犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

辰巳ダム>閑話 「鴛原は押原で地すべり由来の地名か」

2014年08月27日 | 辰巳ダム
鴛原は押原で地すべり由来の地名か

 地名は、その土地の特徴から名づけられている場合が多い。過去に特別の自然現象が起きて名付けられることがある。地すべりなどの自然現象による災害は人々の生活と心に大きな影響をもたらすので地名となり、記憶にとどめられることになるが多い。

 地すべり地の地名で、地すべりと密接に関係していると思われる地名として、「すべり」、「ざれ」、「くずれ」、「ぬけ」などあるが、関係があるかどうかはっきりしない例の「おし」は全国で23例ある(「地すべりに由来する地名の解釈について」古谷尊彦)。

 農林省の聞き取り調査では、「『押沼』は土地が押されてできた地名である(山形県)」とあるが(「地すべり災害を予防・軽減するための活動の手引き」農林水産省農村振興局農村環境課)、「おしはら」が「押原」であれば、土地が押されてできた原であり、地すべり由来ということになる。「鴛原(おしはら)」が「押し原」であったという由来についてはいまのところ不明である。
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辰巳ダム裁判判決結果の検討(その12)

2014年08月19日 | 辰巳ダム裁判
辰巳ダムは内水被害軽減に役立つという主張は正しいか(長文です!

 辰巳ダム計画と現実との差違を示すことで、基本高水が過大であることを間接的に示すことに関連して、「ダムによって内水被害が少なくなる」という主張がある。

 ダムは最大洪水の時ばかりでもなく、中小洪水の際にも役に立つというものだ、ダムに反対する人たちは平生も役に立つことを理解していない、ダムの調節機能によって河道の水位を抑え、支流の排水はよくなり、水位が下がるので内水の水はけもよくなる、内水被害が減少する、と主張される。公聴会や審議会などの公式の場でもときどき聴かれ、それなりに説得力がある。

 辰巳ダム計画でも水位が30センチは下がるとか、石川県はことあるごとに住民などに説明していた。これに対する反論は以下のようなものである。
ダムはピーク流量を抑えることで堤防からの氾濫を防ぐことで効果が発揮されるもので、中小洪水で少し水位を下げたところで、堤防を氾濫するわけではないのでほとんど水害被害と関係ない、もともと低地では内水排水の対策(ポンプ排水、地盤の嵩上げ)をとることで内水被害に対処するのであって、ダムと内水対策とはほとんど関係がない。犀川では、伏見川の合流点の高畠地区などはたびたび浸水被害が起きているが、この地区はもともと犀川の洪水位よりも数メートルも低く、辰巳ダムの調節で水位を数十センチ下げたところで焼け石に水のところである。内水のポンプ排水をせざるをえないところだ。既存の2つの治水ダムもあるにもかかわらず、内水被害があるのは、ダムが内水対策にならないからだ。

 ところが、中小洪水で内水被害が発生するたびに、石川県が辰巳ダムは必要だと主張するものだから、辰巳ダムは役に立つと信じる住民が多く、浸透していた考え方である。裁判の一審でも、「既存の治水ダムが2つあり、それでも内水被害はなくならない、ダムは外水対策で内水対策ではない、内水被害に効果かはない。」という原告の主張に対して、裁判所の判断は、「ダムの建設地点から下流域への流出量が減少し、犀川本川の水位が低下すること、ひいては支川から犀川本川への流出量が増加することによって内水被害の防止が図られる可能性は十分に認められるものというべきである。」だった。裁判官も住民と同じで被告石川県の主張に同意した。

 観念的な説明では、少しでも水位が下がった方がいい、という判断にしかならないということだろう。現実の実績の数値で示すことでダムの効果があるのかどうか、被害額で示すことでわかりやすくなる。

 水害被害額は、国土交通省河川計画課が毎年、「水害統計」として、全国で調査して集計しており、犀川水系の被害額も掲載されている。
内水と外水についての被害を具体的に数値として示した水害被害額であり、その内容を調べるとつぎのようである。
 ※ 末尾に詳細を示す。
 この記録によると、犀川本川の外水被害はないこと、犀川本川に沿った内水被害はほとんどないことがわかる。

 辰巳ダムは、犀川水系全体の治水のための施設であるが、実際は犀川本川の洪水位を低下させるためのものである。水位を下げることで内水被害を減少させることができるのかについて、犀川本川に沿った内水被害はほとんどないので、辰巳ダムによって犀川本川の水位を下げても内水被害の軽減のためにはほとんど効果かはない。

 つぎに、犀川本川以外の内水被害との関係である。犀川本川の水位が上がれば、内水被害額が大きくなるとすると、水位を下げることで内水被害額を減少させることができるのではないかという評価ができる。そこで、犀川の水位と内水被害額との関係、具体的には、毎年の犀川大橋基準点のピーク流量と毎年の内水被害額の関係を調べてみる。

 毎年の犀川大橋基準点のピーク流量は、「表 下菊橋測水所流況表」による。昭和53年から平成25年までの36年間の毎秒年のピーク流量は、47~364立方メートル毎秒である。

 犀川本川の外水による被害は無い、内水被害もほとんど無いので、水害統計の水害被害額は、犀川本川以外の内水被害額とほぼ同じである。毎年の水害被害額と毎年の犀川大橋基準点のピーク流量との関係を見ることで、辰巳ダムの水位低下効果が、犀川水系全体の内水被害の減少につながるかどうかがわかることになる。

 水害被害額は、国土交通省河川計画課の「水害統計」によれば、「表 過去42年間の犀川水系水害被害額(名目と実質額)」のとおりである。昭和46年からの42年間の毎年の犀川水系水害被害額(実質額)は、毎年0から2671百万円と変化があり、平均で165百万円である。

 毎年水害被害額と犀川大橋基準点の毎年ピーク流量の関係は、「図 犀川水系の毎年水害被害額と犀川大橋基準点の毎年ピーク流量」に示される。

 この図からわかるとおり、平成10年の水害被害額が約2671百万円であるのに対してピーク流量は352立方メートル毎秒、これとピーク流量が同レベルの平成16年、平成20年の水害被害額はそれぞれ90、117百万円であり、水害被害額と犀川のピーク流量とは連動していないことである。

 犀川本川の河道のピーク流量の大きさと水害被害額とは関係していないので、ピーク流量を抑えるような対策は水害被害額を減少させない、辰巳ダムは内水被害減少に役立たないことを示している。(つづく)

※ 
この水害被害額とその水害原因の内訳は、石川県が乙17号証に添付された「犀川水系の洪水被害」で詳細を掲載している。この資料と最新の「水害統計」から、まとめたものが「表 犀川水系過去42年間の水害被害額」である。昭和39年から、平成10年までの水害原因は、犀川本川ではなく、支川、そのまた枝川、そして末端の普通河川などの水害が原因であることがわかる。
犀川水系では、犀川本川のほかに、支川が多くあり、支川のまたその枝川も多い、その末端の普通河川、さらにこれにつながる水路、用水での氾濫によって水害が発生していることが読み取れる。犀川水系での水害被害は、支川と枝川と普通河川による氾濫被害、河川以外の水路や用水路での氾濫被害からなっている。

乙17号証で説明があるように、「近年における都市化の進展により、中下流支川流域の土地利用変化に起因する、内水氾濫型の出水をもたらしている。」のである。乙17号証の「近年の出水における被害状況」では、昭和27年から平成10年までの水害被害のうち、浸水家屋被害が大きいものが取り上げられている。

昭和36年9月の第二室戸台風以前のもので被害が大きくなっている。この時点では、戦後の国土荒廃の影響もあり、出水も大きく、河道の整備も不十分で氾濫被害が大きくなったのだろうと推測できる。

昭和36年の第二室戸台風で犀川本川堤防の溢水・破堤が起きて、金沢中心市街地で広範囲の浸水被害があった。この被害もあり、犀川の災害復旧が促進され、昭和41年に犀川ダム、昭和50年には内川ダム、昭和47~53年には中流部での河道整備がなされた。昭和53年から、犀川大橋近くの下菊橋測水所で流量観測も開始された。昭和53年は、犀川の河道整備の一つの節目である。昭和53年以前と以後とに分けられる。

昭和53年以降、浸水戸数が100戸に近いのは、昭和63年、平成3年、平成10年、である。昭和63年、平成3年の被害は、鶴来町清沢地区の内水被害であり、個別の特殊事情によるものである。平成10年の被害は、8月と9月の2ヶ月間に3度も豪雨があり、総計549戸の浸水被害が発生している。乙17号証の「犀川水系の洪水被害」によると、支川の十人川、伏見川、高橋川などで氾濫が起きて浸水被害をうけたものである。その後の平成24年までの間は、浸水被害はあるものの、豪雨で2桁以上の浸水家屋はでていない。
2014.8.19

【資料】「表 下菊橋測水所流況表」
「表 過去42年間の犀川水系水害被害額(名目と実質額)」
「図 犀川水系の年間内水被害額と犀川大橋基準点の年間ピーク流量」
乙17号証
「表 犀川水系過去42年間の水害被害額」

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辰巳ダム裁判判決結果の検討(その11)

2014年08月18日 | 辰巳ダム裁判
 基本高水が過大で、無駄な公共土木事業であるが、無駄か無駄ではないか、どこで判断するか。昔、「人の命は地球よりも重い」などという議論がまじめに行われていたことがある。60億人の命よりも1人の命が重いわけはなく、人の命は尊いということを誇張してのことだろうが、同じ文脈で、ダム建設反対に対して、「洪水で人が死んでもいいのか」というような批判を受けることがある。公共土木事業の無駄という指摘に人命を持ち出して反対を封じるためである。

 これは明らかにおかしい。現在では、洪水氾濫で死ぬことはないといっても過言ではない。気象を観測して発生する洪水は予測できるので、避難すればいいからである。先日の台風11号でも、三重県内では55万人ほどの住民に避難指示が発令されたということである。つまり、洪水による「人的被害」はないと想定してよいのである。一方、「物的被害」については、家屋や農地を移動するわけにはいかないから、洪水氾濫で被害を受けることになり、この被害は氾濫程度に応じて被害を想定することになる。

 であるから、無駄か無駄ではないかは、人的被害は考慮外として、物的被害だけを取り上げれば判断できる。「基準」では、前半の「基本計画編」では、基本高水を設定する方針が記載されており、これに依って基本高水を設定することになっているが、後半の「施設配置等計画編」では、基本高水にもとづいて造られる施設が、経済的にも適切であること、経済合理性が求められており、「経済性の検討」をすることになっている。経済性を検討して、費用よりも便益の方が大きいこと、つまり費用対効果が1以上であるということを確認しなさいということになっている。

 辰巳ダム計画では、『辰巳ダム治水経済性検討資料』(平成16年、石川県)によれば、3.67倍である。総便益が73,490百万円、総費用が20,034百万円である。
『辰巳ダム治水経済性検討資料』の「表-3.13 辰巳ダムによる年平均被害軽減期待額」に、辰巳ダム事業を実施して辰巳ダムを建設した場合の被害軽減額が計算されている。年平均被害軽減期待額は4869百万円となっている。つまり、辰巳ダムが建設された場合には年間の水害被害額が48億69百万円少なくなるというわけである。

 これに対して、犀川における毎年の水害被害額はどれくらいであろうか。
 国土交通省河川計画課が毎年作成している『水害統計』から、1971年から2012年までの42年間の水害被害額を「表 犀川流域と石川県の過去42年間の水害被害額(名目額および実質額)」にまとめた。2003年価格を基準にした実質の総水害被害額は69億47百万円、年平均で1億65百万円となる。毎年の被害が2億円弱しかないにもかかわらず、辰巳ダムを造れば、水害被害が毎年49億円も軽減されるということになる。

 上記した「表-3.13 辰巳ダムによる年平均被害軽減期待額」に、辰巳ダム事業を実施しない場合の被害額も記載されており、「事業を実施しない場合」の被害額である。「表 辰巳ダム以前の年平均被害期待額」 に掲載する。この数値で年平均被害期待額を計算すると、8990百万円となる。辰巳ダムが運用開始した平成24年以前の42年間の水害被害額である、実質の年平均水害被害額が1億65百万円に相当するはずである。まったく現実と合致していない。

 誤った計算で年平均被害期待額が算出されているということである。

  年平均被害期待額=被害額×確率 

 である。
 実績の年平均被害額に年平均被害期待額が合っていないということは、算定した被害額か、確率のいずれかが誤っているからである。

 被害額については、流量毎に氾濫範囲を推定して氾濫の程度に応じて「治水経済調査マニュアル(案)」に準拠し、確率別の一般資産額、公共土木施設等被害額及び間接被害額を算定し計算されている。合理的な根拠をもとに算定されていると考えられるので、その額は妥当なものだろう。

 となれば、確率が誤っているのである。降雨で確率規模が決められており、流量の確率規模は同じと仮定しているだけで、1:1に対応していないことは、基準に記載されているとおりであり、確認されていない。現実と大きな食い違いがあるとすれば、この仮定が誤っているということになる。

「表-3.13 辰巳ダムによる年平均被害軽減期待額」の基準点流量のダム調節前の流量を確認すると、このダム調節前の流量は、辰巳ダムの調節前の流量ということであり、既存の犀川ダムと内川ダムの調節後の流量である。これに対応する実績の観測流量は、「下菊橋測水所流況表」に掲載されている。昭和53年から平成25年までの36年間の毎秒年のピーク流量は、47~364立方メートル毎秒である。実績の最大流量から、確率規模は1/30は、364立方メートル毎秒程度と推定できる。
これに対して、「表-3.13 辰巳ダムによる年平均被害軽減期待額」の基準点流量(ダム調節前の流量)による確率規模1/3に対して580立方メートル毎秒となっている。この実績の結果から、580立方メートル毎秒に対する確率規模は、少なくとも1/3ではなく、1/30よりも小さいだろう。

 仮に確率規模を1/10倍して、「辰巳ダム以前の年平均被害期待額」の表の確率規模を計算した結果が、「表 辰巳ダム以前の年平均被害期待額(確率規模×1/10倍)」である。年平均被害期待額は、一桁になり、実質額に接近することがわかる。

 つまり、流量に対する確率が著しく違っているのであり、辰巳ダムの基本高水ピーク流量は1/100に対応するものではなく、1/1000以上に対応するものである。「表 辰巳ダムによる年平均被害軽減期待額」の計算と現実の被害額との比較によれば、基本高水ピーク流量1741の生起確率は、1/1000よりも小さいことがわかる。

 その結果、被害軽減期待額4869百万円ではなく、486百万円で計算すると、総便益は、7348百万円となり、費用対効果は、0.37となり、1以下となる。辰巳ダムは、費用対効果が1以下であり、経済的合理性がない。

 基本高水ピーク流量1741の生起確率は、1/1000より小さいにもかかわらず、1/100の想定のもとに、辰巳ダムの経済性が検討されたので、費用対効果が1以上となった。石川県は設定した基本高水の洪水の起こりやすさ、生起確率を確認せずにこれを1/100の治水安全度と評価して便益を計算したために、現実と大きな相違が発生したのである。石川県の確率規模に1/10を乗じて計算すると、便益も現実の水害額に近似する、1741立方メートル毎秒は1/1000以下の確率規模ということになる。

 このように、便益よりも費用の方が大きくなる事業をすれば、社会全体の富が萎んでいくことになり、無駄な公共土木事業をやればやるほど、国が疲弊し、子々孫々に負の遺産を背負わせることになる。

 安全安心のためにどこまでも治水安全度を上げることはできない。ソフトの対策とハードの対策で対処することになるが、ソフトの対策はあまり費用がかからないのに対して、ハードの対策は費用がかさむ。治水安全度に見合う治水施設を築造することで費用がかかるが、これを経済性の検討で評価する。費用に見合うだけの水害被害が減少しないと治水施設を造る意義がないということはこういうことである。(つづく)

【資料】
「基準」の「経済性の検討」
『辰巳ダム治水経済性検討資料』(平成16年、石川県)
「表-3.13 辰巳ダムによる年平均被害軽減期待額」
「表 犀川流域と石川県の過去42年間の水害被害額(名目額および実質額)」
「表 辰巳ダム以前の年平均被害期待額」
「表 辰巳ダム以前の年平均被害期待額(確率規模×1/10倍)」
「下菊橋測水所流況表」
2014.8.18

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辰巳ダム裁判判決結果の検討(その10)

2014年08月17日 | 辰巳ダム裁判
 ダム裁判で原告住民が勝った例は、特殊な例での裁量権の逸脱濫用(二風谷ダム)、手続きの瑕疵(法で定められたことが行われていない)、事実の誤認などである。本件では、真っ正面から、河川行政を相手に裁量権の逸脱・濫用を問う裁判であり、一審の判決では原告住民の主張に配慮したところは全く無いといって過言でないことから、二審でも勝ち目は、1750の洪水の生起確率ほどもない(-_-;) 

この状態で終わってしまえば、基本高水は大きいほど安心安全、なぜ辰巳ダムに反対するのか、金沢市民の安全安心のために必要なもので税金の無駄遣いではない、何で反対するのかよくわからない、という一方の非難に対して答えないで終わってしまうことになる。弁論の根幹部分とはならないとしても、社会通念を意識して、補足拡充しておきたい。

 ところで、控訴審では裁判所が下した判決について反論することになるが、裁判所の判断に反論するのか、それとも被告の主張に対して反論することになるのか、どう考えたらいいのか。裁判所の判断というのは、裁判所に認められた相手の主張ということであり、裁判所への反論も被告に対する反論も同じことであり、区別には意味がないということだそうである。裁判所独自の判断もいくらかあるけれども、基本的には、原告の主張か、被告の主張か、いずれかに軍配をあげ、軍配をあげた方の主張が判決として記述されている。本件の判決では、被告に軍配をあげ、各争点のすべての項目で、被告の主張に沿って判決が書かれている。
控訴審で原告がまず作成しなければならない控訴理由書は、すべての事項に反論することになり、そして、反論の立証責任は住民原告にあるということだそうである。

 立証責任はこちらにあるので、実績のデータを石川県や県外の他水系の例から、情報公開により、収集して証拠として示すことになる。実績ということで、かならずしも説得力があるとは限らないが、無視はできないだろう。控訴審に向けて、中味があり、説得力のあるものでなければ反論として取り上げられず、審議もそこで終了してしまうことにもなりかねない。

 基本高水ピーク流量の1750立方メートル毎秒が過大かどうかという点にもどると、100年間に近い観測記録があれば直接に判断することができるが、それは無理である。だが、1/100の1750立方メートル毎秒に対応する、確率別の流量は石川県の報告書に記載がある。
例えば、1/3に対して525立方メートル毎秒であり、
1/30に対して1298立方メートル毎秒である。
既存の2ダム(犀川・内川)の調節後は、
1/3に対して580立方メートル毎秒であり、
1/30に対して1190立方メートル毎秒である。
これに対して、実績と比較してみると、昭和53年から平成25年までの36年間の毎年の正時ピーク流量(「下菊橋測水所流況表」による)は、58~364立方メートル毎秒である。正時であるのでピークを掴まえているとは限らないが、ピーク流量としての最大値の一つは、平成20年7月の433立方メートル毎秒である。この流量にしても、1/3に対する580立方メートル毎秒以下である。つまり、実績では36年間の最大が、辰巳ダム計画で想定した洪水流量では、3年確率、1/3に満たない程度の流量にしかならない。少なくとも一桁の違いがある。
1750立方メートル毎秒は1/100であるが、これに1/10を乗じた1/1000とすれば現実の数値に近づくということになる。

 当方独自の考えであり、裁判の主張となるかどうかはこれからであるが、辰巳ダム計画と現実との差違を示すことで、基本高水が過大であることを間接的に示すことにする。(つづく)

追伸
 平成7年8月30日型の雨の実績流量は 
 平成7年8月30日型の雨の実績流量の根拠資料
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辰巳ダム裁判判決結果の検討(その9)

2014年08月16日 | 辰巳ダム裁判
 基本高水の生起確率とともに、「基準」の記述でどうもわからないのは、(生き残った)流量群の最大を基本高水ピーク流量とするということである。「基準」の説明を掲載する。「不適切な降雨を棄却されているので、計算されたハイドログラフ群の中から、最大流量となるハイドログラフのピーク流量を基本高水ピーク流量とする。」である。「基準」に書いてあるということで、裁判の争点の根幹にはならないが、おかしいものはおかしいのである。

 基本高水ピーク流量1750立方メートル毎秒の根拠となっているのは、平成7年8月30日の降雨であるが、これが無くなると、2番目は、昭和36年7月10日型の1312立方メートル毎秒であり、格段に小さくなる。平成7年8月30日の降雨が辰巳ダム計画の基本高水を支えているのであり、これが揺らぐと計画そのものが崩壊するといえる。
 平成7年にたまたま小さな雨があった。これがなかったら、1750立方メートル毎秒もないのである。つまり、将来の大洪水も起きないことになるのか。
 
 このような因果関係が発生したのは、流量群の最大を採用することにした弊害である(現行の「基準」の弊害ということである)。因果関係ができたことで、平成7年8月30日の降雨以外の23個の降雨は基本高水に何も反映していない、平成7年8月30日型降雨が1個ですべて決まっていることになる。

 ところで、平成7年8月30日の実際の降雨であるが、これは洪水とは無縁の降雨であり、実際の下菊橋での洪水量はダム戻し流量(ダムで調節しないと想定)で210立方メートル毎秒ほどである。降雨量も洪水量も毎年、発生するような普通のものである。

 このような小さな雨から、大洪水が算定されるのか、理由はつぎのとおりである。
実績の小さな降雨を100年確率の大きな雨に引き伸ばすからである。であるが「基準」で認められている「簡便法」であるので、この適用がまちがいではない。
 平成7年8月30日型降雨の例では、実績降雨を2倍にしている。
 2倍にするとどういうことになるか。
 100年確率2日雨量は314mmであるが、48時間均等に降るような雨では時間6mm程度であり、2倍にしても時間12mmにしかならないが、雨の途中に時間40mmというような降雨の山があると2倍すると時間80mmというような大きな山ができる。平成7年8月30日型は、3時間69mmという山があったので3時間138mmという非常に大きな山になった。流域全体に大きな山を持つ雨が降ることになりこれが集中して大きな流出量に算定されたわけである。

 平成7年8月30日型は、24個の計算値の最大となっており、この最大値を基本高水ピーク流量に選択したわけであるが、「基準」で最大を選択することも認められているのでこれもダメだとはいえない。
 ただ、その結果、普通の雨が、居座った巨大台風豪雨に変わり、お化け豪雨になったのである。お化け豪雨は、スクリーンに映った影絵であり、その正体は、紙で作った小さな人形(平成7年8月30日型降雨)のようなものである。
 
 犀川の辰巳ダム計画では、平成7年8月30日に小さな何でもない雨があったので、将来、100年確率の降雨があった場合に大洪水が起きるということになった。この雨がなければ、大洪水もないのである。(つづく)
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