犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

辰巳ダム裁判>控訴審を考える、つづきのつづきのつづきのつづき

2015年01月07日 | 辰巳ダム裁判
(リスク回避のダムがリスクを発生させる!)
 ダムは河道に設置された巨大な障害物である。そんなものがリスクを発生させないわけはない? 洪水リスクを回避あるいは軽減するためのダムが別のリスクを発生させる。辰巳ダムでは、ダム湖斜面の地すべりである。

 ダム湖の地すべりを高谷精二氏の言葉を借りて説明するとつぎのようになる。
 ダム湖に湛水することで、地山に水の浸透をうながすことになる。地山に多くの隙間があり、ここに水が溜まるとスポンジのように水を含み、水位が下がっても土層に含まれた水は動き出すのが遅く、水を含んだ土層はその重さに耐えきれず、滑り落ちそうになる、ダム湖の水位の上下でこのような繰り返しをすることで、土層に負荷をかけて劣化させていることになり、最終的に山くずれあるいは地すべりにいたることになる。

 この地すべりリスクが軽視されている。

 洪水リスクに軽減するための施設が、辰巳ダムである。
 おおむね100年に一回の洪水が1750立方メートル毎秒の大きさで発生してこれによって金沢市街地で大きな洪水被害が起きる危険性である。洪水リスクの大きさはつぎのように表される。
  洪水リスク =(被害)×(発生確率) 
 100年に一回の洪水による被害が莫大で、確率1/100を乗じても洪水リスクは非常に大きいというのである。このリスクが大きいというのが、辰巳ダムの理由である。

 現実には、昭和36年以来、半世紀以上にわたり、犀川の堤防の氾濫はない。しかも、治水ダムが2つ造られ、河道の拡幅/切り下げも実施されて安全性は著しく改善している。洪水氾濫の恐れは著しく減少して、洪水リスクはほとんど無いように感じられるが。

 それにもかかわらず、石川県は、洪水リスクがあると辰巳ダムを築造した。地すべりリスクが発生することになった。

 ダム湖に湛水することで発生するダム湖斜面の地すべりもつぎのように表される。
  地すべり被害リスク=(被害)×(発生確率?)
 である。発生確率がわからないところが難しいところである。

 わからないことを基準で記載できないので、付随的な扱いである。
「貯水池内又は貯水池に近接する土地において、流水の貯留に起因する地すべりを防止するため、必要がある場合には、適当な地すべり防止工を計画するものとする。」(p.138)と、心配があれば、調査して対策をしなさいとしか、書かれていない。

 被害の想定規模は大きいとしても、発生確率がわからないので、リスクを軽視されがちである。発生確率どころか、発生するかどうかについても経験的な判断に依存している。経験を基にしたマニュアルでは、斜面の安定解析で安全率低下が5%未満であれば、土塊が移動しないとして対策工は不要とし、ただし、移動する恐れはあるので監視は続ける、というものである。

 辰巳ダムでは、ダム湖に面して鴛原超大規模地すべり地が確認されているが、マニュアルにもとづいた石川県の調査・解析では安定していると言うことになり、地すべり対策はなされていない。裁判所も十分な調査と対策がなされていると判示した。

 けれどもリスクは無くならないのである。
 辰巳ダムでのリスクと争点は以下のとおり。

①鴛原超大規模地すべり地全体の地すべり
発生したときの被害:大規模な土塊が移動してダム湖を埋める。湛水時であれば段波で洪水発生。
 被告(国・石川県):地すべり面あり、安全率低下5%未満で対策工不要
 原告(住民):安全率低下5%未満でも地すべりの可能性あり、対策工要
②鴛原の末端地すべり
発生したときの被害:大規模な地すべりを誘発する危険が発生。
 被告(国・石川県):地すべり面無し、安全率低下は未確認、確認の要なし
 原告(住民):地すべり面に相当する面あり、安定解析すべき、また、土質工学的な円弧すべりの可能性があり、安定解析すべき。
③瀬領の初生地すべり
発生したときの被害:二十戸ほどの集落がダム湖に崩落する。
 被告(国・石川県):地すべり面無し、安全率低下は未確認
 原告(住民):岩盤地すべりの可能性あり、その深さまで調査がされていない
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辰巳ダム裁判>控訴審を考える、つづきのつづきのつづき

2015年01月06日 | 辰巳ダム裁判
(基準の「経済性の検討」は歯止めにならない?)
 基準を作成した当の識者が「治水の課題が安全側に偏るのは行政責任上当然のことと判断した」(T教授)と言うのであるから、基準で有効な歯止めがかかっていないのは無理のないことかもしれない。
 技術的な要素で比流量が検証とするようなことでは、とても歯止めにはなりそうもない。
 ただ、技術的な要素だけで、洪水防御計画が判断されるわけではない。洪水防御計画に基づいて洪水防御施設が造られる、このためには莫大なコストがかかるので経済的な要素も検討しなければならない。経済合理性が問われる。
これは、大きければ大きいほど安全でよいということにはならないということである。

 便益が費用よりも大きくないといけないのである。
 ダムを推進する側の人たちの中で、ダムを造らなくて洪水で人が死んでもいいというのかなどと単純思考の言を述べる人がいる。
 治水ダムでも経済合理性は必要なのである。
 ダムも、人々の生活を支える社会インフラの一つであり、受益者である住民はその費用を負担する立場にあり、
  
  費用>>受けられる効果 
 
 となれば、誰も費用を負担するわけはないのである。

 基準では、
 河川管理者が行う事業に係わる法定計画等に必要な基本理念などを記述した「基本計画編」と具体的に施設の配置等を記載した「施設配置等計画編」がある。後者の総説で、
「計画する施設は、適切なライフサイクルコストを含む事業コストと事業により得られる効果・影響の関係を考慮して、整備・管理されなければならない。」(p.109)とある。
 そして、第2節 施設基本計画 2.2経済性の検討 の項で、「原則として事業を実施することによる総便益が事業に要する総費用を上回るものでなければならない。」(p.162)とある。

 ただ、この経済性の検討でも、基準の規定はほとんど、歯止めにはならないだろう。
 解説で、「多目的施設の計画の決定に際しては、技術的な可能性はもちろんであるが、単に需要に対して必要な容量を確保するといった貯水池使用の合理性のみからでなく、経済性についての検討が必要である。分析手法の選択については、対象事業及び対象地域の特性などを考慮して、適切な手法を選択することとし、手法の選択理由を明確にしなければならない。」
としか、記載されていないからである。
 どんな方法でもよいから、やってあればいいとも読めるからである。

 実際の事例である辰巳ダム計画での石川県の言い分は、辰巳ダムが建設された場合の年間水害被害額が48億円である。これに対して、「水害統計」による42年間の年平均水害被害額は1億65百万円(2003年価格)にしかすぎない。
明らかに、算定被害額が異常に過大になっている。それでも国へ提出された報告書には、費用対効果があると堂々と?記載されているのである。
 梶原健嗣氏は「治水便益算定の問題点」(「科学」Dec.2014掲載論文)で八ッ場ダム事業を素材にして過大な算定の問題点を明らかにし、会計検査院も2010年に水害統計による実績被害額に比して算定被害額が過大になっていることを指摘している。

 基準で示されている「経済性の検討」も過大な基本高水の歯止めにならないということである。けれども、本当のところ、辰巳ダムは、費用(建設コスト+維持管理コスト)と効果の関係がどうなのか、明確にしておかねばならない。

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辰巳ダム裁判>控訴審を考える、つづきのつづき

2015年01月05日 | 辰巳ダム裁判
(基準は検証でも恣意的な操作を許容している?)

「基本高水の決定」のフロー図(p.34)では、
「比流量による検証」と明記されているが、図の下の解説の欄では、
「流量観測データが十分蓄積されているような場合には、流量確率を用いたり、また、中小河川では合理式による値と比較を行う等により、基本高水のピーク流量を検証することや、比流量を用いて、本支川バランス、上下流バランスや流域の気候特性や計画規模が同規模の他河川とのバランスを考慮することが必要である。」(p.34)とあり、比流量を用いることは「バランスを考慮する」にかかっており、「基本高水のピーク流量を検証する」にはかかっていない。

 解説の欄では、流量確率で「基本高水のピーク流量を検証する」、比流量で「バランスを考慮する」となっているが、フロー図では、「基本高水の決定」の前に「流量確率、比流量による検証」とあるので、「比流量による検証」で基本高水のピーク流量を検証したのち、「基本高水の決定」が行われるように誤解される。解説のとおりに正確にフロー図の記載を直すと、「比流量によるバランスの確認ならびに流量確率による検証」となる。フロー図ではこれが省略形となり、「流量確率、比流量による検証」になったと解釈できる。

 ところが、裁判所の判示では、
「新基準には、比流量を用いた同規模の他の河川との比較が基本高水ピーク流量の検証方法として明示されており、かつ、上野証人も、比流量による検討は類似した河川間のバランスがとれていることを確認する点においては検証として意味のあることを認めている。そうすると、比流量による検証が、基本高水ピーク流量に対する検証として意味を持たないとはいいがたい。」(判決文p.121-122)

 基準では、基本高水ピーク流量を、流量確率による生起確率で確かめる方法、あるいは合理式など別の計算式で確かめる方法を検証としており、裁判所は、基本高水ピーク流量を流域面積で割った比流量を他河川などの数値と比較することで確かめる方法も間接的ではあるが、基本高水ピーク流量を検証する方法であると判断したわけである。狭義の検証と広義の検証ということになるかもしれない。

 しかし、何のための検証かというと、適正かどうかということを調べるためのものであり、基準で検証の定義に相当する記載を調べてみると、
「基本高水の選定に当たっては、計画規模に対応する適正なピーク流量を設定する」(p.28)である。流量確率による生起確率で、計画規模に対応する適正なピーク流量を確かめることができる。一方、ピーク流量と流域面積だけで表された数値である比流量では、規模などいくつかの条件で類似河川と比較するとしても、地形、地質、気象などのほとんどの個別条件が異なるのであり、比較で相違が確認できても、差があっても当然であるし、何が原因で異なった結果になったのか判然としない、傾向だけは把握できても、計画規模に対応する適正なものかどうかまではとても判断できそうにない。となると、広義の検証はあまり意味がない。

 流量を面積で割ったものだから、次元では、長さ/時間となり、降雨強度と同じである。流域面積が大きいと小さくなり、流域面積が小さいと大きくなる傾向がある。大きい流域では弱い雨を想定しているということ、小さい流域では強い雨を想定していることになるが、流域が大きいほど流域平均の降雨強度は小さくなり、流域が小さいほど流域平均の降雨強度が大きくなることに対応している、というほどの意味あいのものである。

 辰巳ダム計画では、基本高水ピーク流量1750を流域面積150で除した11.7m3/s/km2が、近隣の類似河川から得られた8~13m3/s/km2の範囲に入っているから、検証の意味があるというものにすぎない。流量で表すと、基本高水ピーク流量1750m3/秒が1280~2030m3/秒の範囲に収まっているので基本高水ピーク流量の検証となっているというものであるが、計画規模に対応する適正なピーク流量かどうかはまったく不明である。

 これで結審して、比流量でも検証だということになると、過大な基本高水による治水ダム建設の切り札になってしまう恐れがある。ただ、少し思考する行政技術者であれば、その検証としての意義が無いことも容易に理解できるし、基準を作成した識者が行政をおもんぱかって単に逃げ道を作っておいた記述であることにも気づくだろう。

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辰巳ダム裁判>控訴審を考える、つづき

2015年01月04日 | 辰巳ダム裁判
(基準は恣意的な操作を許容している?)
 再び整理すると、
 基本高水を雨量確率計算によって決定する方法(あるいは、超過確率概念を導入して決める方法)は、生起確率で評価することで河川の上下流/他河川との均衡/全国的な均衡を図り、河川や流域の条件に時間的変化を入れて予測できるので、進化した、合理的な考えであることは異論がないところであるから、
基本高水は、①対象降雨の決定(計画規模確率の雨量群)、②計画洪水の決定(雨量群を洪水流出計算法を用いて得られた洪水群)、③基本高水(洪水群のうちの洪水防御計画の基本となるもの)の決定
の三段階で最終結論に至る。

 法律やしくみを作った当時は、高邁な理想にもとづいていたとしても、時間の経過と周囲の事情の変化とともに、手垢にまみれることが常である。
③の基本高水の決定で、最大値を取る方法のケースでは、
①の段階で、操作できる確率雨量、②の段階で、数字を作ることができる洪水流出計算法(貯留関数法)であると便利である。最初に基本高水の大きさを想定して、それに数字あわせをすることも可能となる。
平均値を取る方法のケースでは、
①の段階、②の段階でいずれも全体的な底上げはできるが、前者の方法ほどには数字あわせをすることは簡単ではない。

 新基準では、最大値を取る方法となったとすれば、恣意的な操作が行われないように、厳格に算定がされなければならない。平均値を取る方法は、操作しにくい分だけ、最大値を取る方法をチェックする方法として採用できるかもしれない。

 基本高水を雨量確率計算によって決定する方法を意義あらしめるためにも、①の段階、②の段階について、つきつめて考えることは有意義であろう。恣意的な要素を放置して、議論を進めても、砂上の楼閣である。

①の段階の操作は、比較的にわかりやすい。
 犀川(辰巳ダム計画)の例である。
●対象降雨(2日雨量): 複数ある確率分布モデルを極値3分布に限定することで、結果的に大きめの2日雨量を設定している。確率分布モデルの数を増減することで、数値を操作。
●棄却基準値(3時間雨量): 引き伸ばしを行った後の降雨群で、洪水のピーク流量を支配する継続時間内の短時間雨量は3時間雨量であるが、確率分布モデルの数を増やすこと、適合度判定だけに留める(安定性判定を止める)こと、さらに推定誤差を加えることで範囲を目一杯広げた上で上限の棄却基準値を設定している。そして、目一杯増やすということについて、発生可能性があるなどという理由付けをする。3時間雨量の年超過確率で言えば、400年を超えるものが選択されている。見える範囲の異なる、めがねを自由に取り替えることができるようなものである。
 これでも対象降雨の2日雨量は100年確率値だから、400年確率の降雨に支配されているピーク流量でも、建前では100年確率の洪水とするわけである。

【石川県の二枚舌】 平成20年7月に犀川と平行して流れる浅野川で大きな水害があった。3時間流域平均雨量が147ミリに達した。この豪雨はほぼ3時間で終結し、浅野川の計画規模100年確率の2日雨量260ミリに対しては10年確率程度にしかすぎなかった。上記の筋書きでいくと、計画規模の対象降雨である2日雨量の超過確率で「10年確率程度の雨だった。」ということになるが、石川県は、浅野川水害をもたらした豪雨は、200年確率値に相当する雨であったとしか発表していない。

②段階の洪水流出計算法についてはいまのところ、よくわからない
 犀川(辰巳ダム計画)では、貯留関数法が用いられている。
 1次流出係数0.5、飽和流出係数1.0とし、K,pについては分割した小流域ごとに異なるがそれぞれの数値を決めている。これらの数値は実測で決めたものではなく、仮の数値ともいえるものである。さらにもう一つ、実測できず、わからない定数があり、これが飽和雨量である。わからないので、この計算式に観測降雨量と観測流量を代入して飽和雨量を逆算して求める。0~200mm程度の幅がある数値が得られる。
 最後に飽和雨量で辻褄をあわせるもので、そのため、上の4つの係数が実態を適正に反映した妥当な数値であるのかどうかよくわからない。
 犀川の基本高水ピーク流量を決定した「平成7年8月30日型」の2日雨量は156.6mmであり、下菊橋地点におけるダム戻し流量は224立方メートル毎秒である。この降雨を100年確率の2日雨量314mmに引き伸ばし、貯留関数法を用いると、ピーク流量1,741立方メートル毎秒と算定された。雨は2倍であるが、流量は8倍になる。このマジックに貯留関数法が貢献していることは疑いない。

③最大値を取る方法は、究極の操作である
 新基準の考え方を確認すると、
「基本高水は、そのハイドログラフで代表される規模の洪水の起こりやすさ、つまり生起確率によって評価され、それがこの洪水防御計画の目標としている安全の度合い、すなわち治水安全度を表すこととなる。」(p.28)として、「そのハイドログラフで代表される規模の洪水」の生起確率で評価するとあり、しかし、洪水のハイドログラフそれ自体は扱いにくいので、「その洪水の起因となる降雨に着目して、所定の治水安全度に対応する超過確率を持つ対象降雨を選定し、この対象降雨から一定の手法でハイドログラフを設定する方法を標準とする」としている。
 つまり、対象降雨で超過確率を決めて、これから導かれたハイドログラフでピーク流量を求めてよいことになっている。その結果、雨量確率(計画規模の対象降雨の年超過確率)と流量確率(その降雨に起因する洪水のピーク流量の年超過確率)が必ずしも1対1に対応しないことになる(P.30)。けれども、違いすぎるのも困ると付記されているが言い訳のようである。
 要は、洪水防御計画において、基本高水ピーク流量の年超過確率が重要な意味を持つが少々、違ってもよい、棄却基準値が400年確率を超えるようなケースが選択されて、それに見合った生起確率のピーク流量であってもお目こぼしされるのである。

追記:
 ピーク流量は、流量確率等で検証することになっているが、確率分布モデルの数と推定誤差で範囲を広げることなど操作できるので、これも歯止めにはなりにくい。しかも、基準の「基本高水の決定」のフロー図(p.34)では、検証の後のフィードバックの経路はなく、検証の評価にかかわりなく、確定されることになっている。
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辰巳ダム裁判>控訴審を続けながら考える

2015年01月03日 | 辰巳ダム裁判
(新年に望んで、小生の気分は、いっそのこと、何でもかんでも食いつくか!)

 石川県の関係者も表向きは、平成16年の福井豪雨のような雨でも犀川は安全になった、辰巳ダムは金沢の治水のために必要だとはいうが、そもそも基本高水をできるだけ大きく見込んでおけばよいと(安易に?)考えていたのか、という問いには、「そんなことはない」と即座に否定する。
 経済性に対する配慮もある。拠り所である基準にも明記されている。基本高水に対して設置される施設が技術的、経済的に調和がとれ、事業コストと事業により得られる効果を考慮するように求められている。

 例えば、たびたび氾濫被害を受ける小さな集落が河川下流に一つだけあったと仮定して、この氾濫防止のために基本高水を大きくして川全体の安全度を上げてダム建設のために数百億円の費用を投じるケースと考えると、経済性を無視することの愚かさが誰でもわかる。しかし、ほとんどの場合、これほどわかりやすくはなく、経済性の検討はほとんど歯止めになっていない。

 もともとの洪水防御計画は、既往最大洪水量に基づく計画で行われていた。動かしようがないのでわかりやすい。犀川で昭和41年に完成した、最初の治水ダムである犀川ダムは、既往最大洪水(昭和8年洪水)に基づいて計画されたものである。二番目のダムは、超過確率概念を導入した計画により、1/100の超過確率降雨で発生する基本高水ピーク流量に基づいて計画されることになった。昭和50年に完成した内川ダムである。さらに三番目のダムが辰巳ダムである。新たに集積された降雨データで再検討したところ、1/100の超過確率降雨で発生するピーク流量がさらに拡大したというのがダム建設の理由である。

 既往最大洪水と異なり、超過確率降雨で発生する基本高水ピーク流量は、人為的に操作できる。その操作が科学的合理性の範囲なのか、あるいは逸脱しているのかが問題であるが、これが難しい。
基本高水決定の操作は、大別して2段階、①計画規模の降雨の決定、②計画洪水の決定である。
辰巳ダム裁判では、
前者については、対象降雨である1/100の2日雨量が統計的に1割ほど過大だということ、そして、この対象降雨まで引き伸ばした降雨の短時間雨量の超過確率が1/400程度と過大だということの指摘である。
後者については、1/100の対象降雨を代入して求める洪水流出計算法の係数である飽和雨量が小さく取りすぎて洪水の大きさが過大になるという指摘である。洪水流出計算法(貯留関数法)自体の問題は指摘していない。

 基本高水決定の方法に問題があって、算出過程で3つのことを取り上げて基本高水が過大になっていることを指摘した。
しかし、考えてみると、
 一つ目、複数の確率分布モデルがあって、一部の分布モデルしか選択していないで決めているからといってそれほど重要な問題か、という気もする。
 二つ目、棄却基準の線引きが疑問という話であるが、引き伸ばし、棄却の流れは「基準」から導き出されたものであり、T教授が「生き残ったものは無視できない」という変な主張するのも、「基準」がおかしいからではないか。もともとは、計画規模と違いすぎる降雨はまずいので排除しようというだけのものが、基本高水を決定するための根拠になってしまっている。「基準」の考え方自体に欠陥があるとすれば、基準にあっていないという主張ができない。
 三つ目、飽和雨量である。貯留関数法にでてくる定数であり、貯留関数法は降雨(水の流入)と流出(水の流出)の関係を数的に表現したものである。この式の中で、流域がもともと抱えている水の量がわからないので、これを飽和雨量という形で表現している。年間を通じて変化してわからず、直接に計測することもできない。経験的に、現実と貯留関数法上でつじつまを合わせるための数値であり、平均的に100ミリ程度の数値が使用されているが、実際の流出を解析すると、0から200くらいの幅がある。貯留関数法のほころびをつくろうものであまり意味はない気もするし、飽和雨量の重み、軽さがもう一つ、わからない。どれくらいの飽和雨量をとるかによって、ピーク流量が大きく変動することだけは明白である。

 後者について理解が追いついていない事情で取り上げてこなかったが、飽和雨量を取り上げたのだから、貯留関数法を取り上げないわけにはいかない。
 
 この貯留関数法自体、欠陥があり、この欠陥を補完するためには動かしてはならない係数を変化させて算出した流量は誤りであるという指摘がされている。辰巳ダム計画ではどの程度、影響しているのか把握していない。これもいずれ解決されなければならない点である。
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