる現実的な対応であり、『原告の主張に理由がない』と判示しているのは誤りです。」
(つづく)
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辰巳ダム裁判>これだけは言っておきたい(22)

2015年08月05日 | 辰巳ダム裁判
 憲法論議が盛んだが、本件の辰巳ダムもまさに違憲か合憲かという話だ。憲法9条ではなく、29条である。国民の財産権に関する規定だ。

  日本国憲法 第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 日本国憲法は、個人の財産に対する権利を保証し、国が勝手に個人の財産を取りあげることはできない。民主主義国家ならではである。といっても、個人の都合で国全体が迷惑するのは困るので取りあげてもいい場合の条件は、公共の福祉に適合するという公益性があって、これを実現する必要性があることである。

 この内容を定めた法律が土地収用法で、公益性があり、必要性があるというお墨付き、この行政処分が国の事業認定処分で、この処分の取り消し(公益性がない、緊急性がない)を求めた裁判である。

 ということで、辰巳ダム裁判の建前は、ダム事業地内の共有地という財産を強制的に取りあげられたので、財産権の侵害だということで争っていることになっている。ただし、地主でないと、土地収用法の原告資格がないということで控訴を受け付けてもらえないので当方もわずかな土地を分けてもらって地主になった。0.05m2で値段は49円。
 
 ちなみに、公益性がないというのは、土地収用法20条3号要件で、緊急性(あるいは必要性)がないというのは、20条4号要件である。

【スライド39】⑥土地強制収用のための緊急性はなかった →(省略)
(意見陳述本文)
「20世紀の最大規模の洪水、昭和36年の第二室戸台風の後、犀川ダムが造られて堤防を越える氾濫はなくなっています。半世紀の間、犀川の堤防が決壊して氾濫するなどの洪水は発生していません。
石川県は流量確率の検証が、データ不備のために不能としていましたが、実際には、石川県が計画を検討していた時点で確保できた25年間のデータで控訴人が試算しており、適合度を満たした計算結果も得られています。
さらに、その後のデータを加え、平成23年末時点の34年間のデータで控訴人が試算した結果は、25年間のデータで試算した数値と近似しています。
緊急性はなかったのであり、流量確率という検証をするためにデータを蓄積するべきであり、それも数年程度のことであり、データを蓄積して流量確率を実施するという判断を事業認定権者がとることもできたわけです。わずかな時間的な猶予で適正な判断するのに役に立ったはずです。
緊急性の判断に誤りがあり、土地収用法20条4号要件(p.186)を満たしていないのは明らかです。」
(つづく)
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辰巳ダム>鴛原超大規模地すべり地L3ブロック末端斜面の崩壊(その3)

2015年08月04日 | 辰巳ダム
 コンクリートよう壁の背後に、北電鉄塔が建っていた。
 4年前の平成23年5月21日に対岸の瀬領から北電鉄塔を撮影した写真である。


 その拡大写真である。


 2年前の平成25年8月に撤去されている。下の写真は、8月11日に対岸から撮影したものである。鉄塔の骨組みの半分ほどが取り除かれている。


 8月24日には、鉄塔は無くなっていた。
対岸からの写真


鉄塔が除去されて更地になった写真


 鴛原超大規模地すべり地L3ブロック土塊の真上に設置されていることが判明したので、北電が撤去することにしたものである。表向きは地すべりが理由であるとはしていない。石川県がL3ブロック土塊は安定しており、地すべりは起きないと主張しているので、北電は石川県のメンツを立てて、送電鉄塔の移設は地すべりが原因ではなく、他の理由をあげて移設をしている。北電の「工事を必要とする理由書」では、「、、、(一つ隣の)鉄塔下方の市道法面が一部倒壊したため、水位と傾斜の観測を行うとともに鉄塔の地盤安定確保のための緊急対応として水抜きボーリングを行いました。今後、法面崩壊が進行すると鉄塔の地盤安定確保が困難となる可能性があるため、安定した場所を選定し、、、、6基を撤去し、、、6基を新設、、、」とある。鉄塔は斜面だらけの山中に無数にある、一々斜面が崩れただけで撤去して新設のルートを移設しなければならないような代物ではない、そうであれば山中に鉄塔の設置する場所はない。鉄塔の基礎ごと持っていかれる地すべり地だからこそ、何億円もの費用と労力をかけて移動せざるを得ないのである。

 地すべり地であるから、以前に滑った時の移動で土塊全体が緩んでいるため、時間の経過とともに斜面は崩壊が進む。ついに、鉄塔の前面の土留めのコンクリート壁とネットで保護されていたのり面崩れたものである。
(つづく)
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