犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

辰巳ダム裁判>統計的手法で基本高水を決める(8)

2014年12月31日 | 辰巳ダム裁判
(新基準でカバー率の概念を消去したのも問題だ!)
 もともと、カバー率の名称がよくなかった。2つの考え方が含まれていたが、一方の考え方だけを表現しているとされたからである。
旧基準(p.16)では、基本高水の決定の項で「カバー率」について、
①統計上の科学的要素(「ハイドログラフ群の中から、中位数以上のもの」)と
②他河川との比較上の社会的要素(「ハイドログラフ群の中のどの程度を充足するかを示す割合」がある。
 新基準では、②の要素だけと断定して、①の要素は無視しているが、旧基準の「基本高水決定の手法」の項でカバー率50%値の記載があり、決定のための目安にしていたことは明白である。辰巳ダム裁判のS証人も「カバー率50%の値が統計上の中央値を意味していることについて異論はありません」(乙214号証、佐合証言p.34)と述べている。

 前者は、科学的な合理性のもとに一義的に決められるものである。後者は、全国の河川の整備を同等なレベルにするために財政的な見地から裁量で決まるといえるもので一義的に決められるものではない。一義的にきめづらい要素を基準から消去したということである。このため、全国的な水準を揃えるという社会的要素を考慮する部分がなくなってしまった。

 上記の意義から、カバー率という考え方は2つの要素を明確に区分して残しておくべきだった。いずれにせよ、名称がよくなかったかもしれない。カバーできないところが残る、カバー率50%は半分だけしかカバーできない、となる。科学的要素と社会的要素がごっちゃになっている。科学的要素としては、カバー率50%値は求める真値であるのに対して、社会的要素としてのカバー率50%値は求める真値ではない。カバーできないという社会的要素で科学的要素を駆逐する。

 たどり着いた結論が、「全ハイドログラフ群のピーク流量をどの程度充足しているかを結果として算出しているもので大して意味無い指標だというものどころか、誤った指標だ。」であり、「カバー率50%値であれば、半分がカバーできない危険な計画になる。」である。

(カバー率50%値は半分はカバーできない危険な計画か)
 「平均値を取る方法」は、別の言い方では、カバー率50%値で決めることであるが、この方法は、半分はカバーできない危険な計画になると指摘するのである。

 辰巳ダム裁判の証人S氏はつぎのように証言する。
「カバー率50%値により基本高水ピーク流量を決定することについて合理的な考え方であるとは思いません。それどころか、このような考え方により、基本高水ピーク流量を決定すると、流域住民の暮らしや安全を確保できない危険性すら内包することになります。」(乙214号証、陳述書p.32-35)

 S証人の考え方が採用されて、辰巳ダム裁判の判決では、「カバー率50パーセントの数値を基本高水ピーク流量に選定すると、確率分布モデルによる合理的推論に基づき、生起可能性が認められた降雨波形の半数を考慮せずに河川計画等が策定されることとなり、安全な河川計画等の策定に支障を来す可能性があるといわざるを得ない。」(p.115-116)となった。

 しかし、カバー率50%値の確率水文量の超過確率が1/100であり、カバー率100%値のそれが1/500とすれば、カバー率50%値がカバー率100%値よりも危険な計画であるという当たり前のことをいっているにすぎない。

 別の言い方をすると、計画規模が1/100であれば、1/100を超える洪水をカバーできない計画であると言っているにすぎない、「危険な計画」であるかどうかは、相対的な判断で、1/100は1/50よりは安全で、1/200よりは危険ということにすぎない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

辰巳ダム裁判>統計的手法で基本高水を決める(7)

2014年12月30日 | 辰巳ダム裁判
(基準の記載に誤謬がある!)

 推定値に推定誤差を加えた数値を棄却基準値とすると、この確率水文量の超過確率がかなり小さくなる。
辰巳ダムの事例、その他からも、洪水到達時間内の短時間雨量で、1/400,1/500にはなる。そうすると、この雨量から求められた洪水も同程度で、1/400,1/500となるだろう。
棄却基準の設定で厳格に行って、適合度がよく、ジャックナイフ推定誤差の小さい確率分布モデルを選択したとしても、1/150~1/200くらいになる。

 となると、最初に目途とした治水安全度1/100(辰巳ダム計画では)と異なり、上記の水準を選択することになる。求めていたものと違うものを提供されるような筋書きとなるのは、基準の記載に誤謬があるということになるのではないか。

 理屈からいえば、統計的に平均値を取ることが妥当であるとしても、基本高水の決定において、平均値を取りたくないという理由もある。
自然現象の偏りがあり、統計的手法では補足できないのではないかという懸念である。引き伸ばしでは既往の降雨をあつかうので「大洪水をもたらしたものやその流域において特に生起頻度の高いパターンに属する降雨を落とさない」(旧基準p.14)などの配慮が必要だという記載もある。
 ただ、このような偏りを統計的手法で補足できないとしても、平均値として求めた後で、偏りの補正を統計的手法の中に入れ込むのではなく別途するべきと考える。

 さらに、科学技術的に最適な解を求めたとしても、基本高水の決定において、さらに余裕を持ちたいということも考えられる。社会的要因として、社会の発展にともなう高度な土地利用による浸水による脆弱性を考慮してなんらかのゆとりを上乗せしたいということである。この場合は、洪水はあくまでも1/100として科学的合理性の上から求めた後、最終段階で何割かの割り増しをすればいい。まぎれがない。

 洪水防御計画のもととなる基本高水は、単に科学技術的に決定されるのではなく、経済社会的な要因も加味する必要があるとすると、基本高水決定の手法の項に、科学技術的な要素と社会的な要素を区別した記載があってしかるべきだ。曖昧にしてあるから、これに依拠する行政技術者達の裁量で「基準で本来意図していない、いわゆる安全な計画」、換言すれば「過剰な余裕を加えた計画」がされることになる。辰巳ダム計画に関わったT教授も意見書「犀川基本高水ピーク流量への意見聴取への回答」で述べている。「治水の課題が安全側に偏るのは行政責任上当然のことと判断した」と。誤った結論に導く基準は、基準の記載に誤謬があるということではないか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

辰巳ダム裁判>統計的手法で基本高水を決める(6)

2014年12月29日 | 辰巳ダム裁判
(棄却することになると、「引き伸ばしをする方法」と「最大値を取る方法」はセットになる)
 
 引き伸ばしをする方法では、「平均値を取るというような方法」とセットであると考える。そうすると、引き伸ばした降雨が時間的に、地域的に異常な降雨が出現しても、いずれ排除されると考えられるので、棄却基準などを設定して異常な降雨を排除する必要はない。ところが、基準では、異常な降雨は排除することになっている。

「降雨量を定めた後、過去に生起した幾つかの降雨パターンをそのまま伸縮して時間分布と地域分布を作成し、それらがこれら要素間の統計的関係からみて特に生起し難いものであると判定されない限り採用するという方法である。」(旧基準p.14、新基準p.32)とあり、逆にいうと、生起し難いと判定すれば排除するということであり、新旧いずれの基準においても異常な降雨は棄却しようということになっている。

「ピーク流量に支配的な継続時間における降雨強度が計画降雨のそれとの間で、超過確率の値において著しい差違が生じる場合」、不適当なものは排除するのである。「著しい差違」がミソであり、「同じ」とすべきとも考えるが、「同じ」ではないのである。超過確率の差違を容認している。「高水計画検討の手引き(案)H12.1」によれば、「引き伸ばした後の洪水到達時間における短時間雨量をジャックナイフ上限値(推定値+推定誤差)で棄却するものである。」としている。棄却するために棄却基準は、単に推定値ではなく、推定誤差を加えている。ここでは、「著しい差違」の範囲として推定誤差を目安にしている。

 これを超えたものは「著しい差違」があり、排除され、合理的推論の上から「発生可能性がない」という扱いになり、これ以下のものは「発生可能性がある」ということになり、この棄却基準をくぐり抜けて、「生き残ったものは無視できない」、その結果、得られたピーク流量群の最大値を取るという結論にたどりつく。
ただし、「発生の可能性がある」、「生き残ったものは無視できない」などということが合理的かどうか疑問がある。推定値±推定誤差の範囲からはずれたサンプルでも「発生可能性がない」とはいえない、「発生可能性が少ない」というだけである。これが合理的推論の上から発生可能性が無いといえるかどうか。また、棄却基準を恣意的に設定している面もあり、これで生き残ったといっても妥当かどうか不明である。

 引き伸ばし→異常な降雨の棄却→ピーク流量群の最大値の選択

 引き伸ばしをする方法で、棄却することにすると、「平均値を取る方法」ではなく「最大値を取る方法」に帰着する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

辰巳ダム裁判>統計的手法で基本高水を決める(5)

2014年12月28日 | 辰巳ダム裁判
(「引き伸ばし手法」と「平均値を取ること」はセット)

 裁判では、基準にあっているかどうかを審査される、だから、基準そのものの矛盾あるいは間違いについて審査されることはない。基準そのものについては、司法で判断するべきことでないと考えるのが普通であろう。

 ところが、裁判で基準が正しいという前提で議論を進めていると、基準に矛盾があると、議論も合理的な結論にたどりつかない。よくわからない議論になる。

 基準の基本高水決定の手法の項で、洪水の計画規模が1/100のはずが、結論は洪水の超過確率が1/400になったりする。その原因は、洪水そのものが求めたい対象であるが、これを直接に求めず降雨というものを介在させてこの降雨の引き伸ばしという方法をとっているためである。2日雨量で固定して引き伸ばしをすれば、時間的な濃淡があるので短時間雨量は上下に大きく変動する。この変動した短時間雨量の大きさでピーク流量が決まると洪水が1/400になったりする。

 辰巳ダム計画では、2日雨量で固定して引き伸ばしたピーク流量群の最大値を選択しているが、2日雨量に引き伸ばしたピーク流量群の平均値を取れば、短時間雨量の大きさを反映したピーク流量も大小がならされて、2日雨量の超過確率と同程度の超過確率を持ったピーク流量が選択されることになるのは容易に想像できる。

 ピーク流量群の最大値をとるのではなく、平均値をとる意味は、辰巳ダム裁判の証人でもある佐合氏がつぎのように述べる。
「水文量では『真値』は不明であるため、特に指定しない限り『真値』は多数のデータから算定した平均値で代用されることが多い。質の良いデータが多数集まれば、その平均値は『真値』に近づく。」(水文・水資源学会誌第21巻第5号,佐合純造『水文量の不確定性の総合評価とその活用策』p.354)

 ということで真値を求めるために、引き伸ばし手法と平均値をとることはセットということになろう。

 ところが、基準では、引き伸ばした後、時間的、地域的な分布に不合理が生じて、「対象降雨として採用することが不適当である」(基準p.32)として棄却基準を設定してこれを超えるものは棄却するべしとしている。2日雨量を固定して2倍にも引き伸ばせば、時間的、地域的な分布が上下に振れて合理的に見えない降雨も現れるのは不思議ではない。これをいきなり、対象降雨に採用できないのは当たり前である。であるから、平均値を取るというような方法が不可欠と考えられる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

辰巳ダム裁判>統計的手法で基本高水を決める(4)

2014年12月27日 | 辰巳ダム裁判
 21日のブログでつぎのように書いた。

「洪水のピーク流量に支配的な継続時間内での降雨強度の超過確率が、計画規模の超過確率に対して著しく差違があるような場合には対象降雨として採用することが不適当である」(新基準解説p.32)ではなくて、「洪水のピーク流量に支配的な継続時間内での降雨強度の超過確率が、計画規模の超過確率と同じものを対象降雨として採用する」ことにしなければならないはずである。

 わかりにくいという指摘を受けた。
 辰巳ダム計画で具体的に述べると、対象降雨2日雨量の超過確率が1/100で、引き伸ばし後の2日雨量の超過確率が同じ1/100であるが、ピーク流量に支配的な継続時間3時間雨量の超過確率も1/100でないと辻褄があわないはずである。辰巳ダム計画では、3時間雨量の超過確率が1/300~1/400の範囲にあり、この降雨がピーク流量を支配するので洪水の超過確率もこの降雨に対応した規模となっている。当然、1/100の規模を大きく下回っている。

 ところが、この洪水の規模は1/100の扱いとなっている。
 その論理は、ピーク流量を支配する短時間雨量(犀川大橋地点の3時間雨量)が1/300~1/400であろうと、対象降雨(2日雨量)は1/100であり、この対象降雨が発生すると、この短時間雨量の降雨が発生する可能性があり、この短時間雨量が起因して起こる洪水の超過確率は1/100と扱うことができるというものである。

 しかし、基準の内容を確認すると矛盾がある。
 基準の基本高水決定の手法の項(p.28)で、
「基本高水は、そのハイドログラフで代表される規模の洪水の起こりやすさ、つまり生起確率によって評価され、それがこの洪水防御計画の目標としている安全の度合い、すなわち治水安全度を表すこととなる。」とある。具体的にいうと、洪水の超過確率が1/100であれば、おおむね100年に1回の洪水にも安全ということである。
 ところが、洪水のハイドログラフの生起確率の計算の取り扱いが便利ではないので、
「洪水の起因となる降雨に着目して、所定の治水安全度に対応する超過確率の対象降雨を選定し、この対象降雨から一定の手法でハイドログラフを設定する方法を標準としたもの」(p.28)である。

 辰巳ダム計画では、対象降雨は、2日雨量で1/100の降雨を設定。実績降雨から引き伸ばして1/100の対象降雨群を作成する。ピーク流量を支配する短時間雨量は1/100を大幅に下回ったり、上回ったりする。基準のスタート時点の治水安全度という考え方からすると、ピーク流量の超過確率が1/100にならなければならないはずである。だが、そうはならない。

 算定されたピーク流量群は、短時間雨量の超過確率に対応してばらついているが、これらは、すべて対象降雨の超過確率1/100でひとくくりにされる。そのため、スタート時点の治水安全度とは異なった超過確率の洪水が選択されることになる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする