犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

辰巳ダム>辰巳ダム反対運動の記録集

2017年09月29日 | 辰巳ダム
 辰巳ダム反対運動の記録集を作成している。
 1979(昭和54)年~2017(平成29)年までの39年の活動、住民と行政のやりとりを通じて、開発(河川総合開発事業)による自然環境と文化遺産への影響について問題提起し、加えて開発内容の問題追求についても行った住民運動の足跡を記録したものである。

 運動のきっかけは、1979(昭和54)年ころ辰巳用水の学術的研究をしていた方が用水の水トンネルに調査用ボーリング孔を見つけたことにある。「ダムで辰巳用水東岩取入口を壊すのか」と石川県内の大問題に発展した。以来、紆余曲折があり、2012(平成24)年、辰巳ダムは完成し供用開始されたが、2017(平成29)年の司法による最終判断まで39年にわたり、事業を行った行政/側面からかかわった政治/行政裁量を審理した司法を巻き込み、ダム建設事業に対して住民の異議の申し立てがなされてきた。

 行政が行う公共事業に、住民(市民、県民、学者、文化人、郷土史家などなど)が向かい合い、住民みんなのためにあるはずの公共事業とは何かということについて取り組んできた。
住民のために存在する行政にすべてのことを任せているわけではないので、住民みんなのためにならない不十分な行政の事業は、住民が直接に運動を起こしても補わなければならないという切実な思いで行動した結果である。
 
 「行政」が行う公共事業は、住民みんなのためにやっているはずなのに、みんなのためでないものが、明らかにおかしいことが行われることがある。
 一部の住民のための(地域代表の)議員の集まりである「政治」は、住民みんなのためになるかという観点から、「行政」をチェックする機能がほとんど働かない。
 「司法」は住民が問題提起しないと働かない。
 住民有志による運動は、「行政」が行う公共事業を適切な方向に向かわせるように、政治に働きかけ、司法に訴える。公共事業を公共事業たらしめるように軌道修正あるいは方向転換させる意義がある。
 
 辰巳ダム反対運動は、ダムが建設されたという結果だけを見れば、住民運動の失敗例ということになるが、運動の過程を精査すれば、数々の成果を残した成功例ともいえないことはない。
 旧計画は見直されてダム位置が上流に移動し、ともかくも東岩取入口は破壊されずに残った。辰巳ダム事業地で発見された絶滅危惧種のミゾゴイは、いまや石川県内の自然環境保全のシンボルとなって県民の環境意識を高めた。ダム湖の臭い水が兼六園の曲水に流れ込むことが懸念されたが空ダム構造になったので富栄養化による水質悪化はまぬがれた。

 この約40年の間に、情報公開法、環境影響評価法、行政手続き法、河川法の改正などがあり、住民の意見を聴くことで事業に反映させ、事業を適切に方向修正させるためのしくみが改善されてきた。
また、土地収用法では、住民に対する事業説明会の開催義務、事業認定処分に対する意見書の提出、公聴会の開催請求など住民意見を申し入れる機会は多々ある。

 住民意見を取り入れるためのしくみを改善することで、住民運動が促進され活発になる。民主主義の世界では従来の政治、司法だけでは十分に機能しないことにほかならず、住民運動の意義があることを示している。

【追記】
 特に、ダム建設は巨大公共土木事業である。土木事業は利害関係者に引きずられがちである。
 利害関係者(事業によって主として金銭的な利益をうける人たち)はダムの意義に関心は少ない。
 他の関係者もダムの意義をよく理解していない面がある。
①下流住民:治水事業によって河川の下流住民は恩恵を受けることになるはずであるが治水ダムの効果は机上で推定されるので実際に恩恵があるのかないのか判断がむずかしくよくわからない、
②事業に携わる技術者:治水ダムを水系に2,3つと造るなど整備レベルを上げていくと不確定要素も多くなり専門家の間でも意見が分かれる、
③ダム事業者:事業を企画している人たちも治水のレベルが上がると経験以上の精緻さを求められて理解が行き届かなくなることもあると思う。

 ダム事業について、貯水してその水を利用する利水ダムは夏季に供給される水の量を確認することで効果が明確にわかる。ところが、治水ダムの効果は、机上の空論とまでは言い過ぎであるが、降雨量も洪水量もダム調節量も推定で実際の効果がよく見えない。架空と紙一重の安全、安心のために高い保険料を払わされないように気を付けないといけない。
2017.9.30,naka
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辰巳ダム>兼六園の曲水は“かんがい用水”か

2017年09月22日 | 辰巳ダム
 兼六園の曲水は、農作物を作っているわけでもないのに、法律上は“かんがい用水”である。曲水の流れのもとは辰巳用水であり、辰巳用水は土地改良区が管理し、犀川の上流でかんがい用水として取水しているからである。

 歴史的には、曲水をはじめとする、殿様のための用水として築造したものだ。殿様用水とも呼ばれた。余り水が用水沿いの田畑に供給されていた。藩政時代が終わると、辰巳用水の管理が、かんがい用水を管轄する土地改良区に移管され、辰巳用水はかんがい用水となった。藩政時代とは逆に、かんがい用水の余り水が兼六園に供給されることに変わった。辰巳用水の水利権の許可書には「潅漑用以外は兼六園への用に供する」とある。

 慣行的に行われてきた水利であり、かんがい用水であろうと、かんがい用水の余り水であろうと問題があろうはずがなく、犀川から取水した水を使う権利がある。いわゆる慣行水利権である。

 ところが、昭和42年、辰巳用水の取水のために犀川河道に設置されていた頭首工(堰)を災害復旧する際に、辰巳用水土地改良区は河川管理者(石川県知事)に対して、河川法第26条(工作物の新築等の許可)の許可を受けたが、第23条(流水の占用の許可)、第24条(土地の占用の許可)の許可も同時に受けることになった。
第23条は流水の占用の許可であるので、辰巳用水はいわゆる許可水利権に改まった。

 許可水利権となると、取水の目的(例えば、かんがい用水)、取水量、占用の期間等、一つ一つ河川管理者から許可を受けなければならない。辰巳用水土地改良区がかんがい用水として許可を受けて0.70m3/秒を取水しているが、兼六園の曲水として年間を通じて0.07m3/秒程度の水量を辰巳用水から受けていることについて河川管理者から許可を受けているわけではない。河川法に違反して水利用しているということにもなる。

 軒を貸して母屋を取られたようなものである。兼六園の曲水のために造った用水を使っていたものが、いつのまにかこれが「勝手に使うのはまかりならん、違法だ」ということになったわけである。

 土地改良区ももともと慣行的に使っていたものでいちいち許可を申請するのは気にいらないというようなこともあったのだろう、平成24年にもとに戻った。

 平成24年9月28日付けで辰巳用水土地改良区から石川県知事あてに、慣行水利に戻すようにお願いする文書※1 が提出され、同日、知事の通知※2 でもって昭和42年の河川法第23条(流水の占用)に係る許可処分とその後の同許可処分を取り消しすることで、辰巳用水の水利を許可水利から慣行水利に戻した。
 お願い文書にも通知文書にも、その原因は、昭和42年当時の土地改良区が昭和40年に改正された河川法を理解が十分でなく錯誤による申請をしたことだったとの説明がされている。

 土地改良区が何をどのように錯誤したのか、その錯誤を許可する石川県が45年もの間、わからなかったのかなどについてはよくわからない。

 ともかく、辰巳用水は、取水の目的(例えば、かんがい用水)について許可を得る必要はなくなり、単に“用水”となり、慣行水利権(無条件に0.70m3/秒を取水できる)となった。

 慣行水利とすると、水利権量は0.7m3/秒のままとなるので、辰巳ダムの整備計画による見直し水量0.584m3/秒を実現することができなくなるがどう処理するのか、辰巳ダム計画を見直しするのかなどという問題に波及することになるが(-_-;)。

 大局的に見ると、国(国土交通省)は、河川の土地ばかりでなく、河水を一元的に管理するために許可のしくみを入れて河川法を改正したが、日本の河川のほとんどの河水は歴史的にかんがい用水として利用されており、土地改良区(農林水産省の管轄下)が管理しているので許可水利に移行することが容易ではないということか。水利権を国土交通省が取り上げようとするのに対して農林水産省が抵抗しているという図にも見える。

【資料】ホームページへ
※1:辰巳用水土地改良区が石川県知事へ提出した文書「辰巳用水の水利権に係る経緯書」平成24年9月28日付け
※2:石川県知事通知文書「辰巳用水土地改良区の水利使用に係る取り扱いについて」平成24年9月28日付け
河川法第24条許可文書(石川県指令金土木第1610191号)平成12年3月21日付け
河川法第24条許可文書(石川県指令県央土第21-1-208号)平成22年3月26日付け
東岩取水口前の頭首工(堰)設置のための申請・更新の一覧(エクセルファイル)
【参考】
河川法
(流水の占用の許可)
第二十三条  河川の流水を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
(土地の占用の許可)
第二十四条  河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く。以下次条において同じ。)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
(工作物の新築等の許可)
第二十六条  河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。河川の河口附近の海面において河川の流水を貯留し、又は停滞させるための工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者も、同様とする。
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その他>「NHK教育テレビ「日本人は何を考えてきたのか」第11回:近代を超えて 西田幾多郎と京都学派」を鑑賞して

2017年09月01日 | その他
 哲学者西田幾多郎はわが郷土の偉人であるが、難解な哲学というイメージがあって著作ばかりか解説したものも読んだことがない。「絶対矛盾の自己同一」※1 とか「純粋経験」など意味不明な言葉が多い。

 西田幾多郎に関して、NHKで興味深い番組があると紹介されて鑑賞した。表題の番組である。
10年ほど前に、西田幾多郎の弟子達が戦時中に軍部の要請で戦争目的の理論構築のため18回に及ぶ会合の内容を軍部に報告するために記録した「大島メモ」が発見された。この件を織り込みながら、NHKが番組を制作した。その中で西田幾多郎も紹介され、先の大戦に積極的に協力したらしいことが報じられていた。ただ、いかにも「悪事」を働いたかのような印象で語られていることに当方は少し違和感を抱いた。

 外交が行き詰まり、お互いの国が国益をかけて争えば、力のぶつかり合いとなり、戦争となる。戦争は、善悪で判断する「悪事」ではない。戦争になってしまえば、国民は国のために一丸となって協力するのは当然で、協力したことを「悪事」ととらえるのはお門違いではないのかと思ったからである。

 確かに米国との戦争に負けて、戦後、連合国側の言い分を呑まざるをえず、対外的、政治的には、「日本国が悪いことをしました。周辺国へ多大な被害を与えました。」との立場を強要されているが、日本が悪いことをしたわけでもなく(日本が悪いことをしたという道徳的な価値観を持ち出すのであれば、相手国のアメリカも悪いことをしたことになる。)、贖罪の意識を持つことも変なことで、まして謝罪などする必要はない。

 番組では、西田哲学※2 が、西洋哲学※3 に対抗して、日本の伝統的な文化を根底にして日本独自の哲学を提示したもので、同様な立場にある海外諸国から注目され、評価されているという。西洋の近代的な考え方も吸収しながら、独自の伝統文化を大切にしながら、独自の哲学をつくるためである。

 ということで西田哲学を肯定的にとらえている面はあったが、全体的に否定的な紹介になっている。この番組の案内役である生物学者の福岡伸一は、西田哲学を評価しながらも、戦争の時代の中で西田や西田の弟子達が軍部の戦争目的の論理の構築に協力したことについて批判的である。
哲学者は、言葉を信じて言葉をあやつり言葉で表すことだが、時局の中で自分の言葉を自重して留めておくか試されたのであり、弟子達(西谷、高坂、高山、鈴木ら京都学派と呼ばれる)は一線を超えた、西田は一線を超えたものの持ちこたえたという評価だった。

 政府が「大東亜共栄圏の樹立」という政策を打ち出し、軍も大東亜共栄圏構想※4 の理論の構築を検討していた。アジア諸国が共同して共存共栄の秩序をつくることで西洋列強の白人社会に対抗しようとした構想である。西田哲学は、西洋哲学に対する日本独自の哲学であり、大東亜共栄圏も西洋列強に対抗する構想という点から類似しており、陸軍、海軍双方からアプローチがあった。

 福岡は、西田が日本の帝国主義化※5 を戒めていたが、大東亜共栄圏の中心をになうものは日本のほかにないと書いていることに違和感を持ったという。
 福岡は違和感の理由を明確に述べていたわけではないが、番組を通じて理解したのは、日本政府と軍部が大東亜共栄圏構想を大義名分として、アジアへ帝国主義的進出をして盟主になるという「悪事」をなそうとしていることについて、西田は大東亜共栄圏の盟主は日本だと発言したことでその「悪事」に荷担したと考えて批判していたようだ。
誤った戦争、誤った戦争目的の大東亜共栄圏の考え方は誤っているということを前提に番組が作られている。

 浅田彰は、西田幾多郎と京都学派の論理を「海軍が思っていたアジア支配の論理にしかならなかった。帝国主義的進出のプレテキスト(草案)だ。」と批判した。
 また、独国ライプチヒ大学の小林敏明教授は、「日本がどうしてアジアの中でイニシアチブを取れるのか、その理屈だけではすまない、中国がどう受けとめるのか、モンゴルがどう受けとめるのか、植民地になっている朝鮮半島の人はどう考えるか、こういう視点がいっさいない、まったく他者の目が欠けている、この一点において非難されるべき」、「彼らは目まぐるしく起こってくる戦争状態を不満を持ちながらも後追いをしてしまった。ここが決定的に大きな批判点だと思う。」と厳しく批判した。

 このような批判は、当時、日本を除いて西洋列強に植民地支配され、対抗できるのは日本以外になかったのであり、朝鮮半島などは、日本に併合されて、一等国民になったと歓迎し、日本の戦争に大いに協力していたから、「朝鮮半島の人はどう考えるか」などと考える方が的はずれである。

 NHKのみならず、日本人自身の考えが、「先の大戦は侵略戦争だった。日本が誤った戦争をしてアジア諸国、近隣諸国に多大な被害をもたらした。二度と戦争はしません。過ちは二度と繰り返しません。」となっているのは、GHQの統治、東京裁判、サンフランシスコ条約などを通じて日本人の精神が拘束されて思考の自由度を失っているからだろう。番組の根底に、このような視点があるのはやむをえないが、西田については比較的冷静に見ていたと思う。

 西田は和辻への手紙で、(日本の戦争に向かう)「アンダーカレント(底流)に流される」ことを懸念していたという。
 西田も転換点ははっきりしないものの、国策に関与せざるをえなくなり、「帝国主義化すること、主体化することをいましめなければならない。」としながらも、「共栄圏の中心をになうものは日本のほかにない。」とした。
 物質的に追い込まれると、精神の自由度は拘束される。戦局が進み、悪化するにつれて、国民全体の総力戦となり、個人主義は押さえられ、全体主義(ファシズム)に突き進むことになり、国民生活は軍事一色になった。
 西田は、敗戦の2ヶ月前に亡くなった。つぎのような言葉を残しているという。
「古来、武力のみにて栄えた国はありませぬ。永遠に栄える国は立派な道徳と文化が根底とならねばなりませぬ。いまや我が国民は根底から大転換をやらねばならぬ時ではないでしょうか。」

 軍事一色にならざるを得なくなっては国が栄えるわけはないことは明らかである。戦後の連合国による日本の大転換は、武力のみならず、日本精神文化も武装解除されて弱体化した。いまだに、「敵が攻めてきたら、戦わないで白旗を上げる。」と臆面もなく語る若者が多いのにあきれる。歪んだ道徳と文化を修正し、文武ともに回復しなければ誇り有る、栄える国にはならない。経済は回復したが、「戦っても滅びる、戦わなくても滅びる、ならば戦って滅びる道を選ぼう」と決意して散華した英霊に申し訳ない。

※1:絶対矛盾の自己同一
 たくさんのものが、矛盾は矛盾のまま、対立は対立のまま、一つのものがつくられ、全体として同一性を持っていること。例えれば、人間は無数の細胞などの生命体からできていて絶え間なく壊すことによって隙間ができるがこれを埋めようとして細胞などの生命体ができる、しかも全体が一つの生命体としてあるということか。

※2:西田哲学
 西洋哲学は、主客二元論であることに対して、二分することを止め、主観と客観の認識の一歩手前、主観を捨てるところから境界が無くなる、主客合一の「純粋経験」を哲学の基礎においてものごと(知識(真)・道徳(善)・宗教(聖))を説明しようとした。
 
※3:西洋哲学
 デカルトは「われ思う故にわれあり」(自我の発見)を哲学の出発点にして、確実なものとして「精神」と「物質」を両極におき、その二つをもとに思考を進めたので「二元論」と呼ばれる。カントは、「精神の原理」を重視して観念論哲学を、マルクスは、「物質の原理」に重きをおいて唯物論哲学をうちたてた。
 主客二元論は、主観と客観、私と対象、人間と対象と分けるので、人間中心のドグマ(独断の説)に陥りやすいといわれる。

※4:大東亜共栄圏構想
 アジアから西欧列強を排除するための大義名分。
アジアで西欧の帝国主義的進出による植民地支配を免れたただ一国であった日本は、西欧列強をアジアから駆逐したが、列強の最強国米国に完膚無きまでに叩きのめされた。だが、ビルマ、インドネシア、ボルネオ、マラヤ、シンガポール、ベトナムなどのアジア諸国を植民地支配していた西欧列強を日本が追い出し、各国の独立派を支援し育てたことで戦後、まもなくすべての国々が独立することになった。

※5:帝国主義(imperialism)
一つの国家が自国の民族主義、文化、宗教、経済体系などを拡大するため、あるいは新たな領土や天然資源などを獲得するために、軍事力を背景に他の民族や国家を積極的に侵略し、さらにそれを推し進めようとする思想や政策。

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