犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

辰巳ダム>地域開発のダムと河川政策のダム(7)

2018年01月25日 | 辰巳ダム
(鞍月用水堰地点の流下能力不足の問題が解消)
 全国に数少ない「斜め堰」で、歴史的文化遺産価値の評価もあった鞍月用水堰で、保存案、一部保存する折衷案などもあったが、結局、撤去された。撤去されたことで、鞍月用水堰地点の流下能力不足の問題は解消した。
石川県は、当分、放置することにしていたが、ダム建設よりも河道危険箇所の改修を優先すべきだとする住民の指摘で、対応が急がざるをえなくなり、撤去されることになったものである。用水の取水地点が雪見橋地点まで移動し、今度は、雪見橋地点が流下能力のネックとなるが、幸い、鞍月用水地点とは異なり、仮に氾濫しても氾濫地域は限定的であり、氾濫水は再び、本流に戻る地形となっている。旧河道を通過して中心市街地へ氾濫するということはない。

(文化財行政が河川行政の圧力で歪められたか)
 文化財行政が河川行政の圧力によって歪められていた疑いがあった。
埋蔵文化財の試掘も少なく、調査の後の報告も何年も放置されたことが窺われる、形だけの調査が行われているが、審議した記録文書もなく、相合谷城跡の位置変更、相合谷遺跡の抹消がなされていた。住民の異議申立で存在すべき文書の不存在が明らかとなった。状況証拠であるが、ダム開発の障害にならないように文化財を消去した、文化財行政が開発行政によって歪められたと指摘した。文化財行政担当者はこれを否定していない。根拠が無くなっているので否定できない、真相は藪の中である。

(文書管理の整備)
 石川県の河川関係文書管理の整備を促した。
 工事実施基本計画なしでダムを計画するなど、杜撰な治水行政をやっていたことが判明したのは、住民の情報公開請求だった。犀川全般のダムに関する請求を行った。たびたび、永久保存文書の紛失、あるいは過失による廃棄などが判明した。徹底した追求が行われたので担当部署でダム関連文書の徹底した整理が行われた。

(住民運動による住民自治にもとづいた社会資本整備の一事例)
 辰巳ダムは建設されてすでに供用開始されているとはいえ、石川県は社会資本整備(辰巳ダム建設)に住民の意見を入れて、環境政策などを重視して社会資本整備(辰巳ダム建設)の変更、改善をした。住民運動による、住民自治にもとづいた社会資本整備の一事例だろう。
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辰巳ダム>地域開発のダムと河川政策のダム(6)

2018年01月24日 | 辰巳ダム
(ダム規模が縮小して地すべりの危険が低下)
 旧辰巳ダム計画が廃棄され、新辰巳ダム計画を策定したことで、ダム貯水量の規模が880万トンから600万トンに縮小された。洪水最高水位が低下することになったので、ダム湖中央部の斜面に位置する鴛原超大規模地すべり地の地すべりの危険度が低下した。

(3ダム連携でダム管理が合理化)
 既存の2ダム(犀川ダム、内川ダム)と連携運用することに変更された。旧辰巳ダムでは、治水と利水の機能を持ち、単独で管理運営されることになっていた。これを3ダム連携運用することで維持管理の大幅な合理化がなされた。辰巳ダムは洪水調節専用として、管理が容易になった。

(穴あきダム方式採用で水の腐敗・カビ臭の発生なし)
 ダム湖湛水による水質汚濁が懸念されたが、穴あきダム方式を採用することで常時、空で水をためることがないため、湛水による水の腐敗、富栄養化によるアオコおよび異常発生するプランクトンによるカビ臭の発生の懸念はなくなった。

(穴あきダム方式採用で人為的ミスがなくなる)
 穴あきダム方式を採用したことによって、ダム管理でたびたびトラブルとなる、人為的ミスはなった。判断を誤った洪水調節ゲート操作による氾濫被害、突然の増水による低地での逆流被害あるいは川遊びの人たちが河道中州に取り残されるトラブルなどはなくなる。
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辰巳ダム>地域開発のダムと河川政策のダム(5)

2018年01月23日 | 辰巳ダム
(住民の公共事業計画への参画)
 建設官僚に独占されていた公共事業計画に住民が参加するようになったといわれるが、石川県においても、辰巳用水東岩取水口の水没問題に端を発し、住民が河川行政に物申するようになって、さまざまな変化があった。
住民運動の結果を以下にあげてみる。

(歴史的文化遺産の水没を免れる)
 最大の成果である。一時、辰巳用水東岩取水口は辰巳ダムによる水没の危機に瀕した。住民運動の盛り上がりを背景に、石川県と住民との意見交換会の後、これを受けて開催された公共事業評価監視委員会で事業継続は理解するとされたものの付帯意見がでて結局、旧辰巳ダム計画は廃棄され、新規に計画が作成された。その結果、ダム立地点を上流側へ移動することになり、ダム反対運動の発端となった辰巳用水東岩取水口地点での建設は変更され、歴史的文化遺産の水没は免れることになった。

(東岩取水口が残ったことで辰巳用水の国史跡指定へ)
 平成22年2月22日、辰巳用水は国史跡指定された。ダム反対運動の結果、東岩取水口が破壊されずに残されたことが大きい。また、在野の文化人の抗議があり、2度にわたり、詳細な調査が行われたことも指定の促進に貢献しただろう。歴史的文化遺産を辰巳ダムで破壊するなと批判することではじまったダム反対運動は、少なくとも東岩取水口の破壊を阻止したことで最低限の成果を獲得したといえよう。

(環境アセスメント)
 住民らの指摘を受けて石川県は、法定の環境アセスメントに準じた形で、十分といえないまでも2度実施した。
当初から、自然環境への悪影響を指摘し続けた結果だ。石川県環境行政の能力ひいては委託を受ける民間コンサルタントの能力向上の機会が与えられたのではないか。

(住民監査請求で遊休水利の活用へ)
 水あまりを指摘する過程で、金沢市への住民監査請求で40年間一滴も使用していなかった工業用水水利権を河川管理者に返上させた。犀川ダムで開発済みの工業用水ダム容量を転用できるため、辰巳ダムの利水容量は不用だと指摘したものである。
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辰巳ダム>地域開発のダムと河川政策のダム(4)

2018年01月22日 | 辰巳ダム
(総合治水へ)
 辰巳治水ダムの建設事業の予算内で行われたこともあり、従来の河川政策の中の検討にとどまった。従来の河川政策というのは、治水を河道内だけで考えるというものである。流域全体で考えるものは総合治水(正確には、「流域と一体となった総合的な治水対策」)と呼ばれ、平成8年6月河川審議会答申「21世紀の社会を展望した今後の河川整備の基本的方向について」で提案された。滋賀県などで先進的な河川政策として行われている。
従来の河川政策では、治水を河道内だけで考えるので、確率主義で想定した洪水を超える超過洪水には対応できない。設定した基本高水を河道内で処理すると考えるので、河道分担を超える流量は、ダムに配分されることになっている。ダムの代替案は検討されるが、検討のスタートからダム案が前提となっているので、他のメニューと比べて競争力がはたらかず、ダム案がいつでも一番、有利な結果となる。
 辰巳ダム計画で例をあげると、ダム案では、地すべり対策費を計上しないでダム案の評価を高め、対して、ダム代替案では、最も経済的安価な河道改修案(中流部両岸のコンクリート壁を堤防から除外、下流区間の粗度係数を実態にあわせれば河道拡幅不要)は検討対象から除外してダム代替案の評価を低下させている。
 ダム案は、想定した洪水流量を河道内だけで処理しようとするもので、想定した洪水を超える超過洪水には対処できない。ダム優先なので、堤防の強化などの対策は軽視される。結局、多くの面で河川政策が行き詰まる。辰巳ダム計画を正当化するために、犀川ではコンクリート壁を堤防から除外しているにもかかわらず、隣の浅野川では、コンクリート壁を永久堤防として採用しているなど、ダブルスタンダードが明らかになり、河川政策の杜撰さも露呈している。
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辰巳ダム>地域開発のダムと河川政策のダム(3)

2018年01月21日 | 辰巳ダム
(河川総合政策の新辰巳ダム)
 石川県は(辰巳治水ダム建設事業の予算の中でという欺瞞はあるが)新たな河川整備方針を策定することになり、住民に公開したうえで学識経験者による委員会を開催して犀川の河川政策全般について審議がなされた。住民の意見提案も認められ、治水をダムにのみに依存するべきではないなどの申し入れもなされたが、委員会は基本高水を高く設定する(河道分担を超えた流量はダム配分となるので辰巳ダムが必要という結論になる)という河川整備基本方針が承認した。改正河川法の精神にしたがい、治水、利水、親水、景観保全などに配慮し、河川全体の総合計画が作成されたことでダムの治水における位置づけは明確となったことは評価すべきかもしれない。

(司法の場で辰巳ダムの公共性あるいは公益性について争った)
 司法の場では、新辰巳ダムについて、公共性(公益性)があるかどうかについて争われた。

(裁判での7つの争点)
 ダム事業目的について、治水(①過大な基本高水、②ダム代替案、③新技術の穴あきダム)と利水(④水あまり)、ついで、ダム建設事業による周辺の影響について、負の影響(⑤文化財、⑥自然環境、⑦地すべり)の7項目を争点とした。
 裁判所は、原告の主張にすべての点において「理由はない」と棄却し、原告敗訴、被告の国・石川県を勝訴とした。

(裁判所の判示は)
 原告敗訴、被告勝訴だが、被告の主張のすべてで「理由がある」と判示しているわけではなく、すべての点で「理由がないことはない」といっているにすぎない。具体的にいえば、少なくとも1%以上の合理性がある、全否定はできないといっているにすぎない。何事もそうであるが、まして技術判断などは100%全肯定できるものはないといってほぼ間違いない。1%でも肯定できるものがあれば、「理由がないことはない」ことになる。被告の主張のすべてについて、主張に1%は「理由がある」と判示しただけであり、換言すると、司法では判断困難と述べているだけともいえよう。原告敗訴したからと原告の主張が生きていないというわけではなく、大半が生き残っているのである。
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