残暑が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
辰巳ダムの基本高水ピーク流量の確率について、みなさまがたにいろいろご教示いただきましたが、
当方の当面の結論は以下のようにすることにしました。今後とも、よろしく。
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辰巳ダム計画の基本高水ピーク流量は、何年に1回の洪水か
1 対象降雨と対象洪水(ピーク流量)の確率は別物
犀川では、治水計画の規模を100年(対象降雨の降雨量の超過確率年、あるいは年超過確率1/100の逆数)として設定している。このように評価された対象降雨は、平均して100年に1度の割合でその値を超過することを示しているが、この降雨に起因する洪水のピーク流量の年超過確率は一致しない。
後で述べるように、100年確率の対象降雨から想定される洪水のピーク流量はそれぞれ異なるので、年超過確率も異なる。
川の安全度、つまり治水安全度は、雨の規模というよりも洪水の規模が重要な意味を持つ。100年確率の治水安全度は、100年に1度の割合でその値を超過する(あるいは100 年に一度経験するような)洪水のピーク流量に対して安全に防御できることを意味するものでなければならない。
しかし、基準による計画の規模は対象降雨で設定されており、犀川では100年確率であり、この降雨から求めた対象洪水は必ずしも100年確率ではなく、対象洪水の確率はあいまいで治水安全度は明確ではない。雨から決めた計画規模が100年確率であれば治水安全度も100年確率と説明されることが多いがまったく別物である。
2 確率論「期待値」による対象降雨と対象洪水(ピーク流量)
別物では無い場合を考えてみる。確率論で「期待値」※という考え方がある。対象降雨2日雨量314mmが降ったときに最も実現しそうなピーク流量の「期待値」はどれだけなのだろうか。「期待値」は確率と確率変数を掛けた総和であらわされる。犀川の治水計画で確率変数となるピーク流量は24個(547立方メートル毎秒から1741立方メートル毎秒まで)、それぞれの確率は1/24、それぞれ掛け合わせて総和する、つまりは平均値959立方メートル毎秒である。100年確率の対象降雨2日雨量314mmが降った時のピーク流量の「期待値」は959立方メートル毎秒である。これを100年確率の降雨に対応する100年確率のピーク流量とすれば、これが確率論での治水安全度1/100のピーク洪水量となる。旧基準に記載のあった「カバー率50パーセント」も類似の考え方である。
※:英語を直訳した言葉で、日本語の期待という言葉には実現を待ち望む願望が含まれるが、このような意味はなく、単に最も実現しそうな値ということである。
3 治水計画の基本の基本高水ピーク流量は確率的に対象降雨の確率と遮断がある
「河川砂防技術基準」の考え方では、貯留関数法などの流出解析手法で求めたピーク流量群から、慎重に検討して治水計画の基本となる「基本高水ピーク流量」を決めているので、対象降雨の確率と確率的には遮断がある。決められた基本高水ピーク流量は確率的には明確になっていないが、あいまいに計画規模の治水安全度と言い習わされている。このピーク流量の確率はどれだけだろうか。
ところで、年超過確率と超過確率とは違う。対象降雨である二日雨量314mmは、年超過確率1/100二日雨量として求められている。年超過確率1/100の意味は、2日降雨量が314ミリメートルに等しいか、それを超える降雨量が生起する確率であり、1/100あるいは0.01を年超過確率とよぶ。年超過確率の逆数が、確率年となり、100年確率である。
単に超過確率であれば、逆数が確率年にならない。辰巳ダム計画では、年超過確率1/100の雨に対してピーク流量は24個ある。これらのピーク流量は毎年の最大値というわけではない。このピーク流量の平均値は、959立方メートル毎秒であり、超過確率は、1/2となるが、逆数が2だから2年確率ピーク流量というわけではない。単に超過確率1/2あるいは0.5ということである。
だから、辰巳ダム計画で年超過確率1/100の雨が発生したときに、ピーク流量の平均値959立方メートル毎秒が生起する超過確率は1/2、あるいは0.5、もしくは50%となるということになり、959立方メートル毎秒に等しいか、これを超えないピーク流量が生起する確率となる。別の言い方をすれば、「100年確率の雨が降ったときに959立方メートル毎秒が出現する超過確率は50%である。」、また「547立方メートル毎秒が出現する超過確率は92%である。」、同様に、「100年確率の雨が降ったときに1741立方メートル毎秒が出現する超過確率は0.3%である。」(別紙「辰巳ダム計画の基準点ピーク流量の超過確率」を参照)。
4 洪水のピーク流量の確率は流量確率で求める
1/100の降雨から得られるピーク流量は無数にあり、大きさはそれぞれ異なるので一義的に1/100のピーク流量を決めることができない。1/100の降雨があった時という条件がついて、それぞれの生起確率があることになる。その内から選抜したピーク流量を基本高水ピーク流量として決めているが、結局、超過確率年はわからない。
100年に1度生起するピーク洪水を統計的に求めるには、実測の流量観測記録から、毎年の最大流量を選抜して得られた流量群から確率統計計算で求めなければならない。
追記1 雨量確率と流量確率を区別して考えること
雨量確率が1/100の雨から、平均値959立方メートル毎秒が生起する確率は1/2となるので、生起する確率は、(1/100)×(1/2)=1/200となる。959が生起するのは、1/100の雨ばかりではなく、1/90、、、1/10のときにも1/2よりも小さいが生起することが見込まれる。これらを加算したものが、959立方メートル毎秒が生起確率となる。結局、1/200+α=1/100となるのだろう。河川工学者の議論では、このような結論に至っているらしいが、当方の理解はまだそこまで到達していない。
追記2 100年確率の対象降雨の継続時間は2日
犀川の辰巳ダム計画では、100年確率の対象降雨は、継続時間が2日であり、流域平均2日雨量314mmである。1時間雨量、3時間雨量は100年確率とはかぎらない。
だから、1時間雨量、3時間雨量で治水の計画規模を説明できない。例えば、平成20年の浅野川洪水は、流域平均3時関雨量147mmと著しく大きいが(200年確率といわれている!)、2日雨量は167mmであり、100年確率の対象降雨260mmに対して、10年確率程度の規模である。浅野川治水の計画規模を尺度で見ると、浅野川洪水は10年確率,つまり10年に1度経験するような雨だったことになる。
追記3 確率は一つのものさしではないか
標準正規分布するという仮定、少ないデータ、外挿問題(過去のデータから将来が予測できると仮定していること)、30~40年のデータがあれば100年確率流量をある程度の正確さを持って推定できるにすぎないこと、などの考えを勘案すると、あまり大きな確率年の議論をすることの意義はすくない。そして、無理に何万に1回というあいまいな表現ではなく、「100年確率の雨が降ったときに1741立方メートル毎秒が出現する超過確率は0.3%である。」と表現する方がより正確であり、まぎれがないと思う。
平成24年9月18日 中 登史紀